惜春という言葉にはまだ早いが桜は例年のごとく3月末9分咲きに。急いで牡丹餅を作った。翌4月1日は予想通りポカポカ陽気で桜は満開。風はそよりとも動かず穏やかな花見日和。何十年ぶりに多磨墓地へ行くことにした。子どもが小さい頃よくでかけたことを思い出して。私は佐々木邦の墓で彼との対話を楽しみ、子供たちは思い思いの遊びを、誰もいない桜並木の傍らで。そして彼の墓近くの一際美しい桜並木でおにぎりを食べたものだった。
戦前のユーモア作家、佐々木邦の作品は子供のころ、兄の少年倶楽部で読んでからファンになり、「愚弟賢兄」「苦心の学友」「村の少年団」その他、読んだ本は数知れず。15巻の佐々木邦全集も求め、今も宝物だ。大学時代講義を受けた会田雄次氏は彼を評して、「佐々木邦はもし日本語という障壁が無かったら世界で最も知られたユーモア作家の1人になっていただろう」とWikipediaに。久方ぶりの多磨墓地だった。風はそよりとも動かず、名も知らぬ鳥の声だけが響く。ご近所の星先生と夫と3人、満開の桜と完璧な静寂を楽しんだ。喧騒を極める東京にこんな静かな夢幻境があることを誰も知らない不思議。魂を洗われるひと時。贅沢な時間。さようなら来年まで、私の桜並木。(彩の渦輪)