本屋で「地方消滅」(元総務大臣・元岩手県知事、増田寛也著、中公新書)を立ち読みして驚いた。いま私が住んでいる湯河原を含む896の市町村が消滅すると書いてあるからだ。早速購入してじっくり読んだ。
増田氏の提案を一言でいえば、地方の人口が減り、東京・大阪などの巨大都市で増加しているが、この流れを止めるには地方の中核都市をダムのような存在にして、そこに人を集めるべきだという国家戦略であり、そのキーワードは「選択と集中」である。
湯河原でも飲食店・商店の閉店が相次ぎ、そのあとが埋まらないでいるのを目の当たりにしている。しかし、今のところ湯河原の生活インフラは整っており、まったく日常生活に不便はない。むしろ、車の交通量が少なく、緑や美しい海岸に恵まれ、私のような引退者にとっては以前住んでいた都内よりも快適ですらある。交通機関の便数が少ないことは不便だが、日常生活をそれに合わせればなんとかなる。それでも、消滅を待つしかないのか。
こうした疑問に答えたのが「地方消滅の罠」(山下裕介著、筑摩書房刊)である。山下氏は地方から中央へ人が過剰に流失したことが原因なのだから、これを逆流させる方策を考えるべきで、現実に「ふるさと回帰」が進行しているから、そうした流れを太くしようと主張する。そして、その「ふるさと回帰」には、地方出身者が出身地に戻るUターンと途中の中核都市に戻るJターンがあり、そのほかにも中央に生まれ育った若者が地方に移るIターンもあって(私は若者ではないが、Iターンの一員である)、これらの流れが活発化していると説く。
増田氏のキーワードが経済原理を基盤とする「選択と集中」であるのに対し、山下氏のキーワードは多様な価値観を基盤とする「多様性の共生」である。そして、山下氏はこの二つの概念は対立するものではなく、多重に包含し合うものだと述べる。
私は自分が「消滅する」側の湯河原に住んでいることもあって、山下氏の主張に共感するが、「地方消滅の罠」にはいかにして地方に産業を興すかについての処方箋にはあまり触れてはいない(そこまで論じるには、紙数が足りなかったこともあるだろうが)。
たまたま3月28日の読売新聞(朝日新聞にも掲載されたと推測する)に総務省による≪地域おこし協力隊≫の広告が掲載され、≪移住・交流情報ガーデン≫が東京駅八重洲口に開設されたと書いてある。総務省の施策は、地方への人の流れを加速させることを狙いとしており、安倍内閣の目玉政策「地域創生」を具体化したものといえよう。このプロジェクトが成功することを祈る。