ブラッド・ギルバート『読めばテニスが強くなる ウィニング・アグリー』を読む。
テニスの教本には様々あって、
「サービス向上法」
「バックハンド苦手克服術」
といったものはよく見かけるが、これはずばり
「試合の勝ち方」
という、かなり即物的な内容の指南書。
ブラッド・ギルバートといえば、かつてはアンドレ・アガシと連れ添った名コーチとして鳴らしたが、現役時代は世界ランキング最高4位までかけあがった名選手でもある。
ただ、ブラッドはいわゆる「スター選手」ではなかった。
同時代に戦ったジョン・マッケンローの天才的すぎるネットプレーや、イワン・レンドルの壁をもぶち抜くような強烈なストローク、ボリス・ベッカーのようなビッグサーブとも無縁であった。
そんな「天才ではなかった」彼が教える戦い方は徹頭徹尾、
「実戦的に戦い、そして勝つこと」
というシビアな現実主義。
本書のタイトルである「ウィニング・アグリー」とは、和訳すると
「かっこわるく勝つ」
そこには理想主義や泥臭い精神論は存在しない。
頭を使え。考えてテニスをせえよ。凡人のワシらはボーッとしてたら、ベッカーやマッケンローには勝てへんのや。
データ、心理戦、事前の準備、ありとあらゆる手を使って勝利を目指す。これにつきるんや。
負けたくなかったら、徹底して冷静で堅実、おもしろみがのうても、勝ったもんが勝ちなんや!
なんともドライな哲学。
本当に、この現実的な視点はどこまでも一貫しており、
「トスで勝ったらレシーブを選べ。サーブが先の方が有利というのは、トッププロだけに当てはまる」
「苦手なショットで無理をするな。バックハンドが苦手なら、ひたすら『ミスしなければOK』という姿勢でつなげ」
「苦手なショットで無理をするな。バックハンドが苦手なら、ひたすら『ミスしなければOK』という姿勢でつなげ」
などなど、とにかく「かっこよく」「プロのような戦い方」をすることを戒める。
「えー、オレはサービスゲームからはじめて、エースで相手の度肝を抜いてやりたいけどなあ」
などといった、浅はかな考えは徹底的にダメが出される。
「素人のアンタにできるわけないやん」
オレらみたいな凡人(ブラッド本人もふくむ)は身の程を知れと。
まさに「アグリー」な戦術で「ウィニング」を手に入れる。ブラッド先生はそういった「かっこつけない」哲学を
「テニスのおもしろさは、やはり勝つことにある。いくら好きなようにプレーしても、それで負けてしまったら、果たしてそれは充実した時間といえるだろうか」
どこまでもリアリズムで押してくる。
「いえるだろうか」と言われれば、それは人それぞれだろうけど、これに関してブラッドは終始一貫ブレがない。
またそれ以外にも、
「レトリーバー(どんな球でも拾ってくる人)の攻略法」
「サーブ&ボレーヤーの崩し方」
「ピンチで冷静になる方法」
「7分でできる簡単ウォームアップ法」
といった、読んですぐ使える具体的な教えから、
「試合前の練習では球を散らして相手の弱点を探れ」
「気づいたことがあったら、とにかくその場でメモを取れ」
といった「そこまでせなあかんの?」と苦笑いしたくなるようなメソッドもあり。
はたまたグリップテープや汗止めなど「必勝グッズ」の効果的利用法など、ありとあらゆる
「試合で絶対役立つこと」
これをぎっちりと詰めこんでくれていて、しかもそのすべてが「素人の我々が今からでもできること」なのだ
ブラッドはこの本の中で、
「これを通読すれば、テニスのレベル自体はそのままで、確実に勝率が2割はあがるだろう」
そう自負しているが、たしかにこれにあることをすべて実践すれば、間違いなく今より勝てるようになるだろう。
全部は大変でも、
「ウォーミングアップの方法」
「グッズの使い方」
「ノートの活用法」
という、簡単なとこだけピックアップしてやっても、たぶんライバルに差をつけることができるはずだ。
それくらい、とにかく実戦的なのだ。「練習はしてるのに結果が出ない」とお悩みの方には、ひとつの突破口になるやも。
勝敗にさほどこだわらない人や「理想主義」的プレーヤーの中には「そこまでして勝ってもなあ」と疑問を呈する人というのもいるかもしれないが、それでも参考として一読の価値はあると思う。
読み物としても、おもしろいし。
あと、これを見ると、錦織圭がブラッドとコンビを組んでもサッパリだった理由もよくわかる。
「プレーを楽しむ」タイプの錦織選手とは、そりゃ合わないよなあ。
☆おまけ 現役時代のブラッド・ギルバートの雄姿は→こちら