私は、ある高校で教員をしている。
4月下旬から、毎朝、2年生のタカバタケさん(仮名)のお母さんからの欠席連絡を受けるようになった。どうやら、不登校になってしまったらしい。
「去年は皆勤でオール5だったんです。どうしちゃったんだろう」
担任も首を傾げている。保護者も原因に心当たりがないと困惑しているようだ。一体なぜ?
不登校はどの学校にもある問題だろう。2018年本屋大賞を受賞したこの作品は、学校に行かれなくなった7人の中学生が登場するファンタジーである。
『かがみの孤城』
主人公の中1女子、安西こころの場合は、同じクラスの真田美織というイカれたヤツが原因だった。徒党を組んで、こころの友達に「あの子と仲良くするな」と働きかけて孤立させる。無視されたり、聞こえよがしに悪口を言ったりと質が悪い。こころが入っている、トイレの個室をのぞこうとしたこともあった。はては、こころの自宅への不法侵入にまで発展し、まったくもってどうかしている。
「気違ってる……」
もちろん、そんな言葉はないけれど、そういうレベルの子だ。頭の中はカラッポで、異性のことしか考えられない。自分の行動を反省することもなく、思い込みと自己陶酔で行動する。
横溝正史の名作『獄門島』では、和尚が「キチガイじゃが仕方がない」とつぶやく場面が伏線となっていた。そのキチガイとはちょっと違うけど、真田美織は一種の障害だから、情状酌量の余地がある。腹立たしいのは取り巻きである。右へならえして、気違ったヤツにへいこらするとはどういうことか。次は自分が仲間はずれにされるかも、と不安になるからといって、人を傷つけていいわけがない。何も考えず、ひたすら強い人間に服従する輩は信用できない。
こころ以外の6人が不登校になった理由はさまざまだ。学校に原因があるなら、転校すれば解決するかもしれないけれど、家庭に原因がある場合は難しい。子どもが安心して暮らせる場を確保するのが当たり前のことなのに、それすらできないとはひどい話である。
でも、7人の中学生は変わるのだ。もちろん、いい方向に。ちょっとしたエピソードが無駄なく生かされ、ジグソーパズルにようにきっちりとはめ込まれていく。日頃から反応が鈍くて、お化け屋敷に入っても怖がらない私が、ラストではワンワン泣いた。お化けを見ても、逃げ出さずに観察してしまう私が、人に対する思いやりの深さに胸を熱くした。お見事としか言いようのない結末で、今年読んだ本では一番よかったと思う。
うちの生徒は、図書室を利用する割合が低いのに、この本に関しては貸出が多い。いい傾向だ。
話を戻そう。
私の学校のタカバタケさんは、9月になっても学校に来られない。中学と違って、高校には進級に基準がある。欠席が多すぎて、彼女は3年生になれないことが決定した。家から外に出られないから、転学も考えていないそうだ。でも、おばあちゃんの家には行かれるし、泊まることもできるのだとか。
現実と小説は違うけれど、タカバタケさんにもこの本を読んでもらいたいと思う。
こころの友達の東条さんという女の子が、「たかが学校」と言い切る場面が好きだ。学校なんて、人生のほんの一部分に過ぎない。不登校だったら、人生が終わるわけじゃないと伝えたいのだ。
教育機関の職員としては、すべての生徒が安心して過ごせる場所を提供せねばと気を引き締めた。
↑
クリックしてくださるとウレシイです♪
※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
4月下旬から、毎朝、2年生のタカバタケさん(仮名)のお母さんからの欠席連絡を受けるようになった。どうやら、不登校になってしまったらしい。
「去年は皆勤でオール5だったんです。どうしちゃったんだろう」
担任も首を傾げている。保護者も原因に心当たりがないと困惑しているようだ。一体なぜ?
不登校はどの学校にもある問題だろう。2018年本屋大賞を受賞したこの作品は、学校に行かれなくなった7人の中学生が登場するファンタジーである。
『かがみの孤城』
主人公の中1女子、安西こころの場合は、同じクラスの真田美織というイカれたヤツが原因だった。徒党を組んで、こころの友達に「あの子と仲良くするな」と働きかけて孤立させる。無視されたり、聞こえよがしに悪口を言ったりと質が悪い。こころが入っている、トイレの個室をのぞこうとしたこともあった。はては、こころの自宅への不法侵入にまで発展し、まったくもってどうかしている。
「気違ってる……」
もちろん、そんな言葉はないけれど、そういうレベルの子だ。頭の中はカラッポで、異性のことしか考えられない。自分の行動を反省することもなく、思い込みと自己陶酔で行動する。
横溝正史の名作『獄門島』では、和尚が「キチガイじゃが仕方がない」とつぶやく場面が伏線となっていた。そのキチガイとはちょっと違うけど、真田美織は一種の障害だから、情状酌量の余地がある。腹立たしいのは取り巻きである。右へならえして、気違ったヤツにへいこらするとはどういうことか。次は自分が仲間はずれにされるかも、と不安になるからといって、人を傷つけていいわけがない。何も考えず、ひたすら強い人間に服従する輩は信用できない。
こころ以外の6人が不登校になった理由はさまざまだ。学校に原因があるなら、転校すれば解決するかもしれないけれど、家庭に原因がある場合は難しい。子どもが安心して暮らせる場を確保するのが当たり前のことなのに、それすらできないとはひどい話である。
でも、7人の中学生は変わるのだ。もちろん、いい方向に。ちょっとしたエピソードが無駄なく生かされ、ジグソーパズルにようにきっちりとはめ込まれていく。日頃から反応が鈍くて、お化け屋敷に入っても怖がらない私が、ラストではワンワン泣いた。お化けを見ても、逃げ出さずに観察してしまう私が、人に対する思いやりの深さに胸を熱くした。お見事としか言いようのない結末で、今年読んだ本では一番よかったと思う。
うちの生徒は、図書室を利用する割合が低いのに、この本に関しては貸出が多い。いい傾向だ。
話を戻そう。
私の学校のタカバタケさんは、9月になっても学校に来られない。中学と違って、高校には進級に基準がある。欠席が多すぎて、彼女は3年生になれないことが決定した。家から外に出られないから、転学も考えていないそうだ。でも、おばあちゃんの家には行かれるし、泊まることもできるのだとか。
現実と小説は違うけれど、タカバタケさんにもこの本を読んでもらいたいと思う。
こころの友達の東条さんという女の子が、「たかが学校」と言い切る場面が好きだ。学校なんて、人生のほんの一部分に過ぎない。不登校だったら、人生が終わるわけじゃないと伝えたいのだ。
教育機関の職員としては、すべての生徒が安心して過ごせる場所を提供せねばと気を引き締めた。
↑
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※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
息子はちょっと心配な時期もあったけれど、大事には至らず成人しました。
残酷な子供が増えているのか、昔からいたけれどがまんしていたのか。
小説より辛い目に遭い、命を絶った子も多い現実。
なので本当に、こんなお城があったらなあと思ってしまいました。
・・・を思う気持ちがこのお城になったけれど、そこから先は、7人がお互いを思う気持ち、そして。
想像以上のラスト、本当に感動しました。
私も、現在ベストな作品です。
いじめも大きな原因だと思います。
本人や周囲が声を上げてほしいです。
でも、高校などでは、バイト中心の生活になってしまって、学校は二の次というバターンが目立つかな。
ゲームに夢中になって昼夜逆転生活をする者もいるし。
その子たちには、学校で勉強するのがイヤという共通点があります。
怠学という言葉で表現することもありますね。
途上国では、学校に行きたくても行かれない子が多いのに。
視点を変えてほしいですよ。
私も今年のベストだと感じました。
とてもいい本だったので、自宅用に買いましたよ♪
子どもだけでなく、大人だって強いストレスにさらされると「うつ」になりがちです。
自殺する生徒は正常な心理状態ではないでしょうね。
そんな場所に行く必要はない、と判断できるといいのに。
子どもの友達にもいろいろな種類があります。
特に今は、ただつながっているだけの相手を友達と呼びますからね。
困ったときに助けてくれる相手がいるかどうかは不明です。
そういう意味では、うちの娘も友達が少ないような気がしますね。
私はいじめられっ子だったので不登校になる子の気持ちがよくわかります。
学校での逃げ場がない子供は不登校という選択肢があってもいいのではないでしょうか。
いじめる側は、人の気持ちが理解できなかったり
いじめられた経験のあるパターンが多いようです。
不登校という選択肢はあったほうがいいかもしれないけれど、家にいても罪悪感と戦わねばならないようです。
元気に登校できるのが一番ですよね。
でも、本人の健康が一番ですから、無理させてはいけないと思います。
いじめが原因で自殺する子がいなくなってほしいなぁ。
イジメの問題はいつの時代もありますね。僕は転校が多かった割にはそういう目には遭わずに済みました。逆に転校したからそういう目に遭わなかったのか?
人生100年と言われる今日、義務教育なんてたかだか9年。高校入れたって12年。わずかなんですよね。ほんとソレが全てではないと割り切って欲しいと思います。
この小説、そうとう暗そうなイメージですが、最近そういうのは疲れちゃって。楽な方へどんどん行っちゃいますわ。
そういえば、ちょくちょく転校していたんですものね。
いじめと無縁だったのは、心機朗さんの社交性のなせる業じゃないのかしら。
すぐに周囲と溶け込める生徒だったんですよ、きっと。
この本には、ダークで消耗する部分と、冒険の部分、謎解きの部分があります。
疲れる人には向いていないかも。
仕事やら何やらで気分転換をしたい人は、さらに明るい題材の本がいいですね。