これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

人生最大のピンチ

2014年05月22日 20時32分06秒 | エッセイ
 勤務先の高校では、修学旅行先に沖縄を選ぶことが多い。3年前のそのときも、私は引率者の一人として沖縄にいた。
「これからバスは恩納村に向かいます。そこで皆さんは、粘土を使ってシーサーを作りますから、楽しみにしていてくださいっ」
「はーい!」
 ガイドの説明に、生徒が元気に答えた。美ら海水族館から恩納村まで、バスで1時間半ほどかかる。鉄道のない沖縄ならではだ。隣に座ったもう一人の先生は、昼食後ということもあり、すでに眠りに落ちていた。



 私も目を閉じ、うつらうつらしていたが、不意にお腹に異変を感じて目が覚めた。

 ゴロゴロゴロ……。

 弁当に入っていた唐揚げが、やけに油っこかったことを思い出す。時計を見ると、まだ30分も経っていない。到着まであと1時間もあるのに、お腹の方は赤ちゃんではないものを「出産」したがっている。これはまずい。
 まだ平気。気をそらして我慢しなきゃ。
 本を取り出してみたが、活字がまったく頭に入らない。お腹の痛みが強まってきて、気がまぎれるどころか、逆に集中してしまった。
 まさか、教員が「トイレに行きたいからバスを停めてください」などと頼むわけにはいかない。チラリと後ろを見たが、生徒の中にも切羽詰まった様子は見られない。ならば、一刻も早く到着することを祈るばかりだ。
「今日はちょっと混んでいますね」
 タイミングよく、ガイドがマイクを持った。1時間半でも気が遠くなりそうなのに、2時間近くかかるかもしれないと聞き、私はあまりの運の悪さに気絶しそうになった。

 もし、我慢できなかったら……。

 恐ろしい想像が脳裏をかすめた。もしそうなったら、退職するしかない。ここは、何が何でも耐えるのだ。変わらず、お腹は唸っている。脂汗は出ない。だが、背筋が妙に寒かった。
 ふと、痛みが遠のいた。陣痛と同じで波があるらしい。どうにか乗り切れそうだと思うと、また産まれそうになる。「待て、待て」と説得していれば、やがては軽くなっていく。その繰り返しだった。
「はい、みなさん、お待たせしました。バスはただいま、高速を下りて恩納村に入りました。目的地まではあと5分ほどです」
 ガイドの声が、これほど弾んで聞こえたことはない。登山でいえば、どうにか9合目まで来たようだ。あとちょっとの辛抱である。
 バスが駐車場に入ると、まずは生徒を誘導する。本音としては、一番にトイレに駆け込みたいのだが、あとから何を言われるかわからないので、澄ました顔で必死に耐えた。
 女子生徒の最後尾につき、ようやく個室に入れたときには、すべてのことを許せる寛大な気持ちになった。人生最大のピンチは、人として成長するための試練なのだろうか?

 実は今、懲りずに沖縄にいま~す!
 飲食は控えめにしなくっちゃ。


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 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
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コメント (10)
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