うちの親の行動の根底にある判断基準というものに、どうしても合わせることができないので、実家に行く度にぶつかりあってしまう。
実家母はキリンの一番搾りだけがおいしいビールだと言っている。
なので、その他のビールを買って行っても、絶対においしいとは言わないのだ。
そのことは、もうずいぶん前から分かっているので、実家には、珍しいビールやおいしそうだなと思ったビールも持っていかず、キリンの一番搾りだけしか買わないことにしている。
一番搾り以外を母が飲むと「これはまずい、一番搾りがおいしい」と延々と言い続けるからである。
そういうことなのだが、今回は、夏に娘夫婦が持ってきてくれた北海道限定サッポロクラシックビールが1本冷蔵庫に残っていた。
冷蔵庫には、それともう1本、一番搾りの缶があったので、夕飯のときに、私は一番搾りを食卓に持っていった。
母は1人ではビールを飲まず、私が帰省したときだけ一緒に飲むのである。
すると、母が「一番搾りじゃなくてもう一つのを飲もう」と言い出した。
「えっ?でもお母さんは一番搾りが好きなんでしょ?」
と聞くと「いいから今日は、別のを飲もう」というのだ。
「でも、もう一番搾りを持ってきたから、これでいいでしょ」
と言ったのだが「いや、今日は一番搾りじゃないほうを飲もう」と頑としてきかない。
そうなのか、「一番搾り」でないものも飲む気になったのか、と思い、仕方なく、また台所に行って冷蔵庫の中に一番搾りを戻し、サッポロクラシックを持ってきてコップに注いだ。
それから、夕飯を食べながらビールを飲んだのだが・・・
「やっぱり、一番搾りがおいしいね。これはまずいね」と母。
「はあ~? だから、私は最初に一番搾りを持ってきたでしょ。そういうことが分かってるから、一番搾りを持ってきたのに、わざわざお母さんが取り換えさせたじゃない」
「そうだよ、ただ一番搾りの方がおいしいから、事実を言っているだけさ」
「だったら、最初に私がもってきた一番搾りを飲めばよかったじゃない。そうすればおいしいと思って飲めたでしょ。一番搾りじゃないのは全部まずいっていうから、これは私が家に持ち帰って飲んでもいいと思ってたのに。」
「なにもそんなまずいもん、いちいち持ち帰ることはないさ」
「まずくないよ、私と(夫)は美味しいと思うんだから、好きな人が持ち帰って飲んだ方いいにきまってるでしょ」
「なにも、そんなことしなくたっていいさ、ここで飲んじゃえばそれでいいんだ」
「はあ?まずいと思う人がいやいやながら飲むより、おいしいと思う人が飲んだ方がいいでしょ。しかも、私が最初にこれを持ってきてお母さんに飲ませたんだったら、まずいと言われたってしょうがないけど、お母さんがわざわざとりかえさせたじゃない。」
「そうだよ、だから、こっちを飲めばいいと思って飲んだんからそれでいいんだよ」
「はあ?なんで私がお母さんが好きな方を持ってきたのに、それを飲まないでわざわざとりかえさせて、まずいまずいっていうの?」
「これが冷蔵庫の中でめざわりだから先に飲もうと思ったさ」
うちの母親はこういう思考回路の人間。
母と居ると、度々こういうことに遭遇し、楽しく食事ができません。