「変な人は論理的である」。
というと、たいていの人は
「えー、そんなことないよ。変な人は考え方が論理的じゃないから変なんでしょ」
そう返してくるものだが、これがそうではない。
そこで前回(→こちら)は「家出して住むところがない事態を、空手で打開しようとした友人」を例にあげたが、今回は国の話でオランダ。
オランダといえば、チューリップに風車、あとは運河の国というファンシーなイメージがあるが、ディープな旅行者にとってはそれより少しばかりイケナイ楽しみを求めていたりする。
それが、マリファナと売春だ。
というと、マジメな人から、
「そんな犯罪行為がはびこるとは、オランダはなんという乱れた国なのか!」
なんてお怒りの声が聞こえるかもしれないが、残念ながらそれは不許可である。
なぜなら、オランダは基本的に、マリファナをはじめとするソフトドラッグが合法であるし、売春もまた、有名な「飾り窓地帯」など国の管理のもと行われているのだ。
つまり、法的にはなんの問題もないわけで、だれはばかることなく吸い放題で、買い放題なのだ。そりゃ、一部のフリーダムな人はうれしいかぎりである。
ではなぜにて、オランダ(主に首都のアムステルダム)では、そのような「非倫理的」なことがまかり通っているのかと問うならば、これが「論理的帰結」によるのだ。
最近では、アメリカもカリフォルニア州をはじめ、一部の地域で大麻が解禁されているが、もともとマリファナ自体はドラッグとしても、そんな目くじら立てるほどの副作用などはないとは、昔からよく聞くところ。
せいぜい「ええ塩梅」になって、勤労意欲が落ちたりするくらいだが、日本でブラック企業に酷使されるのとくらべたら、それくらいのペースの方がよほど「働き方改革」ではないかとすら感じる。
そもそも、酒や煙草をたしなむ人には、ソフトドラッグを非難する道義的正当性もないわけで(このどっちもバリバリの麻薬です)、私自身ドラッグにさほど興味はないし日本では違法だからやりはしないけど、昨今の傾向に関しては、「別にいんじゃね?」くらいのスタンスだ。
それだったら、とっとと解禁してしまえばいいじゃん。というのが、オランダの考え。
オランダ人によると、マリファナの合法化は禁止するよりいいことが多く、まずそれでハッピーになれる人がいる。
また「店内など、決められた場所で楽しむ」という原則があるので、「隠れてコソコソやるうちに悪い仲間とつるみ出す」みたいな心配も減る。
さらには、堂々と手に入れられることにより、売人などへの仕事を割のあわないものにし、その金がそのまま「国の税収」となって返ってくるのだから、こらもう坊主丸儲けやないか!
つまり「大麻=ドラッグだからよくない」という偏見さえ一回はずしてみれば、大麻解禁は「いいことだらけ」ということになってしまうのだ。
ちなみに、コカインやヘロインなど、「マジで壊れる」系のドラッグは絶対ダメです。そこのとこ、誤解なきよう。
同じく売春に関しても、裏で悪いやつがあやつるから、人身売買や非人道的な性行為の強要などもあるわけで、国が管理しておけば、ある程度はコントロールできる。
反社会的勢力の介入も減らせるし、健康診断(!)を受けさせれば性病も防げると、やはりプラマイでいえばプラスが大きい。
だったら、なんで解禁しないの? やればいんじゃね?
となるのは「論理的に正しい」というのが、オランダ人の判断なのだ。
ただ、それを本当にやっちゃうのがすごい。ふつう、思いついても躊躇はするよねえ。でもそこは、ロジックが優先するオランダの国民性なのか。
実際、この大麻と売春合法は他の国から、またオランダ国内でも賛否両論で、オランダ在住の日本人に聞いてみたところ、アメリカとフランスから、かなりきびしくとがめられたそうだ。
まあ、いくら「論理的帰結」とはいえ、そら言われることもあるわなあと思うわけだが、そこはオランダも負けてなくて、自国のドラッグがらみの犯罪が圧倒的に少ないことを根拠とし、
「ちなみに、先進国で一番麻薬犯罪が多いのは、アメリカとフランスだよーん!」
そう反撃したとか。あらら、そらぐうの音も出ません。
もちろん、なんでも合法化すればすべてが解決するわけでもなく、倉部誠さんの『物語オランダ人』という本を読むと、「論理的思考」が過ぎるゆえの色々な齟齬などもあるようだし(日本人的な「忖度」に鼻もひっかけないとか)、私自身も「だからオランダみたいにやれ」とも言う気もないけど、
「感情的、感覚的に受け入れにくいことを、しっかりと思考を整理して、しかも本当に実行しちゃう」。
というオランダの発想力は、もう文句なく面白い。尊厳死とかも、そういうことなんだろう。
もうオランダ人ったら、論理的で変な人!
(ジョナサン・スウィフト編に続く→こちら)