創作小説屋

創作小説置き場。BL・R18あるのでご注意を。

ある平凡な主婦の、少しの追憶(45/50)

2007年07月25日 10時08分48秒 | ある平凡な主婦の、少しの追憶(一部R18)
夫とは私がものすごく傷ついている時に出会った。
夫からの熱烈なアプローチは、私の心の表面の傷を治すのに充分だった。
こんなにまで愛されて、必要とされることがあるのかと驚くほどだった。

こんなに愛してくれる人と出会うために、あの辛い別れはあったのだろう、
と自分を納得させた。
人生において無駄なことは一つもない。この傷も意味のあるものにしよう。
そう思った。

「結婚」の二文字がでたときにも、迷い無くOKした。
幸せにしてみせる、といった夫の言葉を信じた。
これだけ愛されるならきっと幸せになる、とも思った。

あれから7年以上たった現在・・・
確かに今でも夫はあの時と変わらず私のことを愛してくれている。
でも、正直言って、もう7年も経って子供もいるんだから、
もう少しトーンダウンしてくれてもいいのに・・・と思う。
贅沢な悩みなのかもしれないが。

私に対する愛情をもう少し子供達にも向けてくれればいいのに・・・。

夫が子供達に怒鳴ったりするのを聞く度、
「離婚」の二文字が頭の中をよぎることがある。

でも、それを踏みとどまらせているのは、
まず、子供達から父親を奪ってはいけない、という気持ち。
そして、離婚したら、夫が参ってしまうだろう、という心配。
そんな心配をしてしまうということは、
やはり私も私なりに夫のことを愛しているのだろう。


実家に帰って以来、夫とも上手くやっている。
平日は毎日メールをしあって、
休日は少しの間みんなで出かけたり、食事を一緒にしたりする。
一番のネックだった夜の生活を求められることがないので、
安心して夫と話をすることもできる。
マンションにいたときよりもずっと会話が増えた気がする。

かといって、このままずっと実家にいるわけにもいかない。
どうしたものかと思っていた矢先、夫がメールをしてきた。

「駅近くで中古の一軒家の売り出しがあるから見てくる」

それをみて、ものすごく驚いた。
夫は神経質なタチなので、中古物は絶対NGだったのだ。

結局、そこの中古一軒家は値段が折り合わず、話は流れたのだが、
それでも、「中古」というところまで妥協して
(「駅近く」というのは妥協できないらしい(笑))、
一軒家に引っ越したい、と言った私の気持ちに添えるよう
物件を探してくれた夫の行動がとてつもなく嬉しかった。
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ある平凡な主婦の、少しの追憶(44/50)

2007年07月24日 10時16分07秒 | ある平凡な主婦の、少しの追憶(一部R18)
母から3つの箱を渡された。
結婚前に私が使っていた部屋を整理していたら出てきたらしい。
中味を確認して、いるものと捨てるものにわけなさい、という。

一つ目の箱はカセットテープ→すべて処分
二つ目の箱は年賀状や手紙→とりあえず取っておくことにした。

そして三つ目の箱には・・・色々なものがギッシリと入っていた。
小物入れ、指輪、ネックレス、携帯ストラップ、プリクラ帳、写真、手紙・・・
すべて彼からもらったものや彼との思い出の品だった。

「懐かしい・・・」

思わずつぶやいた。
もっと胸がつぶれそうになるかと思ったけれど、
案外と大丈夫だった。
その大丈夫さ加減からいっても、
本当の意味で彼のことを吹っ切れてきたんだな、と思う。


八年前、彼とはもう連絡をとらない、と決意した夜、
すべての思い出の品を箱の中に詰め込んだのだ。
号泣しながら。

とてもつらい作業だった。
二年の間に、あちらこちらに彼との思い出は散らばっていたので、
部屋中を徹底的に探しつくしてすべてを箱に詰めたのだ。

本当につらかった。
息をするのもつらいくらいだった。

あのつらかった日々から救い出してくれたのは・・・・・・

「そういえばそうだよ・・・」

今の夫だった。すっかり忘れてた・・・。
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ある平凡な主婦の、少しの追憶(43/50)

2007年07月23日 09時40分36秒 | ある平凡な主婦の、少しの追憶(一部R18)
日々の生活のあわただしさに紛れているうちに、
彼とのあの時の出来事やメールの記憶が
薄くなっていることに気がついた。

それなのに、心の中が妙に安定している。

それは、子供達が落ち着いているからなのか、
私のストレスが軽減されているからなのか・・・。
とにかく、この8年の間で今が一番、心の中が静かだった。


なぜなんだろう、という疑問に友人が答えてくれた。

彼女は私にとって、唯一、自分を飾らずにいられる存在で、
彼と別れた後に関係が続いていたことも、彼女にだけは話していた。
私が一番苦しかった時のことも彼女が一番良く知っている。

実家生活が2ヶ月目に入った頃に、彼女と会うことができた。

彼と一度だけ関係を持ったこと、
その後にもらったメールのことを彼女に話すと、

彼女はパアッと表情を明るくして、

「やったね!よかったね!!」

と言った。

内心、「それって不倫じゃないの!」と軽蔑されるだろうか、
と覚悟をしていただけに、気が抜けた。

彼女はウキウキしたように言葉を続けた。

「だってね、私もあの時辛かったし悲しかったもん。
でも、今になって、彼にそんなこと言わせちゃうなんて、
勝った!!って感じじゃない?やったね~!私も嬉しいよ!」


ああ・・・なるほどね。

喜んでくれている彼女をみていて、
ようやく納得がいった。

今、この8年の中で最も安定できているのは、
8年前の傷ついた私の心を回復できたからなんだ。

実のところ・・・
別れたこと自体よりも、彼の新しい彼女からの、
私自身や私たちが付き合った2年間を否定する言葉の数々
(それは掲示板にかかれたり私宛にメールが送られてきたりした)
が、さらに私を苦しめていた。

でも、その彼女と別れた後に、私ともう一度付き合いたいと思ってくれたという。
今回のメールでその言葉を聞いて、どんなに救われたことか。
そして、もし条件がととのったら、また一緒いて欲しいとまで言ってくれた。
もう充分だ。

たぶん、彼も・・・、
8年前に私を傷つけたことを気に病んでいた彼も、
今回のことで、罪悪感から抜け出せたことだろう。


私たちは、8年前のあの辛い記憶から
ようやく解放されたのかもしれない。
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ある平凡な主婦の、少しの追憶(42/50)

2007年07月22日 10時50分08秒 | ある平凡な主婦の、少しの追憶(一部R18)
私の実家は一軒家である。
しかも、二方は私道に面していて、一方は空き地。
唯一隣家と接している一方は、そこそこ広い庭を挟んでいる。
多少うるさくしたところで、迷惑がかかることはない。

黙って家を出ていったことには、文句を言われたけれど、
実家に帰ることについては、夫も賛成してくれた。

騒音にビクビクして生活することに、
私がここまでストレスを感じているということを、
ようやく理解してくれたらしい。

私も私で、実家に帰った直後は「離婚」の二文字が頭を離れなかったけれど、
子供たちのためにも冷静になって考えるべき、と、
その思いをとりあえず横に置くことにした。

土日の夕方になると、夫は夕食を一緒に食べるために実家にやってくる。
日中は家で一人静かに昼寝をしたりテレビゲームをしたりできるので、
夫は夫で快適な生活が送れることを密かに喜んでいるようだ。

私は私で、音を気にしないでいいという開放感を満喫していた。
ついでに、夫の夜の生活の相手というストレスからも解放されて、
心身共にリラックスできていた。

でも、この清々しさは、その理由だけではないのだろう。

時折思い出す、彼との一夜の出来事。
そして、その後の彼からのメール。

「付き合って欲しい」

現実になることはないだろう約束。
そんなことはよく分かっている。
ただ、お互いが特別な存在であることを確認しあえたことが嬉しい。
ただ、それだけだ。

本当にそうなることは、お互い望んでいない。



実家に帰って、早くも1ヶ月が経とうとしていた。

長女はよく行く公園でお友達ができた。
毎日嬉しそうに出かけていく。

長男はビックリするほど落ち着いている。
ブランコだけでなく、すべり台もお砂場遊びも出来るようになった。

「ほら、あんたの考えすぎなのよ。この子に障害なんてあるわけないじゃない」

と、母に言われた。
それには苦笑するしかなかった。
母は長男の障害を認めていないのだ。

反対に父は色々と勉強をしてくれていて、
長男の障害を受け止めてくれている。
長男の障害に関する私の唯一の相談相手は父だった。

障害について色々と話せることが、
こんなにも気が晴れることだとは知らなかった。
長男が最近落ち着いているのも、私が安定しているせいかもしれない。
話すことで、解決法が見つかるかどうかなんてことは問題ではなく。
ただ、今の悩みに寄り添ってくれる人がいることが嬉しかった。

夫がそうしてくれていたら、私がここまで追いつめられることはなかったはずだ。
夫婦というのは寄り添って生きていくものだと思っていた。
最近、私たちはまったく違う方を向いて生きている、と感じてしまっている。
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ある平凡な主婦の、少しの追憶(41/50)

2007年07月20日 11時56分49秒 | ある平凡な主婦の、少しの追憶(一部R18)
私もあなたがあの子と別れたと聞いたとき、色々色々思った。
でも今、愛する子供達と出会うために、あの別れはあったのかな・・・と思っています。

条件が全部揃ったら・・・それもそれで神の手、だよね。
そんな風に言ってもらえるなんて、夢にも思わなくて・・・涙出ました。
このメール、一生大切にしたいので頭の中に永久保存します。

今ね、人生の最大目標できちゃった。
また、あなたと出会えるその日がきたときに、
素敵な女性でありたいので、
もう下向かないで生きていこうと思う。
私、がんばるね。

あなたのこの後の人生が幸せでありますように祈っています。



送信したのと同時に長女が起きてきた。

「おはよう。今日はおばあちゃんちに行くわよ」

言うと、長女はぱあっと顔を明るくして、

「じゃあ萌、こないだバアバが買ってくれたワンピース着ていく~!」

と、張り切ってトイレに向かっていった。

長男もノソノソと起きてきた。

「おはよう。今日、バアバのおうちに行こうね」

意味が分からないらしく、小首をかしげた長男。
まだ眠たそうだ。

「バスに乗って行こうね」

するとバスと言う言葉に反応して、

「ば、ば、ば、ば、ば~♪」

と嬉しそうに歌いだした。

かわいい私の子供達。
この子達は私が守る。

もう、下を向かないで生きていく。
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