さぶろうは今日はこれから背広を着て親戚の娘さんの結婚式に向かう。帰ってくるのは夜になる。
教会での式だから、賛美歌を歌うことになりそうだ。賛美歌は懐かしい。若い頃に大学のチャペルでよく歌ったことがあった。さぶろうはノイローゼ学生だったので、賛美歌はよく彼に涙を催させた。
さぶろうは今日はこれから背広を着て親戚の娘さんの結婚式に向かう。帰ってくるのは夜になる。
教会での式だから、賛美歌を歌うことになりそうだ。賛美歌は懐かしい。若い頃に大学のチャペルでよく歌ったことがあった。さぶろうはノイローゼ学生だったので、賛美歌はよく彼に涙を催させた。
黄クロッカスが花弁のカップをひしめかせて、春の気配に乾杯をしている。我が家の花壇がこれで一気に明るく華やいだ。大好きな花だ。
かって30才の頃にイギリスを一人で旅したことがあった。ロンドンのハイドパーク(それともケンシントン・ガーデンだったかな?)の3月末。大木には黒ツグミが鳴き交わし、芝生公園にはこのクロッカスが生まれていた。
彼はブリテイッシュ・ユーレイルパス(これを日本で買っておくとどれだけ乗っても無料になる)を使って電車に乗りまくり、北から南まで旅して回った。乗り合わせた合い席のイギリス人は親切だった。自宅に招いてくれたりもした。
古びたキャッスルが何処にも聳えていた。大都市を離れるとたちまち子羊の牧場が広がっていた。夜はパブで飲み、B&B(ベッド&ブレックファスト)の安宿に泊まった。拠点は南部のホーブの町に置いた。ブライトンの隣の小さな町だった。
さぶろうはイギリスの長閑な田園風景をことのほか愛した。働いている農夫たちに親密を感じて、ぶらりぶらり散策を楽しんだこともあった。イギリスの山はさほどに高くないので、運動靴とリュックサックで登山を試みたこともあった。総じて日本人ほどの背丈をしたはにかみ屋のイギリス人も好きになった。そういうことをこのクロッカスから思い出した。
もう一度イギリスを訪ねてみたくなったが、彼は老境にいるので、この地を霧に煙るイングランドやスコットランドに準(なぞら)えているしかないのだ。今日は雨。霧がわき起こって山が見えないほどに煙っている。春一番の風も予想されている。