「ヨーロッパでもっとも危険な男」オットー・スコルツェニー少佐 その2

2016年09月18日 | コラム
 前回(→こちら)の続き。

 オシャレなイタリアンレストランでランチを楽しみ、「仕事ができる男って、ステキよね」と語り合うOLさんたちに、

 「それなら、ドイツ軍で活躍した、オットー・スコルツェニー少佐がおススメですよ」

 そう教えてあげたくなった、さわやかな9月の午後。

 前回は少佐のハンガリーでのはなれわざを紹介したが、大戦末期、敗色濃厚となったドイツはあの手この手で連合軍を攪乱しようと策を打っている。

 最大の同盟国であるイタリアで盟友ムッソリーニが失脚し、どこかに幽閉されこづき回されているという情報が入ると、少佐はすぐさま、

 「ワシにまかせんかい!」

 と、コマンド部隊の精鋭を集結。

 ベニトが閉じこめられていたグラン・サッソにグライダーで降り立ち、見事に救出。そのまま再びグライダーで風にのって空へと消えたという。

 まさに「疾風のように現れて、疾風のように去っていく」。ルパンか怪人二十面相みたいである。かーっこいい!
 
 またバルカンで友軍が苦戦していると聞けば、

 「おえ! チトーのタマ取ってこんかえ!」

 との声にすぐさま立ち上がり、「レッセルシュプルング(桂馬跳び)作戦」を発動。

 ドイツ軍と赤色パルチザンが血みどろの殺し合いをしているユーゴスラビアへ出動すると、パルチザン本部に降下。なんと、チトー誘拐を試みる。

 ユーゴのパルチザンといえば山にこもり、捕まえたドイツ兵から身ぐるみはいだうえ、目をえぐり、耳と鼻と性器をそぎ落としてから射殺するとかメチャクチャやっていた、歴戦の兵士たちもビビリまくる連中である。

 そこに乗りこんで、ボス中の大ボスのチトーを拉致とは、えげつないくらいに危険な作戦だ。私だったら100億円もらっても断る。パウル・カレルの『捕虜』を読んだことあるから、よけいだよ。

 おそらくは、ジャック・ヒギンズの名作『鷲は舞い降りた』のモデルになった、この大胆不敵なオペレーション。

 スコルツェニーの部隊は敵のアジトにまで到達したが、チトーはわずか数分(!)の差で脱出に成功。

 まさにタッチの差。もしここでチトーが捕縛されていたら、ユーゴの、いや世界の歴史が変わっていたことであろう。まさに「歴史を動かした」数分であった。

 そしてスコルツェニー少佐を最も有名にしたのがこれ。

 ドイツ軍西部戦線最後の大攻勢であるアルデンヌ進撃、「バルジ大作戦」として映画にもなったこの大決戦で、ドイツ戦車部隊の後押しをしたのがスコルツェニー少佐率いる特殊部隊であった。

 スコルツェニーは英語がしゃべれるドイツ兵に米軍の軍服を着せ敵地に潜入させたうえで、こんな情報を流すのだ。

 「連合軍の中に、完璧に偽装したドイツのスパイがいる」。

 「グライフ作戦」と名づけられたこれには、アメリカも大パニックにおちいった。

 そりゃそうだ、まったく見分けのつかない敵兵が自軍にいたらえらいことである。

 自衛隊の幹部や防衛省のえらいさんの中に中国や北朝鮮のスパイがまぎれこんでいたと考えたら、そらさすがの米軍もビビるはず。
 
 実際現場は大混乱におちいり、兵士どころか幹部クラスの面々すらスパイ容疑で取り調べを受けたりしたそうだから、さぞや溜飲も下がったことだろう。見事な「ドッキリ大成功」だ。

 こうして負け戦にもかかわらず、一矢どころか二矢も三矢もむくいたスコルツェニーについたあだ名というのが

 「ヨーロッパで最も危険な男」

 シブイ! シブすぎるのである。かっこええなあ。

 こうして数々の、ほとんど無理難題といったミッションをこなしてきたスコルツェニー少佐。戦後はスパイ罪に問われ、捕虜収容所にぶちこまれることに。

 戦場で敵軍の軍服を着るのは国際法違反なので(まあ、これは連合軍をはじめ、どこの国でも大なり小なりやってるらしいですが)かなりシメられたらしいが、ところがどっこい、少佐はそんなことで反省するタマではない。

 2年後しれーっと収容所から脱走。そのまま、どういうルートでかフランコ政権下にあったスペインに脱出してしまう。

 そこで事業を興し、またあれこれあやしい活動に手を染めその地で大富豪となり、悠々自適の余生を送ったそうである。

 すごい。よくスポーツやビジネスの世界で成功した人に、

 「彼はどの世界でも一流になれる男です」

 なんていうが、スコルツェニーこそまさにこの言葉が当てはまる人物であろう。ホンマ、なんでもできる人やなあ。セカンドキャリアも完璧や。

 このように、私にとって「できる男」とはスコルツェニー中佐(最終階級)である。

 世の女性のみなさんも、男性選びの参考になさってほしいものだ。



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