先週(16日~21日)は『ゲゲゲの女房』も終戦ウィーク協賛?か、しげるさん(向井理さん)の出征死線体験と、生還者としての使命感を軸にしたお話でした。
旧日本軍式の価値観や帰属意識についに染まることなく、しかし心身酷い目に遭っても根性だけは潰れることなく生き抜いてこんにちがあるしげるなればこその、したたかな生命力と感性が伝わってくる、見どころの多い週でしたが、ふと気がつけば笑っちゃうのは、第1週の確か第2話ぐらいで、イトツ父さんイカル母さん(風間杜夫さん竹下景子さん)や地元境港の人たちに見送られて出征したしげるは、まだ1話で少女布美枝(菊池和澄さん)にべとべとさんを教えた丸メガネの少年(川口翔平さん)だったんですよね。
『ゲゲゲ』の2年ほど前は土曜ドラマ『フルスイング』で高橋克実さんの鉄道好き中1息子を演じていた、あどけなさ残る川口さん。出征が昭和18年だとすると、ラバウル場面までの約2年ばかりで向井理さん(の外見)に成長したことになる。向井さん公称身長182センチ。兵糧、少なかっただろうに。ビンタもされまくったそうなのに。恐るべき成長力。
戦争と人間の命…という重いテーマを採り上げしんみり語りつつも、底の一部分だけザルになってるみたいなツッコみどころを残してある。返す返すも好きですねえ、このドラマのこういうところ。
先日クランクアップの報が公式サイトに載り、放送も残すところ1ヶ月ほどになりましたが、貧乏ボロ家時代のしげるの仕事場が、ダウンロードしたPC壁紙でしか見られなくなったのがちょっと淋しい気もします。
いちばん手前に、男の子の小学校入学祝いにあげるみたいな、元気スカイブルーのT字型卓上蛍光スタンドがあり、じゅりんこじゅりんこレバー手回しする鉛筆削りがあり、机上には布美枝さん(松下奈緒さん)が結婚一周年のお祝いに贈った、はちみつ空きビンリフォームのお手製ペン立てがある。背中の書棚の、執筆資料や貸本時代の自著本、字引や事典類などは、背は古ぼけていても結構整理整頓は行き届いていて、ボロ家のボロ部屋でも、意外なほど惨めさ感はありません。新婚間もなくの“花と自転車”の和解劇以来、仕事場立ち入り掃除を許された布美枝さんが、出しゃばらず折りを見て片付けていたからかもしれないし、「生活が貧乏なのは仕方がないが、人間まで貧しくなってはいけん」という、しげるさんの精神至上主義の顕現とも言える。
置き道具、調度など、物言わぬモノをして持ち主の信条や心根を語らしめる。“目で見せる”に忠実で、目と想像力全開でしっかり見ている観客にはしっかりわかるように作ってある。初見で見落としても、時間をおいて再視聴するとちゃんと「そう、実はね」「よく気づいてくれたね」と教えてくれる。このドラマのそういうところにも好感持っています。
先週は、しげるの当時の上官(辻萬長さん)と、苦渋のナイス判断で左腕切断を敢行してくれた軍医さん(井之上隆志さん)とともに、戦中を回顧するシーンなどで、窪田ミナさんの新しい音楽もいくつか流れました。6月に出たサウンドトラック第1集はハートウォーミングな曲や癒される系の曲が多かったので、9月15日リリースの第2集には、ドラマ後半仕様の勇壮な曲やシリアスな曲もだいぶ入るかな。
今週(23日~)は夫婦の会話レス難局篇になる模様。仕事のピンチ(=版元から原稿料とアニメ映画製作出資金回収難)を打ち明けてくれなかったことものみ込み、妻として寂しさを訴えた手紙のゴミ箱直行も「読まんで描き損じと間違えて捨てたのかも」と無理やり善意に取り、「仕事のことにクチ出すな、家の事だけやっとれ」との亭主関白お決まり言辞にも持ちこたえた(←実家父を幼時から見ていて耐性もある)布美枝さんが、「今度の日曜、富士山に行くぞ」でキレたのがなんとも彼女らしい。
苦しいときに愚痴ってくれない、相談求めて頼ってくれないのも女房としてはせつない話ですが、夫が好きで楽しみにしていること、気持ちが晴れることを「一緒に行かないか、行きたい、行ってほしい」と分かちあってくれないのは、鼻紙も買えない貧乏のどん底で戦艦模型を一緒に作った思い出のある身にはたまらないでしょう。「どうしようもない時こそ、楽しくなる事をせんといけん」と教えてくれたのはほかならぬ夫なのです。
たぶんどこかでしげるさんが“お母ちゃんがおらんではいけんな”と気づいて歩み寄るのでしょうけど、「これからは何でもオマエにまず相談する」なんて180度宗旨替えすることはもちろんないのでしょうな。
“夫も妻も、基本は変わらない”“受け入れ、慣れ、順応するだけ”という安心感が、このご夫婦の魅力でもあるのです。人間、そうそう劇的にひと皮剥けたり成長したりするものでもないし。