「これが銀行の仮差押?」
何にも知らないA子は震え上がりました。
同じ保険に対して、1週間の間に保険会社を2回、銀行が1回と仮差をやられて居ます。
保険会社は6社です。1億5000万の農協、後は1億が1社、5000万が4社です。
此の中には受取人が債務者と保証人のものは1つも有りません。
自殺する6ヶ月前に受取人を全く会社とは無関係の娘2人に変えました。
たとい会社で掛けていた保険でも出来るのです。
万一の時に差押を予期した夫の配慮でした。
5年前の9月16日、夫は自殺しました。
直接の原因は2億からある街金の返済に行き詰ったからです。
銀行は全て手形借入で、今月末が其の切り替え時です。
毎月100万づつ払えば、又書き換えをする約束になっていました。
16日に夫が他界し、葬儀が済むか済まないうちに、ぶらり尋ねて来た支店長に、「ワンマン社長が居なく
なったから、後は誰がやっても難しい。銀行の貸し金は保険で」と保険からの返済を言われました。
決算書を見て居ますから、どんな保険会社に、総額どのくらい掛けていたか銀行は解かって居ます。
A子だって、そうしたですが、其の前に先ず街金を片付けないと成りません。
幾ら掛かるか解かりませんが夫のメモから2億近くは必要と思って居ます。
其の前に、今後の自分たちの蓄えは欠かせません。
心の整理も出来て居りませんから、支店長の話と合わず、気まずい別れになってしまいました。
支店長は断られたと思ったに違い有りません。
其の銀行が月末を待って居たのか、月が変わった5日、一斉に保険会社に仮差押をしてきました。
会社、または保証人が受け取る保険金全額です。
「手形貸しの返済日の月までに返済が無かった。」
と云うのが理由です。
親しい農協の連絡で知ったのです。差押さえ命令も見せて頂きました。
ここまでは彼もA子も覚悟して居たのです。
コンサルタントの彼は、A子が驚かないように良く説明をして居ました。
彼は、必ず差し押さえはあると詠んでいましたから、葬儀が終らないうちに、保険会社に支払いを
要求差せて居たのです。
「受け取り人名義は保証人じゃあない。大丈夫とは思うが、相手は銀行。
何をやるか解からない。1日も早く手にする事だ。」
彼は葬儀以上に重要視し、A子に保険会社と折衝させたのです。
農協と1億のN生命は協力的で、月始めには既に入金済みでした。
これだけの大金を申請して十日くらいで下りる事は珍しいそうです。
「受取人は関係無い娘だ。差押えられても無効だろうが、念のために更に急ごう」
と思って居た矢先です。
今日、振り込んでくれると言う保険会社の課長も仮差を知って居ました。
「差押えが来ましたね。でも娘さんは差押えられては居りません。
早いほうが良いですから今日振り込みます。」
慌てて電話したA子に協力的です。
もう1社も同意して何とか今日中に振り込んでくれます。
後1億、2社はどうしても最短でも後2-3日はかかりそうです。
ただ1社は「今日中に振り込む予定でしたが仮差が届きました。
当社はどうするか検討中です。」
嫌な返事でした。
驚いたのはこれからでした。
其れから2日後、再度、全く同じ物件がもう1度仮差しされたのです。
「何故こんな事を?」
不審に思ってよく見ると、今度は娘の名前二なって居ます。
差押え物件はほとんどが娘の名前になって居るのに気付いたのでしょう。
「何で娘が?関係ないはずなのに。」
理由は解かりませんが、銀行は娘まで巻き込んだみたいです。
次の日には、銀行の仮差です。
近くの口座が有りそうな銀行を片っ端から仮差して居ります。
既に支払われている保険が多い。どこかに預けてあるらしいという思惑からです。
驚いたのは、5年前娘が勤め先の関係で1時住んで居た700km離れた県の地銀まで仮差しになって居ます。
娘がいた頃、此の振込みで二つの銀行を使った事が有ります。其の控えが有ったのでしょう。
今までの仮差押のために銀行が払った保証金、全部で1億4000万になって居ます。
当分は戻らない筈です。
銀行の執念に、彼がどう説明しても、A子は震え上がル一方です。
彼には銀行が娘の保険金まで差押えてきたのが解かりません。
差押さえ調書をじっくりと見ました。
相続人の為に押えると有ります。
他界して1ヶ月足らず、まだ放棄をしていません。
今から放棄すれば他界の時に遡ります。
早速放棄しました。
1社は拘束して居た保険金を直ちに払って呉れました。
D生命保険だけは幾ら言っても払ってくれません。
「相手は裁判をやるでしょう。そうすれが此の保険金をがれに払ってよいかはっきりします。」
これからサービサーまで含めるて5年間に及ぶ争いが始まったのです。
5年前の10月上旬の事でした。
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