創作小説屋

創作小説置き場。BL・R18あるのでご注意を。

ある平凡な主婦の、少しの追憶(40)

2007年07月19日 14時43分44秒 | ある平凡な主婦の、少しの追憶(一部R18)
家の近くのコンビニの横でタクシーから降り、
コンビニでプリンを買った。
万が一、外出していたことがバレた場合に、
「プリンがどうしても食べたくなって買いにいってた」と
答えようと思ったのだ。
でも、携帯に電話もないし、みんなまだ寝ているのだろう。

すっかり明るくなった空の下を歩きながら、
プリンの袋をブンブン振り回す。
プリンがぐちゃぐちゃになろうが、この際どうでもよかった。

「付き合って欲しい」

ストンっと胸の中に収まった言葉。
別れたころを思い出して、激しく痛んでいた心が、
まあるく、まあるく、綺麗に修復された感じ。

このまま、こんなところに、グタグタといてはいけない。

マンションの玄関を通りながら、強く思った。

こっそりと、ドアを開ける。
中は出てきた時と同様に、静かなままだった。

子供達も良く寝ていた。

愛おしい愛おしい私の子供達。
かけがえのない私の子供達。
この子達を守れるのは、私しかいない。

こんなところで、不満をつのらせるだけつのらせて、
何の解決方法もないまま、この場にいてはいけない。

もう、迷わなかった。
子供達を起こさないように、こっそりとタンスを開けた。

働いていた時にためていたお金。
子供達の着替え。
長女の肌の薬。
歯ブラシ。
長男のお気に入りの人形。
私の着替えとお化粧道具。

すべてカバンの中に詰める。

どうせ夫は昼過ぎまで寝ている。
子供達が起きたら、すぐに実家に帰ろう。

朝食の用意まで終わらせてから、
ようやく落ち着いてソファーに座る。

先ほどの彼からのメールを何度も読み返し、
そして返事を書いた。
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ある平凡な主婦の、少しの追憶(39)

2007年07月18日 10時53分08秒 | ある平凡な主婦の、少しの追憶(一部R18)
本当はさっき言おうと思ってたんだけど、
勇気がなくて言えなかったので、メールします。

今日、ずっと一人で考えてたんだ。

以前、僕が傷つけてしまったことを謝ったときに、
君は「それは“神の手”によるもので、あるべくしてあったことなんだ。人生において無駄な事は一つもない。だから、謝る必要はない」って言ってくれたでしょ?

だから、僕が北海道に移ったのも、逢わせない為に神が計画したのかな?とか思ったんだ。

でももし、僕があの時他の人を好きにならなかったら・・・
君を振ってなかったら・・・
あの子と別れた時に君が結婚してなければ・・・
君の気持ちは分からないけど、もう一度付き合いたいって思ってた。
でもそうさせない様に、神が手を加えてくれたんだね。

ずっと言おうと思ってたけど・・・
もし、お互いのパートナーが先に逝ってて、
子供も無事育って、
それでもまだお互いが好きだったら、付き合って欲しい。
結婚なんて贅沢は言わない。
そばに居て欲しい。
って条件多すぎだよね(笑)
現実的に問題ありすぎやろ(笑)

恥ずかしいからこのメール削除してね。
あ、言われなくてもするか。


君のこの後の人生が幸せでありますように・・・・・・。
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ある平凡な主婦の、少しの追憶(38)

2007年07月17日 10時29分41秒 | ある平凡な主婦の、少しの追憶(一部R18)
外はもう、明るくなり始めていた。
涼しい風が頬に心地よく当たる。

タクシーはすぐにつかまった。
白い座席に埋もれながら、大きく息をつく。

まさか、私が、こんな大胆なことをしてしまうなんて。

でも不思議と罪悪感はなかった。
これは、誰かの奥さんでもなく、誰かのママでもなく、
今現在の自分とは別の自分がしたことだ、と思えていた。

どうせそうなのだ。
家に帰ったら、いつもと変わらず「奥さん」になり「ママ」になる。
「私」なんて家にはいないのだ。

だからせめて、家の玄関を開けるまでは「私」でいたい。

タクシーは信号にほとんどひっかかることもなく、明け方の町を走っていく。

ふと、前にもこんなことがあった、と思い出す。

こうしてタクシーの窓の外を見ながら、涙を流し続けてたのは、いつのことだっただろう・・・。
あれは・・・彼に「好きな子ができたから別れて欲しい」と言われた日だったかな・・・。

急に別れたころの記憶が押し寄せてきた。
今までは、楽しい思い出しか開くことのなかった私の心に、刃のように突き刺さる記憶・・・。

別れたくない!

彼に詰め寄った私の悲鳴。
彼の困り果てた顔。
でも、自分の意志は変わらない、と首を振り続けた彼。

心臓のあたりが冷たくなった。

でも、待って。
と今の自分に声をかける。

今日、あの人は私のことをまだ好きだって言ってくれた。
激しく抱いてくれた。

・・・・・・だから?

また、心臓が凍る。

そんなことを言っても、結局、あの時と同じ。
彼は他の女のところに帰っていくのだ。

苦しい。胸が苦しい・・・。

胸をかき抱いたのと同時に、携帯が鳴った。
メールだった。
彼からのメール。

緊張しながら、開く。

そして・・・・・・涙が溢れてきた。
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ある平凡な主婦の、少しの追憶(37)

2007年07月16日 18時01分52秒 | ある平凡な主婦の、少しの追憶(一部R18)
「じゃ、帰るね」

財布と携帯を手に取って、靴を履く。
本当に身軽に来てしまったものだ。

「ちょっと待って」

彼が煙草を消してこちらに歩いてきた。
Gパンだけ履いている。

「一つ、お願い」
「何?」

やっぱり、今日のことはなかったことに・・・?

身構えると、両手を差し出された。

「抱きしめてもいい?」
「え?」
「10秒でいいから」

肯くよりも早く、ギュッとかき抱かれた。

彼の素肌の胸に頬を押しつける。
細いわりに筋肉のついた胸。
ざらざらとした背中。
固く引き締まった腰。

ああ・・・なんて居心地がいいんだろう。
このまま時が止まればいいのに。

「・・・・・・」

また、フラッシュバックが起こる。
そう、「このまま時がとまればいい」と、8年前も思った。
ここで手を離したら、彼は彼女の元に行ってしまう。
このまま時が止まってくれれば、彼はずっと私のそばに・・・。

「・・・ハチ、キュウ、ジュウ!」

記憶を追い払うように、大きな声でカウントして、

「じゃ、北海道まで気をつけて帰ってね」

彼の胸を押しやり、下を向いたままドアを開けた。
彼の顔を見ることは出来なかった。
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ある平凡な主婦の、少しの追憶(36)

2007年07月15日 12時39分58秒 | ある平凡な主婦の、少しの追憶(一部R18)
「そういえば、そうだった・・・」

封印していた辛い記憶・・・。
あの時の私は、本当に・・・。

首を振って、記憶を押しやり、急いで化粧水をつける。
部屋に戻ると、彼はベッドに腰掛けて煙草を吸っているところだった。
薄暗い部屋の中に、赤い光がともっている。

「帰るの?」
「うん。ごめん。起こしちゃった?まだ寝てれば?」
「ん~・・・そうしようかなあ・・・。タクシーで帰るの?」
「うん。大通り歩いてればつかまるかなと思って」

意識した普通の会話。
そう、さっきのことは、夢の中のこと・・・。

「あのさ・・・」

彼が言い淀みながら、煙草を灰皿に押しつけた。

「何?」

先のセリフを想像して身構える。

今日のことは無かったことにしてくれ、とか言うの?

そうかもしれない。
だって、彼は今日、北海道に帰るのだ。
奥さんの待っている北海道に、帰るのだ。

でも、想像外のことを言われた。

「あいかわらず、上手いね」
「え?」

何が?

「オレ、はじめにさっさといかされちゃったもんな~。
中坊みたいで恥ずかし~」

何を言うのかと思えば・・・さっきの行為のことか。

「なーに言ってんの。そちらこそ黄金の左手中指ご健在で」
「いやいやいや・・・」
「奥様が羨ましいですわ。さぞかし毎日夜が楽しみでしょうね」

我ながら自虐的、と思いながら、オホホと笑って見せると、

「いや、月に一度あるかないかだよ」

大真面目に彼が答えた。

「それに、こんな濃いエッチしたこと一度もないし」
「・・・何で?」
「うーん・・・、あんまする気にならないんだよね」
「ふーん・・・」

何だか・・・とてつもなく嬉しいんですけど。

「そちらこそ、旦那さんは幸せだね~。こんな良い思いさせてもらえるんだから」
「・・・旦那にはここまではしないよ」

しかも、いつも嫌々だし、私。

「何で?」
「する気にならないから」
「ふーん・・・」

カチリ、と再び煙草に火がともる。
彼が今、どんな表情なのか、よく見えない。
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