稲垣美晴『フィンランド語は猫の言葉』は外国語に興味ある人の必読書!
と前回(→こちら)はぶち上げたわけだが、これは私だけでなくロシア語講師で言語学者の黒田龍之助さんもおっしゃっていること。留学やワーホリ希望者は、ぜひ手に取っていただきたい一冊。
タイトルの由来は、フィンランド人は相づちを打つとき「ニーン、ニーン」と口にするそうで、その響きが猫っぽいから「猫の言葉」。
これはまったくの余談だが、タイを旅行したとき、タイ人が電話を取るとき「もしもし」のように「モエモエ」といっていたのを、よく聞いた。
スーツを着たビジネスマンも「モエモエ」。買い物帰りのおばさんも「モエモエ」。エリート大学生も、公園で遊ぶ子供も女子中学生もみんな「モエモエ」。
実にキュートな光景であった。その伝でいえばフィンランドが猫なら「タイ語はKAWAIIの言葉」といっていいかもしれない。
さて、外国語といっていつも思い出すのは、トルコ旅行で立ち寄ったイズミルのケバブ屋さん。
羊肉をクルクルと回転させながら(「ドネル」は「回転」の意)あぶり焼いたのを、ナイフでそいでパンにはさむドネルサンドは私の大好物。
イスラム圏のみならずヨーロッパなどでも、かならずお世話になる食べ物だが、やはり本場はトルコ。「玄人のケバブ」を味わうべく、目についた食堂に入ってみた。
海外でおいしいものを食べたければ、地元民のいく店に行くのが鉄則だが、それにはいくつかハードルが存在する。
「地元の店すぎて部外者には入りづらい」
「外国人がめずらしいため、やたらと好奇の目にさらされる」
などがあるが、もうひとつシンプルなこれがある。
「言葉が通じにくい」
観光客相手になれているところなら、簡単な英語くらいは通じたり英語メニューもあったりするが、人民の人民によるじゃないが、地元民による地元民のための店は、たいてい地元語しか通じないとしたもの。
このイズミルのケバブ屋もそうで、注文くらいは「ケバブ」といえばいいし、なんなら必殺の「指さし注文」でもOKだが、ここにひとつ盲点があった。
「あれ? 持ち帰りって、トルコ語でどういうんやっけ?」
私もこう見えて、旅行歴の長い玄人のバックパッカーである。
言葉が通じなければ、現地語をカタコト程度でも覚えていくのが便利なくらいはわかっている。
なもんで、事前に「メルハバ」(「こんにちは」)、テシェッキュルエデリム(「ありがとう」)、「ネ?」(「なに?」)、「サート カチ」(「何時?」)と、あとは「駅」とか「トイレ」くらいは調べて行ったが、「持ち帰りで」というのはすっかり抜けていた。
まあ、あえて必要な単語ではないから別にいいし、こういうのは最悪ボディーランゲージでなんとでなるとタカをくくっていたのだが、これが意外と通じない。
「テイクアウト」「テイクアウェイ」「トゥーゴー」
とりあえず、いけそうな英単語を出してみるが、コックのでっぷり太ったトルコおじさんは首をかしげるばかり。
せめて、「持つ、これ、外」くらい言えたらいけそうなんだけど、どちらも「旅のトルコ語」ではあまり使用されそうもないので覚えていない。
しょうがないので「ホテル」「ペンシオーン」といった、せめて「ここでないどこか」を連想させる単語を駆使して「持って帰りたい」と伝えようとするが、これもダメ。
最後の切り札は身振り手振りだが、これも私のパフォーマンスがイマイチなのか、それともトルコおじさんが鈍いのか、さっぱりであった。しまいには、
「おっちゃん、このサンドイッチ、持ち帰りたいねん」
日本語で語りかける有様。
まあ、ときにはこれで不思議と通じたりもするんだけど、このときは通らなかった。
こうしているうちに、サンドイッチはとっくに完成している。ここまで通じないなら、今考えたらもう店で食べればよかったのだが、こうなるとこっちも意地というか、おじさんの方も、
「伝えたいことがあるなら、あきらめんな。オレも理解できるようがんばるから、もっと放りこんで来いよ!」
と目をキラキラさせている。
トルコの人はヒマ……旅人に親切で、かつ熱い人が多いのだ。
(続く→こちら)