「首里城には二度と行きたくない」と、彼女は言った。
思いがけない驚きは突然やってくる。電話で話している途中で、突然首里城に行くとあの壕に引っ張られるのよね、と話し出したのだ。友人たちといっしょに首里城に行った時、なぜいなくなるの?と聞かれて困ったという。彼女は壕の中から「話があるからおいで」と声が聞こえてきて、いつの間にかその入口に行ってしまったのらしい。霊にひかされていくと言う。
どうも今話題になっている第32軍司令部壕の事なのらしい。
不思議はどこそこに転がっている。「首里城は四度目の焼失だが、このままでは建たないよ」と、神女は断言した。「あまり言いたくないけど~」と。
その後、また言葉を交わした時、彼女は壕の中だけではなく、お城の下に骨が埋まっているのだという。首里王府時代からの遺骨の話をしていて、驚いた。王様が薩摩か江戸に引っ張られて行ったよね、その頃からの遺骨が埋まっているんだよ、との説明に驚いた。 城の礎が死者の遺骨の上に建っていると想像すると、少しホラーじみてくる。シュール(不条理)な事象にはどこか気味悪さが伴っているようで、かと言って何気ない風景にもまとわりついているのかもしれないのだ。時に現在形の存在が不可思議なものに思えてくる。