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(BL小説)風のゆくえには~1999年7の月Ⅱ

2024年07月09日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切
というお話を以前に書いております。
1999年。まだ大学生の慶君と、就職3年目の浩介君。
若いー!可愛いー!

それから何年?25年!?きゃー!!
ということで、1999年7の月II、2024年7月のお話です。


【慶視点】

 久しぶりに浩介と帰宅時間が重なって、駅から一緒に歩くことになった。

「なんか……すごい空だねえ」
「だな……」

 予報では、これから雷を伴った激しい雨が降ってくるらしい。薄暗い空の中に黒い雲が見えている。

「なんか……この世の終わりって感じだね」
「この世の終わり……」

 浩介の言葉に、ふっと昔の記憶がよみがえる。

『1999年7の月、恐怖の大王がおりてくるんだって』

 妹の南が、友達から借りたという本を見せながら言ってきたのだ。まだ、自分も南も小学生だった。あの頃そういう話が流行ったのだ。
 1999年といえば、自分は25歳になる。25歳なんてまだまだ先で、具体的な想像はできなかった。

『1999年、何してると思う?』

 当時の南が、無邪気な感じで言ったことは妙に鮮明に覚えている。夏休みのリビング。宿題を広げながらの無駄話。

『私はもう結婚してると思うんだねー。だから旦那さんと一緒にいると思う』
『ふーん』
『お兄ちゃんは?』
『おれは…………』

 …………。

 …………。

 …………。

 おれは?

「…………なんて言ったんだっけ」
「え?」

 思わず呟いてしまって、浩介に振りかえられた。

「なにが?」
「あ……いや……」

 言ったところで、分かるわけもないけれど、誤魔化すのも変なので、話してみる。

「昔、ノストラダムスの大予言ってあっただろ?」
「ああ、うん。恐怖の大王がおりてくるってやつね」
「そうそう。その話を小学生の時に南として……ってあれ?」

 なんかこの会話、前にもしたような気が……

「この話、したことあるか?」
「…………」
「…………」
「…………」

 ………おい。

「なにニヤニヤしてんだよっ」
「痛い痛いっ」

 思わず、はたいてしまって、浩介に大げさに悲鳴をあげられた。でもこれはお前が悪い!

「なんか思い出したんだろっ」
「えー、慶、覚えてないのー?」
「覚えてねえよっ」

 浩介は異常な記憶力の持ち主なので、おれが忘れていることも、よーく覚えていて、こうして一人でニヤニヤされることがよくある……

「なんだよっ言えよっ」
「えー……」

 浩介は口元に手をやり、視線を左上から右上、また左上へと動かしながら「うーん……」と言っていたかと思うと、

「1999年の7月の最終日、おれたち一緒に過ごしたことは覚えてる?」
「…………ええと」

 そういわれてみれば、そんな気もするけれど、そんな何十年も前のこと、いちいち覚えていない……

「そう……だっけな」
「慶はまだ大学生で、おれは働いてて……で、よくおれのアパートに泊まりにきてくれてたでしょ?」
「あー……そうだな」

 浩介のアパートが大学の近くだったので、大学の最後の方はほとんど浩介の部屋から通学していた。「電車の定期、いらないでしょ」って母親に言われて、自宅からの定期券買うのやめたなあ……なんて、そんな変なことは覚えているんだけど。

「1999年7月31日も泊まりに来てくれてて……その時に聞いたよ? 南ちゃんと、1999年に自分たちがどうしているか予想したって話」
「おお。そうか」

 本当に、恐るべし浩介の記憶力。

「で、南は、旦那と一緒にいるって予想したんだよな」
「うん、南ちゃん、大当たりだったね」

 南が結婚したのは、1999年6月だったので、ギリギリ当たりだ。

「で、おれ、自分はなんて予想したのか思い出せなくて」
「え、そうなの?」

 浩介がきょとん、とした感じに、また口元に手をやった。

「慶、あの時は覚えてたのに……」
「え、そうなのか?」

 何も思い出せない……

「おれ、なんて言ってた?」
「えー……、言っていいの?」
「は? 別にいいだろ」
「えー……」

 なんかもったいないなあ……、と、浩介はぶつくさと言ってから、

「じゃあ、当てて?」
「は?」
「クイズクイズ」
「えー」

 めんどくせえなあ……という心の声が聞こえたのか、浩介が「もうっ」とふてくされた顔を作って、バシッとたたいてきた。

「面倒くさがらないのっ。せっかくだから当ててっ」
「えー……ヒントヒント」
「えー、やだ」
「なんでだよっ」

 ノーヒントで答えられるはずがない。何も思い出せない。

「そもそも、その小学生の時のおれの予想って当たってんのか?」
「それはー……ソウデスネ」
「なんだそりゃ」

 いきなりの棒読みにふきだしてしまう。

「当たってんだな?」
「うーん……おれの口からは何とも……」
「でも、当たってんだな?」
「うー……、当たってる……ってことだと嬉しい」
「ふーん……」

 当たってるってことだと嬉しい……

 友達と一緒にいる、恋人と一緒にいる、だと、それは事実だから、「当たってるってことだと」という言い方にはならない。……って、ことは。

「…………あ」

 急に、思い出した。

 小学生の時のおれ。
 専門学校に通い始めた姉が、忙しくて家にいる時間が短くなって、夏休みもいつもなら宿題をみてくれるのに、全然いなくて、寂しくて……

 それで、希望もこめて、『椿姉と一緒にいる』といいたかったけど、言えなくて、それで……

『大好きな人と一緒にいる』

 そう、答えたんだった。

「あーーーなるほどな」

 当時のおれ、ナイスだ。「大好きな人」って大雑把な括りにしてくれたおかげで、色々ごまかせるじゃねえか。

 確かに、当時は「大好きな人」は椿姉だったけど……

「当たってるな……」
「え?! 思い出したの?!」

 ぱあっと顔を明るくした浩介に、コックリとうなずいてやる。「大好きな人」は、高校1年生からは浩介一択だ。

「『大好きな人と一緒にいる』だろ? お前と一緒にいたんだから、大当たりじゃねえかよ」
「わ~~慶~~~」

 浩介が嬉しそうに両手を広げた……けれど、こんな家の近所の往来でハグするわけにもいかず、片手だけハイタッチしてやる。

「ほら、さっさと帰るぞ?」
「え?! さっさと帰るって! それはお誘いと認識しても……」
「あほかっ。雨降りだす前に帰るんだよっ」

 あいかわらずのアホな発言に笑ってしまいながら、軽く走り出すと、

「わあ、待ってよ!」

 浩介もすぐに横に並んで走り出した。

 1999年7の月も一緒にいたおれ達。
 今も、これからも、ずっと一緒にいる。


 
---

お読みくださりありがとうございました!
久しぶりの更新となってしまいました。
なんかねえ、書いては納得いかず止めて、というのがいくつかございまして。下書きばかりが増えていく日々でございます。

これじゃー、この人ブログやめちゃった?って思われてしまうー!と心配になって、急遽、短いのをパーっと書いてみました。
「大好きな人と一緒にいる」って話、9年前(2015年)に書いているのですが、その時は浩介視点だったので、慶が実は椿姉を想定してそう言ったってことは書けなかったのでした。
南ちゃんが「旦那さんといる」って言ってるんだから、慶だって「奥さんといる」っていうはずでしょ? でも、それをそういわず「大好きな人」と答えたのは、そういう裏事情があったからなのでした。本当の「大好き」な人と出会えて良かったね!

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BL小説・風のゆくえには~握手記念日

2024年05月17日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切
2024年5月10日(金)朝のお話です。


【浩介視点】

 5月10日は、高校生になって、慶と初めて話した記念日だ。
 あの体育館の入り口での出会いは、今でも昨日のこと……まではさすがに大げさだけれども、かなり鮮明に覚えている。

(慶は覚えてないだろうな……)

 出会い自体は覚えているだろうけど、今日が記念日だということは覚えていないだろう。
 記念日を気にしない慶にそれを強要するのは申し訳なくて、「付き合いはじめ記念日」の12月23日と、「愛してる記念日」の11月3日以外の記念日は、自分だけで振り返ることが多い。

(あの時、「よろしくお願いします」って握手した)

 勇気を出して、あの高校に入学して、バスケ部に入って、本当に良かった。

 そんなことを思いながら、横で寝ている慶の寝顔をジッと見ていたら、その綺麗な長いまつ毛がゆっくりと持ち上がり、湖みたいな瞳がこちらを見返してきた。

「…………何時だ?」
「ごめん、起こした?」
「いや……、5時半、か」

 慶の視線が棚の上の目覚まし時計に行ってから、おれのところに戻ってきた。

「もう起きるのか?」
「ううん。まだ、慶の寝顔みていたい」
「………なんだそりゃ」

 慶はふっと笑うと、また瞼を閉じた。今日は、洗濯をしない日なので、あと一時間は眠れるのだ。

(……………)

 至近距離の慶……
 綺麗な顔だな……とあらためて思う。あの時もそう思った。そして、握手したその手がすごく温かかったこともよく覚えている。

(……手、触ったら起きちゃうかな……)

 握手したいな……

 あの時を思い出して、強烈にそう思う。

 でも、起きちゃうかな……

(ううう………、我慢我慢……)

と、布団の中でモゾモゾと手を動かしながらも、我慢していたら、

「!」

 いきなり、手をつかまれた。

「…………慶?」

 見返すと、慶は、ちょっと笑ってから、小さく言った。

「…………よろしくお願いします、だろ?」
「!」

 びっくりして強く握り返してしまった。

 慶、覚えててくれたんだ! 嬉しい!

「うん! よろしくお願いします!」
「……おお」

 慶は照れた表情を隠すためのように、すいっとこちらに身を寄せてきて、おれの胸のあたりに顔をうずめた。

「……まだ寝る」
「うん」

 右手は握手をしたまま、左腕でギュッと抱きしめる。

(あの日から何年たったんだっけ……)

 あの頃は、こんな幸せが手に入るなんて想像もできなかったな……

(慶………)

 覚えててくれてありがと。これからも、よろしくね?

 そんな気持ちをこめて、そっと額に口づけると、慶の温かい腕がギュッと抱きしめ返してくれた。



---

あいかわらずなんのオチもない小話、お読みくださりありがとうございました!
5月10日(金)の朝に上げようと思ってたのに、書き終わらず、結局一週間の遅刻となりました。

慶君、「覚えてた」というより、浩介が手をモゾモゾしているのを見て「思い出した」のでしょうね。5月10日の話は前にもしたことあるので…

高校1年生、慶と握手した直後の浩介君の様子がこちら→遭逢4(浩介視点)
今でいうところの「推し」に会えちゃったあとのアワアワ感がなんか可愛いのです。

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BL小説・風のゆくえには~嫉妬の権化の二人の話

2024年03月15日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切
【慶視点】

 母から『慶って、火曜日休みよね? 今度の火曜日空いてる?』という電話がかかってきたのは、土曜日の夜のことだった。

 なんでも、妹の息子・守君から、学習支援のボランティア活動の手伝いを頼まれたのだという。

『普段は守君以外にボランティアさんが3人いるんだけど、2人がインフルで来られなくなっちゃったんだって』
「お母さんがいけば?」

 言うと、『無理!』と母が間髪入れず言い返してきた。

『算数とか数学とか英語とか、私ができるわけないでしょっ』
「そんなのおれだって……」
『それにその時間、私は同じフロアで子ども食堂のお手伝いしてるっていったじゃないの。だからそれもあって無理』
「あ、そっか」

 そういえば、前に会ったときにそんなこと言ってたな……

「えー…、おれにできるかなあ……」
『できるわよ! コウちゃんに教えてもらいなさいよ!』
「あー……うん……」
『詳しいことは、守君から連絡してもらうから!いいわね?!』
「うん……」

 昔から、母のこの強引なところには逆らえない。

 電話を切ると同時に、浩介が心配そうにこちらを振り返ってきた。

「なんだったの?」
「あー……」

 すとん、と浩介の横に座り、今聞いた話をそのまま伝えていたところで、守君からLINEが入った。その学習支援ボランティアのチラシもついている。

「対象は、小学生と中学生。予約無しで突然きてもOKだから、何人くるのかも読めないんだな」
「いつもだいたい10人前後。高校生の子が来ることがある……か。なるほど」

 浩介はふーん、とうなずいたかと思うと、あっさりと言った。

「おれも行くよ」
「え、でもお前仕事……」
「5時からでしょ? 間に合わせるよ」
「そうか」

 正直、ホッとする。勉強を教えるなんて経験、ほとんどないので不安しかない。

「良かった。お前がいてくれたら心強い」
「…………そう?」

 浩介は気まずいような、ちょっと変な顔をして、「お茶入れるね」と立ち上がり、台所に向かった。……なんだ?

「浩介?」
「何?」

 振り向かない浩介。やっぱり変だ。

「……どうした?」
「…………」
「…………」
「…………」

 浩介、茶筒を持ったまま固まっている。

「浩……」
「…………いやになる」
「え?」

 嫌になる?

「何が?」
「自分の心の狭さが」
「え」

 心の狭さ?

 何を言って…………

「今……、わーっと、慶の先生姿を妄想しちゃって……」
「妄想?」

 なんの話だ。

「だって、こんなカッコいい先生きたらみんなテンション上がっちゃうよ。きっと小学生は親のお迎えあるし、そしたら親御さんが……」
「なんだそりゃ」

 どういう妄想だ。

 浩介は真顔で続けてくる。

「で、自己嫌悪に陥ってたの。学習支援はとても良い活動で、おれだって純粋に応援したいのに、そんなこと思って……、本当におれ、心狭すぎるよなあって……」
「…………」

 …………。
 …………。

 ええと………

「お前さあ……」

 固まっている浩介の脇腹に、軽くグーパンチをいれてやる。

「前も言ったけど……、お前、おれのこと美化しすぎだよ」
「そんなこと……」
「おれ、今年で50だぞ? 50のオッサンのこと誰もそんな風に……」
「思うよ! そもそも慶は50に見えないっ。30代でも通用するっ」
「んなアホな」

 呆れるを通り越して笑ってしまう。でも、浩介は眉間にしわをよせたまま、ぽつりといった。

「だから心配で、おれも一緒に行きたいって思っちゃったの。本当は純粋にボランティアに参加したいって思わないといけないのに……」
「あー……、ま、いいんじゃね?」

 バシバシと腕を叩いてやる。

「理由はどうあれ、お前が来てくれるのはありがたい。浩介先生」
「うん……」

 茶筒を置き振り返った浩介。

「慶……」
「なんだ」
「ごめんね」

 言葉と共に抱き寄せられた。耳元で声の続きがする。

「ごめん。いくつになっても嫉妬深すぎて」
「別に謝る話じゃねーよ」
「でも」
「でもじゃない」

 ぎゅっとこちらからも力をこめて抱きしめてやる。

「お前の嫉妬は心地良い」
「…………」
「もっと嫉妬しろ」
「…………」

 浩介はふっと笑うと、ゆっくりと唇を落としてきた。


**


 火曜日。

 学習支援ボランティアの手伝いは無事に終了した。

「さすが浩兄は学校の先生なだけあって、教えるのうまいよね」
「だろ?」

 守君の言葉に得意になってうなずいたものの……

「浩介せんせーい! これはー?」

 ボランティアの女性にまとわりつかれているところを目の当たりにして、

(もう二度と来させねえぞっ)

って思ってしまったおれは、相当に心が狭い。自覚はある。






---

お読みくださりありがとうございました!

「いいかげん長い話を書きたい病」を発症しまして……
今、頭の中を巡っているのは、守君の話なのです。
まだ全然固まっていないため書けないのですが、前回の投稿から間が空きすぎて「この人ブログやめちゃったのかな?」と思われちゃうー!と心配になって、ちょっと書いてみた!嫉妬の権化の二人のお話でした。いくつになっても嫉妬しあってて鬱陶しい笑
相変わらずの「誰得?いいの。私が読みたいからいいの……」の自問自答の末の物語にお付き合いくださって、本当にありがとうございました!

守君のことは前々から気になっていたのです。
守君は、慶の妹・南ちゃんの旦那さんの連れ子で、1985年生まれなので、今年で39! ひえー……時がたつのは早すぎます。こないだ中学生だと思ってたのに……。

ということで。
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BL小説・風のゆくえには~眼鏡の話(後編)

2024年02月09日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切
【慶視点】

 話は高校生時代に遡る。

 浩介と享吾は同じバスケ部だった。
 そのバスケ部男子の中で、とある女子……ずっと眼鏡だったけれど、ある日突然、コンタクトにしてきた女子のことが話題になり、

「眼鏡やめて正解」

 という意見が大半をしめる中で、一人の部員が、

「オレは眼鏡の方が好き」

と、言い出したそうだ。

「眼鏡の子が、時々、眼鏡外した時に、『え、かわいい』ってドキッとなる感じが更にいい」

 なんて、マニアックな意見まで言い出し、賛否両論巻き起こった中で、享吾は断然「眼鏡賛成派」だったそうだ。


「村上って、普段こういう話に全然乗ってこないのに、この時だけは、すごーく食い気味だったから、印象に残ってるんだよねえ」

 記憶をたどるように、天井を見上げながら浩介が言った。

「だからきっと、村上の好きな子は眼鏡かけてるんだろうなあって、その時思ったんだけど、正解だったね」
「……………………………」

 ぐっと詰まったようになったテツの顔がみるみる赤くなっていったのは、酒のせいだけではないだろう。

「あ、そうだ。しかもね、現国のゆっきー先生って覚えてる?」
「あー、結構美人な…」
「おばさんになりかけの先生だったよな?」

 言い合ったおれとテツに「そうそう」と浩介がうなずいてみせた。

「ゆっきー先生、時々、眼鏡をヘアバンドみたいにあげることあったじゃない? さっき、村上がしてたみたいな感じに。今思い返せば、あれ、老眼だったからなんだろうけど」
「…………」
「あれも、かわいいって話になって、村上も同意してた」

 テツと享吾は名字が同じ「村上」だから話がややこしい。でも浩介はそのまま二人とも「村上」でいくつもりのようだ。

「だから、きっと、村上は村上が遠近にしたことで、眼鏡外さなくなっちゃったことが残念でため息ついてるんだと思うよ」
「そうかなあ……」
「そうだよ!」

 浩介が自信たっぷりにうなずいている。

「今日帰ったら、是非、眼鏡こうやって外してみて。絶対喜ぶよ!」
「えー……」

 助けを求めるようにこちらを見たテツに、軽く肩をすくめてみせる。

「やるだけやってみろよ?」
「やってみて!やってみて!」
「う…………」

 勢いにおされてうなずいたテツ。


 とは言うものの……
 正直、この歳になって、それでため息つくだの喜ぶだのって、そんなことあるかよ……と思っていたのだけれども……

 数時間後、テツからLINEがきた。

『桜井の説、当たってた』
『ずげー』

 ………マジか。

「…………だってさ」

 スマホの画面を見せてやると、浩介は「でしょ?」と得意げにVサインを作った。

「三つ子の魂百まで、だね」
「…………」

 若い時ならともかく、今年50の男に、そんなかわいさ?を求めるって……

「享吾もなんつーか……相当、変な奴だな」

 思わず本音をつぶやくと、

「えー!変じゃないでしょっ」

 むきになったように浩介が言い返してきた。

「おれは、慶が眼鏡かけなくなったら、ため息どころの騒ぎじゃないからね!」
「なんだそりゃ」

 眼鏡って言っても、老眼鏡だっつーの……

「もちろん、素顔の慶もかっこいいんだけど!でも、でも!眼鏡かけてる慶もかっこよすぎるんだもん! 誰にも見せたくないって気持ちとみんなに自慢したいって気持ちが錯綜して、ほんと困ってるんだからね!それくらいかっこいいんだからね!」
「……。お前、それ、前から言ってくれてるけど、これ、老眼鏡……」
「老眼鏡でもかっこいいの!」

 浩介が興奮したようにまくし立ててくる。

「おれ、眼鏡の慶が見られるようになって、老眼に感謝してるんだから! 村上もきっと、眼鏡を外す村上を見られるようになって、老眼に感謝してると思うよ!絶対!」
「……なんだそりゃ」

 訳が分からない話になってきた……が。

 老いたことをマイナスに思わずにいてもらえることは、有り難いというか……

「……幸せだな」

 思わずつぶやいてしまったおれに、「うん!」とうなずく浩介。

「幸せだよー。こんなにかっこいい人と一緒にいられるなんて、本当に幸せ者だよー」
「あー……、そうじゃなくて」

 こんな風に、何年たっても思ってもらえるなんて、本当に幸せなことだと思う。
 そして……

「そうじゃなくて?」

 きょとん、とした浩介。
 昔から変わらない表情。おれも、何年たっても、この表情がかわいくて、愛しくて、たまらない。そんな相手と一緒にいられることが……

「そうじゃなくて……」
「うん」
「おれがお前と一緒にいられて幸せって話」

 言いながら、耳のあたりに軽くキスしてやると、

「……え」

 浩介がびっくりしたように目を丸くしてから、ふにゃ〜とこちらにもたれかかってきた。

「慶ー……幸せー……」
「……そうだな」

 浩介のこういうところも、変わらず愛しいと思う。

 どれだけ年齢を重ねても、変わらない。そんな日々が続いていく。

(……そうは言っても、老眼に感謝はしねーけどな)

 治せるものなら治したい。誰か特効薬作ってくんねーかな……と、常々思っていることは言わないでおく。



---

お読みくださりありがとうございました!
ただイチャイチャさせたかっただけのお話にお付き合いくださり本当にありがとうございます……なんかすみません……
なんか……なんでしょう……
いいかげん長い話を書きたい……けど、そうなると慶と浩介の話じゃなくなる……。二人が出てこないことに耐えられる自信がない私……

という感じで……

読みに来てくださった方、ランキングクリックしてくださった方、本当にありがとうございます!また……


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BL小説・風のゆくえには~眼鏡の話(前編)

2024年01月26日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切
登場人物

渋谷慶(しぶやけい)
小児科医。中性的で美しい容姿に反して性格は男らしい。身長164cm。
『風のゆくえには』本編主人公1。

桜井浩介(さくらいこうすけ)
フリースクール教師。慶の親友兼恋人。現在慶と同棲中。身長177cm。
『風のゆくえには』本編主人公2。

村上哲成(むらかみてつなり)
色白、眼鏡、身長159cm、某電機メーカー子会社勤務。
慶とは小・中・高と同じ学校。
中学からの同級生・村上享吾と長い長い回り道した末に、ようやく一緒に住むことになったのが2019年夏のこと。

村上享吾(むらかみきょうご)
容姿端麗。人目を引くイケメン。身長178cm。会計事務所を個人経営している。
『風のゆくえには〜二つの円の位置関係』主人公2。

2024年1月のお話。



【慶視点】

 小学校中学校高校、と同じ学校だった村上哲成・通称テツがうちに遊びにきた。

「あ、渋谷!老眼鏡!?」
「……おお」

 スマホをみるために眼鏡をかけたところを目ざとく指摘され、素直にうなずいた。あと数ヶ月で50の大台に乗るんだから、老眼鏡くらいしていてもおかしくない!

「テツは老眼きてないのか?
「いや、きてる。だから年末に遠近に替えた」
「あ、そうなんだ」

 前に会った時と眼鏡の印象が変わらないため気が付かなかった。聞いたところ、わざとほぼ同じデザインを選んだそうだ。

「なんだけどさあ……」

 テツが何かを思い出してムウっと口を尖らせた。

「キョウのやつ、オレが老眼きてるのが嫌らしくて、遠近に替えて以来、時々オレのこと見てため息つくんだよ」
「なんだそりゃ」

 テツの恋人である村上享吾とは、中学と高校が同じだった。口数の少ない大人しいやつだ。

「眼鏡のデザイン変わってないんだから、見た目変わんねえだろ」
「たぶん、遠近にしたって事実が嫌なんだろうな。老眼を認めたようで……」

 一人で納得したようにうなずいているテツに対して、浩介が首をかしげながら聞いてきた。

「最近急に老眼になったの?」
「いや、数年前から来ててさ、遠近にする前は、見えない時は眼鏡外して見てた」
「あー、近視の奴ってそうだよな」

 眼鏡を外すと見えるっていうんだから、面白いなあと思う。

「うん。いちいちこうやって外すの面倒くさくて」

 テツは眼鏡を頭の上にずらすと、肩をすくめた。

「遠近はいいぞ。こんなことしなくてもそのまま見える」

 すると………

「あ」

 浩介が何かに気が付いたように口に手をあてて「あ」と言った。

「なんだよ?」
「分かったかも……

 ? 何が?

 おれとテツが同時に言うと、浩介はにっこりとして、言った。

「村上がため息ついていた理由、だよ」
 

後編に続く

---

お読みくださりありがとうございました!
って、たいした話じゃないのに、前後編に分けちゃった…。だっていつまでも書き終わらないんだもん…。このままじゃ「この人ブログやめちゃったのかな?」と思われちゃう💦と思って、とりあえず書けたところまで載せてみました!

えーと、テツ達が遊びに来た話
を書いてから、3年も経っていたことに衝撃を受けております……
時がたつのは本当に早いですね…

読みに来てくださった方、ランキングクリックしてくださった方、本当にありがとうございます!また後編で……


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