静岡県出身の私は、最近リニア新幹線の開通問題について関心を持ち始めた。
それは、静岡県の川勝知事が大井川の水問題とトンネル残土の盛り土問題を理由に静岡工区の着工にストップをかけており、そのせいで開通時期が遅れるとのことで、世間からひんしゅくを買っているからである。
そして、最近は、川勝平太氏を選挙で選んだ静岡県民が悪いとか、懲らしめのため静岡県に新幹線を一駅も止めるなとか、静岡県の産物を買うな、などという極端な意見まででているのである。
リニア開通の遅延によって被ったJR東海の損失は、川勝知事が払うべきだなどという極端な意見まで当然のようにでている。
多くの人の受け取り方は、川勝知事が正当な理由なくごねてJR東海に対していやがらせをしているというような見解である。そして、リニアを楽しみにしていた我々が、生きているうちに乗れないかもしれないとか、すべての矛先が川勝知事に向けられているのだ。
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しかし、こうやって、川勝知事が完全悪のようにまくしたてる世論は本当に正しいのだろうか?
最近、リニア工事に関していろいろ調べてきて分かったことに、リニアのトンネル掘削工事で大きな問題となるのは、静岡県に限った水問題よりも、むしろリニア全域にわたるトンネル残土の盛り土問題ではないかと思うのである。
他の県では既に工事が行われているわけだが、長野県の飯田市では既に盛土のことで問題がおきていて、住民がリニア開通に対して反対運動をしていたことが分かった。
しかし、長野県は知事が反対しているわけではなく、すでに工事も始まってしまっているので、JR東海は困らないから、そのようなことが今さら取り上げられないだけである。
問題は発生しているのに、ニュースとして報道されないのだ。
そして、工事の着工を許可しない川勝知事に関してだけ大騒ぎされるのである。
静岡工区のトンネル残土については、大井川上流部の燕(つばくろ)沢近くの川沿いに360万立方メートルの土を盛る計画だそうである。
トンネルを掘った土には重金属なども含まれるため、環境汚染にもなるし、昨日のような大雨が降った場合は、下流に崩れ落ちる可能性も高い。
ただただ予定通りにリニアを開通させたいと言う欲望のために、トンネル残土の問題をそのままにしてよいのだろうか。
リニア新幹線の問題として、トンネルが多いということは、単に乗っている人が景色が見えないなどということではなく、大きな環境破壊問題でこれは深刻だと思う。
川勝知事が燕沢を視察して、ここは不適切だと意見しているわけだが、何も知らないどこか他県の人は、「リニアに反対なんかしてる暇があったら、伊豆山の土石流事件を解決しろよ」などと意見を言う人もいる。だが、これこそ伊豆山の盛り土被害に通じるものであり、その規模は伊豆山5.6万立方メートルに対して、燕沢360万立方メートルなので、60倍以上の量となるわけだ。
JR東海からは、トンネル残土に関して誠実な姿勢がほとんど感じられない。
例えば、長野県では残土の置き場34か所中、19か所は「土石流危険渓流」や「地滑り危険個所」であることがわかったそうだ。それに対してJR東海は、そこに残土を置くことに法的規制はないとして変更はしないとのことである。
これでは、もし何か災害が起きた場合も、法律に違反したわけではないので、責任を負う義務はないとして逃れてしまうのだろう。
山梨県の長崎知事は、山梨県工区にまで川勝知事が口出ししてきたため、なんとしても工事を進める方法を考えあぐね、ついに静岡空港に新幹線の駅を作ったらどうかという提案を出してきた。もしこれに川勝知事が飛びついて、それならリニアの静岡工区着工を許可します、なんて急に許可を出すのであれば、それは川勝知事が単にやっかみでリニアに反対していたことになる。
しかし、川勝知事がそのようなおいしい話に惑わされることなく、これまでと同様に、水や残土の問題に真摯に取り組むのであれば、それは本当なんだと判断できると思う。
トンネル残土は東京都や神奈川県では海の埋め立てに使う計画などとしているそうだが、本当に埋め立てる必要のある場所があるのか?
伊豆地方では、伊豆縦貫道路の工事に伴い、ここでもトンネル残土問題が発生し、必要もない港の整備をわざわざ計画して埋め立て計画などが立てられるのではないかという危惧が起きている自治体もあるようである。
トンネル工事というのは、その残土によっておきる環境破壊は捨てて置けない大問題であると感じる。