中野貴雄監督の映画分類法&タランティーノと友近の共通性 その2

2016年08月09日 | 映画

 前回(→こちら)の続き。

 「日本映画はね、赤黒い映画と青白い映画に分けられるんです」。

 との、オリジナリティーあふれる邦画観を披露した中野貴雄監督。

 最初聴いたときは、「えらい偏ってるなあ」と笑ったのだが、まさかこのことが、

 「クエンティン・タランティーノと友近がおもしろいけどピンとこない」

 という個人的な謎を解いてくれるカギになるとは驚いた。

 そのカラクリはあとで話すとして、前回の復習をすると、赤黒青白うんぬんはパッケージの裏の色味のこと。

 赤黒は、

 『昇り龍の入れ墨を入れた姐さんが最強の女殺し屋になって日本刀とか鎖鎌を振る映画』

 青白は

 『白痴の妹がブランコをこぎながら、ほうけたように空を見上げて童謡を歌う』

 赤黒いほうは、まあわかりやすい。

 『極道の妻』をはじめとして、任侠系とかVシネは基本的にそうであろうし、『女囚さそり』『ナチ女収容所 悪魔の生体実験』といった、一部マニアを虜にする、いわゆる「女囚」モノなども典型であろう。

 メジャーなところでは、『チャーリーズ・エンジェル』や『トゥームレイダー』もこちら側。パッケージはオシャレですが、魂の本質は。

 だって、「タトゥー入れたドリューやジョリー姐さんがカンフーしまくり!」ですよ! 誰が見たって赤黒いですやん!

 一方、青白い映画といえば、ロマン・ポランスキーの『テス』なんかは青白いか。

 あの映画のナスターシャ・キンスキーは、いかにも空を見上げながら童謡とか歌いそうだ。あとは『なまいきシャルロット』とか。

 ちなみに、中野監督によると、「なんであんな映画見に行くの」と町山智浩さんにたずねられて柳下毅一郎さんが、

 「仕事だからだよ!」

 とブチ切れた映画『恋空』は「青白い方」だそうです。

 日本だと「少女が戦う」「試練に耐える」マンガやアニメが多いから、探せばたくさんありそう。そういや綾波レイのプラグスーツは青白い。なるほど、納得だ。

 傾向としてはわかりやすく、私自身は「赤黒」のほうはほとんど見ない。「青白」は特に好むわけではないけど、まあ選ぶならこっちか。

 なんて、レンタル屋の棚をあさりながら遊んでいたのだが、そこでふと思い至ったのである。

 「あー、そうか。クエンティンと友近は、どっちも『赤黒』なんや」。

 このふたりは「自分の好きなもの」へのオマージュを作品やネタに取りこむことで有名だ。

 で、そのチョイスがやたらと赤黒い。

 ざっくりいえば、赤黒とはガテン系で、青白とは文化系といえるわけだが、友近さんのものまねはそのまんま『極道の妻』とか「五社英雄が大好き」と公言したり、「姐さんと日本刀」だ。

 クエンティンもまんま同じ路線というか、『キル・ビル』なんてスタイリッシュな映画のように日本では売られてたけど、全編「赤黒い映画大好き!」な内容だったものなあ。

 黄色いトラックスーツ姿のパツキンねえちゃんが日本刀持って仁王立ち。

 どこがスタイリッシュや! ただのオタクの妄想やんけ!

 昨今、歴女、山ガール、眼鏡女子なんて流行ったりもしたが、「鎖鎌女子」は守備範囲外だ。

 そう、このふたりは基本的にオマージュを重んじる「オタク系」クリエイターであり、しかもその傾向が赤黒に偏っている。

 そこがピンとこなかったのだ。私も映画大好きなオタク系だけど、赤黒作品にはほとんど興味がない。だから、「すごい」のはわかるけど、「好き」にならないんだ。

 そうかそうか。私はオタク系オマージュなら『パシフィック・リム』になるものなあ。あるいはフランス映画の『アーティスト』とか。

 最初は「えらい変な分類やなあ」とあきれていた中野監督の解説だが、ここにひとつ自分の中にあったモヤモヤがとけた。なるほど、さすがプロの意見は聞いてみるものだ。

 みなさまも、「あれ? この人の作品、なんでやろ?」と違和感を感じたら、それが「赤黒」か「青白」かを、一度検討してみてはいかがだろうか。



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