保持者の年齢が60代、70代、80代ゆえか、舞台に若々しい覇気は乏しかったけれど、23人の保持者の「かぎやで風」と多くの伝承者の「松竹梅」の歌三線の、斉唱・演唱は迫力がありました。40代後半から50代が若い保持者なんですね。さて「銘苅子」と「万歳敵討」です。
もう何度も観てきた組踊作品です。しかし久しぶりに見るといろいろと発見がありました。天女が登っていく松の木は見事です。実際に天女は空を飛べるのだから大木の松は必要ないように思えるが、物語の筋として松の木に天女の羽衣をかけるのですから、松は舞台設定にどうしても必要になります。銘苅子はいつでも子役のおめなり、おめけりと天女(母)の場面が印象に残ります。彼らの澄んだ唱えと母を求める切実な思いが圧巻です。天女は特別な存在ゆえに気品と美しさとやはり人間界を超えるような唱えの美を五感が求めています。この間人間国宝の宮城能鳳さんの十八番芸です。天女の重厚な演技でしたね。唱えも女吟(ヲゥンナジン)は、テノールの音域だろうか、アルトの太め声です。
唱えは同じ女吟でも立役によって微妙に変わります。喉から声が出ていてきつそうに聞こえる方や複式呼吸で、お腹から声が出ている方もいます。のびやかさがある保持者や伝承者は誰か、ですが~。文化庁の文化デジタルライブラリーで男吟や女吟の紹介をしています。さてその中のどなたが実際に喉からではなく、腹からすべらかな唱えをしているでしょうか。
保持者の方で唱えの美しい方々がいます。その方々の唱えはもっと評価されていいと思います。例えば親泊興照さんの唱えはいいですね。真境名律弘さんの唱えもまろやかでいいです。唱えの伸びのある聴き応えのある男吟や女吟を拝聴したいものです。
きつく感じない唱えです。すべらかで抑揚やキャラクターの味わい深い声音です。
今回、天女に抜擢されたのは大湾三瑠さんです。金武良章の手を受け継いだ中堅の保持者で、気品のある美しい天女を演じました。唱えには銘苅子を演じた真境名律弘さんのようなもっと伸びのある澄んだ女吟(ヲゥンナジン)を拝聴したいです。女吟といっても立役によって声音もリズムも微妙な差異があります。呼吸法も必要でしょうし、観客にとって耳障りのいい唱えがあるに違いありません。17、8歳の女主人公の唱えが図太い声音でも興ざめです。明らかに喉から唱えているなと思える立役の唱えは聞き苦しくなります。
「万歳敵討」は重厚な舞台でした。皆さん唱えは聴き応えがあり、演技もこなれているように見受けられました。
古典音楽の専門家は「配役が適役とは言い難いですが、保持者のみなさんが今後指導するための稽古発表会と考えると、よく稽古していると言えます。保持者公演とはそういうものであっていいと思いますね。高いチケットで見せる公演とは分けた方が良い。あくまで保持者の力量を見せる公演と思うので、演技力の養成の為の発表会と、見ていました」と話していました。なるほどです。