イップスの恐怖 1996ウィンブルドン準決勝 トッド・マーチンvsマラビーヤ・ワシントン その2

2016年06月30日 | テニス

 イップスというものの怖ろしさを教えてくれたのは、ウィンブルドンのある試合であった。

 前回(→こちら)語ったが、「イップス」というのは単に「メンタルが弱い」からなるものではない

 これは中村計さんの『歓声から遠く離れて―悲運のアスリートたち―』というでも書かれていることである。

 イップスの原因は様々あって今だ「これ」という対策がないというのが現状らしいが、そのことを痛感させられた試合があった。

 それが、1996年ウィンブルドン準決勝

 この年のウィンブルドンは度重なると、トップシード早期敗退で、大荒れになった大会で記憶される。

 アンドレアガシマイケルチャンエフゲニーカフェルニコフジムクーリエといった強豪が1回戦で不覚を取り、優勝経験のあるミヒャエルシュティヒ4回戦で消えた。

 過去2回決勝進出のゴーランイバニセビッチ、ウィンブルドン連覇中で、絶対王者であるピートサンプラスすらも準々決勝で敗れるという波乱の連続。

 なんといっても、ベスト4に残ったトップ選手が第14シードトッドマーチンだけだったというのだから、その荒れっぷりがわかろうというもの。

 ちなみに残る3人はリカルドクライチェクマラビーヤワシントンジェイソンストルテンバーグ

 玄人のテニスファンとしては、ここでストルテンバーグの名前が出てくるのが味である。

 渋すぎる。もし優勝してたら、申し訳ないけど笑っちゃったろうなあ。

 ちなみに実力者のはずのクライチェクがノーシードだったのは


 「芝で実績がないから」


 という大会側の独自判断

 ウィンブルドンは昔、こういう手前勝手なことをやっていたのです。

 伝統を楯に、自分たちの好みでなかったり集客力のない選手をハブしてたわけだ。老舗のイヤなところ。

 先に結果を言ってしまうと、クライチェクはこの大会で見事に優勝

 ディフェンディングチャンピオンサンプラスを破っての栄冠だから、文句のつけようもない。

 ざまあみろウィンブルドンと、リカルドは知らんが、は思ったものだ。

 それはともかく、このような流れになれば、ノーシードの選手たちにも「もしかしたら」との色気が出てくるのは想像に難くない。

 特にオーストラリアンオープン準優勝の経験もあるマーチンは、ねらっていただろう。

 むかえた準決勝、マーチン対ワシントン戦。

 この試合もまた、ご多分にもれずに悩まされる。

 いいところで何度も降雨サスペンデッドに見舞われてイライラしたが、試合の方はフルセットにもつれこむ熱戦となった。

 1991年優勝シュティヒを破る大殊勲をあげたワシントンだったが、ここは地力で勝るマーチンが抜け出した。

 最終セットは一気の加速で、とリードを奪う。

 男子のテニスで、のコートで、サービス2ブレークアップ

 普通に考えれば、試合はお終いである。

 ましてや、そこにいるのはビッグサーバーのマーチンだ。

 なら、あとはチャチャッとエースを何本か決めれば、夢のウィンブルドン決勝である。

 波乱はあったが、クライチェクマーチンなら、それなりにファイナルの形になったかな、なんて考えていたところ事件が起こった。

 マーチンのサービングフォーマッチ

 たしかスコアは3015かなんかで、あとひとつでマッチポイントというイーシャンテンの状態。

 どう見ても、勝利へあと一歩のトッド・マーチン。

 だれもが、あと数分で試合が終わると確信していたが、ここからマーチンの運命は大きく揺れ動くことになるのである。


 (続く→こちら



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