金沢駅から特急で小1時間。和倉温泉には雪のかけらも見当たらなかった。
海辺ということもあり、金沢とは少々気候が違うようだ。
宿泊先は、加賀屋別邸 松乃碧。
明らかに予算オーバーだが、年老いた夫が「一度泊まってみたい」とせがむので奮発した。近くには加賀屋本館がそびえ立ち、メチャクチャ大きな売店に居酒屋、ゲーム、カラオケなどのエンタメ施設を構えて、団体客や家族連れをとりこにしているらしい。一方、松乃碧に宴会場はない。熟年夫婦向けのため、団体客もとらず、中学生未満の子どもは宿泊できないから、静寂と落ち着きに支配された空間だった。
「こちらには、前田家ゆかりのお茶室がございますが、お茶の体験はいかがですか?」
「ええ、ぜひ」
お茶室は30分刻みの予約制となっていて、本格的な茶道の体験ができる。
江戸時代末期の建物の一部を移築したというので、歴史の重みを感じさせる渋~い佇まいであった。何しろ窓ガラスがない。江戸時代なのだから当たり前か。でも、障子1枚でも、お湯がぐらぐら沸いているせいか、寒さは感じなかった。かえって、夏場の方が厳しいという。
室内には、和服が板についたお茶の先生がいらした。
私は茶道の作法をよく知らない。他のお客さんがいないのをいいことに、飲み方について尋ねてみた。
「時計回りに2回、回してから召し上がってください」
「飲んだあとはどうするんですか?」
「口をつけた部分を指でぬぐって、時計回りとは逆に2回、回してください」
「へーえ」
まろやかで、甘味すら感じさせるお茶だった。本格的なお茶をいただき、大満足して外に出る。
「このお庭は、松林図屏風をイメージしています。画家の長谷川等伯は七尾出身なんです」
「なるほど」
たしかに、松林図だ。そして、正面玄関には、昭和天皇お手植えの松まである。
何だか、これだけで観光意欲が満たされてしまい、あとは部屋でコーヒーを飲みながらのんびりすることにした。
ロッキングチェアに揺られるもよし。
L字型のソファーでくつろぐもよし。
露天風呂もついている。
バルコニーからは、能登島大橋が見えた。
「さーて、東野圭吾の『マスカレード・ナイト』を読むか」
すっかりくつろぎ、ほとんど部屋から出なかった。夕食とお風呂に行っただけで、ラウンジにもバーにも足が向かない。本を読み終えたとき、「なんて幸せなのかしら」と余韻に浸り、ベッドにもぐり込んだ。
ぐっすり、スヤスヤ。
翌朝、夜明けの能登島大橋は、また違った顔を見せてくれる。
穏やかな七尾湾にはイルカが住んでいるそうだ。運がよければ見られると言われたが、探しに行かなかったので見ていない。代わりに、鴨の親子が優雅にスイスイと列をなして泳いでいた。ここは平和なのだ。
朝食後の能登島大橋が、一番きれいに見えた。
右側の建物から煙が上っている。モクモクした形が綿菓子のようだ。
条件反射か、今でも『マスカレード・ナイト』の表紙を見ると、非日常の静かな環境で、読書に専念できた幸せが蘇ってくる。
同時に、能登島大橋とモクモク煙も浮かんでくるのが楽しい。
↑
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※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
海辺ということもあり、金沢とは少々気候が違うようだ。
宿泊先は、加賀屋別邸 松乃碧。
明らかに予算オーバーだが、年老いた夫が「一度泊まってみたい」とせがむので奮発した。近くには加賀屋本館がそびえ立ち、メチャクチャ大きな売店に居酒屋、ゲーム、カラオケなどのエンタメ施設を構えて、団体客や家族連れをとりこにしているらしい。一方、松乃碧に宴会場はない。熟年夫婦向けのため、団体客もとらず、中学生未満の子どもは宿泊できないから、静寂と落ち着きに支配された空間だった。
「こちらには、前田家ゆかりのお茶室がございますが、お茶の体験はいかがですか?」
「ええ、ぜひ」
お茶室は30分刻みの予約制となっていて、本格的な茶道の体験ができる。
江戸時代末期の建物の一部を移築したというので、歴史の重みを感じさせる渋~い佇まいであった。何しろ窓ガラスがない。江戸時代なのだから当たり前か。でも、障子1枚でも、お湯がぐらぐら沸いているせいか、寒さは感じなかった。かえって、夏場の方が厳しいという。
室内には、和服が板についたお茶の先生がいらした。
私は茶道の作法をよく知らない。他のお客さんがいないのをいいことに、飲み方について尋ねてみた。
「時計回りに2回、回してから召し上がってください」
「飲んだあとはどうするんですか?」
「口をつけた部分を指でぬぐって、時計回りとは逆に2回、回してください」
「へーえ」
まろやかで、甘味すら感じさせるお茶だった。本格的なお茶をいただき、大満足して外に出る。
「このお庭は、松林図屏風をイメージしています。画家の長谷川等伯は七尾出身なんです」
「なるほど」
たしかに、松林図だ。そして、正面玄関には、昭和天皇お手植えの松まである。
何だか、これだけで観光意欲が満たされてしまい、あとは部屋でコーヒーを飲みながらのんびりすることにした。
ロッキングチェアに揺られるもよし。
L字型のソファーでくつろぐもよし。
露天風呂もついている。
バルコニーからは、能登島大橋が見えた。
「さーて、東野圭吾の『マスカレード・ナイト』を読むか」
すっかりくつろぎ、ほとんど部屋から出なかった。夕食とお風呂に行っただけで、ラウンジにもバーにも足が向かない。本を読み終えたとき、「なんて幸せなのかしら」と余韻に浸り、ベッドにもぐり込んだ。
ぐっすり、スヤスヤ。
翌朝、夜明けの能登島大橋は、また違った顔を見せてくれる。
穏やかな七尾湾にはイルカが住んでいるそうだ。運がよければ見られると言われたが、探しに行かなかったので見ていない。代わりに、鴨の親子が優雅にスイスイと列をなして泳いでいた。ここは平和なのだ。
朝食後の能登島大橋が、一番きれいに見えた。
右側の建物から煙が上っている。モクモクした形が綿菓子のようだ。
条件反射か、今でも『マスカレード・ナイト』の表紙を見ると、非日常の静かな環境で、読書に専念できた幸せが蘇ってくる。
同時に、能登島大橋とモクモク煙も浮かんでくるのが楽しい。
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「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
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