ピンポ ~ ン
は ~~ い !
インタホーンの画面をみると Mさんだった
Mさんは70代半ばの男性 私の元畑仲間で 夫の釣り友でもある
急いで出ると Mさんは「 ハイ! これ・・ 」と 手にした袋を差し出した
中を見ると フキノトウ
「 もう そんな季節なのね ありがとう 」
昨夜遅く 東京の娘の家から帰って来た私は きっと疲れ果てた様子だったのだろう
Mさんは さりげなく「 どう? 」と訊いてくる
「 娘が病気で ちょっと忙しくしてます 夫は 今 娘の病院に行ってるの 」
Mさんは 一瞬 沈黙・・
そこに ちょうど 夫が病院から戻って来た
「 ああ どうも・・ 」
Mさんに挨拶する夫をつかまえ 私は さっそく「 どうだった? 」
「 だいぶ良くなっていたよ 」
良かった・・!
ホッとする私に
いつもは長話をするMさんだが 「 また! 」と帰って行った
私が 数年前のMさんとの事を思い出したのは 夫から娘の様子を聞き終えた後
手にしていた袋に これ何だったっけ? ああ フキノトウ・・
それを冷蔵庫の野菜室に仕舞いながらだった
数年前のその時 Mさんは 私に話を聴いてもらおうと必死だった
話は丁寧なのだが 主語から述語までが長い・・
この話は 何を目的として 何処に辿り着くのだろうと途方に暮れてしまう
状況説明が延々と続いたが やっと 小銭入れ?を落とした事が分かった
でも お金は大して入っていない
( 細やかな描写が続く・・ )
小さなポケット?が 幾つか付いている
そこに 大切なものが入っていた
( それは何なの? )
・・・・・
( 何なの? )
・・・・・
( 早く言って! 気が狂いそう! )
「 大事な写真なんだ!」
「 どんな写真?」
( 私 グッタリ・・ )
「 娘の写真 」
「 娘さんがいらしたの? 知らなかった・・ 」
「 俺に似ない 目の大きな可愛い子だった 」
「 まだ若かったのに 死んでしまったんだよ 」
・・・・・
「 だから 写真は肌身離さず持っているんだ それを落としたのが問題なんだ 」
幸いにも 小銭入れは 拾って下さった方が届け Mさんの元に戻った
大事な娘さんの写真も・・
Mさんに こんな辛い経験があった事を この時初めて知った
Mさんには息子さんもいるが だからといって 娘さんの死を癒されるわけではない
きっと 生きていたら 今はこうなって・・ と思うだろうな
一人の死は 周りの人の人生も変えてしまう
なぜ こんな事を考えるかというと
今回 私は 娘が死ぬのではないかと思った時があったからだ
Mさんから頂いたフキノトウは その晩 天ぷらにした
ほろ苦い 春一番の味覚