ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

約束、果たしてくれました!

2013-04-23 23:55:07 | 能楽
『橘香会』が終わってようやくひと安心しております。ビデオを見て「ヘタだなあ。。」とは思ったけど、何よりも事故がなかったのが せめてもの救いです。思いは伝わったと思うけど。。

さて伊豆の子どもたちも大舞台をひと足先に終えて安心している頃でしょう。
ぬえが彼らに出した課題。。パパやママに「どうもありがとう」って伝えること。あれからどうなったのかなあ。

まあ、さすがにママさんから「ウチの子はちゃんと言えました!」と誇らしげな報告は一件もありませんでした。うん、まあ、それで良いです。ぬえとの約束は、結果を提出してもらう類のものではなくて、ご家庭の中で、これをキッカケにして感謝について話し合って頂くようにでもなれば、それで良いのです。

。。でも、公演後のちょっとした連絡をママさんと取り合っていたところで、ふいに、6年生の子が「いつもありがとう」って、照れながら言った、と報告を受けました。ををっ、ちゃんと約束を果たしてくれたか!

。。じつはこの数日で子ども能の参加者の心を揺さぶることが起こりました。。ありていに言えば、参加者のある家庭でご不幸があったのです。『砧』の上演の前日に子ども能の鎌倉公演が、どうしてもその日にしか ぬえの都合がつかなかったから、前日に上演されたわけですが、疲れを『砧』に残してはいけないから、鎌倉に前泊してゆっくり眠るとか、その2~3日前からは稽古以外に何もスケジュールを入れない、など気は配っていたのですが。。突然 ご不幸の知らせが ぬえにもたらされました。そして驚いた ぬえも伊豆に赴いてお通夜だけには参列し、『江口』の独吟も手向けて参りました。

これから青春時代を迎える子にとっての、あまりに唐突な肉親との離別は察するに余りあります。また一方、ぬえたちが活動する東北地方でも津波によって親を亡くした子どもが1,700人もいる、という重い現実がオーバーラップして、こうして鎌倉公演のあとのミーティングに繋がったのでした。

鎌倉のみなさんにも、会場の鎌倉宮の方々にも、もちろん伊豆の国市の関係者や、言うまでもなくパパやママの愛情を受けて、みんなが彼らのために準備して、応援して、そうして彼らは活躍できるのです。それらの目には見えにくい協力者に対して、やはり意識を向けて、そうしてちゃんと感謝しなkればならないです。

常々そうは考えていた ぬえは、そのため上演会場では必ず舞台掃除を子どもたちに課すとか、これはまだ実現していないけれども、社会奉仕のような事も計画していたのではありますが。。

この度のことがあって、これはまず、パパやママにちゃんと感謝の言葉を伝えさせよう、と思ったのでした。いや、それではまるで、他の子のご家庭にも不幸が訪れる前に、みたいにも見えて縁起でもない話ですが、たしかに、思いがけず不幸は襲いかかるものです。それを念頭に置いての課題ではないのだけれど、そういう事が起きることもある。そうして、その後に後悔しても遅いのです。

まあ。。今回はそこまで深刻に子どもたちに考えさせるのではなく、いつもは照れて言っていないだろう感謝の言葉を、いろんな事があった今回の公演を機会にご両親に伝えてほしい、というのが ぬえの希望でありました。。

さて昨日なのですが、これまた鎌倉公演の事後処理であるママさんとメールでやり取りしていましたところ、その最後に、「そうそう」と言ってママさんが教えてくれました。

なんと小学2年生の子が「いつもありがとう」ってママに伝えたんですって!

2年生。。今回の鎌倉でのミーティングでは子どもたちみんなに課題は出す形は取りましたけれども、さすがに低学年の子は意味を解さないだろう、と思って、ぬえの気持ちとしては最初から除外していたのですけれども。。そうか、2年生もちゃんと ぬえの思いを理解して行動に移したか。。

高をくくって。。ようするに ぬえ、見くびっていましたね。自分も通ってきた年齢のはずだけれども、ついつい未熟なのだと思いこんでいました。14年教えていてもこの発見だもんなあ。

鎌倉のミーティングでも ぬえは「先生も君たちから学んでいるよ。先生からも君たちに感謝の言葉を伝えます。ありがとう」って終わったのですが。。まだまだ教えてもらうことはたくさんありそうです。。