このところ、通勤の音楽としてずっと聴いていたシューマンのチェロ協奏曲、地味ですが、なかなかすてきな音楽です。
R.シューマンは、交響曲第3番「ライン」の作曲と同時期、1850年に、作品129のイ短調のチェロ協奏曲を完成しています。初演の時期は不明で、どうやら作曲者の生前には演奏されなかったらしい、とのこと。全体にチェロの高音が多く用いられ、技巧的にも難しいのだそうです。オーケストラが爆発的に盛り上がる協奏曲の派手さに欠けるばかりでなく、独奏チェロが休みなく奏され、三つの楽章が切れ目なく演奏されるなど、当時の協奏曲のイメージからはやや異色の作品かもしれません。
第1楽章、Nicht zu schnell あまり速くなく、と訳せばよいのでしょうか、冒頭のチェロの第1主題は、たくさんの思いがいっぱいにつまっているような旋律です。低い音から高い音まで、楽器の音域をいっぱいに使った独奏チェロが活躍します。
第2楽章、Langsam ゆるやかに。ひたすら陶酔的にうたう独奏チェロに、オーケストラはもっぱら寄り添うように演奏されます。
第3楽章、Sehr lebhaft きわめて溌剌と。独奏チェロが、目ざめたように溌剌とした動きを見せると、オーケストラも充実した響きで活発に応えます。この楽章は、聴くほうもかなり元気が出てきます(^o^)/
全体に、昔を懐かしむような雰囲気を持った音楽です。ドレスデンからデュッセルドルフに移り、心機一転で創作に熱中した時期。移住にあたり、地図で見るデュッセルドルフには精神病院があることを懸念したというローベルト・シューマン。母親宛に、ピアノ演奏は全然だめになったこと、昔演奏していたチェロならば、自由な左手を用いて、右手の指の不自由さをカバーできることなどを、手紙にしたためています。チェロの音に、若い日のことを思い出し、懐かしむような雰囲気を感じるのは、そのせいかもしれません。
楽器編成は、独奏チェロ、フルート・オーボエ・クラリネット・ファゴット・ホルン・トランペット各2、ティンパニ、弦五部からなっています。
1968年、ロンドンのアビーロード・スタジオでのアナログ録音、もともとはEMIの録音でしょうか、FECC-30441という型番が付された、The CD Club という通販の頒布ディスクで、ドヴォルザークのチェロ協奏曲が併録されています。解説は三浦淳史さんで、
デュ・プレはこの録音が殊のほか気に入っていて、見舞客がくると、必ずそのレコードを掛けさせたそうである。
というエピソードを紹介しています。過ぎた昔を懐かしむような気配は、そんなところからも感じられるのかもしれません。
参考までに、演奏データを示します。
■ジャクリーヌ・デュプレ(Vc)、バレンボイム指揮ニューフィルハーモニア管
I=12'19" II=4'38" III=8'23" total=25'20"