世界の中心で吉熊が叫ぶ

体長15センチの「吉熊くん」と同居する独身OLの日常生活

春が来る度に

2016年03月03日 | Weblog
小学校6年生の春。
音楽の授業で「小川の四季」という歌を習った。
音楽の授業は通称「コバトキ」というおじさんの先生で、すごく怖かった。
でも彼の音楽にかける情熱は幼心にキャッチしていたので、「まあしょうがないよね」と生徒も素直に従っていた。
「朧月夜」の2フレーズ目からを自分で作曲しろ、などという高度なことを求められ、「滝廉太郎じゃないし・・・」と戸惑いながら、頑張ってついていった。
ハチャトリアンの「剣の舞」で踊れという難易度の高いことにも我々は応えようとしたが、彼の求める水準には達していなかったようで、6年3組のみんなは悉く「そうじゃない!!」「この曲に何も感じないのか?」と怒られていた。


そうそう。
「小川の四季」である。

ぽかぽか春の日差しに
谷間の雪もとけだして
ぽとぽと落ちて集まり
チョロチョロ歌って流れ出す
ランランどこまで行くんだろう
ルンルンゆかいなたびです
だんだんふえてく仲間が
ワイワイガヤガヤにぎやかに




コバトキは何を思ってか、この歌を一人ずつ前に出て歌えという。しかもアカペラで。

小学校6年と言うと、変声期を迎える男子もちらりほらりいる頃である。

Z君という、私の幼馴染もその一人だった。

「ぽかぽか春の日差しに」までは普通だった。
しかし「谷間の雪もとけだして」の部分は、声が裏返ってしまった。

「あれ、おかしいなあ」
と首をかしげながら、それでもZ君は歌を続ける。

「ぽとぽと落ちて集まり」は普通に、「チョロチョロ歌って流れ出す」で再び、裏返ってしまった。

彼は奇異な感情を以って自分に集中する見えない視線に顔を真っ赤にして、尚も歌い続けようと必死だった。
クラスメイトたちは、笑ってはいけないと牽制しつつも、肩を震わせながら下を向くのがやっとだった。


コバトキは、このとき、クラスの静かなざわめきを感じていたはずだった。
しかし怒らなかった。
「続けろ」とも「止めろ」とも言わなかった。
うしろの席から、ただ、Z君の声に耳を傾けていた。

これは大人になってから思ったのだが、きっとコバトキも変声期を体験したはずだから、Z君の気持ちを分かっていたのではないだろうか。

自分の声が変わっていく。
少し前まで歌えていた歌が自分の声ではない音になって出る奇妙で切ない感覚を。


春が来る度に、春を象徴する「ぽかぽか」という語彙を聞くたびに、私はちょっと笑い、そして泣きそうになる。
変声期の残酷さ、そして歌い続けたZ君の素直さ、コバトキの眼差しに。



お雛様with吉熊

2016年03月03日 | Weblog
今朝、LINEで同期のS子ちゃん(店長)からメッセージをいただいた。
今日は研修で本社に来るらしい。
早朝からやっている喫茶店で他の店長とモーニングを食しているとのこと。
「会えたらいいね」
とやり取りをしていたのだが、念願が叶って、トイレで再会できた。
入社16年弱。苦楽を共にした愛しい同期。美人な上、店長としての貫禄が半端無い。
同期と会うと、テンションがあがるのは勿論、「私も頑張ろう」って思える。




会社のコピー機が紙を出す際に変な音を発するようになった。
「キュキュキュ・・・」
と高音で囀るんである。
まるでコピー機の中に小鳥がいるような音だ。
ヒヨドリとか、あの類である。

誰もが音に気づいているはずなのに、みんな清々しいほどにスルーすっからね、マジで。世知辛い会社である。
仕方が無いので、コピー機のサポートセンターに電話した。

以下電話。

サポートセンターのお姉さん「どのような状況でしょうか」
私「紙を送り出す際、コピー機の中から小鳥の囀りみたいなのが聞こえてくるんです」
サポートセンターのお姉さん「(笑いをこらえて)・・・異音でございますね」
私「イオン?」
というやり取りをしたのだが、吉熊上司に報告する際、爆笑された。


今日は稟議書を2件作成。
決算間近なので予算をオーバーした経費がちらりほらり。
気まずい。


よくOLって何してるの?って訊かれるのだが、大体そんなことをしている。
こんな私を16年弱も雇ってくれてありがとうと思う。


夕ご飯は外食。ソース焼きそば。
野菜も肉も摂れて大満足。うまー。




今日はひな祭りだ。
実家では毎年お雛様を出している。
7段飾りのお雛様。
これが出されると、子供心に非常にわくわくした。
ひなあられを貪り食う妹と、よくお雛様と戯れた。
お雛様の歌をジャイアンの如く大熱唱したのも覚えている。



実家を建て直す直前に撮影した写真。



「僕、吉熊」
「きゃあ!珍獣よ!!」



「くんくん・・・いい匂いがするね」
「お、おう」



打ち解けた二人。




「お姉さん。僕と菱餅食べない?」



この人、絶対に気が弱いに違いない。



牛車GO!GO!



クマ、ドン!!



うちのお雛様は綺麗な顔立ちをしている。





就職してから母に贈った、ペコちゃんポコちゃん雛も毎年飾られている。ありがたい。



4年前、両親と商家が立ち並ぶ茨城県の真壁へお雛様めぐりをしたことがある。
あれは見ごたえがあった。

2012年2月4日 真壁 ひなまつり


いくつになっても、お雛様に魅了される。
今年はタイミングが悪くて会えなかったけれど、また「お雛様with吉熊」で遊びたい。



ひな祭りが過ぎ、お雛様を仕舞う際には、ちょっと切ない気持ちになった。
だから3月3日は嫌いだった。
学校から帰ると、既にお雛様が撤収されていて、八畳の間は文字通り、がらんどうになっていた。
昨日まではあんなに賑やかだったのに・・・と悲しくなった。


あの当時の自分が今の自分と会ったらどう思うのだろうか。
ふとそんなことを考える。
コピー機の異音を鳥の囀りとだと表現し、お雛様とクマを遊ばせる三十路の自分。
案外、「あ、変わっていないんだな」って安心するんじゃなかろうか。
そんな気がする。


コメント (2)

診察室の中心で壇蜜を語る

2016年03月03日 | Weblog
心療内科デー。
待ち時間5時間。
0時までに診察室に入れたので、まだこれでも早いほうなのである。

今日は待合室に「絶対にお風呂に入っていないだろう」と思しき男性がお母さんと来ていた。
病気だもの。お風呂に入れないぐらい人もいてもおかしくない、と脳では理解しつつも、やはり臭いが気になってしまう。
待ち時間は角田光代の「坂の途中の家」を読んだ。
もうずっと読んでいるのに、進みが遅い。
内容が暗い。絶望的に暗いのである。


5時間のうち、1時間ほど転寝。
コートを布団代わりにしてまどろんだ。


さて診察。
クマ医師、疲れているなあと思った。
横の髪が少し長くなっていて、耳にバウンドして外ハネしているので余計にそう思った。

「どうでしたか」
とお疲れクマ医師に問われるが、そのままその言葉を彼に返品したい。


昨今の仕事の状況は、月末月初の処理に追われていたことと同時進行で新卒を迎える準備をしていることを述べた。
4月上旬まで普段の月より忙しいことも併せての報告である。

先週、突発的に不眠と頭痛に襲われ、マイスリーをだらだらと飲み続けていることも報告した。

プライベートでは、有名人のサイン本お渡し会に行ったこと言ったら、すかさず
「どなたのですか?」
と食らい付いてきた。
「壇蜜さんです」
と答えると、
「あああ~!壇蜜さん!!へぇ~」
と興味津々なご様子であった。

「壇蜜さん、すごく綺麗でしたよ」
と感想を述べると、クマ医師、笑っていた。
「プライベートでそういうのに行かれるんですね」
と言いながら、電子カルテに何やらを記入していた。

そのほかも確認事項をされ、終了。
帰るときに
「あの、これ」
と資生堂のドリンクをいただいた。
試験に合格したわけでもないのに。
なんでいただけたのか分からぬが、いただいちゃおう!

「え?いいのですか!こんな高価なものを。先生、ありがとうございます」
と言うと、クマ医師は
「くくく」
とスマイリングクマを発動させていた。

クマ医師が笑うと私も嬉しい。
クマ医師との仲も今年の半ばで10年になる。
薬は段々と減ってはいるが、クマ医師にはまだおんぶに抱っこ状態である。


大切に飲ませていただきます。


吉熊「これは資生堂のザ・コラーゲンというんだ。これ飲むと亮ちゃんは綺麗になるんだって」
ナグ「こらーげん。こらーげん」


処方変更なし。
ゾルピデム酒石酸塩(微増)、防風通聖散、カームダン、当帰芍薬散


先ほど風呂から出た。
で、これを書いている。
さて、髪を乾かそう。