ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

GWにやっている事

2007-05-04 23:11:08 | 能楽
GWはさすがにヒマです。。みなさんがお出かけているこの時期は催しはしにくく、舞台はあまり多くはありません。

でも、こういう時期だからこそ時間を掛けてやりたい事もできる、って事もありますね。ぬえは例年この時期に、夏から秋頃の自分の舞台に使う小道具を自作したりしています。稽古も少しずつ進んできて、いよいよ本格的に催しに向けて邁進する時期に差しかかりました。

いま、ぬえは6月の建長寺の巨福能で上演する『隅田川』の作物を作ったり、夏に伊豆の国市で催される「狩野川薪能」で上演する『一角仙人』で使う剣を作ったりしています。『隅田川』の塚の作物は、ずっと以前、ぬえが『隅田川』を初演した時に作りました。竹屋さんで長~い竹を買ってきて、それを寸法に合わせて割って。カンナで薄く削って、ガスレンジで炙って曲げて、こうして塚の柱の部分を作り上げます。この時は「台輪」と呼ばれる基礎部分の枠は、竹ではなくて組み立て家具の部材の鉄パイプを組み合わせて、携帯に便利な組み立て式に作りました。今回の巨福能でもこれを使おうと思ったのですが、丈を少し大きくする必要があって、それならば、と以前に作った柱を伸縮自在に調整できるように改造しました。もうじき完成するのですが、まあまあ思い通りに出来上がる見込みです。

『一角仙人』ではシテは龍神とともに剣を持って戦うので、気をつけていてもどうしても剣は傷んでしまいます。師家の剣を拝借してキズをつけるのもどうかと思うので、この際思い切って自作することにしました。剣の刃の部分はカンナと彫刻刀を駆使して、それでも比較的容易に作り上げることができたのですが、問題は柄と鞘で、ことに刃に合わせてガタつきのない鞘を作るのは難しい。日本刀の製作にも鞘を作るのは専門の「鞘師」という職人がいて、刀の個性に合わせて鞘を作るのです。能楽師、とくにシテ方は型や謡といった舞台上で演じる実技のほかに、装束の着付けや作物の組み立てなどいろいろな仕事が多くて、自然に器用にはなっていくのですが、小道具の自作となると ちょっと話が別。ましてこの鞘のように、舞台上の小道具だからあまり精巧さは追求しなくても良いとしても、本来専門の職人が作るような物を素人の能楽師が作るのですから四苦八苦は仕方がない。。鞘は完成するかどうか微妙ですが、そうなったらシテが使う剣だけは師家から拝借するよりないでしょう。

一方 龍神役は最初から剣を抜き身で持ったまま登場するので、こちらの剣には鞘は不要なのです。あとは柄を作れば良い。ところが剣というものは刀や太刀と違って日本にはあまり作例がなく、参考となるような拵の画像もなかなか見つけられません。自分でデザインしながら作らなければならず、これまた苦労しております。まあ、デザインも大体固まったので、いよいよこれを彫り上げるという段階までようやく進んできました。

今回、剣の材料をいろいろと試してみましたが、刃も柄も、やはり檜で作るのが最も細工がしやすいようです。檜というのは木目が素直で、どの角度で彫り進めてもちゃんと彫刻刀を受け入れてくれる。面が檜で作られている理由も、今更ながら納得しました。これから柄を彫り上げて、金箔を張って、柄の手に握る部分に金襴などのきれを張り、刃には銀箔を張って、その銀が錆びないように薄くクリアラッカーを塗る。さらに柄にも刃にも少し彩色を施す。。と、こりゃ夏までに本当に仕上がるんかしら。

ところで、やはり器用な方というのはおられるもので、ぬえの場合はこういう細工で分からない事があると、いつも他門の会の某先輩にいつも泣きついて教えて頂きます。この方は本当に器用、というか、要するに物を作り上げるのがお好きなんですね。この方が所属する会でも、作物を新しく作ったり、またその修理をする場合には門下が集合して みんなで作業をするのですが、この方はいつも真っ先に駆けつけて楽しそうに作業をされておられるんだそうですし、また氏は小道具の塗装に凝ったあげく、漆を乾燥させるための「室」(むろ)まで自宅に設えてしまいました。ぬえはこの方から小道具製作の技をずいぶん教えて頂いて とっても感謝していて、「心の師匠」とお呼びしております(笑)。で、この方もときおり楽屋でバッタリ出会うと、ぬえに向かって「よお。最近何か作ってる?」と聞いてこられますね。わはは。。

今年の「狩野川薪能」では ぬえの「心の師匠」もお手伝いに参加してくださいます。その申合の時にでも、剣をお見せして出来映えを評価して頂くのが 今から楽しみだったりしています。