『ブレスレス ゴミ袋を呼吸する夜の物語』初演から32年、どの上演でも同じ役をやってきたのは、川中健次郎さん、あなただけです。(撮影・姫田蘭)
『ブレスレス ゴミ袋を呼吸する夜の物語』のタドコロ役は、この劇団では、川中さん以外の人がやったことはない。というか、別な人がこの役をやることを考えられない、というか。初演時の仕掛けとしては、『リア王』の道化役を今やるとしたらこうなる、ということでもあった。
川中さんは燐光群のラフカディオ・ハーンシリーズ全作品でハーン役をやってきた。『神々の国の首都』『漱石とヘルン』『夜光るもの』、すべてである。日本の俳優がギリシアとアイルランドの両親から生まれたハーンを演じて説得力があり、海外11都市に及ぶ『神々の国の首都』ツアー公演でも、注目された。
川中さんは七十年代から活動していた内田栄一さん主宰の「東京ザットマン」時代、金子正次さんと常にダブル主演だった。金子さんというのは誰かというと、映画『竜二』の脚本・主演、『ちょうちん』『チンピラ』等のシナリオを残した、あの金子正次である。じつは私も金子さんとは親しく、二十歳そこそこの私に金子さんが『チンピラ』の手書き生原稿を読ませ、自分の理想キャストを伝えてくれたのを、昨日のことのように覚えている。『竜二』公開時に急逝されたときのショックは今も鮮やかに覚えている。1983年秋だった。真っ赤なジャンパーに真っ白な歯の笑顔。それが金子正次である。
川中健次郎という俳優は、他にない。
稽古は終盤戦。やれる限りのことはする。皆様、お楽しみに。
初日は今月十五日。
『ブレスレス ゴミ袋を呼吸する夜の物語』上演情報
↓