「頑張って」も翻訳が難しいが、それよりも英訳しにくい文章は「宜しくお願いします」である。
初対面同士が名刺を交換して「宜しくお願いします」という場合は、Nice to see you.でいい。某元総理が米国で「ひとつ宜しくお願いします」のつもりでOne please. と言ったため相手が目を白黒させたという逸話があるが、あえて日本語の本来の意味にとらわれる必要はない。
では、TVの座談会で司会者が意見交換の始めにゲストに向かって、「では皆さん、よろしくお願いします」と挨拶する場合はどうか。
この場合の「よろしくお願いします」に該当する挨拶用語は欧米にはないし、意味不明だから口に出す必要がないという考えもあるが、なにか言わないと収まりが悪いということだろう。強いて訳せば 貴重な時間を割いてもらった謝意を表明することに変えて、Thank you for joining us. だろうか。
ところが世の中さまざまで、「宜しくお願いします」は意味不明だからという理由で違和感を持つ人もいるらしい。「不適切な日本語」(梶原しげる 新潮文庫)では、「国谷キャスターが絶対に口にしない言葉と」というタイトルの章で、NHKの“クローズアップ現代”の元キャスターだった国谷さんが「宜しくお願いします」を封印したことを賞賛している。つまり、梶原氏は「宜しくお願いします」を「不適切な日本語」と考えているというわけだ。
確かに「宜しくお願いします」は意味不明で訳せないことが多いが、これは単なる挨拶用語と割り切るしかない。その場に応じた英語の適切な挨拶用語を探せばいいことだろう。