創作小説屋

創作小説置き場。BL・R18あるのでご注意を。

ある平凡な主婦の、少しの追憶(35)

2007年07月14日 11時04分54秒 | ある平凡な主婦の、少しの追憶(一部R18)
時計を見たら、もう4時半だった。
明け方になると長男が時折目を覚ますので、そろそろ帰らなければならない。

眠っている彼の腕をすり抜けて、急いでシャワーを浴びる。

洗面所の鏡をみて、あ、と思った。

そういえば、スッピンだった・・・。

8年前と比べて、張りの無くなった素顔。
嫌になるけれども、しょうがない。
歳を取るというのはそういうことだ。

ため息をつきながら、そこにあった化粧水をつけようと、手を伸ばしかけて・・・

「・・・・・・あ」

その隣にあった剃刀を見つけて、ドキリとした。

そうか。そういえば、ここだった。

8年前、別れた後も関係を続けていた時に、会っていたホテル。

体を重ねているときは、燃えるほど情熱的であっても、
彼の心の中には、新しい彼女の姿があった。

行為が終わると、途端にその真実に打ちのめされる。

最後に会った時も、こうして先にシャワーを浴びた。
そして、ここにあった剃刀を見て思ったのだ。

今、ここで手首を切ったら、
彼は私の元に戻ってきてくれるだろうか?

衝動にかられて、剃刀を袋から出した。
その刃先を見つめていたら、彼が音もなくやってきた。

そして、後ろから優しく抱きしめられ、

「・・・・・・ごめん」

気が遠くなるほど、優しい声で言われたのだった。

私が欲しいのは、そんな言葉じゃない。
ごめん、なんて言わないでよ。
ごめん、なんて言うんだったら、彼女と別れてよ。

メチャクチャに泣きながら、彼の胸を叩き続けた記憶が蘇る・・・。
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ある平凡な主婦の、少しの追憶(34)

2007年07月13日 15時11分37秒 | ある平凡な主婦の、少しの追憶(一部R18)
私の初めての相手は彼だった。
彼は初めてではなかったけれど、そんなに場数を踏んだわけではなかったらしい。

だから、つきあい始めのころは、お互いつたない愛情表現だった。
それでも、初めから、妙に相性はよかった。
そして、回数を重ねるにつれ、行為は濃いものになっていった。
真面目な顔をして、2人でビデオや本で研究したりもしていた。
性に対する考え方や価値観が、妙に一致していた2人だった。

8年前と変わらない・・・とも思ったが。
でも、少し優しさが増えたかな。
それは遠慮なんだろうか。

「黄金の左手中指」と名付けて笑った8年前。
(彼は左利きなのだ)
そこは相変わらず黄金のままで。
何度も頂点に突き上げられ、頭がおかしくなりそうだった。

そこでようやく、本番。
さりげない動作で、枕元にあったゴムを手に取った彼に、そっと首を振った。

「しないで大丈夫。もうすぐ生理」
「ホントに?・・・ラッキー」

ニッと笑って、彼が私の足を押し広げる。

実際、本当にもうすぐ生理日だった。
だから最近、余計に精神的に不安定だったというのもある。

でも、きっと、そうでなくても、
生身の彼を受け止めたくて、嘘をついたに違いない。

熱い、熱い、熱いものが中に入ってくる。
それだけで、気が遠くなった。

ふうっと大きく、彼が息をつく。

ゆっくりとした、うねりのある腰使い。
この後にくるだろう激しさに、期待と不安を覚えながら、彼の手首をギュッとつかんだ。
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ある平凡な主婦の、少しの追憶(33)

2007年07月12日 23時59分05秒 | ある平凡な主婦の、少しの追憶(一部R18)
今時、オートロックではない、古びた鍵のついたドア。
低い天井。
ドアを入ってすぐにベッドがある、小さな部屋。
薄暗い室内。
冷房が効きすぎている、冷たい乾いた空気。
赤いカーテン。

すべて8年前と同じだった。

靴を脱ぐのももどかしいくらいの性急さで、唇を求めあった。
噛みつくようなキス。
吸い付くようなキス。

そうしながらも、お互いの洋服を競争するかのように脱がせていく。

勝ったのは私の方だった。
上のシャツを脱がされる前に、素早く彼のベルトを外し、Gパンのファスナーを下げて、勢いよくズボンを引き下げる。

そこに出てきたものを見て、思わず笑ってしまった。

「何笑ってんの?」

不満そうに彼が言う。

「いや・・・あいかわらず・・・曲がってるな、と思って」
「笑うなよ!気にしてるんだから!」

言いつつも、その声は怒っていない。

おかしなもので、この8年の間で、彼の顔の記憶は時々ぼんやりとするのに、
彼のモノに関しての記憶はやけに鮮明だった。
触り心地まで、まざまざと思い出せた。

その、本物の彼のモノを優しく握る。
右方向に曲がりながら大きくなっている彼のモノ。
愛おしい、愛おしい、彼のモノ。

ピクリ、と彼が震える。

その隙に彼の手から抜け出し、彼の前にひざまずく。
そして、そっと、その愛おしい彼のモノを口に含んだ。
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ある平凡な主婦の、少しの追憶(32)

2007年07月11日 21時42分25秒 | ある平凡な主婦の、少しの追憶(一部R18)
一時間半後・・・私はシーツにくるまれて、彼の腕の中にいた。
低い天井を見上げながら、どうしてここまで来たのか思い返してみる。


「まだ好きなんだけどな」
なんてセリフを聞かされ、言葉を失って、ただ彼を見上げた私。
そんな私に畳みかけるように彼が続けた。

オレもさ、幸せになって欲しいってずっと思ってたんだよ。
それなのに、今、あまり幸せそうじゃないから。
心配なんだよ。
オレにとって、お前は、いつまでも特別な存在だから。

「・・・バカ」

気がついたら、涙があふれ出ていた。

もう人のもののくせに、今さらそんなこと言うなんて。
反則だ。

止まらない涙。
でもなぜか心地よい。

それからどちらからともなく、手をつないで歩き出して・・・

それで、昔から変わらずにあった、小さなラブホテルに入ったのだった。
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ある平凡な主婦の、少しの追憶(31)

2007年07月09日 20時04分55秒 | ある平凡な主婦の、少しの追憶(一部R18)
しまった、と思ったけれど遅かった。
出てしまった言葉は取り返せない。

「いや、でもね、だからどうこうって話じゃないのよ」

あわてて言い繕う。

「あなたには幸せになって欲しいしね、だから・・・え?」

言葉を止めた。
ふいに、抱きしめられたのだ。

「・・・ありがとう」

耳元でささやかれる。
優しい、低い声。

「ごめん、オレ、言わせちゃったね」
「・・・・・・え」

演技かよっ!あの辛そうな顔は演技だったのかっ!

「オレさ、こないだ会ったときから、ずっと思ってたんだよ」
「何を?」
「もしかして、まだオレのこと好きでいてくれてるのかなって・・・」
「う、うぬぼれ屋~っ」

思わず笑い出してしまった。
笑い出したのをきっかけに、彼の腕の中からすり抜けた。
スッピンでいることも忘れて、まっすぐに彼を見上げる。

「でも、私ももう結婚して子供もいるし、あなたももう人のものだし」
「うん・・・」
「本当に、今さらどうこうって話じゃないのよ」
「うん・・・」

彼は真面目な顔で肯いて、そして、つぶやいた。

「でも、オレも・・・まだ好きなんだけどな」
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