創作小説屋

創作小説置き場。BL・R18あるのでご注意を。

ある平凡な主婦の、少しの追憶(30)

2007年07月06日 23時20分24秒 | ある平凡な主婦の、少しの追憶(一部R18)
「もう?」
「うん・・・慌ててたし、誰にも言わないで出てきちゃったし・・・」

おかげでスッピンのままだし。

「そっか。それじゃ今度会えるのは、打ち合わせの時?」

言われて、あ、と思った。
やはり本人には言わないといけないだろう。

「あの、申し訳ないんだけど・・・。あなたの結婚披露パーティー、欠席するね」
「え?!何で?!」
「何でって・・・」

あなたと奥さんが一緒に写っている写真を見ただけで、苦しくなった。
電話の先で、あなたが奥さんと一緒にいることを感じただけで、息ができなくなった。
それなのに、本物の2人を目の前にして、普通の顔をしている自信なんてない。

・・・なんてことは言えない。

言い訳を考えて、黙っていたら、彼が大きくため息をついた。

「やっぱりオレのこと・・・憎んでるんだ?」
「え?」

思わず顔を隠すのを忘れて彼のことを見上げた。

「前に話したときに、気にしてないって言ってくれたけど・・・本当はオレのこと許してないんでしょ?」
「え??」

本気で分からなかったけど、彼の眉間の皺を見ていたら、ようやく合点がいった。

「8年前の話をしてる?もしかして?」
「もしかしてって、そうなんでしょ?」

何を言ってるんだか・・・。
そんな8年前の別れた時のイザコザなんて、もうとっくに時効だ。

でも・・・時効になってないことがある。
それは・・・
私の気持ち。

「オレ、本当にひどいことしちゃったし、どんなに恨まれてもしょうがないと・・・」
「だから違うって」
「いいよ。気を使わなくて。だってそれだけのことしたんだから・・・」
「だから違うんだって」
「だって」
「違うのよ」

苦しそうに顔をゆがめた彼を見ていたら、思わず、言葉が出てしまった。

「違うの。だって私・・・、今でも、あなたのことが好きだから」
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ある平凡な主婦の、少しの追憶(29)

2007年07月04日 22時30分33秒 | ある平凡な主婦の、少しの追憶(一部R18)
たぶん、時間にしたら5秒くらいの出来事。
でも、その瞬間、8年前にタイムスリップしてた。
鮮明に蘇る、彼のキスの感触・・・。

でも。

「ご、ごめん」

自分でしたことに驚いたように、彼が慌てて離れた。

私も我に返る。
あれからもう8年経ったのだ、と。
今の私は、あの時の私ではないんだと・・・。

「さっき、一人で飲みながら、8年前のこと考えてたから、つい・・・」
「8年前のこと?」

彼が苦笑しながら、また煙草に火をつけた。

「うん。色々ね・・・」

軽く首を振って、その先は誤魔化された。
ちいさな赤い光が、薄暗い公園の中を蛍のように舞う。

「大丈夫になったの?」

煙草を灰皿に入れながらこちらを見られ、ハッとした。

そうだった。私スッピンだったんだっ!

慌てて、再び両頬を手で覆い、下を向く。

「大丈夫って?」
「ほら、こないだの電話の時、元気なかったから」
「ああ、うん・・・・・・」

大丈夫、ではない。

でも。

階下からの苦情、なんて所帯じみた話はしたくない。
夫とのすれ違い、なんて愚痴だらけの話はもっとしたくない。
息子の障害のこと、なんて心配かけるような話は絶対にしたくない。

「・・・うん。大丈夫」
「全然大丈夫じゃないでしょ」

彼の優しい声に、崩れそうになる。

「オレでよかったら、話きくよ?」

くらくらする。
これ以上、ここにいたらダメだ。

「私・・・帰るね」

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ある平凡な主婦の、少しの追憶(28)

2007年07月02日 21時37分13秒 | ある平凡な主婦の、少しの追憶(一部R18)
少し歩いたところに、噴水のある公園がある。
この時間だと水は出ていないのでただの小さな池になっている。

4車線ある道路に面しており、
深夜3時を過ぎてもそれなりに車が通るため、
変な輩に絡まれる心配がないところがいい。

8年前までも、よくこの公園で始発が出るまでお喋りしたりしていた。
こうして2人でベンチに座っていると、
時間が8年前まで戻ったかのような錯覚に陥る。

「懐かしいって感じがしないなあ」

煙草を手に彼が言う。

「一週間前もこうして2人で座ってた気がする」
「うん・・・」

肯きつつも、さりげなく両手を頬にあてて下を向き、
なるべくスッピンをみられないよう小さな努力をしている私。
それに気が付いたのか、また彼がクスクス笑いだした。

「前にもこういうことあったよね」

ベンチ横の灰皿に煙草を押しつけ、彼が振り返った。

「石垣島の旅行の時。風呂上がってから、ずっと下向いてたでしょ」

そういえば。そんなことあった。
初めての旅行で、初めて化粧を落とした顔を見られるのが恥ずかしくて・・・。

「今は何で下向いてんの?」
「・・・・・・」

同じ理由だけど、その恥ずかしさは8倍にふくれあがっている。
あの時は20代前半だったけど、今は・・・。

「こっちみてよ」
「無理」
「無理って?」
「だから無理なものは・・・」

なおも言い募ろうとした、その時。

ぎゅっと右手を握られた。
思わず顔を上げる。

と、同時に。

「あ・・・」

唇が、ふさがれた。
煙草の臭いのする、柔らかい、キス・・・。




------------
更新してないのに見に来てくださっている方々、
本当にありがとうございます。
アクセス数が励みになっています~っ。
最近更新怠り気味で申し訳ありません。
なかなかパソコンの前に座れる時間が取れなくて・・・。
もうすぐ終わりなので、ぱーっと書き上げてしまいたいのですが・・・。
でも、もうすぐ終わりかと思うと、なんだか寂しいけど。
どうぞ最後までお付き合いくださいますよう、よろしくお願いいたします。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ある平凡な主婦の、少しの追憶(27)

2007年06月29日 11時08分05秒 | ある平凡な主婦の、少しの追憶(一部R18)
「3次会参加希望?」

飄々と彼が言う。
手に新しいタバコを持っているところをみると、
タバコを買うために外にでただけらしい。
また店に戻ろうとしている。

階段の手すりをみるフリをして、慌てて彼に背を向ける。

「一杯やってく? すぐ閉店だけど一杯くらい飲めるよ」
「やめとく」
「なんで?」

顔をのぞき込まれそうになって、急いでそっぽを向く。

「どした?」
「どうもしない」

あやしい。私、かなりあやしい・・・。
でも素顔を見せるわけにはいかないっっ!

「じゃ、ちょっと待ってて。会計すませてくるから」

なぜかクスクスと笑いながら彼が扉を明けた。

「待っててよ。帰らないでよ」

念を押されて、背を向けたまま肯いてみせる。

ううう。なんでスッピンできちゃったんだろう。

でも・・・会えて嬉しい。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ある平凡な主婦の、少しの追憶(26)

2007年06月27日 10時06分52秒 | ある平凡な主婦の、少しの追憶(一部R18)
店の前に着いたのは3時15分前だった。
8年前と変わらず、木の扉に大きな葉が飾られている。
もしかしたら色々変わっているのかもしれないけれど、
何しろ8年前の記憶だから、イメージだけで判断してしまう。
「何も変わっていない」と。

大きな取っ手を引っ張ろうとして・・・
我に返った。

いや、夫のことや家族のことが頭をよぎったのではない。

お化粧をしていないことに気が付いたのだ!

今さら馬鹿みたいな話だけど、彼と会うのならば、
なるべく綺麗な姿でいたかった。

「か、帰ろう・・・」

背を向け、階段を降りはじめて・・・
階段を上ってくる人影に足を止めた。

「あ・・・」

彼、だった。
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする