何より驚嘆したのは風景の美しさだった。特殊な地勢ゆえどこもかしこもパノラマ風景だ。アドルフ橋や憲法広場、シャトー橋から眼下を見下ろすと、変化に富む台地、かつての城砦の一部の断崖絶壁、教会の尖塔、中世そのものの建物、石畳の道、鏡のような川、貫禄のある高架橋、等がしっとりした緑の中に浮びあがり、立体的な美を醸している。きれいな国を沢山見てきた私だが、こんなに立ち止まり、溜め息をつき、息を呑みつつ歩いたところは記憶にないなあ、と、疲れを忘れて歩き回った。我が再訪願望地ベスト3を押しのける勢いだ。着いた日に歩き回り、あまりにも癒される風景を忘れられず、翌早朝また一人で歩き回った。高架橋の下から美しい24のアーチを見上げていた時、犬の散歩に来ていた上品な奥さま風の女性が話しかけてきて、「ここは単なる公園ですよ。グルント(低地)に行きましょう」と近くに駐車していた車に2匹の犬ちゃんと乗せてくれた。彼女の口から「ここは中世以降、北のジブラルタルと呼ばれ、難攻不落の要塞都市だったんですよ」と聞かされた。堅固な城壁や要塞群がかなり残っており、旧市街と要塞群はユネスコ世界遺産にも登録されている。この女性はグルントを一回り案内し、レストラン「かまくら」を教えてくれ、食器もマナーも純日本風で美味なので「よく食べに来る」と言っていた。大公殿下さまもお忍びで食べにいらっしゃるほどだとも言った。彼女と別れてまた一人で歴史と現代、自然と人工が見事に融合した魅力的な街を上り下りして楽しんだ。「上がり下り」という訳は、城壁沿いの眺めのいい散歩道を歩き、そこから5、60メートル下の渓谷に「下り」てきれいな川沿いをぶらつき、またエレベーターで「上がったり」と変化に富む実に楽しい独特の地勢だからである。続く(彩の渦輪)
ベルギー、ドイツ、フランスに囲まれた極く小さな国、ルクセンブルクは立憲君主制の国である。日本との関係は好く特に皇室と大公室の関係は緊密だそうだ。面積こそ小さく神奈川県と同じだが、GDPは日本のほぼ3倍で世界第一位だ。石油危機時や世界経済悪化の影響等を受け、何度か経済が低迷したが、金融政策が効を奏し、経済は持ち直したばかりか金融王国となり、今では世界の金融センターの一つだ。聞き慣れた銀行名を見つけ入ってみたが小金の換金など相手にしてもらえなかった。欧米の一流銀行や世界銀行は世界の金持ちがお相手だ。金融機関を始め多数の国際機関やIT関連の企業本社等、日本はもとより世界各国から首都ルクセンブルク市に進出している。人口約47万、外国人の割合は高く人口の3分の1程度、主な外国人はポルトガル人、イタリア人、フランス人だが、給料がフランスより高いから働きに来たという人と実際に話をした。失業率はEU内では低いほうだ。在住日本人は400人弱とか。ホテルの受付も従業員も親日的で片言の日本語を使う。だが韓国の客が来ればすぐ韓国語を話す。異文化対応が身についている。(彩の渦輪)