佐々木勇気がNHK杯で優勝した。
ここまでアベマトーナメントや順位戦、そして昨年度の決勝など痛い目にあわされてきた藤井聡太八冠相手に見事リベンジ達成。
将棋の内容も、終盤戦はどっちが勝ちかわからないハラハラドキドキで、大いに堪能。
震える手で駒をすべらす勇気に、勝ち将棋をおかしくしたことに落胆し、がっかりした様子を隠そうともしないまま、それでも簡単には勝たせない藤井聡太。
いやこれは、盤面なしもでおもしろいくらいに、両対局者の様子も興味深かった。
「胃が痛い」で話題になった表彰式でも、熱戦の余韻冷めやらぬのか、ほとんど挙動不審みたいになっていた優勝者が、また見ていてほほえましい。
いやあ、やっぱり勇気は華があるなあ。
今期はA級残留にビッグトーナメント制覇と、大きな仕事をやってのけた佐々木勇気。
だがもちろん、ファンはそんなものでは、まったく満足していない。
これはねえ、期待してるからこそもう一回言うけど、「まったく」満足していない。
彼ほどの男なら、もっとバリバリとタイトル戦で戦わないと!
今の伊藤匠の位置に、この男がいないのが違和感しかないのだ。
というわけで、今回はエールをこめて佐々木勇気の将棋を紹介。
2012年の新人王戦。
高崎一生六段と、佐々木勇気四段の一戦。
相振り飛車から、双方7筋と3筋をそれぞれほじくって行き、戦いに突入。
むかえた、この局面。
先手の高崎が、▲88角と引いたところ。
中盤の難所だが、後手は△22にいる角が、使えてないのが気になるところ。
▲33の歩でフタをされ、場合によっては▲23銀成から責められたりすると負担になってしまいそうだが、佐々木はここでワザを見せる。
△32金とするのが、ハッとする手。
▲同歩成とすると、△88角成、▲同銀に△67角が、飛車銀両取りでうまい。
高崎は▲36金と、イヤミな拠点を取り払うが、後手も△33金と力強く前進。
▲73歩、△82金の交換を入れてから、▲74飛とさばいていくが、△84銀と受ける。
▲64歩の手筋に、△56歩、▲同歩に△34金と取って、後手の駒がのびのびしてきた。
▲22角成とするも、△同飛で、箱詰めにされていたはずの角が、見事にさばけてしまった。
以下、▲63歩成に△66角と、その角で反撃し、その後も激戦だったが後手が勝利。
佐々木の才能を感じさせる、うまい駒さばきであった。
続けて、もう一つ。
2013年の加古川清流戦決勝に残ったのは、佐々木勇気四段と千田翔太四段。
決勝の3番勝負は初戦を佐々木が、2戦目を千田が取って決戦の第3局に。
千田が先手で相矢倉になったが、玉頭の斥候で佐々木がリードを奪う。
図は千田が▲56銀と上がったところ。
先手が苦しいながら、後手も飛車と角が使えておらず、決めるとなるまだ大変に見えるところ。
後手からすれば、8筋の拠点を使って攻めたいが、いきなり△87銀と打ってもたいしたことはない。
なにかセンスのいい手が欲しいところだが、まさにそれがここで飛び出すのだ。
△95角と軽やかに飛び出して、後手が勝勢。
次に△87歩成から△59角成と角を素抜く筋があるから、▲77金寄と受けるが、そこで一転△85銀と玉頭に重くロックをかける。
先手はなんとか△86の歩を払ってねばりたかったが、その望みは絶たれた。
そこで▲26角とこっちに転換するが、△75歩、▲同歩、△76歩と拠点を作ってから、△45銀と遊んでる銀を活用し「駒をよこせ」とせまる。
▲同銀しかなく、△同歩に今度こそ銀のぶちこみでまいるから、▲79桂とがんばるが、そこで△65歩と飛車に活が入って勝負あった。
▲同歩、△同飛、▲66歩に△75飛と、キャノン砲を絶好の位置に配置。
以下、△77銀から数の暴力で押し切り、見事に佐々木が棋戦初優勝を飾ったのだった。
(その他の将棋記事はこちらからどうぞ)