現実の「一瞬」の感覚を切り取り、それを “自分の中に深く留め置く” ことは、
たとえ現実的な具象が変化しようとも、「自分の中では変わらない」ものとして
一生・・・位置づけられる思い出となります。
たとえは、あまり適切ではない例でしょうけれども・・・
どんなに大切な人とのお別れの葬儀でも、私は棺に横たわっている “その人” との
最期の別れ(対面)を希望しない人です。 (家族&親族は別です)
二人で過ごした素敵な思い出を、その人が元気だった頃の輝いていた状態のままで、
色あせることなく、記憶の中に残したいからです。
思い切りあふれる涙を流し、棺には近寄らず、私の中の “その人” を思い尽くします。
そして、自分の中で、自分なりのお別れをしてくるのです。
話題は、若干変わりますが、
気にいった映画があると、連日、通う私ですが・・・
「This Is It.」に関しては、特別な感情があって、足が向かいません。
昨年10月29日(公開日翌日)に観た感覚が忘れられず、
その経験を(私の中で) 「永遠のものとして残す」 ためにも、
もう二度と映画館では(あえて)観たくないと思うようになりました。
これは、今までの私にしては、全く稀有なことです。
あれは、単なる映画ではなく、MJとのお別れ会のような気がして・・・
そして、あれは映画ではなく、海外で観た“貴重な舞台”のような感覚がして・・・
もう映画館には行くのをやめることにしました。
DVDはすぐに発売になりますし・・・ただ、実際はそういう価値基準ではなくて、
私が何よりも大切にしたいのは、あのときの会場の雰囲気だから―。
10月29日が素敵な鑑賞会だったので、「それだけで充分です」。
行こうか、どうしようか・・・迷っている内に、そういう想いが固まってきました。
また再び、話題は、若干変わりますが、
「一度しかない経験」・・・「一度しか成し遂げられない舞台芸術」は、私にとって、
やはり特別の意味合いがあるようです。
私は、若い頃から「生」の臨場感を追い求め、貧しい経済状況の中から舞台鑑賞を
重ねていました。徹夜で並んで、当日券を手にしたことも頻繁にありました。
アングラや商業演劇、ミュージカルや海外公演、歌舞伎からテント芝居まで・・・
貴重なチケットから、ただ呼び込まれたぐらいのものまで、本当に様々な舞台を
観てきたと思います。 (オペラやバレエ、クラシックコンサートまで)
有名俳優の遺作となった舞台や、歴史のある芝居も、たくさん観てきました。
ジュディ・デンチやマギー・スミスが久しぶりに舞台に出ると聞けば・・・・
航空チケットを買い、ウエスト・エンド(ロンドン)に通っていた頃もありました。
これらは、すべて「たった一度しかない経験」 「たった一度しかない舞台」だから、
私自身が “魅せられていたのだ” と感じるようになりました。
「映画」は何度観ても同じ映像が目の前に出てきますが・・・「舞台」にそれを望むのは
大変厳しいでしょう。何百回と観劇しても、生身の人間の演じている舞台だからこそ、
決して同じものにはならないのです。舞台は、その時々の空気を察知して、進行します。
だから、“生き物” なのです。会場も一体になって、作り上げる総合芸術なのです。
舞台芸術の醍醐味は、そういう刹那的な背景が否めないのですが・・・
だからこそ、目の肥えた芸術家や評論家の仕事が成り立っているのでしょう。
役者にも歌手にも、全盛期というものがあり、その時でしか出会えない芸術経験が
あるように思います。
私の人生の中で、そういう “玉虫色の思い出” があるということが、何よりも美しく、
有難いことのように、今は思えています。
すべてのものには、「命」があります。
その命のほとばしる「一瞬」を、心にとどめることができたら・・・・
そんな感覚と向き合いながら、日々を過ごしています。