これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

松濤のファラオ

2015年11月22日 21時01分44秒 | エッセイ
 渋谷にある松濤美術館では、明日23日まで「古代エジプト美術の世界展」を開催している。



 エジプトフリークの娘を連れて、見に行ってきた。



「えーと、一般が500円、大学生が400円だって」
「安ッ!」
 しかし、展示品は147品と充実していたし、鉛筆だけでなくクリップつきのボードまで貸してくれるから、ここまで親切な美術館はそうそうないと思う。
 勉強道具があると、がぜんやる気になる。作品リストに、知り得た情報を次々と書きこんでいった。
「えーと、ヒエログリフとは、神聖な彫られた文字……」
「トト神とは、トキの神様のこと……」
「ネコは性と多産のシンボル……」
「ジャッカルは、道を切り開く者の意味……」
 私がちまちまと記入している間に、娘はレリーフの前に移動している。
「ヒエログリフの意味はわからないけど、見ていて飽きない。すごいね~!」
 印象的だったのは、「呪いの人形」という作品である。呪いをかけるには、アラバスターでできているこの人形に、呪いたい人の名前を書いて破壊すると書いてある。のっぺりした頭部には、恨みつらみが込められている気がして怖かった。
 順路通りに2階に行くと、ソファーの並んでいる一角があり、品のいいおじいさんたちが小声で美術品について会話を交わしていた。美術愛好家のサロンのようだ。区立とはいえ、高級感漂う雰囲気は、松濤という地域ならではだろう。
「見て、『死者の書』がある」
 娘は少々興奮気味だ。これは、墓に副葬する物で、死者が来世で復活するため携えるという。ここでは、もっとも有名な「呪文125のビネット」が公開されているらしい。展示のサブタイトルである「魔術と神秘」を彷彿とさせる作品である。館内は空いていたし、2人並んでじっくり眺めることができた。
 他にも、死者が行き来するという「偽扉」や、イブ・サンローランのコレクションだった「ホルエムアケトの人型の棺」、ミイラに被せられた木製の蓋である「マミーボード」などなど、大きな展示品も堪能して出口に向かった。
 1階で、ファラオの衣装が目に入る。
「あ、これは、ファラオに変身できる衣装じゃないかな」
 たしか、ホームページに記念撮影用の貸出衣装があると書いてあったはずだ。コスプレマニアの私が目の色を変えて駆け寄ると、娘は露骨に嫌な顔をした。
「えっ、着るの? 本気?」
「もちろん。こういうの大好きだもん」
 タイミングよく、係の女性が気づいてくれる。
「お召しになりますか。まず、この服を着てくださいね。それから頭にこれを被って……」
 てきぱきと私をファラオに変えてくれる。
「はい、では腕をクロスさせて、お写真どうぞ」
 娘がシャッターを押してくれる。



 なかなか本格的でしょう?
 ちなみに、額には「ウラエウス」という聖なるコブラがついている。これがファラオの証しであるという。
 調子に乗って何枚も撮影していたら、通りかかったカップルが驚いていた。
「えっ、あれ着られるの? ヤバ~」
「あとで撮ろうよ」
 えっへん。どんなもんだい!
 この美術館は花マルでした。


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コメント (8)
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