≪自分の資産は自分で守る≫は、古今東西を問わず不変の社会原理である。しかし、この基本原理が機能していない世界がある。それはマンションの管理組合。どういうことかというと、管理組合の活動に参加せず、自分の資産の管理を人様に押し付けて平然としている組合員が多いことである。
当マンションの場合は極端なのかもしれないが、管理組合の総会の出席者は、役員を除くと、組合員の2割にも満たない。知人に聞いてみると、程度の差こそあれ、ほかのマンションでも大同小異らしい。自分でやるべきことを人様に押し付けるのは、道義的にも許されることではないが、欠席容認はマンション居住者の一般的通念となった感がある(私は役員ではないが、2年半にわたり、総会に欠席したことはない)。
以前、私はロサンゼルス郊外のマリナデルレイで100戸ほどの中規模コンドミニアム(日本でいうマンション)を所有し、居住していたことがあるが、その管理組合総会の出席率はほとんど100%。100人ほどの出席者が競い合って発言し、その熱気に圧倒されたものである。
一方、日本では出席者が少ないだけでなく、発言がきわめて少ない。だから、総会は形骸化し、理事会の決定事項(実は管理会社案)を追認するだけの場になっている。それどころか、理事会案に異をとなえようものなら、役員はじめ出席者に白い眼で見られる。つまり、日本では意思決定の主役は管理会社なのである(上記ロサンゼルスの例では、意思決定の主役が組合であることは言うまでもない)。国民性の違いとはいえ、あまりの落差に呆然とする。
さて、欠席常習者に欠席の理由を尋ねたことはないが、次のようであることは容易に想像できる。
① 「役員と管理会社に任せておけば間違いないだろう」
この考えは正しいことが多いが、そうではないことも多々ある。
●管理会社に良識と節度が欠けていると、管理費が不当に高く設定される(このブログ7月11日投稿の≪「法令遵守」無視のマンション管理会社≫参照)。
●組合員の利害は必ずしも共通ではない。例えば、駐車場使用料を値上げすべきであっても、役員が駐車場利用者だと値上げが見送られることがあり、駐車場を利用しない組合員との間に不公平が生じる。
そもそも、欠席者が多いと、多数決原理が働かなくなるという弊害を生む。その理由は、欠席者の白紙委任状は議長(理事長)の票に加算されるので、白紙委任数が多いと議決は出席者の意向に関係なく、議長の意向に委ねられるからである。
② 「総会に出席して顔が売れると、次の役員に担ぎ出されるかもしれぬ」
役員の選出には立候補制と輪番制の併用しかない。しかし、いずれの場合でも、総会の常連出席者であることが前提となる。総会に出たこともない人に、輪番制だからと言って役員を押し付けてもうまくいかないだろう。やる気がない人に無理やり役員就任を強制して、ろくに仕事してくれなかったら、組合員が迷惑する。どこの組合でも役員のなり手がなくて困っているようだが、まず欠席常習者をなくすことから始めるべきである。
さて、① に話を戻す。たとえ役員と管理会社に任せて間違いがおきていなくとも、それでよしとして総会に出席しないのは間違いである。自分の資産の保全状況を確認するためにも、そして役員のボランティア活動に感謝する礼儀としても、総会には出席すべきである。
では、「欠席常習者」をなくすにはどうしたらいいか。それには「欠席者は組合にペナルティーを支払う」か「組合は出席者に謝礼を支払う」のどちらかしかない。前者は組合予算にプラスになるメリットがあるが、考え方が後ろ向きであり、情緒的反対者が多いことが予想される。
一方、後者の場合は予算化しなくてはならないが、「仕事をしてくれる出席者への謝礼」という大義名分に対し、欠席常習者がこの議題の総会にだけ出席し、「謝礼」案に反対論を述べることは論理的に不可能(笑い)。したがって、「謝礼」案は出席者と白紙委任状の合計による多数決で可決されるはずである。謝礼の金額は多すぎず、少なすぎずという観点で、5千円が適切だろう。理想は、全員が出席して謝礼が無意味になることであり、そうなれば謝礼制度を廃止したらいい。
さらに、総会出席者への謝礼を予算化するのであれば、役員に対する謝礼も同時に予算化すべきである。理由もなく欠席し、自分の資産管理を人様に押しつけている欠席常習者と、総会のみならず理事会にも必ず出席し組合員のために無償で尽力する役員とでは、あまりにも差がありすぎ理不尽だからである。
役員に対する謝礼を総会の議題にすることは、役員が自分たちの便宜を計らうことなので、言いだしにくいだろう。ついては、一般組合員が謝礼の金額も提示した提案をする形にして解決すべきである。
規則で縛る社会は性悪説に立脚するものであり、好ましい姿ではない。できれば、緩めの規範でホンワカと組合を運営したいものだ。しかし、私の住むマンションではそんなホンワカムードではやっていける状況ではない。他のマンションでも同じような状況にあるところは多いのではないか。
≪自分の資産は自分で守る≫という基本的社会原理が機能しない以上、金銭的に解決するしかないのである。