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風のゆくえには~現実的な話をします 6ー2 +おまけはBL

2017年03月28日 07時33分23秒 | 風のゆくえには~現実的な話をします



 真剣にプロポーズしている、という溝部。
 本当に真剣な表情のまま、言葉を継いできた。

「オレ、かなりのお買い得物件だぞ? そこそこ貯金あるし、40代平均年収よりも稼いでるし」
「え……」
「その上、顔もいいし、健康だし、深酒はしないし、煙草はやらないし、ギャンブルもやらないし、それから……」
「ちょっと待って」

 まだ何か言おうとしている溝部を手を振って止める。

「なんだよ?」
「なんだよ、じゃないでしょ。全然笑えないんですけど。その冗談」
「…………」

 溝部はじっとこちらを見てたかと思ったら………

「あー……」
 大きく息を吐いて、ゴンッとテーブルに額をつけてつっぷした。な、なんなんだ。

「ちょっと……溝部……」
「なんでかなあ……」
「え」

 ボソボソと続く声。

「オレ、本気なのに、なんで冗談って思われるんだろう……」
「本気って……言ってること変……」
「変じゃねえよ」

 テーブルからゆっくり顔をあげた溝部。真剣な顔……だけど……

「……ぶっ」
 こらえきれず笑いだしてしまった。おでこにピーナツの皮がへばりついてる! 真剣な顔とおでこのゴミのミスマッチが余計におかしい。

「何笑ってんだよっ」
「だって、おでこ……っ」

 ケタケタ笑いが止まらない。ムッとしている溝部のおでこを指差す。

「おでこにピーナツの皮ついてるよっ」
「え、どこ」
「ここ」

 テーブルの下にあったティッシュをとって、溝部の額を拭いたところで………

「……鈴木」
「!」

 いきなりその手を強くつかまれ、ドキッとする。真剣な、瞳……

「オレ、本気だから」
「…………」
「お前もちょっとマジで考えてみて」
「…………」

 そんな……そんなこと……

「急に言われても……」
「急じゃねえだろ」

 つかまれていた手の力がゆるみ、「つかむ」から「にぎる」に変わる。

「オレ、去年の夏に言っただろ」
「…………」

 去年の夏……同窓会のことだ。

『鈴木さん、好きでした!』

 確かに、言われたけど……。でもそれは高校生の時、ということでしょ?
 しかも、後日の飲み会で私はさんざんのろけ話をしてやった。本当は結婚生活は破綻していたけれど、強がって幸せのフリをしたのだ。そして、溝部もあの時「オレも頑張ろ~」って、合コンで知り合った女の子にアタックするとか言ってたし………

「さっきお前、ピーナツの殻剥いてくれただろ?」
「…………」

 小皿に残ったピーナツ。そして、大皿のわきのピーナツの殻……

「やっぱりいいな~って思ったんだよ。こうやって一緒に飲んだり、ピーナツ剥いてくれたり………」
「…………」
「こうやってお前と毎日一緒にいられたらって……」
「…………」
「高校生の時に思ってた未来が本当になったらって……」
「…………」

 何だろう……何か……モヤモヤする……

 溝部が見ているのは高校生の時の私でしかないだろう、というモヤモヤ。それとは別にも何かモヤモヤ……

 そんな私の心中に気がついた様子もなく、溝部は両手で私の手を包み込んできた。大きな、分厚い手………

(…………あ)

 その手を見て………思い出した。

 夫の職場近くの喫茶店……こうして、職場の女の子の手を包み込んでいた夫の横顔……

(一緒だ……)

 手慣れてるって感じがする。
 溝部も、こうして色々な女の子を口説いてきたんだろう。元夫みたいに……

「鈴木?」
「…………………」
「どうし………」

「あ~~ムカツクわ~~」
「え」

 思いきり手を引き、その温かいぬくもりから抜け出す。 

 プロポーズなんて言葉を軽々しく言った溝部に腹が立つ。バカにするな!

 でも、それより何より、

(ムカツクー!)

 さっきドキッとしてしまった自分にめちゃめちゃ腹が立つ。なんで溝部ごときにときめいてんだ私!

 腹立ちのまま、溝部を睨み付ける。

「落ちやすそうな出戻りに声かけて、さみしい一人暮らしから抜け出したいって?」
「え……っ」
「おあいにくさま! こっちにだって選ぶ権利くらいあるから」
「す……っ、痛っ」

 もう一度伸ばしてきた手を叩き落とし、

「ばーか」
「わ……っ」

 手元にあったピーナツの殻を溝部の額に向かって投げつけた。元バレー部のスナップなめんなよ。

「わっ、ちょ、鈴木……っ」
「くらえバカっ」
「痛い痛いっ!地味に痛いんですけど!?」
「ふざけんな、バカ」
「ちょ……っ、鈴木?鈴木さん!?」

 あああ、ムカツク!ムカツク~~っ!

「わ、お母さんなにやってんの?ケンカ?」

 戻ってきた陽太が楽しそうに言うまで、私は延々とピーナツの殻を溝部に投げ続けていた。


***


 そんなことがあってからの約2週間……
 溝部は性懲りもなく毎日のようにラインを送ってきた。一応読みはしたけどほとんど返事はしなかった。

 それなのに、仕事で一泊家を空ける間、陽太が溝部の家に泊まりに行くことになってしまって……。
 23日の朝、溝部が一人暮らしをしている都内のマンションを陽太と一緒に訪れた。

 あんなことがあった後なので、ちょっと気まずい。救いは渋谷君もいるということだ。
 渋谷君は一緒に住んでいる恋人の桜井君がインフルエンザにかかってしまったので、溝部の家に避難中なのだそうだ。
 ラブラブな二人のこと、ラブラブ看病でもするのかと思いきや、渋谷君は小児科のお医者さん、桜井君は学校の先生のため、インフルエンザにかかった場合は、治るまで別居することにしているそうだ。そのプロ根性素晴らしい。

「まあ、渋谷君いるから安心……」
「何だよ!オレ一人じゃ信用できねーっつーのかよ!」

 ボソッと言った言葉に、速攻で突っ込んでくる溝部。安定のウザさ。態度が変わってなくて有り難いといえば有り難いけれど……。

「だって、親にとって、子供を預ける時に一番心配なのは、子供が体調崩したらどうしようってことだもん。お医者様がいてくれるなら、本当に安心だよ」

 陽太は小さい頃は喘息の薬を常用していた。スイミングを習わせたのが良かったのか、単に体が強くなってきたのか、症状が出る回数は減り、小学校入学のタイミングで薬からは卒業したけれど、やはり心配は心配だ。

 溝部は素直に「なるほど」と手をうつと、

「じゃあ、そこらへんは渋谷先生、よろしくお願いします」
「先生言うな。気持ち悪い」

 渋谷君が苦笑して、こちらをふり仰いだ。

「アレルギーとかは?」
「大丈夫、な、はず」
「はずって!」

 またしても速攻のツッコミ。ホントウザい……。

「ねー、あんたのそのツッコミ癖、どうにかなんないの? ほんっとウザいんですけど」
「気にするな。慣れろ」
「…………。陽太、溝部に変な影響受けないようにね」
「分かってる」

 コックリとうなずいた我息子。嬉々として溝部が陽太の頭をグリグリし始める。

「分かってるって陽太~~っ」
「うわ、やめろ溝部っ」

 陽太、楽しそうだ。なんかやっぱり複雑……。

「じゃあ、すみません。よろしくお願いします」
「おお」

 軽く手を挙げた渋谷君。あいかわらずイケメン。

「駅まで送ってくぞ」
「え、いいのに」
「いいからいいから」

 車の鍵と私のカバンを勝手に持って玄関に向かう溝部。あいかわらず強引。


 その強引さに甘えてちゃんとお礼を言っていなかった、と今さら気が付いて、車に乗りこんだ時点で迷惑をかけるお詫びとお礼を言うと、

「何いってんだよっ」

 溝部はアハハと明るく笑って、

「いくらでも頼れって書いただろー」
「…………」

 いくらでも頼れ?
 そんなこと書いてあったっけ?

「え、どこに?」
「おーまーえー」

 ガックリと肩を落とした溝部。

「二週間くらい前のラインに書いただろ……」
「え、そうだっけ?」

 流し読んでるから記憶にない……

「ごめん。覚えてない」
「ひでー……お前もうちょっとオレに興味持てって」
「ごめん。持てない」
「お前なあ……」

 ったくー……と言いつつ、溝部はくくくと楽しそうに笑いだした。

「まあ、とりあえず頼ってくれて嬉しい」
「…………」

「仕事頑張ってこい」
「………ありがと」

 その意味の分からない好意に甘えるのはモヤモヤする。利用するようで申し訳ない気もする。でも、今は……有り難い。


 電車に乗ってから、あらためて溝部のラインを読み返してみた。ずらずらとたくさんあるから読み返すのはちょっと面倒だ。そんな中、

「あ……、これだ」

 思わず声が出てしまった。

『困ったことがあった時に、一番に思い浮かぶ相手がオレでありたい』
『いくらでもオレに頼れ』

 …………。

「溝部……」

 こんなこと書いてくれてたんだ……

 くっと胸が詰まったような感覚がくる。
 でもそれと同時に笑いも起こってしまった。

(こんな素敵な言葉、読み落とされちゃうってどうなのよ……)

 それが溝部らしいといえば溝部らしい。

「ほんとバカ……」

 久しぶりに、心が温かくなった。



------------------

お読みくださりありがとうございました!
続きまして今日のオマケ☆

-------------------


☆今日のオマケ・浩介視点


 おれがインフルエンザになってしまったため、別居中のおれ達……

 慶は様子を見に来てくれて、着替えさせてくれたり、洗濯、洗い物、掃除をしてくれるけれども、マスク着用でほとんど話さない。必要以上には触れてくれない。しょうがないこととはいえ、さみしい……

 3日目の夕方……。
 熱は下がっているけれど、食べられなかったせいか体力が落ちていて、むしろ熱があったころよりも朦朧としていた。

(あー……今日は記念日だったのになあ)

 12月23日は付き合った記念日。いつもならば食事に行ったりするのに……

 慶はおれをベッドの上に座らせ、淡々と、蒸したタオルでおれの体を拭いてくれ、新しいパジャマに着替えさせてくれる。

(慶……お医者さんみたい)

 って、本当に医者だった……って当たり前のことを思う。
 でも、本当に、おれは単なる患者って感じで、この着替えも作業でしかなくて……

(慶は寂しくないのかな……)

 溝部と楽しく過ごしてるのかな。溝部がラインで教えてくれたけど、今日から鈴木さんの息子の陽太君が来てるんだもんな。楽しそうだな……

 会えない寂しさと、朦朧とした頭とで、なんだか泣きそうになっていたのだけれども……

「………浩介」

 ぼそっと小さなつぶやき……

 そして。

「!」

 後ろからぎゅっと抱きしめられた。

(………慶)

 愛おしい気持ちが伝わってくる。その愛に包まれていると実感できる……

 でも、そのぬくもりはすぐに離れてしまった。そして容赦なく寝かされてしまう。そのまま、また、淡々とした作業に戻り、慶は出て行ってしまった。

「慶………」

 でも……背中が温かい。
 離れていても、少しの時間でも、その愛は確かにここにある。

「早く良くならないと……」

 よくなったら記念日のお祝いをしよう。どこに行こうかな……
 そんなことを思っていたら、いつの間に眠っていた。


-------------------------------

お読みくださりありがとうございました!
また遅刻(涙)

毎週火曜日と金曜日の朝7時21分に更新する予定です。
次回は3月31日金曜日、どうぞよろしくお願いいたします!

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風のゆくえには~現実的な話をします 6-1

2017年03月24日 07時21分00秒 | 風のゆくえには~現実的な話をします

【有希視点】


2016年12月23日(金)


 2週間ほど前、

(もう、溝部には会わないようにしよう)

 そう思ったのに………
 結局また、溝部を頼ることになってしまった。


 22日の夜、突然、大きな仕事が舞い込んできた。取材に行くはずだった人がインフルエンザにかかり、急遽声をかけてもらえたのだ。これを逃す手はない。
 明日の午後から翌日の夜までの一泊、と言われたけれど、二つ返事で「行きます」と答えてしまった。電話を切った後に、息子の陽太に伝えたところ、

「うちで留守番やだ」
「え」

 いつもは快く送り出してくれるのに……
 眉を寄せた陽太をみて、ふと思いついた。

「もしかして、お父さんのとこ行きたい?」

 離婚以来、春休みと夏休みに一泊ずつ元夫のところに泊まりにいかせた。もう冬休みだし、それを期待してのことだろうか、と思って言ったら、

「はあ? ありえないんだけど」

 ムッと口を尖らせた陽太。ホント生意気。誰に似たんだろう。4年生でこの言葉使い、それこそありえない。

 でも、続けて言った陽太の言葉は意外なものだった。

「お母さんいないと、上のおばさんが出ばってきて鬱陶しいから嫌なだけ」
「え?そうなの?」

 実家は二世帯住宅で、一階に母の住居があり(父は3年前に他界したため、現在は母と私と陽太の3人で住んでいる)、二階に弟一家の住居がある。
 弟のお嫁さんは、私が出戻ってきたことを良く思っていない。自分の娘との二世帯住宅生活を夢見ている彼女にとって、私がこのまま一階に住み続けることは、絶対にあってはならないことなのだ。姪はまだ幼稚園生だというのに、ずいぶんと気が早いことだ。

(出ばってって何だろう……)

 母への懐柔策のことだろうか……
 一年前、私が「実家に戻りたい」とお願いしたところ、母からは「1年だけ」と言われた。それは義妹の強い要望だったということは後から知った。
 もうすぐ丸一年になる。あと少しだけ待ってほしい、と母には言って了承もらっているけれど、義妹は不満なのだろう……

 なんてことがグルグル頭の中で回っている中で、陽太がケロリとして言った。

「だからさー、溝部のとこ泊まりにいってもいい?」
「………………は!?」

 なぜ溝部!?

「こないだから、泊まりにこいっていわれてるんだよ」
「…………」

 溝部ーーー!!
 私がラインを無視してるからって、陽太を勝手に誘うなんて……っ

「なんか溝部、最近お母さんに無視されてるって、落ち込んでるよ」
「………それは」

 溝部、お前のせいだろうがっ!!


 約2週間前、12月11日の夕方。
 山崎君の結婚式帰りの溝部がうちにやってきた。持ち帰り用のウェディングケーキを持ってきてくれたのだ。
 そこにたまたま(たまたまなのかわざとなのかは不明)、義妹が下りてきて、「せっかくだからお茶でも」と言いだし、そのままズルズルと夕飯まで食べていくことになり……

 その後、いつの間に陽太と母は弟一家と一緒に2階に行ってしまっていて、気がついたら溝部とさしで飲んでいた。

 若い頃を知っている気安さからか、この1ヶ月半、何だかんだと連絡を取り合ったり、陽太の野球の練習に付き合ってもらっていたせいか、ついつい心を許して、愚痴をこぼしてしまって……

「やっぱり、仕事変えないとと思っててさ……」
「なんで? せっかくライターになったのに?」

 卒アルに書いてたじゃん、お前。という溝部。
 そう、雑誌のライターになることは高校の頃からの夢だった。でも、なってみたら夢は生活の一部となり、そして、結婚生活を維持するために一度は手放した。

 あの時辞めていなければ……と、再就職を探した際にものすごく後悔した。以前のツテで今はフリーとして細々と仕事をもらえてはいるけれど ……

「会社やめてなかったら、続けられてたかもしれないけどね……やっぱりフリーは安定しないよ。もう、実家出ないといけないし、子供と二人、生活していくのは無理かなって」
「それは金銭的にってことか?」
「そう。金銭的に。夢だけじゃ食べていけませーん」

 おつまみのピーナツの皮をむく音がやけに響く。別に食べたいわけでもないのに、手持ち無沙汰でひたすらむいてしまっていた。

 小皿にたまったピーナツを「食べる?」と差し出すと、溝部はなぜかビックリしたような感じで「あ~~……サンキュー……」と小さく言って食べはじめ、

「あのさあ……」
 急にあらたまったように、正座をした。

「なに、あらたまって」
 顔変だよ、とからかって言ったけれど、溝部は真面目な表情を崩さず、ボソボソと言葉を続けた。

「オレもそろそろマンション更新なんだよ」
「あー、あんた、都内で優雅な一人暮らしなんだっけ?」
「…………。優雅じゃなくて、さみしい一人暮らし、な」
「さみしい?」

 じゃあ、実家帰ってくればいいじゃん。

 言うと、溝部は軽く首を振り、

「いや、実家は姉ちゃんも母ちゃんもうるせーから帰りたくなくて……。でも、横浜には戻ってこようかと思ってて」
「あ、そうなんだ」
「でさ」

 再び姿勢を直した溝部。なんなんだ。

「なによ?」
「あの……」 

 そして、溝部はいたって真面目な顔をして、言った。

「オレ達、一緒に暮らさないか?」

「………………」
「………………」
「………………」
「………………」

「………………は?」

 なに……?なに言ってんの?

「何を………」
「陽太の学校のこともあるから、この付近で探してさ……、ほら、駅の大通り挟んだ向こうのマンションとかどうだ? 前に売りにでてたんだよ。あそこらへんって、小学校の学区ここと一緒だよな?」
「一緒……だけど……」
「あそこならスーパー近いし、良くね?」
「………………」

 良くね? って……、意味が分からない……

「あの……意味分かんないんだけど?」
「何が?」
「なんで私たちがあんたと暮らすわけ?」
「嫌か?」
「………?」

 溝部……酔ってる……ようには見えない。真面目な顔のままだ。

「一緒に住んだら、絶対、楽しいぞ」
「楽しい……」

 ふっと、陽太と溝部が一緒に野球をしたりゲームをしたりしている姿が頭をよぎる。確かに楽しい………だろうな。

 ああ、なるほど。ようやく合点がいった。ルームシェアってことか。少し前に流行ってたもんな。

「なるほど。ルームシェア、ね」
「は?」

 私の言葉に今度は溝部がキョトンとした。

「ルームシェア?」
「ってことでしょ?」
「んなわけねえだろ」

 溝部、眉間にシワが寄ってる。

「なんでそうなる」
「なんでって………………」

 って? って、ことは………………

「え?」
「え、じゃねーよ」

 溝部、ムッとしてる。

「人が真剣にプロポーズしてるっつーのに、何だその斜め上な返事は」
「プ……?!」

 プロポーズ?!

 呆気にとられた私に、溝部はコックリと肯いた。



-----------------------------


お読みくださりありがとうございました!
書こうと思った半分しかかけてないし、おまけも書いていないのですが、ちょっとトラブルがあり、とりあえずここまでで投稿させていただきます(涙)

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風のゆくえには~現実的な話をします 5 +おまけはBL

2017年03月21日 07時21分00秒 | 風のゆくえには~現実的な話をします


【溝部視点】

2016年12月11日(日)大安


 快晴の中、高校の同級生の山崎と、8歳年下の菜美子ちゃんの結婚式が行われた。
 開放的なテラスのある、レストランウェディング。
 元々美人な菜美子ちゃんの純白のウェディングドレス姿は、まるでモデルさんのようで……

(なぜこいつが……)

と、その横に立っている男を見たら、誰もがそう思うだろう。地味で真面目が取り柄の公務員・山崎。でも……

「やっぱり結婚相手にはこういう人が一番よねえ」
「菜美子は良い人を見つけたねえ」
「優しそうで誠実そうで、いいじゃないの」
「区役所にお勤めなんて、安心ね」

 チラホラと聞こえてくる、山崎アゲの言葉の数々。主に、年齢の高い層からのウケがかなり良い。なんか羨ましい……

 それから……

「一緒に写真いいですかあ?」
 きゃっきゃっと若い女子~中年のオバサマに声をかけられまくっている、うちのテーブルの男二人……

「あ、おれ撮るよ?」
「違くてー! 渋谷さんと桜井さん一緒じゃないとー!」

 みんな楽しそうに、桜井と渋谷を取り囲んで写真を撮ってもらっている。

 桜井と渋谷が同性カップルである、ということは、列席者のほとんどに知れ渡っているようだ。というのも、山崎と菜美子ちゃんからの希望で、二人は夫婦扱いとなっていて、お祝儀袋も一つで受付したので、受付を担当した子はもちろん、その時そばにいた人達にも知られ……

「あーいいなー。若い女の子に囲まれてうらやましいー」
「動物園のパンダ状態のどこがうらやましいんだよ」

 おれが言ったのに対して、渋谷が苦笑して答えてくる。

「そんなに珍しいか? おれたち」
「まあ、珍しいし、しかも二人ともイケメンだからな」
「えええっ」

 長谷川委員長の言葉に、桜井が「とんでもないっ」と跳ね上がった。

「慶はそうだけど、おれは違うでしょっ。隣りで写るのが申し訳ないよ」
「あー、いいなあ。おれも申し訳ないって言いながら写りてえなあ」
「溝部……」

 みんながやれやれ、といった感じに肩をすくめたところで、斉藤の奴が嫌なことを言い出した。

「そういう溝部は鈴木とどうなった?何か進展あった?」
「…………」

 黙ってしまうと、またみんな、一斉にやれやれと肩をすくめた。

「なんだ。何もないのか」
「あ、いや……、何もなくは、ない……」
「え?!」
「何何?!」

 食いつかれたけど、食いつかれるようなことはないんだけど……

「あの………結構頻繁に連絡は取ってるし、毎週、陽太の野球特訓してるし……」
「おお!すごいじゃん!」
「でも……」
「何?」

 みんなに見られ、はあっと大きく息をついてしまう。

「いつもと同じパターンにハマりそうな気がしてきた……」
「同じパターンって?」

 首を傾げられ、真面目に言葉を続ける。

「『良い友達』パターン……」

「…………」
「…………」
「…………」
「…………」

 少しの沈黙の後……4人は一斉に「ああ~」と納得したようにうなずいた。

「待て待て待て!」

 なんでみんな納得する?! そんなにオレ『良い友達』っぽい?!


***
  

 デザートは、バイキング方式で自分の好きなものを取っていき、最後は新郎新婦からウェディングケーキを取り分けてもらう、という形式だった。

 そこで、タイミングが良いんだか悪いんだか、菜美子ちゃんの親友、明日香ちゃんと前後ろで列に並ぶことになってしまった。
 オレを振って、イケメンチャラ男と付き合いはじめた明日香ちゃん。気にした様子もなくニコニコと話かけてきた。

「溝部さん、聞きましたよ~。今、本気で狙ってる人がいるんでしょ? 高校の同級生!」
「………あ、うんうん」

 誰だ!変なこと吹き込んだのはっ!……とも思ったけれども、ふと、思いついた。

 明日香ちゃんなら、オレの欲しい答えを知っているかもしれない……

「あの、明日香ちゃん?」
「はい?」

 相変わらずの抜群に可愛い瞳で見返してくれる明日香ちゃん。

「参考までに聞きたいんだけど……」
「はい」
「オレの何がダメだった?」

 いうと明日香ちゃんは「?」というように首をかしげた。

「ダメって?」
「あのー……、明日香ちゃんは結局、さんざん口説いてたオレを振って、佐藤君を選んだわけじゃん? オレの何がダメで……」
「え、何言ってるんですか?溝部さん」

 口に手をあて、明日香ちゃんはアハハと笑った。

「口説かれた覚えも、振った覚えもないですけど?」
「………………え?」

 覚えない………って?!

「いやいやいやいや、オレさんざん誘ってたよね?」
「えー、全然本気じゃなかったじゃないですか」
「えええええ!?本気だったよ!?」

 あれを本気と言わず何を本気という!?

「うそー、ノリにしか思えなかったですよー」
「いやいやいやいや……」
「それに色々な子誘ってるんだろうなって感じだったし」
「えええっ明日香ちゃんしか誘ってないよ?」
「えーうそー」
「いやホントだって」
「ホントに? やだごめんなさい」

 引き続きアハハと笑う明日香ちゃん。

 な、なんてことだ……
 ごーん……と落ち込んでいたら、

「ああ、そっか。分かりました」
 明日香ちゃんがポンと手を打った。

「そういうところなんじゃないですか?」
「え?」
「ダメなところ?」
「………」

 明日香ちゃん、にっこりと可愛らしく笑うと、

「本気って思われないところがダメ。みたいな」
「……………」

 ぐうの音もでないとはこのことだ……

「今度の彼女さんには本気見せてあげてくださいね」
「いや、オレはいつでも本気なんだけど……」
「わ!溝部さん!見て!このチーズケーキ美味しそう!」
「…………」

 可愛い可愛い明日香ちゃん。オレ、本気だったんだけどなあ……

 でも、本気の明日香ちゃんに対してさえ、『鈴木呪縛』が発現していたことは否定できない。いつでもそうだ。どの女の子に対してもそうだった。

『鈴木と似てる』
『鈴木とはここが違う』
『鈴木だったら……』

 どの女の子のことも、いつも心の片隅で、鈴木と比較していた。
 オレはこれを『鈴木呪縛』と名付けている。高2の冬に鈴木を好きだと自覚してから、ずっとずっとだ。オレはずっと呪縛され続けている。



「菜美子~お色直し水色正解~可愛い~」
「ありがと」

 親友の言葉ににっこりと微笑む完璧な新婦。その横で、黙々とウエディングケーキの取り分けに励んでいる新郎……。

「山崎……。お前、胸の花がなかったら、確実にボーイと間違えられるぞ……」
「え?! あ、溝部、今日はありがとう」

 必死すぎてオレの嫌味も耳に入っていないらしい。大変だな、山崎……

「次はオレの番だからな」
「うん。頑張って」
「…………」

 ぽん、と皿にのせられたウェディングケーキ……。美味しそうだな……。
 思わずジーと見ていたら、山崎が「あ」と言って、

「持ち帰り用の箱あるけど、鈴木に持ってく?」
「え?!」

 なんだそのナイスな提案は!

「持ってく!持ってく!」
「じゃ、もうちょっと待ってて。もうすぐアナウンス入るから」
「オッケーオッケー!」

 山崎、なんて良い奴だ!やった! と内心小躍りしていたら、

「溝部さん。頑張ってください」

 明日香ちゃんがぐっとガッツポーズをしてくれた。

 よし。オレは頑張る。頑張れる。今度こそこの恋を実らせて、呪縛から開放されてやる。

 

------------------

お読みくださりありがとうございました!
続きまして今日のオマケ☆

-------------------


☆今日のオマケ・慶視点


 山崎らしく、戸田先生らしく、素敵であたたかな結婚式は終始和やかな雰囲気のままお開きとなった。


「わ……ペアグラスだね」
「おお。綺麗だな」

 引き出物は有名なブランドのシャンパングラスだった。

 なるほど。おれ達をカップルとして招待したい、と言ってくれたのは、引き出物のことがあったからなのかもしれない。

「お前の方のは?」
「えと……あ、お揃いの小皿。かわいい」

 オレの方の引き出物が、他の招待客と同じもので、浩介の方のは、夫婦で列席した人達の奥さんがもらっていたものと同じで少し小さめのものだった。

(うーん………)

 カミングアウトして、早1年半……
 前々から気になっていることがある。

「お前さ……お祝儀袋の名前、おれのこと右に書いてたな」
「うん」

 祝儀袋の用意は任せっきりだったので、受付で浩介がふくさから出した時にはじめて気がついた。連名の場合、右が格上になる。夫婦の場合は夫が右。同格の場合は五十音順だ。

「同じ歳なんだから、お前の方が右じゃねえ? 桜井、渋谷って五十音順……」
「うちはさ」

 浩介は遮って、ニッコリと言った。

「慶が旦那さんなんだから、慶が右で合ってるよ」
「………………」

 やっぱりそのつもりだったからか……
 浩介はいつもそう言うけれど……今日撮った写真を客観的に見ていて、確実に他人はおれを「嫁」と思うだろう、と思ったのだ。おれの方が背が低いし、それに認めたくはないけれど、やはりおれは中性的な顔をしている。

 同性なのだから、どちらが夫とか妻とかないけれど、それでも、こういう感じにどちらがどちらなのかを決めなくてはならないことがあって……

「なあ……お前、それでいいのか? お前だって一人息子なわけだし、その……」
「んん?」

 手際よく、包装紙を畳みながら浩介が首をかしげる。

「慶、前もそんなこと言ってたよね?」
「んー………なんつーか……ほら、見た目もおれの方が……」
「慶の方が旦那さんぽいよね」
「え?」

 おれの方が?

「何言って……」
「みんなそう思ってるよ。だから山崎と戸田先生だって、おれの席の下に奥さん用の引き出物置いたんでしょ?」
「それは………」

「同性なんだから、どっちがどっちってないけど、どっちって言わなくちゃいけないときは、慶が旦那さんってことでいいと思ってるんだけど……なんか不都合ある?」
「……………」

 ない……ないんだけど……なんだろう。このモヤモヤ。カミングアウトして以来、時々こういう風にモヤモヤすることがある。

 すると浩介が「なんか……」と言いかけて、

「あ、ううん、何でもない」
「なんだよ?」

 ちょっと笑っている浩介。なんだよ。気になるじゃねーかよ。

「何一人で笑ってんだよ」
「ちょっと、思い出しちゃって」
「何を?」
「んー……」
「教えろよっ」
「あはははは、やめてっ」

 脇腹をくすぐってやると、浩介は身をよじってから、きゅっとおれの両手をつかんで、また、ふふふ、と笑った。

「あのね……高校卒業して、初めてして……」
「?」
「それからおれ達、どっちがどっちするって散々悩んだじゃん? って覚えてない?」
「あー……」

 そんなこと、あったなあ……
 はじめは両方しようと頑張ったんだっけなあ……

「それで結局、慶が『受』って決定したけど、おれはずっと、慶ばっかり痛い思いすることに罪悪感があって……」
「でも、それは」
「うん」

 ちゅっと頬にキスをくれた浩介。この上もなく嬉しそうな顔をしている。

「慶、痛いばっかりじゃない、気持ち良いって言ってくれたよね」
「……………」

 う……。恥ずかしい……何の罰ゲームだ。
 思わず浩介の肩に額を押しつけると、ぎゅうっと抱きしめられた。

「ちょっと、似てない?」
「……どこがだ」
「慶はそれでいいって言ってくれてるのに、おれが、でも、でも、って言ってたとこ」
「…………」

 ああ、なるほど……。
 確かに似てる。浩介ばかりを『奥さん』にさせることに罪悪感がある……。

 でも、おれがあの時『それでもいい』って言ったのは、本当に気持ち良いからであって……

「おれも気持ち良いよ?」
「は!?」

 なんの話だ!?
 また、ふふふと笑う浩介。意味がわからん。

「何が気持ち良い……」
「おれは慶のものですって感じが」
「…………え」

 顔を上げると、コツン、とおでこをつけられた。

「おれは慶のもの。慶だけのもの」
「…………」
「おれ、全然抵抗ないし、むしろ嬉しいよ?」
「…………」
「だいたいさ、慶はすっごく男らしいんだから、奥さんなんて似合わないよ? だから、慶が旦那さん」

 浩介はニッコリと笑うと、

「旦那様、お茶になさいますか? それともお風呂? それとも……」
「…………愚問だな」

 キスをする。そのまま、軽いキスを繰り返しながら、ソファに押し倒す。

「当然、お茶より風呂より、お前が先だ」
「ん」

 浩介は知っているだろうか。こうしてお前がおれを認めてくれることが、何より嬉しいってこと。

「あ、でも待って。スーツ、ちゃんとハンガーかけてから」
「あー」
「慶ってば」
「んー」
「もう……」

 カミングアウトする前までは起こりえなかったモヤモヤの数々。浩介を『奥さん』にすることにも、そうしなくてはならない世の中の常識みたいなものにもモヤモヤする。でも、世の中に適応していくには、このモヤモヤはガマンするしかないのだろう。

(それでも……)

 テーブルに置かれたシャンパングラスと小皿を見て思う。
 それでも、周囲に認めてもらえるということは、嬉しい。

「浩介……」
「慶」

 くすぐったそうに笑った浩介の瞳にもう一度口づけた。


-------------------


☆続きのおまけ・浩介視点。その夜の話。


(ああ、やっぱりかっこいいなあ……)

 隣で寝ている慶を起こさないように、コッソリと今日撮ってもらった写真を眺めながら、一人にやにやしてしまう。
 普段は写真に写りたがらない慶も、友達と同僚のおめでたい席では、にこやかにおれの横で笑ってくれている。

(おれの『旦那さん』……)

 ふっと、帰宅後の会話を思いだし、ますますにやにやしてきてしまった。

 慶が『旦那さん』おれが『奥さん』というのは、「おれは慶のものって感じがして嬉しい」と慶には答えたけれど、本当は他にも理由がある。

 慶は、イケメンでスポーツ万能で社交的で友達もたくさんいて、とにかく何もかも完璧な人だけれども、一つだけ、コンプレックスがある。

 それは、背が低めで中性的な顔立ちをしていること。
 子供の頃は、その容姿をからかってきた相手には、それ相応の報復をしていたらしい(慶はこの容姿を裏切って、喧嘩がめちゃめちゃ強いのだ)。

 慶が言葉使いが悪いのも、やたらと体を鍛えるのも、おそらくそのコンプレックスのせいなんだと思う。

 だからこそ、おれは絶対に慶を女扱いしない。
 まあ、本当に男らしい人だから、女扱いをするなんてありえないんだけど(学生時代、ラブホに行くときに女の子のフリをしてくれたことはあるけど、それは慶が自ら買ってでてくれたことだ)、ほんの少しでもそんな素振りをしないように気を付けてきた。

(ほんと綺麗な顔……)

 慶の頬を優しく撫でる。

 男のおれの『旦那』であることで、慶のそのコンプレックスが少しは和らいでるに違いない……と思うのはおれの傲りだろうか。

 おれが「慶は男らしい」「慶が奥さんなんてありえない」とか言うと、慶はくすぐったそうな嬉しそうな顔をしてくれる。おれはその慶を見るだけで、どうしようもなく幸せな気持ちになる。

(おれの存在は、少しでも慶の役に立ててるかな……)

 その形のよい唇を指でそっと辿る。

(そのためなら、おれは何にでもなるよ?)

 大好きな大好きな慶。慶と一緒にいられることが、慶が笑っていてくれることが、おれの幸せ。そのためなら、おれが何者であろうと関係ない。

 それから……もう一つ理由がある。
 それは、『男避け』。

 慶はやはり見た目は小柄で綺麗な顔立ちをしているので、抱かれる側と思われてしまって……(昔、慶に迫って、のされた奴もいたな……)

 以前、同級生達がふざけて「渋谷だったら抱けた」と言ったことに頭にきて、「おれが奥さんだよ」と言ったのだけれども、それ以来、みんな慶を『旦那』と見てくれるようになった。万々歳だ。

(本当は、この男らしい人が、おれの腕の中ではあんなに乱れてあんなに色っぽくなっちゃうんだけどね……)

 今日の帰宅早々の事を思い出して、さらにニヤニヤが止まらない。ツーッとその滑らかな頬を手の甲で撫でていたら、

「…………眠れないのか?」
「あ…………」

 目は閉じたまま、慶がボソッといった。慌てて手を離す。

「ごめん、起こした?」
「そりゃ、これだけ撫でまわされたら起きるだろ」
「…………ごめん」
「ん」

 すいっと温かい腕が伸びてきて、頭を抱き寄せてくれた。腕枕だ。

「いいから寝ろ。明日仕事だぞ」
「うん……」

 額にキスをくれて、無意識のように頭を撫でてくれる。

(ああ……幸せ)

 すぐに聞こえてきた慶の寝息に引き込まれ、おれも幸せな眠りに落ちた。大好きな慶の腕の中で。


-------------------------------


お読みくださりありがとうございました!
長!!おまけなのに長!!(^_^;)
でも、一度書いておきたかった、どうして浩介が『奥さん』にこだわるのか、のお話でした。

毎週火曜日と金曜日の朝7時21分に更新する予定です。
次回は3月24日金曜日、どうぞよろしくお願いいたします!

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風のゆくえには~現実的な話をします 4 +おまけはBL

2017年03月17日 07時28分53秒 | 風のゆくえには~現実的な話をします


【有希視点】


2016年10月22日(土)


 高校の同級生、溝部祐太郎。

 クラスのムードメーカー的存在。テンション高めのうるさい奴で、しょっちゅう喧嘩をしていた記憶しかない。

 今は、大手メーカーに勤めていて、都内に住んでいる。独身生活をお洒落に楽しんでいる『独身貴族』って感じがする。

 その溝部が、なぜか最近やたらとまとわりついてきてウザイ。

『鈴木さん、好きでした!』

 一年以上前の同窓会でみんなの前で告白したことなんてなかったかのように、高校時代と変わらず、やたらとつっかかってくる(それを払いのけることが楽しい、といえば楽しいけど……)。

 そして、私の息子の陽太にやたらと構いたがるのも謎だ。


 今日、溝部から車を借りた。陽太の所属する少年野球チームで大きな車が必要だったからだ。

 溝部を頼ることに躊躇いがなかったわけではない。自己満足のために食事を奢らせろ、とか意味のわからないことを言われたあとだったから余計にだ。

 でも、結局頼ることにしてしまった。野球チームでは、いつも乗せてもらうばかりで、ずっと肩身が狭くて……、それは陽太も同じだったようで、だから、陽太も自分から溝部に連絡したのに違いない。
 結果的に、チームの保護者の方々からは口々に「助かった」と言ってもらえたし、何より陽太が嬉しそうだったので、やっぱりお願いして良かった、と思った。


 溝部はわざわざ徒歩で陽太の試合を観にきてくれた。でも、残念ながら、今日もまた陽太は活躍できず……。

「Tボールの時はもっと打てたんだよ」

 車を返すために行った溝部の実家の駐車場で、落ちこんでいる陽太をフォローしたくて、溝部に対して言い訳の言葉を重ねてしまった。

「バッティングセンターでもすごい打てるの。でも、やっぱりピッチャーからのボールは慣れてないからか……」
「慣れてないって、もう半年やってるし」

 陽太がムッとして言う。

「他の奴らは普通に打ってるし」
「でも、他の子たちは1月からだから、陽太より3ヶ月長いしね」
「でも」
「今日もこれからバッティングセンター行こうか?」
「いや、やめとけ」

 黙って聞いていた溝部が、手で制してきた。やめとけ?

「なんで?」
「バッティングセンターとピッチャーって、全然違うぞ?」
「はい?」

 真面目な顔をした溝部。違うって?

「タイミングとか球の軌道とかな。ピッチャーに慣れてないっていうなら、余計にバッティングセンターには行くべきじゃない。ピッチャーで打てるようになってから、補足的に使うべきだ」
「じゃ……どうすれば」

 陽太と二人で溝部を見返すと、溝部は自分の胸をトンッと叩いて、自信たっぷりに言った。

「オレ様に任せとけ!」

 ………………。

「えー…………」
「えーとはなんだ!えーとは! 元野球部なめんなよ!」
「えー………」
「なんだ、陽太まで! とにかく特訓するぞ特訓!」


 張り切って宣言した通り、その後、溝部は実家の庭で特訓をしてくれた。溝部の家ってお金持ちなんだな、と思う。野球練習用のネットとか、庭を照らすライトとか、普通の家にはないものがある。でもだいぶ年季が入ってるところを見ると、溝部が中学の時に買ってもらったものなんだろう。

 溝部がピッチャーになって陽太が打つ。ひたすら。何球も。
 野球チームの練習でも、ピッチャーに投げてもらっての打撃練習はあるけれど、一人に対してこんなに長時間はない。

「いいぞ!いいぞ!タイミング合ってきた!」
「おお!良いスイング!」
「お前、タイミングさえ合えばかなり飛ぶぞ」

 溝部はほめ上手だ。散々ほめちぎられて、陽太も自信を取り戻してきている。

 縁側に腰かけて、そんな二人の様子を見ながら、ボンヤリ思う。

(こんな光景に憧れてたな……)

 陽太が生まれたのは結婚6年を過ぎてから。ようやく授かった子供だった。生まれる前は「男の子だったら公園でキャッチボールがしたい」「女の子だったらデートしよう」なんて調子の良い事を言っていた元夫。でも、結局育児は私に丸投げで、家にもだんだん帰ってこなくなって……。
 女性の陰がチラついていたことにはずっと目をつむってきた。でも、陽太との約束を破って女と出かけていたことが分かった時に、自分の中の何かが切れた。

『あなたがお仕事を再開して、家のことをおろそかにしたから』

 離婚話をする中で、元夫の母親には散々なじられた。息子の浮気はすべて私のせいらしい。仕事再開よりも女遊びの方が先なんですけど? と言いたかったけれど、言わなかった。その代わり、

『慰謝料はいりません。別れてください』

 そう、言った。知り合いの弁護士に間に入ってもらい、養育費は月4万円、ということで話はついた。


 今は実家に格安で住ませてもらっているけれど、そろそろ約束の期限の一年になってしまう。今後、フリーライターという月々の収入に増減のある職業を続けるのには無理があるだろう。この一年、なんとか大きな定期的な仕事をもらえるように頑張ってきたつもりだったけれど、現実は厳しい。

(引き時かな……)

 夢も、家庭も、両方手に入れるなんておこがましい考えなのかもしれない。
 でも、思ってしまう。

(もし、義母の「孫を作るために仕事を辞めろ」という圧力に負けずに仕事を続けていたら……)

 そうしたら、もっとキャリアを積めて、それで……



「!」
 バットがボールに当たった快音で、ハッと我に返った。
 ボールは勢いよく飛んでいき……、溝部のうちの広い庭を越えて、塀の向こうに消えていってしまった。

「あ……」
「あ……」
「やべっ」

 溝部が「大変だ!」と言いながら陽太に駆け寄ってきた。嬉しそう……

「ボール取りにいくぞ! 隣のうちのばーちゃんに謝らないと!」
「う……うん」

 二人は、わあわあと「今のはいい当たりだったな!」「自分でも手ごたえあった!」と騒ぎながら門から出て行ってしまい……

「……すごい。越えた……」

 誰もいなくなった庭でポツンとつぶやく。

「陽太……一皮むけたな……」

 私も変わらないといけないのかもしれない。

 



------------------

お読みくださりありがとうございました!
真面目な話でm(__)m

続きまして今日のオマケ☆

-------------------


☆今日のオマケ・慶視点


 おれがベッドに入ると、浩介は読んでいた本を脇に置いて、ニッコニコで言ってきた。

「問題です!11月3日は何の日でしょう?!」
「…………」

 おれの彼氏は世に言う『アニバーサリー男』。記念日が大好きだ。
 でも、本人の中ではだいぶ押さえているそうで、なるべく言わないことにしているらしい。(うるさく言うのは、付き合った記念日の12月23日だけだ)。
 でも、時々こうして言ってくるので、その度におれはウンウン唸ることになる。

(これ、毎年言ってくれたら覚えられるのに、時々しか言わないから覚えられないんだよなあ……)

 とも思うけど、毎年言われるのも面倒くさいから、まあいっか……なんて思っていたら、

「今、面倒くさいって思ったでしょ!」
「え」

 ズバリ言われて「いやいやいや」と慌てて手をふる。

「そんなことはないぞ。えーっと、11月3日な……、ああ簡単じゃん」

 これはさすがに覚えてたぞ! 去年言われたばかりで、去年したばかりだからな。

「初めてキスした日。それから、結婚式の写真を撮った日、だろ?」
「それから?」
「え?」

 にっこりと先を促されて、ウッと詰まってしまう。それからってまだ何かあんのかよ……

「それからって……」
「ヒントは、慶がおれに初めてあることを言ってくれた日です」
「あること?」

 おれ、何か言ったか?

「あることって……」
「………覚えてないの?」
「…………」

 全然わかんねえ……

 うーん……と唸っていたら、浩介は「まあ、覚えてないよね。覚えてないと思ったよ」とブツブツいってから、「じゃあ、おやすみ」と、電気を消した。

 ……………。

 気になるじゃねーかよーーー!!!

「……浩介」
「…………」

 無視すんなっ!

「答え教えろよっ」

 ガシガシと足を蹴ってやると、浩介はようやくこちらに体をむけた。そして、ふわっと包み込むように抱きしめてくれて……

「……愛してるよ」
「………っ」

 耳元で低い声でささやかれて、心臓がドクンと跳ね上がる。

(うわ……っ)

と、思ったのと同時に、思い出した。それだ……

「浩介……」
「………」

 コツン、とおでこを合わせてやる。

「愛してるよ?」
「………うん」

 プッと二人で吹き出してしまう。

 そうだった。11月3日は、初キス記念日で、結婚写真記念日で、それから「初めて愛してると言った記念日」。


「愛してるよ……」
「ん」

 溢れる愛しい気持ちを伝えながら、そっと唇を合わせる。

 11月3日まであと2週間弱。忘れないようにしないとだ………





-------------------------------


お読みくださりありがとうございました!

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風のゆくえには~現実的な話をします 3 +おまけはBL

2017年03月14日 07時23分30秒 | 風のゆくえには~現実的な話をします


【有希視点】


2016年10月10日(月)


 バーベキュー翌日の夜、約束通り、溝部からラインが入った。

『陽太、今ゲームできる?』

 伝えると、陽太は「しょうがねえなあ」といいながら、嬉しそうにゲームを立ちあげた。

 溝部から誘われるかもしれないから、と、いつもは言っても言ってもなかなかやらない宿題を今日は自分から終わらせていた陽太。その点では有り難いといえば有り難いけど……。

 陽太は、真剣な顔をしていたかと思ったら、急に 叫んだり笑ったり。自分がやらないので、まったく分からない世界だ。
 一時間くらいしてからそれは終わったようで、

「あーあ。まだやりたかったのに、『お前の母ちゃん恐いからまた今度』だって」
「…………」

 また今度!? 恐いって……

「え、話できるの?ゲームの中で?」
「うん」
「へえ~……」

 知らなかった。すごいな……。と、文明の発達に感心していたところで、

『陽太のおかげで欲しかった装備揃えられそう。サンキューなー』

 溝部からラインが入った。装備ってなんだろう……
 こちらが返すよりも早く、次のメッセージ。

『お礼に飯おごらせて』

 ………………は?

『陽太、何食いたい?』

 ………………。

 画面をみて固まってしまった……。

 なんだろう……
 嫌悪感……までは大袈裟だけど、なんかゾワッとくる感じ。

 陽太に父親を思い出させたくない、父親を連想させるような大人の男の人と接してほしくない、という気持ち。

 それに……

『今だから言います! 鈴木さん、好きでした!』

 去年の6月の同窓会で、溝部がみんなの前で言った言葉を思いだす。
 聞いた時には、「いつも喧嘩ばかりしていたのに、何をいいだすんだこいつは」って感想しか持てなかった。それにその後、渋谷君と桜井君の家で飲んだ時も、溝部は今までとまったく態度が変わらなかったし、先日のバーベキューでも同じだったし、あの告白は冗談だと思うことにしたんだけど……

(こう誘われると……)

 恋愛から離れて15年以上……。鈍った恋愛アンテナではよく分からない。分からないけれども、もしかして、陽太に近づいたのも、私に近づくためだとしたら、嬉しそうにしている陽太がかわいそう過ぎる。

 心を決めて、『お礼は結構です』とだけ入れた。……が。

「……うわ」

 速攻で、『そんなこと言わず』とか、『うまいもん食わせてやる』とか、矢継ぎ早にメッセージが入ってきて(溝部、スマホ打つの早すぎ)、しまいには、

『別にお前来なくていいし。陽太と行きたいだけだから』

とまで書かれてしまった。その後も、直接会ってやった方が連携とれやすいから会ってゲームがしたい、だの、またキャッチボールしたい、だの……

(……だよね)

 私目当て?とか考えたのが恥ずかしくなってきた……。あの告白が本当のことだとしても、それは高校生の時の話だ。現役女子高生の私ならともかく、こんなオバサンには興味ないだろう。溝部は、有名メーカーにお勤めだし、金回りも良さそうだし、女に不自由はしていないに違いない。

(……結構お洒落だしね……)

 ふっと、元夫の姿が目に浮かんで首を振る。
 やっぱり、大人の男の人と陽太を会わせたくない……

『ごめん。行きません。行かせません』

 そう打つと……しばらーくたってから、ポツン、と返事がきた。

『わかった。しつこく誘ってごめん』

 ……………。

 あ、なんか申し訳ないことしたな……と、ちょっと胸のあたりがキュッとなったのに……

『でも、礼しないと気が済まねーんだよ。オレの自己満足につきあえ。いつでもいいから連絡待ってる』

 ……………。

「……………うざっ!」

 やっぱり溝部、うざいーーーー!!




【溝部視点】


2016年10月20日(木)


 恋というのは、一目惚れから始まるものだと思っていた。高校2年生のあの時までは。

(あの時…………)

 心臓を鷲掴みにされる、というのはこういうことを言うのか、と思った。


 高校2年生で同じクラスになって以来、ことあるごとに対立していた生意気な女、鈴木有希。

 綺麗な顔はしているけど、可愛げがない。色気がない。サバサバしていて男っぽかったから、バレンタインにチョコをたくさんもらうくらい女子からモテていた。

 オレは子どもの頃から、可愛いくて女の子らしい子が好きで、恋の始まりは必ず一目惚れだったので、鈴木のことはまったく眼中になかった。でも、その、打てば響く会話を楽しんでいたことは否定はできない。同性の喧嘩相手、って扱いだった

 でも、あの時……偶然、一人静かに涙を流し続ける鈴木の横顔を見て……オレは恋に落ちた。
 元々好きだったのを、その涙で自覚したのかもしれないし、今で言う『ギャップ萌え』というやつだったのかもしれない。それは分からないけれども……

 とにかく、それからのオレの恋愛人生は、鈴木有希に呪縛されることになる。


***


「オレ、何か失敗しました!?」
「うーん……失敗はしてないと思うんだけど……」
「いや、さすがにしつこいんじゃねえか?」
「まあでもさあ、いつでもいいからって書いたんだから、まだ気長に連絡待とうよ」
「だな。まだ10日だろ」

 桜井&渋谷カップルが呑気にいうのに、食いついてやる。

「まだ10日、じゃない!もう10日、だ! お前ら他人事だと思ってー!」
「まあまあ、溝部、お腹空いて気がたってる?」
「先食うか?」
「いや、いい」

 今日は木曜日。毎週木曜の夜はいつも一人だという山崎の都合に合わせて、桜井と渋谷の家に集合をかけたのだけれども、8時になっても山崎がまだ来ていないのだ。

「ゲームして待ってる」
「それ面白い?」

 コーヒーのおかわりを入れてくれながら聞いてきた桜井にコックリとうなずく。

「こないだ陽太とやって色々教えてもらってから俄然面白くなってきた」
「へえ……」

 そうなのだ。鈴木と会いたいというのはもちろんあるけれども、陽太に会いたいって気持ちも同じくらいある。オレにもし息子がいたらこんな感じかな……なんて思って嬉しくなってくるのだ。陽太は鈴木に似て、小学4年生ながら、打てば響く会話ができるのもいいし、キャッチボールも楽しかったし、ゲームも………

「あああ!!!」

 画面を見て叫んでしまった。陽太が集会所に招待してくれた!! あわてて行ってみると、

『みぞべの車、何人乗り?』

 久しぶり~~の挨拶もなく、いきなりの質問。戸惑いつつも、

『8人乗り』
『ト○タのア○ファード』

 答えると、しばらくの間の後、

『あさって、車かりれる?』

 ??? 何なんだろう? 分からないけど、『大丈夫』と答えると、

『あとでお母さんから連絡する』

 お!? なんだなんだ!? 
 でも、その前に!

『みぞべ、レベル上がったな』
『なんかやりたいことある?』

 陽太からの誘いに俄然、テンション上がってきた!

『ある!』

 あとで連絡? 車? 何でもいい!
 よし。一歩前進しそうだ!

「あ、山崎きた」
「溝部、ご飯……」
「悪い!」

 二人の声に速攻で答える。

「先食べててくれ! オレはこれから狩りに行く!」
「はあ?」 
「へえーホントにそういうこと言う人いるんだ……」

 何とでも言え!
 呆れた感じの二人の声を無視して、オレは狩りにいく。陽太と一緒に。


 一時間後、陽太と別れた直後に、鈴木からラインが入った。

『車を貸してください』
『陽太の野球チームでいつも車出してくれる人の一人が、今度の土曜日どうしてもこられなくて』
『子供たくさん乗せたいんだけど、車、土禁とかじゃない? もちろん清掃して返すけど、少し汚れても大丈夫?』

 おお、なるほどなるほど……

『全然大丈夫! 運転手付きでお貸しします』

 ウキウキして答えたら、速攻で、

『運転手いらない。全然いらない。絶対いらない。車だけ貸してよ』

 …………。なんだとーっ!

『オレも陽太の野球みたいんだけど!』
『無理』
『なんで!?』
『対戦相手の学校の駐車スペースが限られてるから、まとまって車で行くの。保護者含めて、もう定員オーバー』

 …………。だったら!

『じゃあ、オレは歩いて行く。場所教えろ』
『はあ?なんでくるの?バカじゃないの?』
『誰がバカだ!小学校だったら別に行けるだろっ教えろっ』
『行けるけど、山の上だよ。かなりの急坂』
『元ワンダーフォーゲル部なめんな。町中の坂なんか普通に登るわ』
『え、あんたワンゲルだったの?』
『去年言っただろ!』
『そうだっけ?覚えてない』
『お前もっとオレに興味持てよ!』
『1ミクロンも持てない』

 ああ……やっぱり鈴木だなあ。このノリ、懐かしくて、嬉しくなってしまう。

『来てもいいけど、隠れて見ててよ? 絶対に陽太と私に話かけないでよ?』
『わかったわかった。変装してく』

 ああだこうだとやり取りの後、土曜日の朝に鈴木の実家に車を届けることになった。

 子供の少年野球の応援に行く、なんて、高校時代に描いていたオレの将来そのものだ。
 そして、横に鈴木がいてくれたら、もう言うことはない。完璧だ。




------------------

お読みくださりありがとうございました!
溝部君、中高は野球部でしたが、大学はワンゲル部でした。鈴木さんは中高バレー部。大学はスキー部です。

続きまして今日のオマケ☆

-------------------


☆今日のオマケ・浩介視点


 溝部と陽太君がゲームをしているのを見て、やっぱりちょっと羨ましいな、と思う。

 と、いうのが、おれと慶には共通の趣味が一つもないからだ。

 高校時代は「バスケ」という共通点があった。でも、正直、おれはバスケがすごく好きだったわけではなくて……自分の中にあった「高校3年間バスケ部」という目標を達成したら、もうバスケへの情熱は冷めてしまった。以前勤めていた高校ではバスケ部の顧問をしていたけれど、それはプレーヤーとしてではなく、監督としてだったので、それはそれで面白くはあったけれど……

(おれといて楽しいのかなあ?)

 そんなことを時々考える。
 山崎と戸田菜美子先生は、映画の好みが合うそうで、よく一緒に映画を観に行ったり、ビデオを借りてみているらしい。
 鈴木さんの親友の小松さんとその旦那さんは旅行が趣味で、月に一度は小旅行、年に一度は海外旅行、と決めているそうだ。

 おれと慶は、映画の好みも違うし(慶はアクション物が好きだけれど、おれはヒューマンドラマが好き)、旅行も、慶は食べる系、おれは歴史系。唯一、温泉でのんびり、は二人とも好きかな……

 こうして家にいても、おれは本を読んでいることが多いけれど、慶はテレビを見ていたり、仕事をしていたり、筋トレをしていたり……

「何? どうかしたのか?」
「あ、ううん……」

 ソファーに座って本を開きながら、慶が柔軟をしているのをぼんやり眺めていたら、終わったらしい慶に声をかけられ我に返った。

「あいかわらず体柔らかいなあと思って……」
「そりゃ毎日の積み重ねだ。お前も毎日やればこんくらいになるぞ」
「あ、耳が痛い」

 大袈裟に眉を寄せると、慶はクスクス笑いながら、テレビをつけて、おれの横に座った。いつも見ているニュース番組のスポーツコーナーの時間だ。でも、

「もし寝たら起こしてくれ」
 そう宣言すると、体をずらして、おれの膝にとん、と頭を預けてきて……

(膝枕、だ)
 今さらながらキュンとなる。読んでいた本を閉じて、ゆっくり慶の頭を撫でる。

「寝たら起こしてって、寝る気満々じゃん」
「いや、寝ない。寝ないぞ」

 言いながらも目がつむりそう……。愛しい気持ちでいっぱいになりながら頭を撫で続けていると、

「あー……」
 CMを見ながら、慶がボソッとつぶやいた。

「お前がいるっていいなあ……」
「……え?」

 聞き返すと、慶はおれの膝を撫でながら、しみじみ、というように言った。

「こういうの、至福の時っていうんだろうなあ」
「慶……」
「あ、はじまった」

 パチッと目を開けた慶。興味のあるニュースらしく、真剣に見ている。

(………至福の時、だって)

 お前がいるっていいなあって……
 慶は、おれが「いる」だけでいいんだ……

 おれも慶がこうしていてくれるだけで、それだけで、幸せ。

 閉じていた本を左手で開いて、読書を再開する。右手で慶の頭を撫でながら。

 二人、違うことをしていても、同じ空間にいられるだけで、それだけで幸せだ。




-------------------------------


お読みくださりありがとうございました!
趣味の違う2人、でも一緒にいられるだけで幸せ^^

クリックしてくださった方、本当にありがとうございます!!泣けます……感謝感謝でございます。
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