創作小説屋

創作小説置き場。BL・R18あるのでご注意を。

BL小説・風のゆくえには〜40年記念だった(前編)

2023年06月20日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切
【慶視点】

 何となく、浩介の元気がない……気がする。

(いつからだ?)

 ここ最近忙しくて気がついてやれなかったことに、後悔の波が押し寄せる。が、後悔ばかりしていてもしょうがない。なんとかしたい。

(でも、大丈夫か?って聞いたって、大丈夫って言われるよなあ……)

 うーん……と腕組みをしてソファに沈みこんでいたところ、

「どうかした?」

 当の本人が風呂から出てきて、向かいの地べたにストンと座った。

「難しい顔して……仕事でトラブルでもあった?」
「あ、いや……」

 心配してるのに心配されてしまった……

「なんでもない……」
「そう? おれに出来ることあったら言ってね?」
「…………」

 …………。

 …………。

 なんでそうなるかなあ……。おれはお前の心配したいのに……

「お前さ……」
「うん」
「…………」
「…………」

 出来ることがあったら言えっていうなら……

正直に答えろ」
「え?……、て?」

 手を伸ばして浩介のアゴを掴むと、きょとん、とした瞳が見返してきた。

「何?」
「…………。お前、なんかあった?」
「…………」
「…………」
「…………」

 目をそらした浩介。

「何も……」
「なんか、元気がない気がするのは、気のせいじゃないよな?」
「………っ」

 はっとしたようにこちらに視線を戻してきた。

「それは……」
「それは?」
「…………」
「…………」

 じっと見つめて……

 そうしていたら……

 気がついたら、唇が重なっていた。
 まるで、初めてしたときのような……自然に、どちらからともなく、吸い寄せられたキス。

(…………何年ぶりだ?)

 コロナ禍で、唇へのキスはずっと避けていた。
 だから……3年ぶり、か?

(ああ………)

 愛おしい。

 愛おしさが溢れてくる。



 後半中編に続く


---

お読みくださりありがとうございました!

数日前にパソコンが壊れまして……
でもどうしても書きたくて書きたくて。
初めて(だと思う)全部スマホで書きまして。
なんか……なかなか進まなくてもどかしかったです。
というか、本当は一回で終わらせるつもりだったのに、無理だった……
そういうわけで、後編に続きます。

実は浩介父の若い頃の話の続きを書きかけていて、一話は書いて保存してあるのですが……なんか…間があくのも何なので、書き終わってからアップしたほうがいい気がしていて……
でもそうすると、ずっとここの更新がなくなってしまうので……
時々、小話をアップできたらなあと思っております。
そういうわけで、後日(一ヶ月以内にはあげたい)、後編を……

※といいながら、長引いて、前中後となります💦

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BL小説・風のゆくえには〜40代最後の誕生日

2023年05月12日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切
【浩介視点】

「なんかさあ……、最近、さらに月日が過ぎるの早すぎんだけど」

 4月28日金曜日。慶の誕生日の夜の食卓。オムライスを前に、慶が溜息まじりに言った。

「ついこないだ、誕生日にこのオムライス作ってもらった気がするのに……」
「本当だねえ……」

 今年も「あのオムライスを」と言われて、卵トロトロのオムライスを1年ぶりに作ったのだけれども、体感的には、3ヶ月くらい前のことのような気がする……

「こういう現象のこと『ジャネーの法則』っていうんだよね」
「あー、なんか聞いたことある。フランスだかの哲学者が提唱したんだよな……って、うわあーやっぱこれ、うめーなー」
「………」

 ものすごく嬉しそうに食べてくれる慶の横顔に、こちらも笑顔になってしまう。大好きな慶の誕生日に一緒にいられることが本当にうれしい。

 慶は今日で49歳になった。あのキラキラな渋谷慶があと1年で50歳になるというのだから、時の流れは恐ろしい。でも相変わらず若々しいので、30代と言っても誰も疑わないだろう。

(ああ、40代もあと1年で終わりかあ。早いなあ……)

 39歳の誕生日の頃は、二人で東南アジアのとある国で暮らしていた。
 忙しくて、一緒にいられる時間は今よりも少なかったのに、今よりも「慶を独占できている」と感じられたのは、異国で二人で暮らしていたからだろうか…

 29歳は、おれがアフリカに行って一年目、離れ離れになる3年間のはじまりの頃。この頃のことはあまり思い出させたくないのが本音だ。

 そして、19歳の時は、慶が浪人生。おれが大学一年生。初めて体を重ねたのがこの頃……

(あれから何度、一緒の夜を過ごしただろう……)

 今日は……どうするのかな。

と、ちょっと真面目に考える。

 ここ最近、昔に比べて回数が減っている(とはいえ、月に2回はあるから、この年齢にしては多い方らしいけど)のは、年齢が上がったから、ということももちろんあるのだろうけれど、コロナ禍で慶が心身ともに疲弊していることと、それを思って誘いにくい、ということもある。それに、寝室を別にしていることも影響していると思う。

(コロナ前は、自然な形ではじまること多かったのになあ……)

 今は、声かけが必要というかなんというか……

(連休明けには、5類に移行するっていうし……。5類って季節性インフルエンザと同じ扱いなんだよね? そしたらもう、寝室も一緒でいいんじゃない?)

 言いたいけど……言えない。あえて、この手の話題は避けているので、医師である慶の考えは、聞いたことがない。

(慶……どう思ってるんだろう)

 もう3年も、寝室を別にしている。もしかして、一人の方がのびのび寝られて快適、とか考えてたり……

(……したらどうしよう……)

 うーん……。と、ご飯を食べる手が止まってしまう、と。

「どうした?」

 ぽん、と腿の上に手を置かれた。コロナ禍になってからは、リビングでソファを背もたれにして横並びに座って食べているので、膝と膝もくっついている。それは嬉しくていい。

「なんかあったか?」
「あ……、うーんと」

 心配そうに言ってくれる慶に、咄嗟に言い訳を探しだして返す。

「ゴールデンウィーク、結局どうするか決めてないな、と思って」
「ああ、そうだな」 

 疑う様子もなくうなずいてくれた慶。

「こどもの日は、町会のイベントだよな。晴れそうで良かったよな」
「だね」

 昨年末に慶も町会に加入したため、以前よりもさらに町会に関わることになった。慶のコミュニケーション能力の高さは相変わらずだ。

「まあ、ゴールデンって言っても、結局、仕事入ってるから、純粋に二人とも休みなのは、明日明後日と、3日と5日だけだもんなあ」
「うん。最後の7日の日曜日は、6日の土曜日が仕事だから、普通にいつもの日曜日と一緒って感じだしねえ」

 そして、8日の月曜日からはコロナが5類に移行しますが……、と言いたいところをグッとこらえる。

「明日どこか行く?」
「そうだなあ……、でも、人出多そうだしなあ……」
「…………」

 やっぱり人出が多いところは避けたいってことか……。
 当たり前だけど、まだまだ慎重ってことだ。
 と、いうことは、やっぱり5類に移行したところで変わらないってことだ……。

(だよね……)

 一緒のベッドで寝るのはまだまだ、夢のまた夢……

 ずーんと落ち込んで、黙ってしまっていたら、

「あ、ごめん」

 慶が慌てたように言葉を継いだ。

「お前出かけたかった? おれに遠慮して我慢するのやめろよ? おれそういうの本当に……」
「あ、違う違う」

 おれも慌てて手を振って言葉を遮る。

(やっぱり嘘や誤魔化しはよくないよな……)

 変な誤解をされる前に、本当のことを言おう。

「あのね……」
「おお

 本当は……

「……慶と一緒に寝たいな、と思ったの」
「寝る?」
「うん」
「………」
「………」

 慶はパチパチパチと、綺麗な瞳を瞬かせると、

「えーと? 寝正月のゴールデンウィーク版ってことか?」
「…………」

 違う。

 ……けど、まあ、それでいっか。

「うん。寝ゴールデンウィーク」
「なるほど。楽しそうだな」
「うん」

 ふふふ、と笑い合う。

「なんか映画とか観ようよ」
「おお。いいな」
「でね、お昼はピザ取るっていうのどう?」
「おー!賛成!」
「決定!」

 思わず、学生の頃のように、手と手をパンッと合わせて打ちならし、笑いだしてしまう。

「あー、良いゴールデンウィークになりそうだなー」
「そうだね」

 49歳になったけど、少しも変わらない、大好きな大好きな慶。

「ご飯食べ終わったら、誕生日ケーキだすからね?」
「お。サンキュー」

 嬉しそうに笑った慶が、愛しくて愛しくてたまらない。

 一緒に寝られる日はまだまだ先になりそうだけど……こうして一緒にいられる。笑い合える。それだけで、満足しよう。

「お誕生日おめでとう、慶」

 心をこめてささやくと、慶は照れたように笑った。



---

お読みくださりありがとうございました!
慶君、昭和49年生まれ49歳です!時が経つのは早いですね〜💦

浩介ってば、嘘や誤魔化しはよくないっていいながら、結局、本当のこと言わなかったな……
まあ、本音を全部言えばいいって話でもないしね……

私、長編はちゃんとプロット立てるのてすが、このくらいの短編は、お題だけ与えてあとは彼らに勝手に話してもらうので、どんな話をするかいつも楽しみなんです。
まさか今回、ベッドの話をするとは、ちょっとビックリというかなんというか。いや〜そうだよねえ。まだ別々だもんねえ……。早く一緒に寝られる日が来ますように!

ということで、読みに来てくださった方、ランキングクリックしてくださった方!本当にありがとうございました!

いつになるか分かりませんが、また次もよろしければ、よろしくお願いいたします。


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BL小説・風のゆくえには〜誕生日話予告のみ

2023年04月28日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切
本日、4月28日は、「風のゆくえには」の主人公1・渋谷慶君の誕生日です。
誕生日話を書こうと思っていたのに、気がついたらもう当日の朝でした……

慶君、昭和49年生まれ49歳です。
時が過ぎるのは早いものです。
そんな話を、書くはずでした。
またそのうち……

とりあえず、慶君、お誕生日おめでとう!
と、当日言いたかったのであげさせていただきます〜。


寒暖差の激しい日々ですが、どうぞ皆様ご自愛くださいませ。
明日からGWですね。楽しまれる方どうぞ楽しんで!
私は仕事だったり休みだったり……普通に過ごします。

---



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本当にありがとうございます!


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BL小説・風のゆくえには〜王子の王子とバレンタイン(後編)

2023年03月14日 09時53分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切
【渡辺恵視点】

 せっかく、私と王子、山田さんと三ツ谷君のダブルデートだと思ったのに……なぜか、王子の親友・桜井浩介がくっついてきてしまった。

『今後、彼に色目を使うようなことがあったら、容赦なく虫扱いです』

と、桜井浩介から、真面目な顔で冷たく言われたのは数ヶ月前のこと。

『彼を守ることが僕の使命なので 』

とも言っていたので、もしかして、この策略がバレて王子を守りに来たのだろうか……と身構えていたら、そうではなかった。王子・渋谷慶君が無理を言って、桜井浩介に同行をお願いしたそうだ。

「おれ、洋服とか全然わかんないからさ……」

と、困ったように言った渋谷君の言葉に、「ぐぬぬぬぬ……」と声なき声が出てしまう。

 今回、このダブルデートを無理矢理2月14日に設定する理由として、

『山田さんの彼氏・三ツ谷君のスーツを一緒に選んで欲しい。今月末に高校時代の先輩の結婚式に参列するんだって!』

というものをあげていた。

『スーツのお直しの時間も考えると、2月14日より遅らせるわけにはいかない』
『男性の意見も聞きたいんだけど、他の人にはバレンタインで約束があるって断られた。渋谷君は彼女いないし、バレンタイン暇でしょ?』

という自然な理由。かしこい私。……と、思ったのに、まさか、こんなことになるとは。ぐぬぬぬぬ……。

 桜井浩介は、ニコニコと、突然の飛び入り参加になったことを侘びた上で、

「おれも洋服とか分からないけど、彼女の友達が店長やってる店があって、おれもスーツはいつもそこで作ってて……」

と、愛想よく、山田さんと三ツ谷君に説明している。

 渋谷君は渋谷君で、

「おれも何回かそこで服買ったことあるんだけど、こいつと一緒にいくと、割引してもらえるんだよ」

と、自慢げに言って、桜井浩介の腕に腕をからめた。そして、「な?」と、上目使いで桜井浩介を見上げ……

(………かわいい)

 めちゃめちゃかわいい……なんだよそれ反則級のかわいさだよ……

 思わず、うううっと詰まっていたら、山田さんがアッサリと「それじゃ、そこでお願いします」と、うなずいた。三ツ谷君も元気よく「お願いします!」と返事している。

(くそー……山田め。断れよ!)

とも思ったけれど、まあ、冷静に考えてこれは断れない。断れないからしょうがないか……と思いながら、山田さんを見返したら、なぜか山田さんは、三ツ谷君と目と目で会話して、ニヤリと笑いあっている。

(………なんなの!?)

 せっかくダブルデートだったはずなのにーー!!


***


 桜井浩介が連れて来てくれたのは、有名なアパレルブランドのお店だった。『彼女の友達』という店長さんも、とてもお洒落で素敵な人だった。しかも、桜井浩介の彼女も、ものすごい美人だということが発覚した。店内のコルクボードに、写真が貼られているのを、渋谷君が教えてくれたのだ。学生時代にモデルをしたことがあるそうで……

「ものすごい美人……」
「だろー?」

 なぜか、渋谷君が自慢している。

「どこかで見たことあるような……」
「ああ、おれらと大学一緒だったから、見たことあるかも」
「そっか……」

 そうかもしれない。……なんてことはどうでもよくて。 

「っていうか、桜井さんは、今日、彼女いいんですか? バレンタインなのに」

 さっさと帰れ、の気持ちをこめて、桜井浩介を振り返ると、桜井浩介は軽く肩をすくめた。

「今日、仕事らしいので」
「…………そうですか」

 あー、なんかイチイチムカつくんだよな。この男……。なんでこんなにムカつくんだろう……。

 そんな私の内心をよそに、みんな真剣に三ツ谷君のスーツ選びをしはじめた。
 あーでもないこーでもないと好き放題言っていたけれど、結局、店長さんが薦めてくれた2つのうちのどちらかに……ということになり、三ツ谷君が試着室に入った。それと同時に、王子はワイシャツのコーナーに行ってしまった。

(……渋谷君、何か買うのかな?)

 それは……チャンスじゃないの! 私、選んであげちゃう!!

 やったー!と思いながら、そーっと、後ろから王子に近づいた……けれど。

「お前、これでいいんじゃね? 今持ってるのの色違い」
「そう?」

 王子が桜井浩介に話しかけているのが聞こえてきた。

「うん。これ、ラインが細身で似合ってるから」
「慶がそういうならそれにしようかな」
「おう。そうしろそうしろ」

 距離の近い2人……

「慶も何か買う?」
「あー、欲しいけど、金欠……」
「プレゼントするよ」
「でも」
「バレンタインだし」
「あ、そっか」

 …………。

 …………。

 …………………は?

 …………バレンタインだし?

「…………なんで?」

 なぜに、バレンタインでプレゼント? 誕生日とかならともかくバレンタインって……

「なんで?」
「なにが?」

 横でボソッと言われて、「おわっ」と飛び上がる。いつのまに山田さんが隣にいた。

「いるならいるって言ってよ!」
「何が、なんで、なの?」

 私の文句なんてものともせず聞いてくる山田さん。ほんとマイペースなんだよな……。じっと見てくるので、しょうがないから答えてあげる。

「いや……、桜井さんが渋谷君に何か買ってあげるって言ってて。で、それが、バレンタインだからって言ってるように聞こえたんだよ」
「……へえ」

 きらーんと山田さんの目が光った。そして、「それは……」と何か言いかけたけれど、

「山田せんぱーい」

 三ツ矢君の声が聞こえると、私を置いてさっさと行ってしまった。おいこら。

「ああ、三ツ矢君、着替え終わったんだ」
「あ、ホントだ」

 何て言いながら、王子と桜井浩介も三ツ矢君の方に行ってしまい…
 それから三ツ矢君のファッションショーが始まって、みんなでまたあーでもないこーでもないと言って……、気が付いたら、いつのまに桜井浩介は自分の買い物を済ませてしまっていた。

「何買ったんですか?」

と、聞いてみたけれど、「自分のシャツです」と答えられてしまい、

「さっき、渋谷君に何か買ってあげるとか言ってませんでした?」

と、ぶっちゃけてみたけれど、「そんなこと言ってません」としらっと言われてしまい……

(あーーー、モヤモヤするーーー!!!)

 絶対聞いたのに、こうもハッキリ否定されては、何ともしようがない。


 それから5人でホテルのケーキの食べ放題に行って、楽しく盛り上がり(渋谷君のケーキを取ってあげようとしても、すべて桜井浩介に邪魔されたけど…)、約束の夕方が来て、解散することになった。 
 
 帰り際、

「今日はせっかくバレンタインだからチョコ持ってきたのっ」

 なんとか隙をみて、コッソリと渋谷君に渡そうとしたけれど、

「ごめん、受け取れない」

と、アッサリ断られ、「じゃ、また明日!」と爽やかに手を振られ……

 そうして、桜井浩介と肩を並べて歩く渋谷慶王子の後ろ姿を見送って、私の今年のバレンタインは終了した。

 …………。

 …………。

 …………。

 なんなんだーーー!!


「ナベちゃん」
「何よ!?」

 山田さんの声に思い切り振り返ると、山田さんは苦笑しながら言った。

「これからどうする?」
「は?」
「私達は、ちょっと散歩でもしてお腹減らしてから、夜ご飯食べに行こうと思ってるんだけど……」
「…………」
「…………」
「…………」

 いつもながらの無表情の山田さん。その横でニコニコしてる三ツ谷君。

 今日はバレンタイン。このまま二人と一緒にいたら、私がお邪魔になる。そんな屈辱的なことするわけがない。

「もう帰る」
「そう?」
「帰って作戦練り直す」
「ふーん……」

 軽く肩をすくめた山田さん。

「じゃあ、頑張って」
「…………」

 いつもは気にならない山田さんの冷静な言い方が、上から目線に聞こえるのは、私の心の問題なんだろう……

「また明日」
「ありがとうございました!」
「じゃあね」

 お似合いなんだかお似合いじゃないんだかよく分からないカップルに手を振り、帰路についた。


「あーあ。せっかく上手くいくと思ったのに……」

 帰り道、延々と頭の中で反省会をする。でも行き着く結論は、どうしてもこれだ。

 今日の失敗は、すべて桜井浩介のせいだ!

 あの王子の王子をどうにかしないことには話が進まない。

「桜井浩介……」

 絶対に攻略してやる!

と、心に誓ったバレンタインの夜だった。

 
---

お読みくださりありがとうございました!

1ヶ月かかった(T_T)しかも定期の火曜日7:21に間に合わなかった…
でも、今日中にあげたいのであげちゃいます!

書けなかったこと……
慶が浩介の「彼女」をナベちゃんに自慢していたのは、実はナベちゃんに対する牽制だった、とか。(浩介には彼女いるからちょっかい出すなよ!っていうね……。自分が狙われているという自覚がない鈍感王子)
あとは、山田さんの彼氏・三ツ谷君は腐男子なので、二人で浩介&慶を観察して楽しんでいた、とか……。

そんな感じで、また……

読みにきてくださった方、クリックしてくださった方、本当に本当に本当に!ありがとうございます!


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BL小説・風のゆくえには〜王子の王子とバレンタイン(前編)

2023年02月14日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切
<登場人物・あらすじ>

渋谷慶……医学部5年。身長164センチ。中性的で美しい容姿。でも性格は男らしい。
桜井浩介……高校教師2年目。身長177センチ。外面明るく、内面病んでる。慶の親友兼恋人。

渡辺恵……医学部5年。身長155センチ。慶と同じ実習グループの一人。あだ名はナベちゃん。本読み切りの主人公。


高校2年生のクリスマス前日から晴れて恋人同士となった慶と浩介。
それから7年。浩介が就職して、慶の大学の近くにアパートを借りているため、現在は半同棲状態。
カミングアウトはしていないため、まわりには仲の良い親友と言っている。

渡辺恵ちゃん、2回目の登場です。
短編「王子の王子」で、浩介に、慶に手を出さないよう釘をさされた女の子です)




【渡辺恵視点】


「バレンタイン、今年こそは!って思ってるのよ

 実習の帰り道、同じ班の山田さん(サバサバしてて、全然洒落っ気なくて、女捨ててる女子)に打ち明けたところ、山田さんは間髪入れず、

「王子は今年も『誰からも受け取らない』宣言してたから難しいんじゃない?」

と、いやーなことを言った。

 そんなこと知ってるっつーの。だから今、話してるっつーの!

「でも! 義理は受け取るでしょ?だから……」
「義理も、連名の場合のみだったよね?」
「だからー!」

 聞け!

「山田さんに協力してほしいんだって!」

 そう。渋谷君は、連名の義理チョコだけは何とか受け取る。そこを突くのだ。

「山田さんとの連名で、他の男子にも渡すようにして、その中に私の本命チョコを紛れさすのよ!」
「…………。あー、それはちょっと……」

 山田さん、珍しく返事に困ったように言葉を濁した。

「え、何? 何か都合悪い?」
「うーん……チョコ誰かにあげるのは、彼が嫌がるから」
「…………」
「…………」
「…………え?」

 何て言った?今。 え? 彼?

「彼…………って?」
「え?」
「え?」

 は?

「山田さんて……彼氏いるの?」

 現実に? 

「まあ……うん」
「…………」
「…………」

 気まずそうに頬をかいた山田さん。

 …………マジか。

「え、いつから?」

 そんな話、聞いたことない。全然男っ気ない……というか、女捨ててる感じのくせに、彼氏? 最近出来たってこと!? そんな話、聞いたこと……

「あー……、高3の卒業式から」
「はああああ!?」

 って、今、大学5年。5年付き合ってるってこと!?

「ちょっとーー!!そういうことは言ってよーー!!」
「いや……聞かれなかったから……」
「…………。そうだけど」

 だって……だって!当然いないと思ってたんだもん!聞いたら失礼だと思ってたんだもんーー!!

「……なんか、すごいショック」
「何が」
「私だけが不幸な海を泳いでいるということが」
「何それ」

 ふっと笑った山田さん。今までは感じなかったその乾いた笑いが、めちゃめちゃ上からな気がして…………ムカつくー!!

「こうなったら山田さん! とことん協力してもらうからね!」
「なにを?」
「なんでもだよ!!友達でしょ!?」
「そうだっけ?」
「そうだよ!」

 もー!!
 不幸な海から陸に上がってやるー!!


***


 山田さんの彼氏は、更にムカつくことに、めちゃめちゃ可愛い2つ年下の男の子だった。

『高校の漫研の後輩』

だそうで、今だに「山田先輩」「三ツ谷君」と呼び合ってるのが、また、微笑ましいというかなんというか!!

「山田先輩の彼氏の三ツ谷です」

 ニコニコ、と、これでもかというくらい愛想の良い笑顔。顔がすごく良いというわけではないけれど、その笑顔のおかげでものすごく可愛くみえる。その上、背も高い。何なんだコイツ!

「山田先輩の大学のお友達紹介してもらえるの初めてで、めっちゃ嬉しいです!」
「あー…、そう……」

 利用しようとしてるだけだから、ちょっと気まずい……。

 でも、でもでも。いいよね? 私だって幸せになりたいもん!

 今日は、バレンタイン!
 ダブルデートすることになったんだよ!

 ただ……

『三ツ谷君、演技とかできない子だから、内緒で協力は無理だからね?』

と、いうことなので、ダブルデート、とは言わず、ただ一緒に遊びに行く、ということになっている。

『山田さんの彼氏が渋谷君に会いたがってる!2月14日しか空いてない!』

と、ごり押しして、日にちを設定したのだ。渋谷君、夜は空いてないけれど、日中ならば……と何とかOKしてくれたわけで。

「今日はよろしくね」
「はい!」

と、三ツ谷君が元気よく返事してくれたのと同時に、

「悪い!遅くなった!」

と、待ち焦がれた声! 振り返ると、超、超、超、美形のその人が!

(きゃー!今日も紛れもない王子ーーー!)

 どうしてこんなにかっこいいのー!?

 もう、本当に、本当に、本当に…………と?

 あれ? あれれれれ……?

 その横にいるのは……………

「今日、こいつも一緒で」

 すいっと、横を指さした渋谷君。
 その横で、ゆっくりと頭を下げたのは……

 王子の王子、桜井浩介、だった……。


---

お読みくださりありがとうございました!

せっかく、バレンタインが火曜日なので、バレンタインネタをあげたくて!
何にしようかな〜〜何か若い頃の話が読みたいな〜〜と思った結果、1999年2月のお話にしました!
ナベちゃんと山田さん、また見てみたかったのでちょっと嬉しい。
続きはまた来週以降〜〜

読みにきてくださった方、クリックしてくださった方、本当にありがとうございます!


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