これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

大逆転

2015年11月19日 20時45分54秒 | エッセイ
 職場近くのパン屋さんは、毎週木曜日に菓子パンセットの配達をしてくれる。
「障がいを持つ子どもたちが作っているパンだから、人助けもできて一石二鳥よ」
 11年前に赴任したとき、隣の席だった女性に誘われて、私もパンを買うことにした。当時は10人くらいいたはずだ。
 ところが、異動で年々メンバーが減り、代わりに入ってくれる人が一向に見つからない。昨年度はついに4人になってしまった。しかも、今年度はさらに2人が異動することとなり、たった2つを配達してもらうのは気が引けた。
「どうします? もう終わりにしますか?」
「うーん、仕方ないですね。2人だけじゃ」
 残された者で相談し、配達をやめようと思ったときに、都合よく救世主が現れた。
「あのう、私も4月からパンを買いたいのですが、お願いできますか」
「僕も買いたいです。美味しそうですよね」
 いつもパンを受け取ってくれる事務室の職員が、2人も仲間に加わってくれた。これでまた4人に戻り、配達を続けることができる。
 パンは3個で425円。白い袋に小分けされ、焼き立ての香ばしい香りを漂わせてやってくる。
 先週はフランス生地に黒こしょうを巻き込み、ゴマをトッピングした「セサミペッパー」と



 てっぺんの白いクリームがうれしい「アメリカンシナモンロール」に



 4種のきのことミートソースを食パン生地で包み焼き上げた「きのこミートソースパン」であった。



 季節のイベントにも敏感で、5月には可愛い「こいのぼりパン」が入っていた。



 12月にはサンタのパン、1月には新年の干支のパンが毎年登場するので、この先も楽しみだ。
 先日、ハロウィンのガイコツパンの写真を撮っていたら、別の職員が興味を示して話しかけてきた。
「面白いパンですね。私も食べてみたいです」
 おや、今度は5人に増えた。
 もし、「一緒にパンを買いませんか」などと誘ったら、押し売りと間違われそうである。でも、実物を見ると「美味しそうだな、食べちゃおうかな」と心が動くものらしい。食べ物の誘惑には誰もが弱い。
 驚いたことに、やがて事務室長までが声を掛けてきた。
「あ、笹木さん。僕もパンを買いたいので、申し込んでもらっていいですか?」
 これで6人。事務室の2人に影響されて管理職までが仲間になってくれた。
 そして、先週は事務室の新採くんが、もじもじしながら話しかけてきた。
「ああの、ぼ僕もパンをお願いしたくて」
 何と7人目ではないか。3月のときは、配達をお断りしようと思っていたくらいだったのに、まさかこんなに増えるとは。
 逆転満塁ホームランを打ったような気持ちである。いやいや、まだ増えるかもしれない。なるべくパンを見せびらかすようにして、「ほうら、食べたくなるでしょう?」とアピールしちゃおうかしら。


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 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
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コメント (10)
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