新治伸治

1965年

「こんなことも一年に一度ぐらいはあるでしょう」勝利投手になった弟を、はじめてみたというのにスタンドでみていた実兄の 一氏（26）＝第一製版勤務＝は意外にきびしい口調。それでもロッカールームのまえまでくると「むかしよりやはりピッチングはよくなったようです・・・」とホッとしたように表情をくずしていた。オールスター後、新治はフォームをかえた。従来のスリークォーターでは「スピード不足・・・」ということから、別所コーチの指示もあってオーバーハンドを採用。だがまだまだ自分のモノにしていないと残念がる。「フォームがかたまらないので、いい感じのピッチングじゃなかったです。タマは走らないし・・・。でも大事なところでだしてもらえたし、なんとか責任を果たせてうれしいです」同点になってからのリリーフで緊張したせいか、青ざめた額に汗のツブがいっぱいだ。この日の3勝目は、七月二十八日の中日戦いらい実に64日ぶり。大学時代からふみなれた神宮のマウンドでは、もちろんはじめて。「でも試合は高橋の好投で勝てたんですから、ボクなんか勝利投手と関係ありませんヨ」直立不動のまま勝利投手を否定するあたりは、いかにも学生気分の抜けない新治らしい。「とにかく最近はよく打たれますから・・・。マウンドにあがったとききょう打たれたら、もう今シーズンはチャンスがないゾと自分にいいきかせたんです」必死の3勝目だったらしい。現在、体重は78㌔で、平均よりやや下回っているが、これは鬼軍曹の命令で朝つづけている特訓のお陰？午前十一時から高橋、及川、高山の四人でダッシュやグラウンド五周のノルマを汗だくで果たしている。「特訓をやりだしてから、タマにもキレがついた感じです。これもみんな別所さんのお陰です」最後まで、いつもの謙虚な新治だった。