はじめて社会人になった年に、中学時代の同窓会があった。
「教員? 俺が一番嫌いなヤツになって~」
「カツミは子どもが2人もいるってよ」
8年ぶりにしては会話が弾む。順に席を移動し、次に隣になったのは、週休2日制ならぬ週2日制を貫いた不登校児、志田であった。
「たしか、前に大宮で会ったよね」
志田とは卒業するまでほとんど口を利いたことがなかった。でも、2年前にふらりと入った美容室で、彼がアシスタントとして働いていたため、同窓会の前に再会している。
「そうだね。まだあの店にいるの?」
「あそこはもう辞めた。あれから美容師の資格も取って、今度は自分の店を出すんだ。よかったら来てよ」
場所を聞くと、歩いて行かれるところである。オープンの日にちも聞き、ためしに行ってみた。店内にはすでに3人客が待機していて、まずまず繁盛しているようだった。
「来てくれてありがとう。これ開店記念品」
会計の際にプレゼントを受け取り、ぐうたらだった志田の勤勉ぶりに驚く。カットの腕も悪くなかった。人はどんどん成長していくものなのだと実感し、これからもお願いすることにした。
「へえ、砂希の同級生の店なの? お母さんも行ってみよう」
やがて、志田の店には母、姉、妹も足を運ぶようになる。雨の日には志田の妻が車で家まで送ってくれたり、所持金が足りなかった妹にはカット代を800円におまけしてくれたりと、家族ぐるみのおつき合いが始まった。
数年経つと、風向きが変わってくる。やがて、母がこんなことを言うようになった。
「最近、開店ピッタリの時間だと、お店が閉まっているのよ。志田君は来るのが遅いね」
これには驚いた。10時を過ぎてもシャッターが開かず、客を待たせるとは失礼きわまりない。商売が軌道に乗ったせいか、志田は本来の怠け癖が出てきたようだ。その後、私は引っ越してそれきりになったが、徐々に客足が遠のき、結局、店を閉めたそうだ。
練馬に越してからは、いくつか美容院を回った。その中で、一番似合う髪型にしてくれた美容師を選び、二度三度と通うようになる。
「こんにちは。今日もいつもと同じですか」
美容師は、デーモン小暮がメイクを落としたような顔をしているので、「閣下」と呼ぶことにする。
(広島県ホームページより)
どの美容師よりも、閣下は仕事が丁寧だ。段を入れるにも、カーラーを巻くにも、髪一本一本を大事に扱っている。他の美容院ではひと月ほどしか持たないパーマも、閣下ならば2カ月近くウエーブが残る。
「どうですか、こんな感じで」
鏡に映る自分に満足するが、問題なのはここからだ。閣下はカットが上手なのに、なぜかブローは下手。乾いたあとの髪型は野暮ったく昭和くさい。すぐさま家で洗い直し、自分でブローするといい感じにチェンジする。
文句を言いながらも、閣下の店に通い始めてから、今年で20年目を迎えた。
こういうのを「魔界通い」というのだろうか。
↑
クリックしてくださるとウレシイです♪
※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
「教員? 俺が一番嫌いなヤツになって~」
「カツミは子どもが2人もいるってよ」
8年ぶりにしては会話が弾む。順に席を移動し、次に隣になったのは、週休2日制ならぬ週2日制を貫いた不登校児、志田であった。
「たしか、前に大宮で会ったよね」
志田とは卒業するまでほとんど口を利いたことがなかった。でも、2年前にふらりと入った美容室で、彼がアシスタントとして働いていたため、同窓会の前に再会している。
「そうだね。まだあの店にいるの?」
「あそこはもう辞めた。あれから美容師の資格も取って、今度は自分の店を出すんだ。よかったら来てよ」
場所を聞くと、歩いて行かれるところである。オープンの日にちも聞き、ためしに行ってみた。店内にはすでに3人客が待機していて、まずまず繁盛しているようだった。
「来てくれてありがとう。これ開店記念品」
会計の際にプレゼントを受け取り、ぐうたらだった志田の勤勉ぶりに驚く。カットの腕も悪くなかった。人はどんどん成長していくものなのだと実感し、これからもお願いすることにした。
「へえ、砂希の同級生の店なの? お母さんも行ってみよう」
やがて、志田の店には母、姉、妹も足を運ぶようになる。雨の日には志田の妻が車で家まで送ってくれたり、所持金が足りなかった妹にはカット代を800円におまけしてくれたりと、家族ぐるみのおつき合いが始まった。
数年経つと、風向きが変わってくる。やがて、母がこんなことを言うようになった。
「最近、開店ピッタリの時間だと、お店が閉まっているのよ。志田君は来るのが遅いね」
これには驚いた。10時を過ぎてもシャッターが開かず、客を待たせるとは失礼きわまりない。商売が軌道に乗ったせいか、志田は本来の怠け癖が出てきたようだ。その後、私は引っ越してそれきりになったが、徐々に客足が遠のき、結局、店を閉めたそうだ。
練馬に越してからは、いくつか美容院を回った。その中で、一番似合う髪型にしてくれた美容師を選び、二度三度と通うようになる。
「こんにちは。今日もいつもと同じですか」
美容師は、デーモン小暮がメイクを落としたような顔をしているので、「閣下」と呼ぶことにする。
(広島県ホームページより)
どの美容師よりも、閣下は仕事が丁寧だ。段を入れるにも、カーラーを巻くにも、髪一本一本を大事に扱っている。他の美容院ではひと月ほどしか持たないパーマも、閣下ならば2カ月近くウエーブが残る。
「どうですか、こんな感じで」
鏡に映る自分に満足するが、問題なのはここからだ。閣下はカットが上手なのに、なぜかブローは下手。乾いたあとの髪型は野暮ったく昭和くさい。すぐさま家で洗い直し、自分でブローするといい感じにチェンジする。
文句を言いながらも、閣下の店に通い始めてから、今年で20年目を迎えた。
こういうのを「魔界通い」というのだろうか。
↑
クリックしてくださるとウレシイです♪
※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
同級生の志田さんは週二日制を貫いたのでしょうね。
カットが上手なら問題ないのでは、逆だったら困ります~
デーモン閣下がメークを落とした顔を想像するのがかえって難しすぎます(_ _;)…パタリ
以前はヤクザ床屋だのおっぱい床屋だのに行ってました、魔界を渡り歩いたことになります。
最近は1000円カットの店に行ってます(笑)
洗髪だのなんだかんだとトッピングして2000円になるけど…こちらもある意味魔界かも~
昔の生徒で、いい子なんだけど、遅刻だけは治らなくてという子がいましたが、結局就職してもダメだったようです。
私もカットの上手い人でないとね。
癖っ毛だから。
ライブお疲れさまでした~!
しかし、成功の陰には苦労もあったのですね。
45分待ってもスタッフが来ないとは、ナメくさっています。
時間は守る!
当たり前でしょう。
他のスタジオが見つかってラッキーでしたね。
暑かったです。
みっちり仕事してきました(笑)
来週は休みが多いので、今日までは仕事しているふりをしないと…。
デーモン小暮の素顔がネットで出回っていますね。
別人28号でした。
マツコ・デラックスにも驚きましたが。
1000円カットの店に通う女友達がいます。
中にはビックリするほど上手な人がいるんですってね。
行ったことないわ。
エッセイ教室にこの作品を持って行きました。
志田が立派な店長になる場面では「いい話」に見えるのですが、結末に幻滅していたようです。
遅刻は信用をなくしますね。
同僚に、若い頃は遅刻魔だった人がいます。
50歳を過ぎたら、4時過ぎに目覚めるようになり、一番に出勤していますよ。
志田もあと何年かしたら、朝に強くなったりして。
仕事ぶりも申し分なく、私の髪は彼女じゃなきゃ切れない!と思うほど。
でも、その几帳面さがお姑さんの嫉妬と怒りを買い、店長のご夫君ともうまくいかず、職を失うハメに。
店長より人気の嫁に嫉妬なんて、残念な嫁ぎ先。
実家のそばに美容院ができてしまい、母はそこへ通います。
でも、気が向いた日だけ開店する「志田方式」。
ご近所じゃなきゃ行かないよと言いつつ通い続ける母の頭は、ホントに残念なカットにスタイル。
生き方とカットの腕は、どこかでつながっていると思います。
夫のちゃんりおにウケてくださってありがとうございます。
プロフィール画像にしてみました!
腕前も営業スタイルも、プロ意識の表れですからね。
技術の向上を目指す美容師は、せっせと努力を続けるでしょう。
「もうこれでいいや~」と怠ける美容師は、徐々に腕を落としていきます。
客がどちらを選ぶかは火を見るより明らかです。
プロフィール画像を拝見しました。
フレッシュでいい感じ~!
それにしても、あのバッグは無残すぎでした(笑)
後半は、残念なことになってしまったんですね。
そして次は、閣下!? インパクト大ですね。
カット上手で丁寧な美容師さんと出会え、本当に良かったです。
ホント、志田の件ではぬか喜びでしたよ。
ここでキリッとした姿を見せてくれたら、中学では仮の姿だったと思うところなんですけどね。
やはり、中学の姿が本来の彼ってことなのかも。
妻子はどうなったのか心配です。
家族を養うためにも、必死に働かねばならないのに。
閣下と出会えた縁に感謝します。
別の美容院に鞍替えしませんように…(笑)