「旧二十日正月記念講演会」開催にあたって
はじめに
去年の6月10日、那覇市の小劇場「なはーと」で開催された「琉球諸嶋風物詩集-惣之助の詠んだ沖縄-」のイベントに参加した時、ふと旧二十日正月のジュリ馬の頃に、その歴史・文化的意義について応援するためのシンポジウムを開催したい、と思いつきました。惣之助さんの詩集を読むと氏が訪れた当時の沖縄、そして辻のジュリの女性と暮らした体験が詩に昇華されています。博論「辻遊廓に見る近代沖縄芸能史研究―遊廓、ジュリ、芸能」の中の「琉球舞踊に表象されたジュリ」の一節・第四項で「詩人惣之助が目撃した那覇埠頭の光景」として取りあげています。
思いついた企画をどう実現するかが次のステップになります。以前日本学術振興会の助成によって京都産業大の鈴木雅恵教授と共同研究に取り組み、沖縄で「世界の中の『沖縄』演劇―女優の表象を中心とした考察―」(2006‐2007)の研究発表を開催した時、「乙姫劇団と辻文化」について講演した真喜志きさ子さん、また同じく科学研究補助金により「沖縄の文化表象にみるジュリ(遊女)の諸相」(2013‐2016)についてごいっしょに共同研究した中村善信先生にお声をかけました。残念ながらお二人とも他に予定があり、私の思い付きは座礁していました。
しかし、一昨年とてもご丁寧なメールをいただいた村瀬信也先生が頭に浮かんだのです。村瀬先生は、2017年に琉球大学に提出して、琉球大学学術リポジトリで開示されている私の博士論文の概要(43ページ)を読まれて、メールをくださったのです。その理由はこれから先生のご講演の中で「外交」をキーワードにお話されると思いますのでここでは詳細を割愛させていただきます。
『幻影の嘉例吉―牧志朝忠とチル』の小説やご自分の自伝を送ってくださった村瀬先生なら、ご協力してくださるのではと思い、メールを差し上げました。その前に先生から二回目の博士号取得のための入学が名桜大に受諾された吉報が送られてきていました。この機会を逃してはいけないと思いました。
村瀬先生は何と、ご自分の小説を参加者に無料で差し上げるとおっしゃるのです。こんな素敵なオファーは他にありえません。今年に入って急いで企画しました。
シンポジウムや講演会をするなら2人より3人がいいと思い、以前同じ「沖縄芸能史研究会」の会員として活躍されていた大城ナミ先生にお声をかけました。ナミ先生は、沖縄芸術大学ではじめて琉球舞踊について博士論文を纏められています。快くこの会の企画に賛同していただきました。今日は名護から駆けつけて下さいます。
沖縄表象文化研究会について
研究会は、今後年に1〜2回沖縄の文化表象について、知見を深めると共に、関心を持っている方々の発信の場にしていきます。
表象文化とは何か?その定義は、東京大学の表象文化論学会が、出しています。
「「表象」という概念は、哲学においては「再現=代行」であり、演劇では「舞台化=演出」、政治的には「代表制」を意味しています。表象文化論学会は、この「表象」という概念を、さまざまな文化的次元の関係性の核を表わすキー・コンセプトとし、文化的事象を孤立した静的対象として扱うのではなく、それが生産され流通し消費される関係性の空間、すなわち、諸力の交錯する政治的でダイナミックな「行為」の空間の生成と構造を考察しようとするものです。」— 表象文化論学会「表象文化論学会について」より。
マクロに捉えると、知覚できる宇宙、そしてこの地球惑星の様々な現象、事象、想像、創造された諸々が、表象になります。
表象文化は、再現、想像、創造された対象が絞られていきますが、あらゆる芸術作品は、普遍的な表象になります。そして有史以前から、洞窟に刻まれたデザインや記号、写実画も含め、表象であり、それは人類が生きてきた歴史の証(あかし)です。
以前、科研研究のプロジェクトとして「沖縄の文化表象にみるジュリ(遊女)の諸相」について、三回シンポジウムを開催しました。と同時に沖縄の遊廓、ジュリ、芸能について博論にまとめることができました。それは琉球沖縄の芸能史の取組みでもあり、社会の諸相も見えてきました。まだ秘匿され、蓋をされた歴史を掘り起こし、表に出す必要があります。
博論を含め、研究課題の目的の一つはジュリ馬(旧二十日正月)の再興に寄与することでした。今回のこの「旧二十日正月記念講演会」もその一環として考えています。
「沖縄の文化表象にみるジュリ(遊女)の諸相」研究の発端は、尾類(ジュリ)として、社会で蔑まれてきた女性たちの芸能者としての位置付けをしっかり見据え、評価することでした。10年ほどかけて博士論文は完成しました。
この間博論の出版を意図していて、時間が経ってしまいました。家族の病気や介護もあり、しばらく保留状態でしたが、国際法研究者として著名な村瀬信也先生からいただいたメールが、エールになりました。村瀬先生に深謝です。
今日は日々の忙しさや多様な催しがある中で、この講演会にご来場くださいまして、ありがとうございます。今後もよろしくお願い致します。
皆様の忌憚のないご意見よろしくお願い致します。
2024年2月25日
nasaki78@gmail.com
村瀬信也先生
大城ナミ先生
大城ナミ先生