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BL小説・風のゆくえには~片恋2-1(浩介視点)

2016年01月11日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 片恋

 高校二年生、渋谷と同じクラスになれた。
 始業式の日に掲示板発表をみて、渋谷は、

「賽銭に合計千円つぎ込んだかいがあったな!」

と、大はしゃぎしてくれたけれど、おれは心の中で「やっぱり」と思っていた。3月の時点で、おそらく同じクラスになるだろう、と予想がついていたからだ。

 3月に入ってすぐ、バスケ部顧問の上野先生に体育教官室に呼ばれた。行ってみたら、クラス担任の小林というおばさん先生までいて……。
 おれが部屋に入るなり、上野先生が唐突に言い出した。

「お前、今、誰と一番仲が良い? って、渋谷だよな? それとも上岡?」
「え………」

 質問の意味を計りかねて黙ってしまうと、上野先生は畳みかけるように言葉を重ねた。

「どっちと同じクラスになりたい? 両方は無理だぞ。渋谷と上岡は犬猿だから一緒にするわけにはいかないからな」
「え………、あの」

 同じクラスって……2年生のクラスってこと?
 頭の中、?だらけの中で、

「桜井君」
 小林先生が眉間にシワを寄せたまま、おれに言ってきた。

「あと数週間なんだし、もう少し今のクラスの友達とも仲良くしてみない? 休み時間もいつも図書室にいるんですってね?」
「……………」

 この2人は、おれが中学時代、学校を休みがちで、保健室登校をしていたことを知っている。今もクラスに馴染めていないことを気にかけてくれているということか……。
 でも、そう言われてもどうしたらいいのか……

「まあ、小林先生、とりあえず今年度は無理しなくていいんじゃないですか?」
 上野先生があっさりと言って、おれに視線を向けた。

「お前、一年皆勤だもんな? それだけで十分すごい成長だぞ?」
「…………」
「バスケ部でも、なんだかんだ上手くやってんじゃねえか」
「…………」

 上手く……やれてるんだろうか……。

「で?」
 上野先生が再びおれに迫ってきた。

「渋谷と上岡、どっちがいい? それとも他にいるか? あ、でも、芸術科目、書道とってるやつだけな?」
「あ、はい。はい!」

 そういうことなら!

「渋谷君とっ!渋谷君と同じクラスになりたいですっ」
「ああ、やっぱり」

 上野先生はニヤリと笑うと、小林先生を振り返った。

「渋谷だったら、友達も多いし、うまいこと面倒みてくれると思います。なんで、その方向で話持っていってもらえますか?」
「渋谷君……あの小柄で綺麗な子……ですよね?」
「そうそう。あれで気強いし、言いたいことハッキリ言う奴なので、もし何かあっても守ってくれるでしょう」
「………」

 守ってって……

「桜井、くれぐれもこの話、誰にも言うなよ。渋谷にもだ」
「は……はい」

 いうわけがない。いったらおれの中学時代のことまで話さなくてはいけなくなる。そんなこと知られたくない。

「まあ、でも、100パーセントではないからな。期待しないで、4月の発表楽しみにしてろ」

 再びニヤリとした上野先生。 

 そして始業式。
 100パーセントではない、といいながら、ちゃんと同じクラスにしてもらえてた。感謝感謝だ。

 しかも、出席番号も11、12と前後のため、席も前後ろ、色々な班も全部一緒になれた。
 そして……

「体育委員やろうぜ。体育委員」
「体育委員?」
「球技大会仕切れるんだよ。絶対面白いって」
「う、うん……」 

 一年生の時は何も委員会をやらなかった。
 でも今年は渋谷に言われて体育委員をやることになり、新学期始まって早々、2週間後の球技大会の準備に追われることになった。

 運営のことやチーム分けのこととかで、嫌でもクラスメートと話をする回数が増えて、気がついたら、球技大会当日にはクラス全員の名前と顔を覚えていた。一年生の時は2学期くらいにようやく全員覚えたのに……


 球技大会は大盛況のうちに無事終了した。
 このクラスはお祭り好きが多いようで、どの競技も応援が異常に盛り上がっていた。委員の仕事があったおかげで、その中に入らずにすんで助かった……とホッとしたくらいだ。

 競技は渋谷と一緒にバレーボールを選んだ。部活等経験者はその種目には出られない決まりなのでバスケは選べなかったのだ。

 でも、渋谷は「お前、経験者だろ!」と相手チームから文句を言われるくらいバレーボールも上手だった。

(かっこいい………)

 男のおれでも惚れ惚れしてしまうくらい、かっこいい! そのスーパープレーだけでなく、冷静で的確な指示でチームをまとめてくれたおかげで、このおれまでも得点に繋がるプレーができた。

 渋谷の活躍のおかげで、おれ達のチームはベスト4にまで入れて、クラスの中で一番順位の高いチームになれた。クラスメートから惜しみない拍手を送られ、何だか自分が自分じゃないみたいで、変な感じがする。


 でも…………

「楽しそうで良かったわ、桜井君」
「…………」

 小林先生に声をかけられ、我に返った。そうだ。このおれがクラスメートに囲まれて楽しそうにやってるなんて………そんなのありえない。

 ダメだ。早く目立たないところに隠れないと。また、小学生の時みたいに、調子にのってるとか言われてみんなから無視される。中学生の時みたいに生意気だと言われて………

「…………っ」

 ふっと、ブラウン管の中に放りこまれた。世界が色褪せていき、音も遠くなって…………

 まただ。おれは何も変わらない。

(………渋谷)

 おれにはやっぱり、あなたの光は眩しすぎる。

 一緒にいたいけれど……でも、一緒にいたらおれまで光に晒される。おれはそれに耐えられるんだろうか……

『もし何かあっても守ってくれる』

 ふいに思い出す上野先生の言葉。
 でも。守ってくれるっていっても……

「こーすけ!」
「わっ」

 いきなり後ろから飛び乗られた。背中に渋谷がしがみついている。これはオンブ??

「体育委員の反省会、先生がジュース出してくれるって!」
「え、あ、そうなんだ」

 まわりの音が戻ってくる。渋谷がいるといつもそうだ。渋谷がそばにいるだけで、世界が明るくなる。

「会議室。会議室!」
「え、このまま行くの?」
「おれ足クタクタ。歩けな~い!」

 そりゃそうだな。あれだけ活躍したんだもんな。

 「オンブ!オンブ!」と請われ、オンブのまま会議室に向かう。大丈夫かな?と心配だったけれど、渋谷は小柄だからかおれでもオンブできた。

 大会が終わったばかりでまだ興奮状態にあるようで、渋谷はやたらとはしゃいでいる。

「反省会おわったら、2年の委員でカラオケ行こうってさ~」
「あ、そうなの?」
「駅前の……なんだ?よくわかんねっ」

 酔っ払ってる?ってくらい渋谷は変だ。ぎゅーっとしがみつかれた腕に力が入っている。

「あー楽しかったなー!」
「………うん。楽しかったね」
「やっぱいいよなあ!同じチームって!」
「え?」

 同じチームって………

「やっぱりバスケ部入れば良かったなーとか今さら思ったー。あ、でもお前とレギュラー争いするのもなんだからやっぱバスケ部は嫌だな。こういう球技大会くらいがちょうどいいや」
「…………」

 それは……

「一緒の委員にもなれたし、やっぱ同じクラスになれて良かったよな~。あ、体育の班も一緒だから、また何かの試合で一緒にできるな。2年ってソフトボールやるらしいぞソフトボール。楽しみだな~~」
「………慶」
「何だ?」

 会議室に繋がる廊下にさしかかったところで、とんっと身軽におれの背中から飛び降りた渋谷が、満面の笑顔でおれを見上げてくる。

 ま、まぶしい……っ

「あの……」
「何だよ?」

 その眩しい笑顔に、切実に思う。

 やっぱり、あなたと一緒にいたい。

 でも……それと同時に心が暗いところにストーンと落ちていく……

 なんでおれなんかと同じチームで良かったって思ってくれてるの? おれなんか運動苦手でみんなの足引っ張ってばかりだったのに。
 なんで一緒の委員で良かったなんて思ってくれてるの? みんなを仕切れる渋谷と違っておれは言われたことをこなすことしかできないのに。
 なんで同じクラスになれて良かったなんて思ってくれてるの? おれなんか一緒にいても全然面白くもなんともないのに。

 でも、それでも……

「あの……」

 心の中の声は口にすることはできない。

 でも、それでも、それでも……

「おれ……渋谷と一緒にいたい」
「え」

 あ………、思わず声に出てしまった。
 あ、しかも、渋谷って言っちゃった。

「………あ、えと、慶」
 誤魔化そうとする前に、

「何いってんだよ?」
 渋谷がびっくりしたような顔をして………それから、

「ずっと一緒にいるぞ? お前がヤダっていってもなっ」
「!」

 にーっこりと笑ってくれた。

 渋谷………おれの親友。おれの光……

「………ヤダなんて言うわけないじゃん」
「そっか」

 また渋谷はニッと笑って「いくぞ!」と言うと、おれの腕をつかんで引っ張りながら歩きだした。
 その後ろ姿を見ながら、切実に願う。

 一緒にいたい。
 こんなおれだけど。
 あなたの光は眩しすぎるけれど。
 それでも、一緒にいたい。




----------------------------------------


お読みくださりありがとうございました!
イベントの直後ってテンション高くなりますよね~~。
このあとの反省会でのエピまで入れたかったのですが、長くなるので次回に持ち越しで。
また明後日よろしくお願いいたします!

クリックしてくださった方、本当にありがとうございます!浩介視点だとちっともBLじゃなくて申し訳ないのですが、彼が自覚するまではこんな感じで……自覚するまでお見守りいただければと!今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。ご新規の方もどうぞよろしくお願いいたします!

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BL小説・風のゆくえには~片恋1-2(慶視点)

2016年01月09日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 片恋

 初めて足を踏み入れた中央棟2階。各部活の物置となっている階だ。写真部はその物置部屋を活動場所にしているらしい。部屋の手前半分は華道部の物置にもなっているため、かなり狭いそうだ。

 中央棟2階の廊下は薄暗くてシーンとしていて、ちょっと怖い……

「なんか怖いね」
「……っ」

 浩介に肩に手を置かれ、こそっと耳元でささやかれて、心臓が跳ね上がる。

 くそー、不意討ちでドキドキさせるなよ………

 浩介は年明けくらいから急にスキンシップの回数が増えてきた。それまではおれからの方が多かったのに、いまや浩介からの方が断然多い。肩やら腕やら腰やら頭やら、やたらと触わってこられて、そのたびにおれはときめいたり、幸せや安らぎを感じたり、抱きしめたくなるのを我慢したり、内心が大忙しになる。………まあ嬉しいからいいんだけど。


「お兄ちゃん、見学の方お連れしたよ?」

 一番端の部屋のドアを軽くノックして、真理子ちゃんが扉を開けた。 

 入り口側は、華道部の大きな棚が左右に2つずつそびえたっていて、間が通路みたいになっている。その狭い通路を抜けた先に、長テーブルと椅子が6脚。

 窓際の一番端の席でカメラのレンズを並べていた三年生がふいっとおれ達に目を向け、ぶっきらぼうに言い放った。

「勝手に見てくれ」
「お兄ちゃん! せっかく来てくださった方にそんな言い方!」

 真理子ちゃんが慌てたように、手をバタバタさせたけれども、言った本人は、神経質そうに黒縁の眼鏡を押し上げ、知らんぷり。再びカメラをいじりはじめた。

 なんか………変な人だ。

 真理子ちゃんが橘先輩に文句を言っているのをBGMに、部室の中を浩介と二人でキョロキョロしてみる。あちこちに写真が飾ってあり、そのいくつかに『○○年入選作』と書かれている。以前は活発な部活だったのかもしれない。

「……白黒?」
「だね」

 写真はすべてモノクロだった。なんで?と思っていたら、

「カラーフィルムは高いからな」

 ボソッと橘先輩が答えてくれた。値段の問題なのかっ。

「あ、この写真、すごい。すごい躍動感」
「あ、おれもそれ思った」

 バレー部だろうか? まさに今、アタックを打つところ。写真の中から音が聞こえてきそうだ。

「あ、それ、お兄ちゃんの作品です。去年、コンテストで入選して新聞にも載ったんですよ」
「え、すごい」

 真理子ちゃんの説明に橘先輩を振り返ったけれど、先輩は興味ない、というような顔をしている。フィルム代のことには答えてくれたのに、自分の写真にはノーコメント。やっぱり変だなこの人。

 そんな兄にため息をつきつつ、真理子ちゃんが切々とおれ達に訴えかけてきた。

「廃部になってしまうと、ここの暗室(といって奥のドアを指さした。準備室的な小さな部屋があるようだ)も使えなくなるし、他にもコンクールのこととか、色々困るんです。入部、考えていただけませんか?」
「えーと……」
「でも、カメラ持ってないよ?」
「あるぞ」

 浩介の言葉に、橘先輩が突然すっくと立ち上がった。思ったよりも背が高い。浩介と同じくらいあるんじゃないか? 顔が小さいから座っているときにはこんなに大きいとは思えなかった。
 妹は背が低いのに、兄貴はずいぶん高いんだな。でも顔は二人よく似ている。

「貸し出し用が2台ある」
「わ」

 横の棚から出してきてくれたのはやたらと立派なカメラ……
 そして橘先輩は、ふいっと南に目をやった。

「君は買うんだよな?」
「はい♪ 日曜日、よろしくお願いします♪」
「え」

 まじか。
 語尾に音符マークのついている南を振り返ると、南はにーっとした。

「入学祝い。本当は私立に行くはずだったのを公立にしたから、浮いた分、ちょっと値が張るもの買ってもいいってお父さんが」
「……ずるい」

 父さんは南に甘い。末っ子の特権だ。おれ、入学祝い何ももらってないぞ。


「真理子には俺のお下がりをやるから」
「え?! ホントに?! やったあっ」

 橘先輩の言葉に、真理子ちゃんが嬉しそうな声をあげている。南と違って素直で可愛い子だ。

 一方、浩介は……

「わーすごいなー」
「……浩介」

 橘先輩が出してくれたごついカメラを手に取って、興奮したように「すごいすごい」を連発している。まるでおもちゃを与えられた小さな子供のようだ。

「お前、興味ある?」
「うん。これ、かっこいい」
「………」

 目がキラキラしてる。ふーん。そうか……

 真理子ちゃんがその様子に気が付いて、こちらに食いついてきた。

「どうでしょう? 桜井先輩、渋谷先輩っ」
「あー……」

 懐かしい「先輩」という呼ばれ方に、若干ときめきを感じながら、浩介を見上げると、

「どうする? 慶?」

 やさしく微笑まれた。つられて笑顔になってしまう。
 別におれはお前と少しでも一緒にいられるなら、なんでもいいんだけど……


「じゃあ、決まりでいいな?」

 橘先輩がふいに口を開き、断言した。

「君の方は(といっておれを指した)どっちでもよさそうだし、君の方は(浩介のことだ)は興味があるようだから、文句はないだろう?」
「はあ……」
「連休前までに、入部届を顧問の中森に出しておいてくれ」
「……げ」

 思わず浩介と顔を見合わせ、苦笑してしまう。よりによって、おれ達が苦手にしている中森が顧問だとは。
 真理子ちゃんが心配そうにおれ達に言ってくる。

「中森先生は名ばかり顧問なので、部活にはまったく顔を出さないから大丈夫ですよ?」
「え、中森先生って嫌な先生なの?」

 中森を知らない南がきょとんとする。すると浩介が眉を寄せた。

「嫌っていうか、マイペースなんだよ。授業もすっごく早くて……」
「国語の先生だよね?」
「うん。古典」

 浩介と南と真理子ちゃんが喋っているのをぼんやりと眺めていたら、なんだか沸々と、高揚感が湧き上がってきた。

(浩介と同じ部活……)

 同じ部活……同じ部活! 
 すごい。いいじゃないか。

 正直言って、写真にはこれっぽっちも興味はないけれど、浩介と『同じ部活』に入るということに、嬉しさを抑えきれなくなってきた。これでおれも浩介の『部活の仲間』だ!

 …………と?

「え?」

 突然のシャッター音。見ると橘先輩がカメラを構えていた。

 もしかして、今、おれを撮った?

「お兄ちゃん! 勝手に……っ」
「いや………」

 真理子ちゃんの咎める声に、橘先輩は肩をすくめた。

「あまりにも絵になるそいつが悪い。誰だって撮りたくなるだろ。そんな顔してたら」
「はああ!? そんな顔って……っ」

 どんな顔だっ。女みたいな顔だってバカにする気なら………っ
 いいかけたけれど、橘先輩がツカツカと目の前までやってきたので黙ってしまう。なんだよ……っ。

 橘先輩は、まじまじとおれの顔を見ると、

「今の写真に名前をつけるなら……」

 ふむ、とうなずいた。

「『内に秘めた情熱』ってところだな」
「!!」

 なに………っ

「カメラには造作だけでなく、その人の内面も写し出される。確かに君は綺麗な顔をしているが、俺はそんなことに興味はない」
「……………」
「その内面の情熱が絵になると言ったんだ」
「……………」

 内面の情熱って………それは。
 それは、おれのこの想いのこと………?

「もう! お兄ちゃん! 絵になろうがなるまいが、勝手に撮ったらダメなんだからね!」

 真理子ちゃんの明るい声に我に返る。

「ごめんなさい、渋谷先輩。お兄ちゃん、こうやって勝手に写真撮って、今までも何回もトラブルになってるんです。ほんとどうしようもない………」
「芸術を解さない奴が悪いんだ。俺は悪くない」
「もう………」

 ふんとそっぽを向いた橘先輩はまるで子供だ。真理子ちゃんとどちらが年上だか分からない。

「慶?」
「………」

 浩介がこちらにカメラを向けている。

 カメラには内面も写しだされる……
 それが本当なら、今、お前の目におれはどう映ってる……?

 切ない気持ちになりながら、カメラを構えた浩介を見つめ返した。………が。

「んー……ぼやけてる。全然ピントが合わない」
「………」

 ………あっそ。


 それからおれ達は、橘先輩にカメラの扱いを少しだけ教えてもらってから学校を後にした。来週から本格的に始動することになるらしい。

 今日は雨のため、バスで帰宅。
 変な時間だからか空いていて、2人ならんで座ることができた。

「慶、あまり乗り気じゃなかったみたいだけどいいの?」

 心配そうに言ってくる浩介に肩をすくめてみせる。

「おれ、部活入ってないし、いい機会かなとか思ってさ」
「そう?」
「顧問が中森ってとこだけが問題だけどな。せっかく二年は古典中森じゃないから顔合わせなくてすむと思ったのに」
「それは言えてる」

 くすくす笑う浩介。

(浩介……)

 愛おしさが募ってどうしようもなくて、濡れた傘を避けるフリをして、腕と膝がくっつくまで近くに座り直す。本当はもっともっと近くに寄りたい。ぎゅーっとくっつきたい。

 部活なんか、何部でもいい。お前と一緒にいられるなら……

「あ、そいえばさ」

 浩介がふいに思いついたように言った。

「慶の『内に秘めた情熱』って何?」
「…………」 

 何って……お前にだけは言えない。

「何?」

 無邪気に聞いてくる浩介。
 そうこうしているうちに、おれの降りる停留所がきてしまった。高校前から10分しかかからないのだ。浩介の降りる停留所はここから5分先になる。

「……知らねえよ」
「あ、慶」
「じゃあな」

 顔を見ることができず、何か言いかけた浩介を置いて、うつむいたままバスを降りる。

「『何』って……」

 お前が聞くな。
 お前はおれがこんなこと思ってるなんて思いもしないだろう。
 こんな気持ち知られたら、もう友達でいられない。
 だから、だから……

「慶、傘ささないと濡れちゃうよ?」
「!」

 心臓が跳ね上がる。
 振り返ると、浩介がこちらに傘をさしかけてくれながら、キョトンとした顔をして立っていた。

「な、なんで……っ」

 なんでお前ここで降りてんだよ?!
 思わず怒鳴ると、

「あ、うん……」
 浩介は大きく瞬きをしてから、えへ、と笑った。

「まだ、一緒にいたくて。……だめ?」
「…………」

 浩介。浩介………

 もう、耐えられない。

「……慶?」
「…………」

 コツン、と浩介の肩口に額を当てる。
 ぎゅうっと抱きつきたいところだけれど、それはさすがに我慢して。
 額を押しつけ、雨の匂いに交った浩介の匂いを吸い込む。愛おしすぎて苦しい……

「………ちょっと、バスに酔った」
「え、大丈夫?」
「………もう少し、このままで……」

 浩介の手が優しく優しくおれの背をさすってくれる。

 愛おしくて切なくて、幸せで、どうにかなってしまいそうだ。
 こんな時間がずっとずっと続けばいい。
 この時間を守るためなら、おれは何だってする。



----------------------------------------


お読みくださりありがとうございました!

まだ、デジカメではなくフィルムカメラの時代です。
慶はこの調子でずっと片思いしてたんだから、ホント偉いよなあ。

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BL小説・風のゆくえには~片恋1-1(慶視点)

2016年01月08日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 片恋

 高校一年の春。
 運命的な出会いをしたおれと浩介。
 一緒にいると楽しくて楽しくて、すぐにお互いの空いている時間には必ず一緒に過ごすくらい仲良くなった。

 そして、出会いから約半年後。
 しばらく会えなかったことがきっかけだったのか、他の奴への嫉妬心がきっかけだったのか………とにかくある日突然、おれは浩介への特別な感情を自覚した。

 恋。だと思う。

 思う、というのは、自分でもイマイチよくわからないからだ。その『恋』というやつが。でも総合的に判断して、おれはこの感情を『恋』と位置付けた。

 そう判断するまでには、そりゃ色々と考えた。

 一緒にいてすごく楽しい。というのは、友達に対する感情でもある。
 一緒にいて心が安らぐ。というのは、家族に対する感情と同じだ。

 でも………

『いつでもそばにいたい』
『全部知りたい』
『見つめられるだけでドキドキする』

 そういう感情は友達や家族に対してはありえないと思う。

 そして、これを『恋』と位置付けた最たる理由は………

『触れたい』

 いつでも触れていたい。背中でも腕でも。いつでもくっついていたい。くっついていると、体の中も心の中も温かくなって………

『触れてほしい』

 触れられると愛おしさで気持ちが溢れ出そうになる。幸せすぎて気が遠くなる……

 こんな感情、今だかつて誰にも抱いたことがない。
 だからこれは『恋』。しかも『初恋』。

(初恋の相手が男って……)

と、戸惑いがなかったわけではない。

 何しろおれは、小さい頃から、背が低いことやこの顔のせいで、女みたいだとからかわれてきた。その度に、からかってきた奴にはそれ相応の仕返しをしてきたから、そのうち誰も直接は言わなくなったけど……

 そのおれが、男を好きになるなんて……嘘から出たまこと?って感じがして余計に抵抗があった。

 でも、一つ確かなことは、おれは女になりたいわけではないということだ。そして、浩介を女の代わりにしたいわけでもない。

 じゃあ何なんだと言われると………やっぱり自分でもよくわからない。
 言えることは、ただ一つ。

『浩介のそばにいたい』

 それだけだ。


***


 初詣で、二人合わせて千円もお賽銭を入れたおかげか、おれ達は2年生から晴れて同じクラスになれた。

 しかも、神様も良くわかってくれていて、出席番号も11、12と前後!
 おかげで、体育の班も、そうじの班も、物理の実験の班もみんな一緒!(11、12というのは、二人組も三人組も四人組も五人組も同じになるという運命にあるのだ!)

 あまりに一緒にいすぎて飽きられてしまうのではないか、とか色々思うこともあったけれど、そんな心配は杞憂だった。むしろ「もっと一緒にいたい」と思ってくれているようで、部活の帰りとかほんの少しの時間でもうちに顔をだしてくれたり、1年生の時よりも更に更に距離は縮まったように思う。

 でも、友達なんだから変な期待はしないように、と自制はしている。今の距離感は本当に心地が良い。今の関係を崩したくない。この『恋心』は絶対に気づかれてはならない。


 そんな風に過ごしながら、2年生になって3週間近くたった木曜日の放課後のことだった。

 木曜はバスケ部の練習がないので、いつもはおれのうちの近くの公園で練習するんだけど、今日は朝からあいにくの雨。「これからどうする?」なんていいながらウダウダと教室に残っていたら、

「お兄ちゃーん」
「南?」

 妹の南がドアからひょっこりと顔をだした。
 南もこの春から同じ高校に通っている。友達と同じ女子高に行くとか言ってロクに勉強していなかったくせに、昨年秋に急遽志望校を変えたんだ。よく受験勉強間に合ったもんだと感心してしまう。

 浩介と一緒に廊下まで出ていったのだが、
「何……、え?」
 南の後ろにいた女の子の姿にびっくりして言葉を止めてしまった。

(……似てる)
 おれの8歳上の姉に、少し似てる。身長が姉と同じくらいだから余計にそう思うのかもしれない。こうして南と並んでいると、姉と南が一緒にいるんじゃないかと錯覚してしまうくらいだ。
 
「南ちゃん、どうしたの?」
「あ」

 浩介が南に呼びかけた声で我に返る。

「お兄ちゃん達にお願いがあるんだけど」
「お願い?」
「はい」

 首を傾げると、南の隣にいた女の子がいきなり深々と頭をさげてきた。
 
「お二人、写真部に入部してくださいませんか?」
「え」

 声も少し椿姉に似てる……かな。

 言葉の内容よりもそちらに気を取られてしまった。顔が似てると声も似るっていうもんな……。
 いやでも、よくよく見ると顔はそんなに似ていない。真理子ちゃんの方が目がデカイ。身長が同じくらいなのと、色白なところと、高校時代の姉と同じような髪型……肩までつく髪をおろして、両サイドをピンでとめている……をしているせいで、何となく似てみえるだけなのかもしれない

「慶?」

 浩介の声に再び我に返る。いかんいかん……

「あ、えと? 何部だって?」
「写真部、です」

 その南の友達、橘真理子ちゃんの説明によると、真理子ちゃんの兄、3年の橘先輩が部長をつとめる写真部が、現在、橘先輩しか部員がいないため廃部の危機なのだそうだ。
 連休明けの部活総会までに5人部員が必要なのに、新入部員の入る気配もないため、おれ達に声をかけてきたらしい。

「活動日はバスケ部のない木曜なんだって。だから二人とも空いてるでしょ?」
「でも、木曜は………」

 せっかくの浩介とのバスケ自主練の日なのに………、というおれの心を読んだかのように、南がケロリと言った。

「お兄ちゃん知らなかった? 五月からうちの前の公園のバスケットコート、子供会主催のバスケ教室で使うことになったんだよ、木曜日」
「え!?」
「えええ!?」

 浩介も一緒に驚きの声をあげた。

「それは困る!やだ!」
「…………」

 浩介、「やだ」だって。かわいい。内心にやにやしてしまう。
 ………いやいやいや、それは置いておいて。何とか普通の顔をして南に聞く。

「その教室、何時までなんだ?」
「そうそう、6時までらしいからさ、それから練習すればいいじゃん? 5時半まではこっちに出て」
「…………」

 顔を見合わせてしまう。
 そこへ真理子ちゃんが、にっこりと提案してきた。

「とりあえず、見学にいらっしゃいませんか?」

 そのふんわりと笑う感じ、やっぱり椿姉に似てるかもしれない。



----------------------------------------


お読みくださりありがとうございました!

慶の『理想の女子』である姉・椿に似ている、橘真理子ちゃん初登場。
せっかく理想的な女の子が目の前に現れたということに、慶君、気が付いてません^^;
思い込むと一直線の慶君の頭の中には、もう浩介の存在しかありませんので……

この回、まだ続いているのですが、長いし書き終わらないので、ここで切ることにしました。
続きももうすぐ書き終わるので、明日更新できればと思っております。
また明日、よろしくお願いいたします!

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