新潮社のクレストブックスは、どれも良質な翻訳小説で、物語を読む楽しみを満喫します。例えば『パリ左岸のピアノ工房』『朗読者』『停電の夜に』などです。このブログを始めてからは、たまたま手に取ることがなかったのですが、偶然に図書館で借りたイーユン・リー著『千年の祈り』を、興味深く読みました。短編集ですが、構成は次のようになっています。
いずれ劣らぬ鮮烈な印象を与える短篇ばかりです。訳者後書きによれば、著者は北京の核開発研究所の研究者の父と教師の母親の間に生まれ、17歳で天安門事件が起こり、北京大学から軍への強制入隊を経て米国の大学院に進み、免疫学の修士号を取得した後に作家に転じたという経歴だそうです。
母国の、貧しく哀れな人々に注がれる視線は、必ずしも懐かしく温かなものとは限らないようで、否定したいけれど否定し得ない母国の有り様を、米国在住の中国系知識人の視点から描いているような印象すら受けてしまいます。文化大革命ではなく、天安門事件を同時代のこととして語る世代が、すでに中堅の作家になっているのですね。
才能ある著者が従事していた免疫学の研究生活は、おそらくいたって地味で、根気強さを求められるものだったのでしょう。免疫学の研究から第二言語(英語)を用いた創作に転じた作者は、米国での生活が軌道に乗れば、必ずしも免疫学でなくてもよかったのかも。創作を指導した米国人による、作家になるべきだ、という強いすすめが後押ししたことは確かでしょうが。
第1話「あまりもの」
第2話「黄昏」
第3話「不滅」
第4話「ネブラスカの姫君」
第5話「市場の約束」
第6話「息子」
第7話「縁組」
第8話「死を正しく語るには」
第9話「柿たち」
第10話「千年の祈り」
いずれ劣らぬ鮮烈な印象を与える短篇ばかりです。訳者後書きによれば、著者は北京の核開発研究所の研究者の父と教師の母親の間に生まれ、17歳で天安門事件が起こり、北京大学から軍への強制入隊を経て米国の大学院に進み、免疫学の修士号を取得した後に作家に転じたという経歴だそうです。
母国の、貧しく哀れな人々に注がれる視線は、必ずしも懐かしく温かなものとは限らないようで、否定したいけれど否定し得ない母国の有り様を、米国在住の中国系知識人の視点から描いているような印象すら受けてしまいます。文化大革命ではなく、天安門事件を同時代のこととして語る世代が、すでに中堅の作家になっているのですね。
才能ある著者が従事していた免疫学の研究生活は、おそらくいたって地味で、根気強さを求められるものだったのでしょう。免疫学の研究から第二言語(英語)を用いた創作に転じた作者は、米国での生活が軌道に乗れば、必ずしも免疫学でなくてもよかったのかも。創作を指導した米国人による、作家になるべきだ、という強いすすめが後押ししたことは確かでしょうが。