高校の教員になり、初めて卒業生を送り出したのは12年も前のことである。
「僕たち今年で30歳だから、記念に同窓会を開くんです。よかったら、先生たちも来てくれませんか」
幹事と仲のよい男子から知らせを受け、喜んで参加することにした。
一緒に学年を持った元同僚と会場に行くと、すでにたくさんの卒業生が集まっていた。
「えー、誰が誰だかわからない。全然おぼえていないわぁ~」
元同僚は苦笑していたが、受付ではネームプレートが配られている。名札さえあれば、心強いというものだ。偉いぞ、幹事!
「こんにちはぁ。お久しぶりです」
「こんにちは。今日はありがとうございます。元気でやってる?」
「はい。先生も?」
こんな会話を繰り返し、何人もの元生徒と言葉を交わした。女子はみんなキレイになっていて、恋に仕事にと充実した毎日を送っているらしい。3分の1ほどがママになったという。子どもの世話を通して、ますます大人になるだろう。
男子は、仕事がきついのか、ガリガリに痩せてしまった子がいたり、逆に原型をとどめないほど太ってしまった子がいたりと極端だ。
「先生、オレ、20キロ太りましたよ」
「オレも~」
……この人たち、病気になっていないかしら。
実に不安だ。
中には、高校時代からまったく変わらず、マイペースに生きている男子もいて頼もしい。
「それでは皆さん、記念撮影をしたいと思いますので上座にお集まりください」
幹事の呼びかけで場所を移動する。ここで、会場の名物ハニートーストが登場した。
「先生方、お世話になりました。本日はお越しくださいましてありがとうございます」
幹事の挨拶に、会場がドッと沸く。何と、花束贈呈もあるではないか。高校を卒業してからの成長ぶりに、胸が熱くなった。
撮影が終わると、ようやく周りを見る余裕が生まれた。おやおや、たくさんのフィギュアが所狭しと飾られている。
ここにも。
あそこにも。
あとからわかったことだが、ここは「仮面ライダー ザ ダイナー」という場所だったらしい。マニアだったら大喜びするのに、卒業生たちは一向に興味を示さない。面白がって写真を撮っているのは私だけ。
特に等身大の「仮面ライダー旧1号」と
「旧2号」には、カメラが向けられそうなものなのだが。もったいないことである。
旧1号の近くには、ひな人形のように並べられたフィギュアもあり、なかなかの迫力だ。
「何やってんですか、先生。仮面ライダー好きなんですか」
後ろから男子が2人、怪訝な表情で近づいてきた。変な人だと思ったのかもしれない。
「うーん、特に好きじゃないけど、価値があるよこれは」
「そうですか。じゃあ、ここに座ってください。撮ってあげますよ」
仮面ライダー旧1号と旧2号の間には、ショッカー首領のイスがある。
「わーい」
私は男子の1人にカメラを預け、玉座に腰を下ろした。
「もっと偉そうに、肘掛けに腕を置いて、足を組んでください」
「こう?」
「そうそう」
パシャッ。
「じゃあ、縦でもう1枚」
パシャッ。
「イエーイ、ありがとう~!」
すっかりハシャいでしまった。幹事の女の子は、「先生、飲み過ぎていませんか」と声をひそめて話しかけてくるが、飲み過ぎどころか話してばかりいて、料理もお酒もほとんど口にしていない。
お腹がすいて料理の近くに行くと、別の女の子たちがハニートーストを切り分けている。何とグッドなタイミング。
「アタシにも、アタシにも」
「はーい。先生どうぞ」
食パンと生クリームはよく合う。フルーツも載っていて、とても美味しいが、フォークやスプーンでは食べづらい。
「先生、これは箸で食べるのが正解だと思います」
「あっはっは」
あっという間の3時間だった。最後に教員から挨拶をして、幹事をねぎらい、楽しい同窓会は終了した。
「じゃあ、今度は40歳のときにお願いします」
「はーい! 元気でね」
ブンブン手を振って別れを惜しんでいたら、幹事の女の子がまた声をかけてくる。
「先生、大丈夫ですか。お酒に強くないのでは」
……どうも彼女は、私が酔っ払いだと思っていたようだ。
間違いではない。お酒ではなく、雰囲気に酔った。私の中では未熟な高校生だった子どもたちが、立派な社会人になって、見事な成長ぶりを見せてくれたのだ。こんなに素敵なことはない。
家に帰って、花束を取り出す。
今日はどうもありがとうございました。
↑
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※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
「僕たち今年で30歳だから、記念に同窓会を開くんです。よかったら、先生たちも来てくれませんか」
幹事と仲のよい男子から知らせを受け、喜んで参加することにした。
一緒に学年を持った元同僚と会場に行くと、すでにたくさんの卒業生が集まっていた。
「えー、誰が誰だかわからない。全然おぼえていないわぁ~」
元同僚は苦笑していたが、受付ではネームプレートが配られている。名札さえあれば、心強いというものだ。偉いぞ、幹事!
「こんにちはぁ。お久しぶりです」
「こんにちは。今日はありがとうございます。元気でやってる?」
「はい。先生も?」
こんな会話を繰り返し、何人もの元生徒と言葉を交わした。女子はみんなキレイになっていて、恋に仕事にと充実した毎日を送っているらしい。3分の1ほどがママになったという。子どもの世話を通して、ますます大人になるだろう。
男子は、仕事がきついのか、ガリガリに痩せてしまった子がいたり、逆に原型をとどめないほど太ってしまった子がいたりと極端だ。
「先生、オレ、20キロ太りましたよ」
「オレも~」
……この人たち、病気になっていないかしら。
実に不安だ。
中には、高校時代からまったく変わらず、マイペースに生きている男子もいて頼もしい。
「それでは皆さん、記念撮影をしたいと思いますので上座にお集まりください」
幹事の呼びかけで場所を移動する。ここで、会場の名物ハニートーストが登場した。
「先生方、お世話になりました。本日はお越しくださいましてありがとうございます」
幹事の挨拶に、会場がドッと沸く。何と、花束贈呈もあるではないか。高校を卒業してからの成長ぶりに、胸が熱くなった。
撮影が終わると、ようやく周りを見る余裕が生まれた。おやおや、たくさんのフィギュアが所狭しと飾られている。
ここにも。
あそこにも。
あとからわかったことだが、ここは「仮面ライダー ザ ダイナー」という場所だったらしい。マニアだったら大喜びするのに、卒業生たちは一向に興味を示さない。面白がって写真を撮っているのは私だけ。
特に等身大の「仮面ライダー旧1号」と
「旧2号」には、カメラが向けられそうなものなのだが。もったいないことである。
旧1号の近くには、ひな人形のように並べられたフィギュアもあり、なかなかの迫力だ。
「何やってんですか、先生。仮面ライダー好きなんですか」
後ろから男子が2人、怪訝な表情で近づいてきた。変な人だと思ったのかもしれない。
「うーん、特に好きじゃないけど、価値があるよこれは」
「そうですか。じゃあ、ここに座ってください。撮ってあげますよ」
仮面ライダー旧1号と旧2号の間には、ショッカー首領のイスがある。
「わーい」
私は男子の1人にカメラを預け、玉座に腰を下ろした。
「もっと偉そうに、肘掛けに腕を置いて、足を組んでください」
「こう?」
「そうそう」
パシャッ。
「じゃあ、縦でもう1枚」
パシャッ。
「イエーイ、ありがとう~!」
すっかりハシャいでしまった。幹事の女の子は、「先生、飲み過ぎていませんか」と声をひそめて話しかけてくるが、飲み過ぎどころか話してばかりいて、料理もお酒もほとんど口にしていない。
お腹がすいて料理の近くに行くと、別の女の子たちがハニートーストを切り分けている。何とグッドなタイミング。
「アタシにも、アタシにも」
「はーい。先生どうぞ」
食パンと生クリームはよく合う。フルーツも載っていて、とても美味しいが、フォークやスプーンでは食べづらい。
「先生、これは箸で食べるのが正解だと思います」
「あっはっは」
あっという間の3時間だった。最後に教員から挨拶をして、幹事をねぎらい、楽しい同窓会は終了した。
「じゃあ、今度は40歳のときにお願いします」
「はーい! 元気でね」
ブンブン手を振って別れを惜しんでいたら、幹事の女の子がまた声をかけてくる。
「先生、大丈夫ですか。お酒に強くないのでは」
……どうも彼女は、私が酔っ払いだと思っていたようだ。
間違いではない。お酒ではなく、雰囲気に酔った。私の中では未熟な高校生だった子どもたちが、立派な社会人になって、見事な成長ぶりを見せてくれたのだ。こんなに素敵なことはない。
家に帰って、花束を取り出す。
今日はどうもありがとうございました。
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「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)