創作小説屋

創作小説置き場。BL・R18あるのでご注意を。

(GL小説)風のゆくえには~光彩6-1

2015年04月13日 13時07分03秒 | GL小説・風のゆくえには~ 光彩
 9月。新学期がはじまって5日目。

「せーんせ?」

 英語科準備室のデスクでボーっとしていたら、美咲にトントントンっと肩をたたかれた。

「なんでそんな浮かない顔してんの? 大丈夫?」
「浮かない顔なんてしてないよ~」

 言いながら笑顔を作ろうとしたが、引きつったことが自分でも分かった。

 綾さんと一緒に暮らしはじめて明日でちょうど2週間になる。

 綾さんが大けがをして入院することになったあの日、綾さんは離婚の道へ向かうことになった。
 離婚、という結論に至ったのはいいのだけれど、そんなに簡単に離婚というのはできるものではなく……。

 子供たちの親権や財産分与、といった大きな話から、保険の受取人の名義変更、携帯の契約変更、といった細かい話、その他諸々決めることがたくさんあり……
 その上、2月に亡くなったおじいさんの新盆の取り仕切りを綾さんがしていたため、8月の新盆が終わって落ちつくまでは引っ越しもできなかった。

 そして、8月23日(私の誕生日当日にしたのは、美咲の提案)に、ようやく綾さんがうちに引っ越してきてくれた。まだ離婚は成立していないけれども、夏休み中に母親がいない状態に少し慣らしてから新学期を迎えたほうがいいだろう、という配慮もあった。

 待ちに待った同棲生活。どんなに嬉しい日々が続くのだろう……と思っていたのだけれど……。

「ママと喧嘩でもした?」
「してないしてない」

 大きく手を振って否定してから、ふと不安になり、教え子にこんなこと聞くのもなあと思いつつも、誘惑に負けて聞いてしまった。

「……お母さん、何か言ってた?」
「ううん」

 今度は美咲が大きく手を振った。

「昨日、明日のダンスのステージ衣装のことで電話があったけど、何も言ってなかったよ」
「そう……」
「で、新生活はどう?って聞いたら、『普通』って言ってた」
「…………」

 普通……。ど、どういう意味なんだろう……。
 色々な思いがグルグルと駆け巡りそうになるのを、無理やりストップさせる。ここは学校。勤務時間中!

「そんなことより、美咲さん」
 先生の仮面をかぶり、美咲を見上げる。

「呼び出してごめんね。ちょっと気になることがあって」
「ママのことじゃなくて?」
「うん。菜々美さんとさくらさんのこと」

 途端に美咲の顔がこわばった。

「ちょっと、ギクシャクしてる感じじゃない?」
「えーーー、やだなあ先生」

 すぐに笑顔に戻った美咲。たいしたもんだ。

「女の子にありがちなやつだよ。私、演劇部の子たちと仲良くなっちゃったからさ。それでちょっとね」
「…………」
「大丈夫大丈夫。自分で何とかするから気にしないで」

 この明るさ、どこまで本心なのか……。

「さすが、あかね先生。普通の先生は気がつかないよ? 生徒の交遊関係まで見張ってるの?」
「一応、担任だからね。休み時間とか、まあ……ね」

 休み時間に目を光らせていると色々なことが見えてくる。美咲は今微妙な立場にいるのだ。

「本当に大丈夫? 困ったことがあったらちゃんと相談してよ?」
「はーい」

 こちらの心配をよそに美咲は少し肩をすくめると、そんなことより、とビシッと指をさしてきた。

「私のことより、先生はママを幸せにしてあげてよ?」
「…………」

 美咲は自分のことを『美咲』といわなくなった。大人になろうとしている現れなのか……。母親不在による精神的負担はどれだけのものだろう。それを与えてしまったのは私。
 再び教師の仮面を取り、美咲を見上げる。

「ねえ、美咲さん。やっぱり一緒に住むことは考えられない? 今のマンションが狭くて嫌なら引っ越しするよ?」
「またその話?」

 ふっと美咲が笑った。こういう表情、綾さんと似ている。

「せっかくの新婚生活、お邪魔虫になりたくないよーだ」
「そんな……」
「それにおばあちゃんを一人にしたくないし。お兄ちゃんも結局まだうちにいるしね」
「でも」
「あ、先生」

 話を打ち切りたいように、美咲がポンと手を打った。

「パパはまだママに未練タラタラだから気を付けてね?」
「え?!」

 あの男、納得したんじゃなかったの?!

「パパねえ、ママがいなくなって、ママのありがたみを思い知らされたみたい。普段の生活もだけど、法事関係とかお中元のお返しとか? あの若い愛人がママみたいにできるわけないもんね。あの調子じゃ再婚もしなさそう」
「…………」
「おばあちゃんも、せめておじいちゃんの一周忌までは離婚待ってくれないかなーなんて言ってた」

 そんなこと言われても手放すつもりは、ない。さっさと離婚してほしい。

「でも大丈夫! 私は二人の味方だからね」
 美咲がニッコリと言う。美咲……このままで本当にいいのだろうか? 自立を強要してしまっている。
 でも、これ以上綾さんをあのうちに縛りつけることは、どうしても我慢できない。

「美咲さん、何かあってもなくてもお母さんと連絡取りたいときはちゃんと電話とかしてね? うちにも遊びにおいで?」
「はいはい」

 美咲は子供をなだめるように言うと、

「ホントに私のことはいいから。先生とママは幸せに暮らすんだよ?」
「…………」

 あの日、「どちらかが幸せになるのなら、ウソが少ない方が絶対にいい」という美咲の言葉に背中を押され、奪う決心をした。
 「幸せになりなよ」と綾さんに言ってくれた美咲の思いが有り難かった。
 でも、今、綾さんは幸せに…………暮らせているのだろうか?


***


 これから帰宅することをメールすると「気をつけて帰ってきてね」と返事がきた。ホッとするのと同時に息が苦しくなってくる。地に足がついていないようなフワフワとした感覚のまま帰路につき……マンションが見える公園に差しかかるところで、大きく深呼吸をした。

(電気………ついてる)

 部屋の明かりを確認して安堵する。大丈夫。綾さん、いてくれてる。
 階段をのぼりながらも、口から心臓が飛び出してくるんじゃないかというくらい、大きく心臓が跳ね上がっている。震える手で鍵をあけ、ドアを開ける。

「おかえりなさい」
 明るい室内。エプロン姿の綾さんが、キッチンから顔をだした。おいしそうな匂い。
 あまりにも幸せな光景過ぎて、どう感じていいのか分からず、途方に暮れて立ちすくんでしまう。

「どうかした?」
「…………」

 不思議そうな顔をして玄関まできてくれた綾さん。たまらず強く抱きしめる。
 本当にいた。いてくれた。今日もちゃんといてくれた。
 ……大丈夫。綾さんはここにいる。

「……綾さん。会いたかった」
「変な子ね。今朝会ったばかりじゃないの」

 ご飯つぐわよ? と言いながら、綾さんが腕から抜け出てしまう。空を切った手を握りしめ、その後ろ姿をみつめる。

(綾さん……今……幸せ?)

 怖くて、きけない……。




------------------------


このあと、そのまま話は続くけれど、あまりにも長いので、ここで切ります。

私まだガラケー使ってるんですけど、ガラケーから編集しようとすると、半角5000字までしか入らないんですよ。
で、こないだせっかく書いた日付の一覧表消されてしまって(半角5000字を超えてたこと忘れて更新しちゃったから)、もう二度と携帯では編集しない!と心に決めたところです。

その時消しちゃった日付の一部↓

1972年6月21日 綾さん誕生日。ふたご座・A型
1974年8月23日 あかね誕生日。獅子座・O型

8月23日生まれをおとめ座としているところもありますが、調べてみたところ、1974年は21時29分以降生まれがおとめ座なので、あかねは明け方生まれなため獅子座です。

今、作中は2014年9月です。
6月14日が運動会、7月21~23日が合宿、でした。

続きは明日。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

(GL小説)風のゆくえには~光彩5-5

2015年04月11日 15時14分48秒 | GL小説・風のゆくえには~ 光彩
「ごめんね。ありがとう」

 ふわり、と先生は微笑んで……ザッと勢いよくカーテンを開いた。
 パパとママとおばあちゃんがビックリしたようにこちらを振り返る。

「あら……あかね先生……」
 真っ先におばあちゃんが取り繕った笑顔で先生を見返した。

「わざわざお見舞いに?」
「この度は、このような事故を起こしてしまい大変申し訳ありませんでした」

 あかね先生が深々と頭をさげる。あらあらあら、とおばあちゃんが先生の頭をあげさせた。

「そんな、先生のせいじゃないんですから……」
「いえ………」

 頭をあげた先生は今度は、パパのことを正面からスッと見た。
 ビックリするくらい、キレイな先生。なんだろう? 舞台の上にでもいるような輝きがほとばしってる。

「初めまして。美咲さんの担任をさせていただいてます一之瀬あかねと申します」
「あ……ああ、どうも……美咲の父です」

 パパのドギマギした顔、初めてみた。でもすぐに我に返ったように、先生を見返すと、

「もちろん、今回の入院通院費用は学校側で負担してくれるんですよね?」
「はい。指導員を引き受けていただいた際に保険に加入いただいてますので、そちらから……」
「ならいいけど……あれ?」

 パパが言葉を止めた。あらためて、あかね先生をマジマジと見ると、

「……もしかして先生なのかな」
「はい?」

 みんなが注目する中、パパがカバンの中から封筒を取り出した。

「3日ほど前に、会社に送られてきたんですけどね」
「…………これ」

 ママのベットの上に並べられた5枚の写真……。
 すべてにママとあかね先生らしき人の姿が写っていた。

 マンションに一緒に入っていく二人の後ろ姿。
 買い物カートを押しながら楽しそうに話している二人。
 駅の改札で見つめあっている二人。
 どこかの喫茶店のテラス席にいる笑顔の二人。
 どこかの公園のベンチでソフトクリームを食べている二人。

「こんな手紙と一緒にね」
 パパが写真の上に投げ出したのは、一枚の紙。

『あなたの奥さん、浮気しています』

 うーん。この写り方だとあかね先生が男性に見えないでもない……少し髪長めの男性?格好もTシャツにGパンだし。先生、胸あんまりないし。
 それにしても、ママとあかね先生がこんな風にプライベートでも会うくらい仲良しだとは知らなかった……。

「誰がこんな……」
 ママは小さくつぶやきながらも、途中で、あ、と言って押し黙った。心当たりがありそうな感じ。
 あかね先生は無表情にその手紙と写真を見つめている。

「ここに写ってるの、先生ですよね?」
「………そうですね」

 あかね先生が肯くと、パパは、ハハハ、とわざとらしく笑った。

「なんだ。やっぱり浮気なんてありえないと思ったんだ。いやあ、背もずいぶん高いので男性なのかと疑ってしまって。いやいや……ハハハ、そうですか。ああ、バカバカしい。ちょっと心配した自分が情けないというかなんというか……」

 なるほど。さっきの「綾を外に出すな」発言は、この写真も影響してるとみた。
 パパ、自分は浮気してるくせに、ママの浮気は許せないんだよね。勝手だなあ……。

 パパが、いやいやいや……と言って写真をしまいながら首をかしげた。

「しかし、誰がこんな写真を送ってきたろうな。こんなウソの……」
「いえ、ウソではありません」

 あかね先生が、パパの言葉を遮った。
 あかね先生……何を……?

「あかね……っ」
 ママが青ざめる。
 あかね先生は一瞬ママの方を見て、小さく何か言った。たぶん、口の形からして「ごめんね」だと思う。
 そして、意を決したように再び正面からパパを見返し、よどみなくハッキリと言った。

「綾さんと、お付き合いさせていただいてます」


***


「……は?」

 半笑いだったパパの表情が、みるみる硬くなっていく。

「何を言ってる……?」
「先ほど、佐藤さんは『誰でもよかった』とおっしゃいましたよね?」
「何の話……」

 さっきのパパの暴言のことだ。家事ができるならだれでもよかったって……。

「私は綾さんじゃないとダメです」
「は?」
「だから、返してください」
「え?」
「綾さんを、私に返してください」

 あかね先生の体からオーラが立ち上っているのが見える。近寄れないほどの光…。
 話についていけない……。そう思っているのは私だけではない。

「返すって、どういうこと?」
 おばあちゃんがアワアワとした感じにあかね先生を振り返った。
「女同士じゃないの。何をふざけたことを……。だいたい教師が教え子の母親と付き合うとかなんとか……」

「あかね先生とお母さんは学生時代付き合ってたんだよ」
「お兄ちゃん!」

 いつの間に、お兄ちゃんが病室の中に入ってきていた。
 訳知り顔のお兄ちゃん。付き合ってたって……?

「あんたたち、ホント、お母さんのこと何にも知らないんだな」
 肩をすくめるお兄ちゃん。

「お父さんと結婚する直前まで、二人は恋人同士だったんだよ。で、今回、美咲の担任と保護者ってことで再会して、焼けぼっくいに火がついたってやつ?」

 焼けぼっくいに火? それって、一回別れたカップルが寄りを戻すって意味だよね……。
 だったら、それは、違う。 絶対に違う!

「違うよ!」

 思わず叫んでしまった。
 ビックリしたようにみんながこっちを向く。ただ、あかね先生だけは穏やかな微笑みを向けてくれた。その表情をみて確信した。焼けぼっくいに火、なんてそんな下世話な話じゃない。火は消えていないんだ。

「みいちゃん、違うって何が……」
 くらくらした感じのおばあちゃんの手を取って、椅子に座らせてあげる。

「違うんだよ。20年後の約束なんだよ。そうでしょ? 先生」
「………」

 あかね先生は静かに目を伏せた。ママは青ざめたまま口に手を当てている。パパは……真っ白な顔をしている。

「おばあちゃん、前に美咲が話したの覚えてない? あかね先生には20年間忘れられない人がいるって話」
「ええ、ええ、覚えてるわ。それが……綾さんだとでも言うの?」
「そうだよ!」

 色々なことが繋がった。あの心配しすぎのあかね先生。ママが無事だって分かったときに崩れ落ちて泣いた先生。由衣先生らしき犯人に「殺すよ?」とまで言った先生。おそらく写真を送りつけてきたのは、同じ犯人だと思う。写真の中の二人は、幸せな恋人以外のなにものでもない。それにそれに、前に聞いたママの笑い声。あんな声、今まで聞いたことがない。全部全部、20年前の約束の人だとしたらつじつまが合う。

「先生は別れる時に約束したんだって。20年たったら会いに行くって。その時に幸せでなかったら……」

 あ………

 自分で言って、穴に落ちていくような感覚に襲われた。
 そうだ……幸せでなかったら……

「ママは……幸せじゃなかったんだね……」
「………美咲」

 首を振るママ。その瞳に涙がいっぱいたまっている。

「幸せじゃなかったって、なんなんだよ。なんなんだよいったい!」
 パパが苛立ったように、ママの肩を掴んだ。

「オレはお前に不自由させたことなんて一度もないだろ。なんの不満があるっていうんだよ、え、綾?」
「……………」

 ビクッと震えるママ。あかね先生がすっとパパの腕を掴んで離させた。

「何を……っ」
「今、奥さんを幸せにしていると言いきれるんですか?」
「はあ? あんたに何の関係が……っ」
「幸せだというなら、どうして綾さんはいつも泣いているんですか? どうしてあなたに会うことを恐れているんですか?」
「な………」

 パパが口をパクパクさせている。

「普通に考えて、愛人に子供産ませて一日置きにしか帰ってこない旦那なんて最低だよな」

 お兄ちゃんが冷たい目でパパをにらみつけた。

「そのうえ、自分の父親の介護を5年も全部押しつけたくせに、それで何の不満がって、どの口がいうんだよ」
「健人、やめて」

 小さく言うママ。パパはカッとしたようにお兄ちゃんを睨み返した。

「お前、親に向かってなんだその口のきき方は。誰のおかげで飯食えてると……」
「出たよ。金、金、金。あんたの愛情表現、金だけですか? お母さんのこと不自由させてないって、そりゃ金の面でだけだろ」
「お前………っ」

 にらみ合う二人。先に息をついたのはパパの方だった。

「そうだよ。金だよ。金。そんな愛だの恋だの生っちょろいことばっかりで人生やっていけないんだよ」
「そんなの……っ」
「お前はまだ学生だから分からないかもしれないがな、社会にでたら……、え?」

 パパが言葉を止めた。
 二人が言い合っている間で、いきなり、あかね先生が笑いだしたんだ。何かが切れたように。

「何を笑ってる?」

 不審気にパパに聞かれても、先生は肩を震わせている。先生………壊れちゃった?

「先生?」
「ああ………嫌になるなあ……」

 まるで舞台の上にいるよう。笑うのをやめ、バサリと髪をかき上げたあかね先生にスポットライトが当たっている。

「私、なんで19年も待っちゃったんだろう。ばっかみたい」
「え……」
「さっさと探し出して奪えばよかった。そうしたらこんな……」
「何を……」
「そうですよね。お金、大切ですよね」

 再び、あかね先生がパパを見上げる。

「私もね、この19年間、必死に貯めたんですよ。お金。19年前はお金も生きる術も何も持っていなかったから」
「………」
「19年かけて準備したんです。今なら、綾さんに不自由させることはない」
「………」
「でも、そんなもの……意味なかったな。もっと早く、迎えにくればよかった」
「何を……」
「この19年……どんな思いで……」

 うつむくあかね先生。
 でも、もう一度顔をあげたときには、強い意志の光をまとっていた。
 先生、カッコいい……。

「お願いします」
 あかね先生が深々と頭を下げる。

「綾さんを返してください」
 先生が絞り出すような声で言うと、パパは力なく椅子に座り込んで頭を抱えてしまった。

 先生は今度はベッドの脇にひざまついて、ママを見上げた。

「綾さん、約束する。必ずあなたを幸せにするから、私と一緒に……」
「あかね」

 ママが震える手で、あかね先生を制した。

「私……私は、あかねのところにはいけない」
「……っ」

 ママ、なんで……っ。
 ママは涙をこぼしながらあかね先生を見返し、しっかりとした声で言った。

「私、健人と美咲と離れたくない」


 …………は?


 私とお兄ちゃん、思いっきり顔を見合わせました。はい。

 で、

「………ばかなの?」
 思わず、言ってしまった。

 え?って顔をしてママがこちらを見上げる。あかね先生はなぜか静かに微笑んでいる。

「ママ、ばかなの? ばかじゃないの?」
「美咲?」

 きょとんとしたママにビシッと人差し指を突き刺す。

「どう考えても、20年想い続けてくれたあかね先生と、別の家庭作ってるパパだったら、あかね先生と一緒になったほうが幸せになるに決まってるじゃん。なんでそこに私とお兄ちゃんがでてくんの? 関係ないじゃん」
「だよなあ」

 お兄ちゃんも肩をすくめる。

「こないだも言ったけどさ、お母さんってどうしてそう言い訳だらけの人生送ろうとするわけ? オレと美咲のことなんかどうとでもなるじゃん。今、お母さんが誰と一緒にいたいかってことが重要なんじゃねえの?」
「だから……っ」

 ママはちょっとムッとしたように、

「だから、私は健人と美咲と一緒にいたいっていってるじゃないの」
「そのことなんですが」

 あかね先生が「はいっ」と私とお兄ちゃんに向かって手をあげた。

「健人さんと美咲さんも一緒にきてくれませんか?」
「え」
「そのぐらいの貯えはあります。不自由はさせません。頑張ります」
「先生……」

 なにその面白い展開。あかね先生がパパになるってこと? ん? パパじゃないな。ママかな。ママが二人。

「どうでしょう? 健人さん、美咲さん」
「ああ、オレは遠慮しときます」
 お兄ちゃんが軽く手を振った。

「どのみちオレ、近々家を出るつもりだったんで」
「え?!」

 パパとおばあちゃんが驚きの声をあげる。ママは知っていたみたいでため息をついただけだった。
 お兄ちゃんは何でもないことのように続けた。

「大学やめて働こうと思ってる。中島先輩が部屋余ってるから一緒に住もうっていってくれてるし」
「健人、そんな」

 今まで黙っていたおばあちゃんがオロオロとした様子でお兄ちゃんを見上げた。

「あなたには大学を卒業したら会社を……」
「ごめん。ばあちゃん。オレ、会社継ぐ気ないから。映像関係の仕事に就きたいんだ」
「健人………」

 おばあちゃんもパパも絶句、と言う顔でお兄ちゃんを見つめている。元凶のお兄ちゃんはケロリとした表情で、

「美咲、お前はどうする? どうしたい?」
「美咲は……」

 言いかけたところ、いきなりパパにガシッと手をつかまれた。

「美咲は行かないよな? パパのところにいるよな? パパのこと好きだもんな?」
「パパ……」

 必死のパパ。あーあ。かっこ悪い……。

「パパだって美咲のこと大好きだよ?」
「…………」

 パパに比べたら、あかね先生は何倍も何十倍も何百倍もカッコいい。もう、我慢できない。もう、思ってることぶちまけてやる。

「ねえ、パパ、知ってた? 美咲はねえ、かわいそうな子、なんだって」
「え?」

 パパがキョトンとしたすきに、パッと手を引き抜く。パパが泣きそうな顔になっている。でも知らない。

「パパに愛人がいるなんて、かわいそう、なんだって」
「誰がそんな……」
「お友達に言われたの。美咲、全然知らなかったよ。だってさ、ママがいっつもいっつも言ってたから。パパが一番愛してるのは私達家族。モテモテな自慢のパパ。私たちはパパのおかげで良い生活ができている。パパに感謝しましょう。私たちはとても幸せ……ってさ。ママの呪文のせいで自分がかわいそうな子って全然気がつかなかった」
「美咲……」
「愛人に子供生まれてからだって、パパは美咲たちのことを一番に想ってるから大丈夫。何も変わらないってママに言われて、そう思おうとしてた」
「ああ、そうだよ。パパは美咲たちのことが……」

 パパがまた手を伸ばしてきたのを、サッと避けてお兄ちゃんの後ろにくっつく。

「だったら、どうして、運動会最後までいてくれなかったの?」
「え……」
「どうして、教頭先生とあかね先生がうちに来ることになったときに、帰ってきてくれなかったの?」
「それは……」
「菜々美ちゃんのパパもさくらちゃんのパパもお仕事切り上げて帰ってきたんだって。鈴子ちゃんのパパなんてお休み取ったんだって。でもパパは、愛人の子供の面倒みるために帰ってこなかったじゃん。お仕事ならともかく、子守りって、ホント笑える」

「みいちゃん……」
 おばあちゃんが、顔を覆った。泣いてるの……?

「みいちゃん……ごめんね」
「なんでおばあちゃんが謝るの?」

 急いでおばあちゃんのそばにいって、背中をさすってあげる。
 大好きなおばあちゃん。おばあちゃんはいつも一緒にいてくれたよね。ママがおじいちゃんにつきっきりの時もパパが愛人の家にいってるときも。

 一人ずつ、顔を見ていく。ママ。あかね先生。パパ。お兄ちゃん。そしておばあちゃん。
 うん。心は決まった。

「美咲からの提案です」
 いうと、みんなが背筋をのばした。子供の私のいうことを必死に聞こうとする大人達。ちょっと笑える。その大人たちにキッパリハッキリ言ってやる。

「パパとママは離婚する。パパは愛人と再婚する。ママはあかね先生のところに行く。お兄ちゃんは中島先輩のとこ。それで美咲は……」

 おばあちゃんの手をぎゅっとつかむと、おばあちゃんが、え、というように顔をあげた。おばあちゃんにニッコリとほほ笑む。

「それで美咲は、おばあちゃんと一緒に住みたい。いいかな、おばあちゃん」
「まあ、まあまあ……」

 おばあちゃんが笑いながら泣き崩れた。

「いいに決まってるじゃないの。みいちゃん」
「美咲……」

 ママがつらそうにこちらをみる。そのママにもニッコリとほほ笑む。

「みんなのアイドルあかね先生がママの恋人だなんて、めっちゃ自慢だよ」
「美咲……」
「もうウソつかないでいいよ。幸せになりなよ、ママ」

 いつの間に、窓の外の太陽は夕日に変わっていた。
 オレンジ色の光が病室の中に入ってくる。ママとあかね先生を照らす舞台の照明のようだ。



-----------------------------



な……長かった。時間かかった…。

美咲、なんか無理してすごいイイ子ちゃんになってるけど、これで終わるわけなく……まだ美咲の試練は続く。けど、とりあえず、美咲視点終了。

愛人の件に関して。
私の知り合いに奥様公認の愛人がいる人がいます。
本妻の子供たちは、一番上の子は愛人を毛嫌いしてますが、二番目と三番目は認めていて、仲良くしているそうです。
お母さんはむしろ愛人と仲が良いそうで、嫁の愚痴を愛人にこぼしているそうだ。
各家庭、各人、それぞれの考えがありますね……

裏設定として。。。
あかねはお金をためまくってたのですごいケチでした。
でもいつもオシャレだった。なぜならお姉さま方から服のお古を譲っていただいていたから。

そして、学生時代にしていたバーでのバイトも就職後も続けてました。
でもバイト禁止だったので、お手伝いという名目で働き、バイト代は現物支給してもらってたんですね。

バイトは綾さん発見してからやめました。そこに彼女が何人かいたので手を切るためにもね。

で、住んでいるマンションは、木村パパ(実母の再婚相手だった人)が買ってくれたものだったので、固定資産税と管理費と修繕積立金と駐車場代を払うだけですんでました。
なので、給料のほとんどは、貯金とお母さんへの仕送りに使い、あとは上記の住宅費、光熱費、携帯代、ジムの月謝代、少しの食費と日用品にしか使っていなかった、という…。

たまりまくってます。ので、ペイオフ対策大変でした。
はい。そんな感じです。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

(GL小説)風のゆくえには~光彩5-4

2015年04月08日 22時19分45秒 | GL小説・風のゆくえには~ 光彩
「今度、あの人に何かしたら、殺すよ?」
 なんて物騒なことを言って、殺気を漲らせていたあかね先生と二人きりになるのは、少し怖いなあ……と、思いながら、待ち合わせの駐車場に立っていたところに、お兄ちゃんからメールがきた。

『検査終了。問題なし』
 ニコニコマークつき。その後に、ママの病室の部屋番号が書かれていた。

「良かった!」
 今からそちらに車で向かうことを返信したところで、あかね先生がやってきた。血のついたシャツから着替えはしていたけれど、まだ青白い固い表情をしている。

「お待たせ。美咲さん。早く行かないと……」
「ああ、先生、先生」
 先生の前でひらひらと手を振って、お兄ちゃんからのメールを見せてあげた。

「ほら、お兄ちゃんからのメール。ママ、問題ないって………、せ、先生?!」
 いきなり、あかね先生が崩れ落ちるようにその場にしゃがみこんだのでビックリした。

「ど、どうしたの、先生……」
「よ……よかった………」

 絞り出すような声……。先生……泣いてる……?
 ちょっと、尋常じゃないよね……この心配っぷり…。
 というか、こんな精神状態の人の運転する車に乗って、私大丈夫なのかな……。


 心配するほどのこともなく、あかね先生は運転上手だった。
 固かった表情も、さっきよりはずいぶん柔らかくなって、いつもの先生に近づいてきた感じではあるけれど……。

「先生………大丈夫?」
「何が?」
「だって……ママが怪我してから、ずっと変だよ?」

 言うと、あかね先生は「そりゃあ心配だもんー」とおどけた感じに言った。なんか……

「笑って誤魔化そうとしてない?」

 ツッコむと、先生ははじめはイヤイヤ、とさらに誤魔化そうとしていたけれど、しつこくジッと見上げていたら観念したようにふうっと息をついた。

「ちょっとね……色々思い出しちゃって」
「思い出す?」
「うん……」

 あかね先生の目が遠くを見ている。

「私が幼稚園の時にね、父が交通事故で亡くなったの。道路の反対側にいた私と母のところに来ようとして、横断歩道じゃないところを無理に渡ってね」
「……え」
「その時も、今日みたいに、血が止まらない父を抱えたのよね……」
「…………」

 その時の様子を想像してゾッとする。幼稚園児にそんな……

「あ、ごめんね。変な話……」
「ううん。大丈夫……」
「だからね、美咲さんのお母さんが無事で本当に良かったって思って……」

 心の底から安堵した、というように先生が言う。
 ママとお父さんの姿を重ね合わせたってことだったのか……。
 まあ、それにしてもあまりにも心配しすぎな気はするし、「殺すよ」発言はそれでは説明つかないけど……。

「私ね、7歳の七五三をやってないの」
「え?」

 いきなり話が飛んだ。何を言い出すんだろう?とキョトンと先生を見返す。

「七五三?」
「そう。私、背が高かったから、これ以上大きくなる前に、6歳の時にやろうって両親は言ったんだけど、私はお友達が来年やるっていうから来年がいいって言い張ってやらなかったのね」
「うん……」
「そうしたら、6歳の12月に父が亡くなって……。ああ、来年やるなんて言わないで先月七五三やっておけばよかったって子供心に思ったのよね。母にも散々愚痴られて、7歳でもやらないことになって」
「……………」

 信号が赤になった。先生はサイドブレーキをギュッと引いてから、またため息をついた。

「さっき、病院で待っていた時にね……急にそんなことを思い出したの」
「……………」
「来年になったら、とか、何年後になったら、とか、そんな約束、本当に叶えられるのかな……とか、そんなこと思ったりして……」
「……………」

 何年後になったら……。
 先輩が話してくれたことを思い出した。

 あかね先生には忘れられない恋人がいて、その人のことをずっと想い続けている。その人とは別れてから20年後に会う約束をしている。もし、その人が幸せだったら、潔く諦める。でも、もし幸せでなかったら……。

「先生、それ、20年後の約束のこと言ってるの?」
「え」

 ビックリしたようにこちらをむいたあかね先生。

「なんでそれ……」
「有名な話だよ。みんな知ってるよ。昨日の夜もその話出た」
「そうなの?」

 何年か前に一度話しただけなのになあ、と苦笑いした先生。信号が変わって出発する。

「約束、叶えられるよ。大丈夫だよ。ちゃんと会いに行きなよ?」
「うーん……」

 なぜか歯切れの悪いあかね先生。確か、20年後は来年の春だったはず……。

「心配だったら、もう会いに行っちゃえばいいじゃん」
「え?!」

 あかね先生が動揺したようにハンドルを離してから、慌てて持ち直した。

「それは……」
「んで、幸せじゃなかったら、遠慮なくゴーだね。彼だってきっとあかね先生のこと待ってるよ」
「………………」

 あかね先生は、しばらく黙っていたけれど、やがてポツリといった。

「でも、それで、周りを傷つけることになったら? それでも簡単にゴーって言える?」
「言えるよ」

 言いきると、あかね先生はなんだか複雑な表情をして私を見返した。

「美咲さん……」
「だって、それで彼とあかね先生が幸せになるんだったらしょうがないじゃん。どっちかが幸せになるなら、ウソが少ない方が絶対にいいもん」
「…………」

 先生はふっと笑った。

「若いなあ……美咲さん」
「なにそれ。子供ってこと?」

 どうせ子供ですよーだ。
 先生は寂しげに目を伏せた。

「そこまで突き抜けられたらいいのにね」
「突き抜ければいいじゃん。大人ってやあね。建前とか世間の目とかそんなのに縛られてばっかりで」
「……そうね」
「みんなウソばっかり。ウソウソウソ。ウソばーっかり。……なに?」

 先生がクスクス笑いだした。

「いや……私も若いころそう思ってたなって思って……」
「今も思えばいいじゃん。なに年寄りぶってんの、先生。まだ40前でしょ」
「そうね………」

 また遠い目をして、優しく微笑んだあかね先生。今日の先生はやっぱりいつもの先生とは違う。
 

***


 受付で面会表を記入してから、病室に向かった。白い廊下白いドアが並んでいてなんだか怖くなってくる。
 お兄ちゃんが教えてくれた部屋番号の近くにきたところで、

「………パパ?」
 パパの声が聞こえてきた。怒鳴ってる、みたいな……

 あかね先生と顔を見合わせてから、そっと扉を開く。カーテンの向こうにたぶんパパとママとおばあちゃんがいるみたい。

「だからオレははじめから反対だったんだよ」
「充則、声が……」
「母さんも母さんだよ。どうして綾を好き勝手にさせたんだ」
「そんなこと……」

 パパがこんな風に声を荒げるところ、はじめて聞いた。おばあちゃんがオロオロしたようにたしなめてる。

「家のことをきちんとするっていうのが結婚するときの条件だっただろう?」
「それは……」
「オレはそれができる女なら誰でもよかったんだよ。それなのに……」
「充則、やめて」
「調子に乗って外に出たりするから、こんな迷惑なことになったりするんだよ」
「………ごめんなさい」

 小さく謝ったママの声……。
 ちょっと……ひどくない? パパ。こんなこと……

「お前はただ家でおとなしく家事をしてればいいんだよ。それしか取り柄ないんだから」
「充則、ちょっと」
「これからは今まで通り、子供たちの学校のことは母さんがやってくれ。綾を外に出すなよ」
「そんな……」
「綾、いいな? 指導員も内職の仕事も全部やめろ」
「………はい」

 小さなママの返事。ママ……いいの? あんなに楽しそうだったのに……
 パパ、一方的にひどいっ。

「……先生?」
 出ていこうとしたのを、腕をつかまれ引き留められた。

「ごめん。美咲さん」
「え?」

 先生の瞳……何かを決意したような……強い光。

「先生?」
「私……先生やめる」
「え?」
「ウソつくのも、もうやめる」
「何を……?」

 先生……?

「ごめんね。ありがとう」

 ふわり、と先生は微笑んで……ザッと勢いよくカーテンを開けた。


------------------


あまりにも長くなりそうなので、途中ですがいったん切ります。
あかねさん。ついに綾さん旦那と対決です。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

(GL小説)風のゆくえには~光彩5-3

2015年04月06日 14時11分43秒 | GL小説・風のゆくえには~ 光彩
 人って、そばにいる人がテンパっていると、一緒になってテンパるか、逆にものすごく冷静になるかのどちらかだと思う。今回、私はまさに後者だった。妙に冷静だった。

(あかね先生……変)
 両手を祈るように組んで、『処置中』の表示を見上げているあかね先生。その手がブルブルと震えている。真っ青な顔をして、ママの血で赤く染まったシャツを着ているので、まるで先生が大怪我をしたかのように見える。ここまで先生が動揺するなんて……。

「美咲」
 お兄ちゃんが小走りにやってきた。病院についてすぐにパパとお兄ちゃんとおばあちゃんにメールしたんだ。お兄ちゃん一番乗り。

「お母さんは?」
「今、手術?みたいなのしてる。お医者さんが縫うって言ってた」
「そうか……あれ? あかね先生……」

 お兄ちゃんが先生に気が付いて言ったけど、先生はまったく聞こえてない。震えながら祈っている。お兄ちゃんがその様子を見て眉を寄せた。

「あかね先生も怪我してるのか? あの血……」
「あれは全部ママの血。ママ、すごい血が出て……」

 言いかけたところで、処置中のランプが消えた。

「綾さん……っ」
「ママッ」

 あれ? ママ、担架で運ばれたのに、普通に立って歩いてる。頭にネットみたいなのはかぶってるけど。

「あや……っ」
「一之瀬先生」

 駆け寄っていこうとしたあかね先生を制するように、ママが手の平をこちらに向けた。ビクッとしてあかね先生が止まる。

「ご心配おかけして申し訳ありません。大丈夫ですので」
「あ……はい」

 大きく息をつくあかね先生。ママは安心させるようにニッコリとした。

「健人も美咲も、きてくれてありがとうね」
「ママ……歩いて大丈夫なの?」

 あんなに血が出て、気まで失ったのに……。

「うん。8針縫ったけど、もう大丈夫。でもこれから脳の検査もして、今日は一応入院することになるみたい。運ばれた時、意識がなかったのが気になるからって」
「そう……」
「健人、入院の手続きお願いしていい?」
「了解」

 お兄ちゃんがコックリと肯くと、ママは優しく微笑んで、今度は私を見た。

「美咲、悪いんだけど、私のカバン……」
「オッケー。部室に置いてたよね。取ってくるよ」
「ありがとう」

 いつも通りの穏やかなママだ。

「じゃあ、よろしくね」
 ママは看護師さんに促されて、歩きかけたけれど、あかね先生の前でふいに立ち止った。

「一之瀬先生」
「……はい」
「これは、偶然起きてしまった事故、ですので、くれぐれも大ごとにならないように……お願いします」
「……………」

 あかね先生の大きな目がますます大きく見開かれた。ママは軽く会釈をすると、また歩き始めた。
 あかね先生はその後ろ姿を、微動だにしないまま、じっと見つめていた。

**

 病院から学校まで、先生がタクシーで送ってくれることになった。
 その車中でも、先生はじっと押し黙ったまま、心こここにあらず、という感じで……

「先生っていつの間に、ママのこと『綾さん』って呼ぶようになったんだね?」
「………え? あ、うん……」
「いつから?」
「え? ああ、うん、そうだね……」

 終始こんな感じ。聞いても、返事にならない返事をして終わりになっていた。

 でも、植木鉢のことを言った時だけ、意識がこちらに向いた。

「え……ごめん、美咲さん、もう一回言って」
「うん。だからね、植木鉢が落ちてきたとき、二階のベランダに人影を見た……気がするの」
「二階………」

 ギリッとあかね先生が親指の爪を噛んだ。その目がここではないどこかを見つめていて……怖い。

「あ、でも、一瞬だったし、見間違いかもしれないんだけど……」
「…………」
「でも、偶然起きた事故ってママは言ってたけど、本当に単なる事故、なのかな、とか思って……」
「そう………」

 また先生の意識がどこかへ飛んで行ってしまった。
 この数時間の先生は、私が知っていた先生とはまったく違う人みたいだった。

 決定的に別人の先生を見たのは、学校に着いてからだ。

 先生は校長先生に報告があるというので、校内に入ってすぐに一度別れた。私は荷物を回収したら先生の車が停めてある学校の駐車場に向かうことになっていた。先生は合宿の荷物を運ぶために、車できていたんだ。病院まで送ってくれるというから、駐車場で待ち合わせをしていたんだけど……。

(あそこの真上の2階って、なんの教室だっけ……)

 ふと気になった。先生がくるまでには時間があるだろうから行ってみることにした。
 裏庭はきれいに片付けられていた。ママの血のあとのあたりは水びだしになっていた。誰かが水で流してくれたんだろう。
 合宿は昼食後に終わる予定だったから、もう演劇部の人は誰もいなかった。……みんなご飯どうしたかな? 食べたのかな? 考えてみたら私、お昼食べてなかった。でも不思議とお腹は空いてない。

(ここの真上だから……)
 近くの入り口から入って、階段をのぼろうとしたけれど、

(………?)
 1階と2階の間の踊り場のあたりから声が聞こえてきて、思わず隠れてしまった。誰か、いる。
 声の主の一人は、女の人。すすり泣いている。聞いたことがあるようなないような声。もう一人は……男?女? 低い声で判別がつかない。

 女の人がか細い声でしゃくりあげながら何か謝っている。

「ごめんなさい……だって……」
「だって?」

 関係のない私までドキッとするくらい冷たい声。この声……あかね先生……?

 そう思ったのと同時に、
「!」
 バンッとものすごい音がして、ビクッと跳ね上がってしまった。たぶん、壁を蹴ったか殴ったかした音。
 静寂の中で、あかね先生らしき人の低い声が響いてくる。

「今度、あの人に何かしたら……」

 小さく、でも体の奥の方に響く声。

「………殺すよ?」
「!」

 ゾッとした。本気だ……こんな殺意のある声……声だけで殺されてしまいそうな……。

 腰が抜ける、というやつ。へなへなと座り込んでしまった。
 言われたわけでもない私がこの状態になっているんだから、言われた女の人は気を失ったのかもしれない。さっきまで聞こえていたすすり泣く声がやんでいる。

(……やばい)
 カツカツカツと階段を下りてくる音がする。階段裏の壁にへばりついて息をとめていたら、気がつかれなかったらしく、足音の主は私がいたほうとは反対に向かって歩いていった。

 そうっと顔をだして、その後ろ姿を確認したら………

(……あかね先生)
 やっぱりあかね先生だった。背中にまだ殺気を漂わせている。怖くてとても声なんてかけられない。
 相手の女の人は……誰? それに、さっきの会話……

(「あの人に何かしたら、殺すよ?」……って)

 あの人、っていうのは……ママのこと?
 じゃあ、やっぱり、ママは故意に狙われたってこと?
 あかね先生があそこまで犯人に殺意をむき出しにするって……どういうこと?

(あ、それに……)
 ママはなぜか「偶然起きた事故」ってわざわざ言いきった。あれは、本当はそうじゃないって知ってたからわざといったんじゃないの……?

 女の人が誰なのか知りたかったけど、知らない方がいい気がして、踊り場は見ないでそのままコッソリとまた裏庭に出た。
 水びだしの場所……ママが倒れたあの場所の上の教室は……。

(ああ、そうか)
 かかっているカーテンで思い出した。あそこは、家庭科室だ。

(あ)
 それで、ピピピッと頭の中で一致した。あの女の人の声……由衣先生に似てた。でも確信は持てない。持てないし持ちたくもない。由衣先生がママに怪我させたなんて……。そして、あかね先生が由衣先生に「殺すよ?」って言うなんて……。

 あまりもの出来事の連続に、考えがまとまらない。まとまらないから、考えないことにした。

 でも、もっと衝撃的な事がこれから起こる。私は人生の分岐点に立つことになる。



--------------------------


もう少し続けたかったけど、長くなるのでここで切ります。
今、3500字くらい。やっぱりこのくらいが一回量としては適量な気がするんだよね。
次まで美咲視点で。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

同性パートナーシップ条例成立!

2015年04月04日 14時34分04秒 | GL小説・風のゆくえには~ 光彩
これを第一歩として、日本でも同性婚が認められるようになるといいなあ。

と、なんだか他人事でなく自分のことのように思ったのは、今書いている小説の影響かもしれない。

慶と浩介に関しては、二人とも結婚ってことは考えてなくて、一緒にいたいと思っているだけだから、まあまだいいんですけど。
あかねと綾に関しては、違ってて……

私、キャラクター先行の話作りをすることが多く、話を考えるというより、その子達が勝手に動いていきます。
なので、そのキャラクターにどっぷり浸かるので、私生活でもその時に書いているキャラクターの言葉遣いがそのまま出てきてしまいます。
セリフも頭の中で勝手に出てくるんですけど…

20年前に、綾が結婚すると聞かされたときに、あかねが思うんですよ。
「自分が男だったら…」と。なんかそんなのって悲しすぎるでしょ……。

たぶん、私、あかねの話を書いていなかったら、ここまで感情移入してこの条例についてあーだこーだ思わなかったかもしれない。
それにまだ若かったら、まだ結婚してなかったら、ここまで思わなかったかもしれないんだけどね…

綾が離婚すると…、
健康保険に関しても、綾は今まで旦那の健康保険の被扶養者だったけれど、今後、就職しないとなると国民健康保険に加入することになるんですね。そこいらも、あかねにとってイラッとくるポイントで……なんで私の被扶養者になれないわけ?!ってね…年金に関してもそうですね…

前に、テレビ番組の討論コーナーみたいなので、このパートナーシップ条例が取り上げられていて、
その時出ていた男性タレントの方が、女性カップルに「養子縁組は考えないんですか?」と聞いていて……私、テレビの前で、

はああああ?!

って言ってしまいましたよ。なんで、私が綾さんと親子にならないとならないわけ?!って(←この時私、あかねモードだった)


この時出ていたコメンテーターだか政治家の方が恐ろしいことを言ってたんですけどね…
元々結婚という制度は子供を産み育てるためのものだから……てね。
え、じゃあ、子供のいない夫婦はどうなるの? 結婚しちゃいけないの?
同性カップルだって子供を育てることできますけど、そこらへんに関してはどうなの?
だいたい、これで、少子化が進むとかいう意見もどうなのよ。
関係ないじゃん。ま、この件に関しては他国のデータで関係ないってこと出てますけどね。


なんて、なんか今日ニュースを見ていて色々思ったの。
今書いているあかねと綾の話は、昨年2014年の話なのでまだこの条例の話が大きく取り上げられる前なんですけどね。

この2人が今後どうするかはもう決まっているので、あとは粛々と書いていくだけですが……
これ、日本でも同性婚が認められるようになったら、また結末は違っていたんだろうなー。


そういうわけで、あかねと綾の話はまだ続きます。今ストックは「光彩5-5」まであって、「6-1」をボチボチ書いてるとこ。ゴールが近づいてきていてなんか寂しい感じ…。
だけど、慶と浩介が2015年には日本に帰国するので、あかねと綾の話が終わったら、とうとう慶と浩介の最後の話を書くことになる…のかも。

とりあえず。条例が無事に成立してくれてホッとしたところです。
あかねと綾はあいにく渋谷区住民ではないんですけどね^^;
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする