30年来の友人から「ミュシャ展」のチケットをもらった。
国立新美術館で開催されていることは知っていたが、2013年に森アーツセンターギャラリーでの展示を見ていたから、今回はスルーするつもりでいた。(「ミュシャ展 あと2週間」はこちらから)
しかし、今回の展示は、リトグラフ中心の前回とは、まったく違うようだ。
「晩年の精魂込めた油彩画の大作が初公開されています」
友人のメールを見て、「ほおお」と俄然興味を持った。
ミュシャという名前はフランス語読みだ。華麗なアールヌーボー代表にふさわしく、チャラい……もとい、軽快な印象を受ける。
(リーフレットより)
だが、50歳で故郷のモラヴィアに帰ってからは、まったく画風の異なるメッセージ性の強い絵を描いている。6m×8mといったサイズも多く、相当な大きさだ。ここでは、チェコ語読みのムハという名前で表記されており、骨太な響きがピッタリであると思った。
たとえば、リーフレットやチケットの顔となっているこの絵。
スラヴ叙事詩「原故郷のスラヴ民族」というタイトルがついている。隅から隅まで丁寧に描き込まれているので、絵の前に5分はいた。巨大なカンヴァスを選んだ理由を、「等身大の大人や子どもを描きたかったからでしょう」と評する知識人もいたが、私は「絵に閉じ込めた想いに、奥行きと広がりが必要だったから」ではないかといいう気がした。遠近感を生かしたアングルに、人々や動物の表情、動作などをこまかく描き分け、風景や建物には陰影をつけたりスポットライトを当てたりして、全力で絵を完成させている。どの作品も素晴らしい。
一番長く見ていた絵は、スラヴ叙事詩「スラヴ式典礼の導入」である。
輪を持っている青年は、とてもきれいな腰ひもをつけている。巫女の男版なのかもしれない。中央の明るさとは対照的に、逆光となり、影ができているところも好きだ。
タイトルにも解説にも、カタカナが多くて泣かされた。たとえば、「ニコラ・シュビッチ・ズリンスキーによるシゲットの対トルコ防衛」などと言うタイトルを見ても頭に入らない。たどたどしく読むので精一杯となり、意味を理解するなんてとてもとても。解説も同様で、疲れた頭には難し過ぎた。途中からは絵だけを見て、心で感じることにした。
撮影可能エリアには、5つの作品が並んでいる。人の切れ目を狙って、「エイヤッ」とシャッターを切ってみた。
「イヴァンチツェの兄弟団学校」
前列左から4人目が、若き日のムハだそうだ。インテリジェンスでイケメンではないか。
「スラヴ菩提樹の下で行われるオムラジナ会の誓い」
これは「未完成」となっているが、どこを描き足すつもりだったのだろう。
「独立のための闘い」というコーナーには、チェコの郵便切手と紙幣がある。「金だ金だ」と顔を近づけると、ムハが無報酬でデザインしたと書かれており、国家の役に立ちたいという想いが伝わってきた。
ほとばしる郷土愛を感じたまま、レストランでミュシャ展特別ディナーをいただいた。
料理はもちろん美味しかったし、ワインも3杯いただいた。
アルコールよりも、残りの人生を故郷に捧げたムハの情熱と、素晴らしいチケットをもらった自分の幸運に酔った。
友人よ、ありがとう。
↑
クリックしてくださるとウレシイです♪
※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
国立新美術館で開催されていることは知っていたが、2013年に森アーツセンターギャラリーでの展示を見ていたから、今回はスルーするつもりでいた。(「ミュシャ展 あと2週間」はこちらから)
しかし、今回の展示は、リトグラフ中心の前回とは、まったく違うようだ。
「晩年の精魂込めた油彩画の大作が初公開されています」
友人のメールを見て、「ほおお」と俄然興味を持った。
ミュシャという名前はフランス語読みだ。華麗なアールヌーボー代表にふさわしく、チャラい……もとい、軽快な印象を受ける。
(リーフレットより)
だが、50歳で故郷のモラヴィアに帰ってからは、まったく画風の異なるメッセージ性の強い絵を描いている。6m×8mといったサイズも多く、相当な大きさだ。ここでは、チェコ語読みのムハという名前で表記されており、骨太な響きがピッタリであると思った。
たとえば、リーフレットやチケットの顔となっているこの絵。
スラヴ叙事詩「原故郷のスラヴ民族」というタイトルがついている。隅から隅まで丁寧に描き込まれているので、絵の前に5分はいた。巨大なカンヴァスを選んだ理由を、「等身大の大人や子どもを描きたかったからでしょう」と評する知識人もいたが、私は「絵に閉じ込めた想いに、奥行きと広がりが必要だったから」ではないかといいう気がした。遠近感を生かしたアングルに、人々や動物の表情、動作などをこまかく描き分け、風景や建物には陰影をつけたりスポットライトを当てたりして、全力で絵を完成させている。どの作品も素晴らしい。
一番長く見ていた絵は、スラヴ叙事詩「スラヴ式典礼の導入」である。
輪を持っている青年は、とてもきれいな腰ひもをつけている。巫女の男版なのかもしれない。中央の明るさとは対照的に、逆光となり、影ができているところも好きだ。
タイトルにも解説にも、カタカナが多くて泣かされた。たとえば、「ニコラ・シュビッチ・ズリンスキーによるシゲットの対トルコ防衛」などと言うタイトルを見ても頭に入らない。たどたどしく読むので精一杯となり、意味を理解するなんてとてもとても。解説も同様で、疲れた頭には難し過ぎた。途中からは絵だけを見て、心で感じることにした。
撮影可能エリアには、5つの作品が並んでいる。人の切れ目を狙って、「エイヤッ」とシャッターを切ってみた。
「イヴァンチツェの兄弟団学校」
前列左から4人目が、若き日のムハだそうだ。インテリジェンスでイケメンではないか。
「スラヴ菩提樹の下で行われるオムラジナ会の誓い」
これは「未完成」となっているが、どこを描き足すつもりだったのだろう。
「独立のための闘い」というコーナーには、チェコの郵便切手と紙幣がある。「金だ金だ」と顔を近づけると、ムハが無報酬でデザインしたと書かれており、国家の役に立ちたいという想いが伝わってきた。
ほとばしる郷土愛を感じたまま、レストランでミュシャ展特別ディナーをいただいた。
料理はもちろん美味しかったし、ワインも3杯いただいた。
アルコールよりも、残りの人生を故郷に捧げたムハの情熱と、素晴らしいチケットをもらった自分の幸運に酔った。
友人よ、ありがとう。
↑
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「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
ミュシャの油絵はあまり見たことがありませんが素晴らしいものが多いですね。
お料理もとても美味しそうです。
てっきり、ミュシャは美女や花ばかりを専門にしているのかと思っていました。
でも、スラヴ叙事詩は違いました。
死体やら迫害やら、穏やかでない絵が目立っていたんです。
祭りも印象的でした。
民族愛の強い方だったんでしょうね。
新たな一面を知って、ますますミュシャが好きになりましたよ。
私も、ミュシャのイメージしかありませんでした。
「日本」の読み方も、ニホンとニッポンではまるで違う
・・・と、書き写しのコラムで知りました。
先入観にとらわれず、いろんな面を見たいものです。
ニホンとニッポン。
たしかに印象が違いますね。
ジャパンはもっと違いますが(笑)
ムハと聞き、私は貨車の記号を思い出しました。
キハとかハムとかありましたね。
ムハは飾らず売れ線を意識しない芸術家と見ました。
運よく招待券をゲットできて幸せです。
でも、砂希さん同様、去年も観たし忙しいし疲れてるし、まぁいっかと思って、スルーしていたんです。
充実の展示ぶりだったのですね。
こんなふうに教えていただいて、すっかり観た気になってしまい、やっぱりまぁいっかと思いつつ、美味しい楽しみも満たされる美術展はステキです。
私もご招待券をいただかなかったら行きませんでした(笑)
疲れていらっしゃるなら、無理していく必要はないですよ。
近所ならともかく、わざわざ電車で来るのは一仕事ですからね。
大きなカンヴァスで描かれた絵は、どれも素晴らしかったです。
晩年のミュシャが命を削って描いたのだと思います。
画家は亡くなっても、絵は後世まで引き継がれます。
そこが素敵ですね。