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風のゆくえには~現実的な話をします 11-1

2017年04月14日 07時21分00秒 | 風のゆくえには~現実的な話をします


【有希視点】


2017年2月8日(水)


 今日は息子の通う学校で『二分の一成人式』が行われる。

 二分の一成人式とは、ここ数年で一般的になってきた小学校行事で、小学校4年生の子供達が、10才の誓いを述べる式である。半成人式、10才式、ともいう。

 この学校では、音楽チームと運動チームに分かれての発表(陽太は運動チームらしい)、将来の夢の発表、全体合唱、というプログラムで行われるそうだ。一昨年までは、式に出席した保護者に子供が直接手紙やプレゼントを渡すというプログラムもあったそうだけれども、保護者が来られない児童への配慮から、それは中止になったそうだ。


「お母さん、これ」

 一週間前、招待状、と書かれた手作りのカードを渡された。招待できる保護者は2名まで。以前、一族揃って出席して大騒ぎした保護者がいたそうで、それ以来、人数規制されたらしい。来られない家庭もあれば、来すぎて迷惑をかける家庭もある……世の中色々だ。

 陽太は、ぶっきらぼうに差し出しながらも、

「水曜日だけど、仕事大丈夫?」
「もちろん。前から予定空けてあるよ」

 うなずくと、ちょっと笑顔になった。
 こういうところが、かっこつけててもまだまだ子供でかわいいな、と思う。……と、

「あと一人は、溝部でよろしく」
「は!?」 

 続いた言葉にそんなほんわりした思いも吹き飛んだ。

「なんで溝部!?」
「来たいって言ってたから」
「…………」

 溝部……余計なことを……。
 ため息を隠しながら陽太に告げる。

「溝部は家族でもなんでもないからダメでしょ。お母さんはおばあちゃん誘うつもりだったんだけど?」

 それとも、お父さん誘う?
 聞くと、陽太はふっと小さく笑った。

「おばあちゃんもお父さんも、別に来たくないだろ」
「そんなこと……」

 詰まってしまう。陽太、そんな風に思ってるんだ……。孫に、子供に、そう思わせてしまう母も元夫も最悪だ。でも、陽太は何でもないことのように続けた。

「だったら来たいって騒いでた溝部が来た方がいいじゃん?」
「…………」

 そう言われると………

「それに、先生に聞いたら、別に家族じゃなくてもいいって言ってたよ」
「え!? 先生になんて言って聞いたのよ!?」

 慌てた私に、陽太はニヤリと、

「野球のコーチよんでもいいかって」
「コーチ……?」
「オレ、『プロ野球選手になります』って言うから、それ聞かせたいって言ったら、『いいんじゃなーい?』ってかーるくオッケーくれたよ。でもお母さんがいいって言ったら、だってさ」
「…………なるほど」

 誰に似たんだ。この口の上手さ。って、父親に似たんだろうな……。

「でもさあ、溝部、今、仕事忙しいんだよな? 全然ゲームできないって書いてあった」
「書いてあった?何に?」
「フレンドのコメントのとこ」
「?」

 なんだろうそれ……。っていうか、君たち「フレンド」なの? とか諸々聞きたい気もするけれども、面倒なのでやめた。

 確かに、溝部はここ数日、仕事が鬼のように忙しいらしい。それなのに、一日一回は必ずラインをしてくるマメさは尊敬に値する……。


 こうして、本番当日を迎えたわけだけれども……

「よー、なんか久しぶり」
「うん。久しぶり……」

 溝部、疲れた顔してるな……

 仕事はまだまだ忙しいらしく、今日も「具合が悪いから病院に行ってくる」と言って、抜け出してきたそうだ。

(あの人はそんなこと一度もしてくれたことない……)

 父親なのに。
 別に、会社をサボってほしかったわけではない。ただ、もう少し、陽太に関心を持ってほしかった。

 少しボーッとしている溝部を見返す。

(父親でもないのに、こんな疲れきった顔しながらでも来てくれるなんて……)

 ちょっと嬉しい……、かもしれない。


 体育館入り口で、持参したスリッパを渡す。

「これ履いて。靴はこのビニール袋に入れて?」
「おお、サンキュー………、あ、何それ。お前のやつ、なんかかわいい。……ってか、お母さん達、みんなそういうの履いてるな……」

 かかと付きの携帯用スリッパのことだ。私の履いているものは、幼稚園の役員をやったときに、クラスの保護者の方々から「役員お疲れ様でした」とプレゼントしていただいたものなので、自分では絶対に買わないであろう、リボンのついた可愛らしい仕様になっている。

「ああ、室内履きだよ」
「いいなあ。歩きやすそう。オレもそういうの欲しい」
「欲しいって、もう履く機会ないでしょ」
「あるだろ。授業参観とか学芸会とか。卒業式は2年後だしな」
「はあ?なんであんたがくるのよ?今日は陽太が……、あ」

 いいかけて、今日はこちらがお願いして来てもらってる、ということに気がつき、言葉を止める。

「あー……、今日はお忙しい中、来てくださりありがとうございます……」
「なんだよそれ」

 溝部は小さく笑うと、体育館の中を見渡し「よし」とうなずいた。

「お前、前の方座っていいぞ。オレ一番後ろ座るから」

 体育館の真ん中にパイプ椅子が並んでいる。4年生約120人の保護者(2人しか招待できないので、最大240人だ)しかいないので、席取り合戦にはなっていない。

「なんで一番後ろ?」
「前だと引きの絵がとれないからな。この並びなら、一番後ろで立ちで撮るのがベストとみた。望遠きくから、この距離なら大丈夫だ」

 溝部、真剣そのものだ。

『今までさんざん、友達の結婚式で流すビデオとか、結婚式当日のビデオ撮ってきたからな』

 だからビデオは任せておけ、とお誘いのラインの返事でも書いてくれていた。

「お前は近くで見とけ」
「うん……ありがとう」

 溝部はさっさと後ろの席に行くと、3脚を立てている数人の男性陣と何か話しながら、同じように3脚を立てはじめた。

(馴染んでる……)

 そうしていると、親バカな父親の1人にしか見えない。



------------------

お読みくださりありがとうございました!
終わらなかった……終わらないので諦めて、キリの良さそうなところまで載せさせていただきます。
次に書くことになるであろうシーンが、この物語の中で一番はじめに見えたシーンだったので、ちゃんと書きたいなーと思っていたら………(っていいながらも、そこのシーンまでも行きつけていないのですが^^;)

ひたすら真面目な話にも関わらず、クリックしてくださる方読んでくださる方には本当に感謝感謝感謝でございます。
次回は4月18日火曜日、よろしければ、どうぞお願いいたします!

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風のゆくえには~現実的な話をします 10

2017年04月11日 07時21分00秒 | 風のゆくえには~現実的な話をします


【有希視点】


2017年1月23日(月)


 年末の飛び込みの仕事のおかげで、次の仕事がもらえることになった。実家を出るためには、収入の安定しないライターの仕事はやめなくてはならない、と思っていたけれど、これならば、貯金と養育費合わせて、当面はなんとかやっていける。そう思っていた矢先のことだった。

「今月末から養育費減らすから」

 月曜日の夕方、突然、元夫が訪ねてきて、とんでもないことを言いだした。

「は!?」
 こちらの驚きをものともせず、元夫は淡々と続ける。

「彼女に子供ができちゃってさ、結婚することになったんだ」
「……………」

 …………。どの彼女だろう……

「それで状況が変わったら、養育費減額できるって、母さんに言われて」
「……………」

 母さんに言われて、か。あいかわらずだな……
 顔だけはあいかわらず超かっこいいけど、中身はあいかわらず、母親依存の自分中心のお坊っちゃまだ。

「でも母さんも、陽太に金出すのが嫌なんじゃなくて、有希ちゃんに払うのが嫌なだけらしくてさ」
「…………」

 そりゃそうだ。あの人は私を嫌っていた。

「だからこっちで陽太引き取ればいいって言ってて」
「…………」

 元義母は、口出しはするものの手出しはしたくない人なので、陽太を可愛がってくれてはいたけれど、面倒をみる気はなく、私が引き取ることに反対はしなかった。新しいお嫁さん、という面倒をみる人間がいるのなら、引き取っても良い、ということらしい。

「で、さっき陽太に、お父さんと新しいお母さんと一緒に暮らさないかって言ったんだけど」
「え?!」

 さっき、二人で何かこそこそと話していたのはそのことだったのか。今は、聞かせたくない話もあるので、部屋から出ていってもらっている。庭で素振りをしているらしく、バットを振る音が部屋の中にまで聞こえてきている。

 部屋を出ていったときの陽太は無表情で、そんな大事な話をしたなんてとても思えない感じだったのに……。

 陽太はなんて答えたんだろう……、と緊張するよりも早く、夫はあっさりと言った。

「でも陽太、こないってさ」
「そう………」

 そのセリフにホッとする。
 離婚の時は陽太の意思を問うことはしなかった。夫側に引き取る気がなかったから、ということもあるけれど、何より、どんなに生意気な息子でも、それでもやはり、ずっと慈しみ育ててきた我が子を手放すなんて考えられなかったからだ。陽太自身が私を選んでくれるのなら、こんなに嬉しいことはない。

 夫が苦笑気味に言葉を続ける。

「陽太さ、お父さんと彼女の邪魔しちゃ悪いからって言ってさ。なんかホント大人びてるよな」
「……………」

 大人びさせてしまったのは私たちだ。冷たい空気の漂った両親、母親と不仲な祖母。そんな大人に囲まれていたら、嫌でも大人になってしまうだろう。

「まあ、陽太と彼女が上手くやっていけるかどうかも分かんないし、そう言われてホッとしたっていうのが正直なところだけどさ」
「……………」

 でも一応声はかけて、引き取ろうとした、という事実を作ったということだ。母親の意思を優先させるところもあいかわらずだ。

「そういうわけで、養育費減らすから」
「…………。それは弁護士さんに……」
「弁護士費用、うちは出さないからな?」
「…………」

 うちは、だって。オレは、ではなく、うちは。私はこの人の「うち」にはなれなかったんだな、とあらためて思う。

「有希ちゃんも次の相手探して養ってもらえばいいのに。まだまだ若いし美人なんだからいくらでも相手いるだろ」
「……………」
「誰か紹介しようか?」
「……………」

 腹が立つというより、もう、身体中の力が抜けていく、というか………

 養育費なんていらない! 陽太にももう会わないで!

 ……と言えたらスッキリするだろうけれど、現実問題そんなことは無理だ。

「養育費、今月はそのままにしてもらえませんか? 来月からのことはまたあらためて……」

 下げたくない頭を下げて、自分の無力さを思い知る……。


***


 元夫が帰ったあと、庭にいたはずの陽太がいなくなっていたので、探しに出たところ、近くの川べりで素振りをしているところを発見した。もう暗いのに、なんでこんなところで……と聞くと、

「叔母さんに、エリちゃんが素振りの音こわがってるからやめてって言われた」
「…………」

 叔母さんというのは弟のお嫁さん。娘のエリちゃんは幼稚園の年長さん。二世帯住宅の2階に住んでいる。
 確かに最近、陽太の素振りの音はずいぶんと大きくなってきた。それだけきちんと振れているということなんだろう。

(でも、二階だったら、そんなに聞こえなくない? しかもあの家、常にDVDかけてるのに……)

 単なる嫌がらせとしか思えない……

 養育費の減額、実家からの退去のプレッシャー……頭の痛い事ばかりだ。


 土手の階段に腰かけて、ぼんやりと陽太の素振りの様子を眺めていたら、陽太がふっとこちらを振り返った。

「知ってた? 素振りもただ振ればいいんじゃないんだって。来る球をイメージしながら振るんだって」
「へえ。そうなんだ?」
「うん」

 陽太は再びバットを構えると、何でもないことのように付け足した。

「溝部が教えてくれた」
「…………」

 溝部……。なんなんだろう。あいつ……
 冷めたところのある陽太の心の中にもすっと入り込んできた元同級生……。

「内角低め、内角低め、外角低め……」

 ブツブツ言いながらバットを振る陽太。振りながら、ポツリ、といった。

「こないだ、溝部に『お母さんと結婚するのにオレ邪魔じゃね?』って言ったんだけどさ」
「は!?」

 結婚なんて、そんなこと露ほども思ったことないのに!!

 と言いかけた言葉を瞬時に飲み込んだ。

 それ、今日、元夫に言ったという言葉と同じだ。「お父さんと彼女の邪魔しちゃ悪いから」って……。そんなこと、私に対しても思っていたなんて……

「陽太……あの……」
「そしたら、あいつなんて言ったと思う?」

 陽太は素振りをやめ、こちらを振り返り、おかしそうに、言った。

「お前がいないと困る。オレの夢が叶えられないだろ、だって」
「へ?」

 夢? なんの話だ?

「溝部、息子と全力でキャッチボールするのが夢なんだって」
「ああ……」

 そういえば高校の卒業アルバムにそんなこと書いてあったかも……

 陽太は思い出し笑いをしながら、言葉を続けた。

「だったら、自分の子供とすればいいじゃんって言ったらさ」
「………」
「今すぐ生まれたって、その子供が10歳になったときには、もうオレ50歳過ぎてるだろって。その時には今みたいな全力の球は投げられないだろって」
「…………」
「だから、オレがいないと困るんだって」

 溝部………。

「高校生の時に結婚したいって思ってたお母さんに、オレっていう息子がいるってことは、絶対に結婚する運命に違いないって」
「…………」
「夢、叶えるために、オレが必要なんだって」

 陽太……笑ってる……。

「溝部ってホント馬鹿っぽいよなー」

 陽太は再びバットを構えると、また素振りをはじめた。

「内角高め、内角高め、内角高め……」

 陽太のブツブツいう声と、バットを振る鋭い音と、川の流れる音と、少し離れたところの大通りの車の音とが、まざりあって頭の上の方で聞こえてくる。


 陽太が元夫に聞いた、ということは、やはり、実父からも自分を求める言葉をきちんと聞きたかったからなのだろう。でも、おそらく夫は、陽太にそんな言葉をくれていない。うちにくるか、と誘いはしたものの、陽太の遠慮の言葉に、あっさりと諦めの言葉を口にしたのだろう。

(お前がいないと困る……か)

 そんな直球の言葉を言ってくれた溝部に感謝したくなる。そうして自分を求めてくれる人間がいるということは心強いものだ。

(でも……)
 それと、結婚云々とは別問題。あいつ何勝手なこといってんだ。まったくもう……

「陽太……」
「ん?」

 素振りをやめてこちらを向いた陽太に、真剣に告げる。

「お母さん、結婚なんかしないよ?」
「そうなん? 溝部は?」
「しないよ」

 そう。誰であろうと結婚なんかしない。だって……

「お母さんは、陽太がいてくれれば、それだけで幸せだから」
「………………………………は?」

 せっかく愛の告白をしたというのに、陽太は盛大に眉を寄せて……

「……キモッ」

 ボソッと呟いてから、また素振りに戻ってしまった。

「…………」

 でも、口の端に笑いがこぼれているようにみえるのは、気のせいではないと思う。


------------------

お読みくださりありがとうございました!
ダラダラと真面目な話でm(_ _)m
これでもかなり色々削ったんですけど、これが限界でした……(^_^;)

そんなことに時間がかかったため、オマケまで手が回りませんでした(涙)
よろしければまた次回、どうぞよろしくお願いいたします……
こんな真面目な話、お読みくださり本当に本当にありがとうございましたっ。

毎週火曜日と金曜日の朝7時21分頃に更新する予定です。
次回は4月14日金曜日、どうぞよろしくお願いいたします!

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風のゆくえには~現実的な話をします 9 +おまけはBL

2017年04月07日 18時40分11秒 | 風のゆくえには~現実的な話をします


【溝部視点】


2017年1月9日(月)


 昨日からの雨で、少年野球の練習が中止になったという陽太と鈴木を連れて、渋谷と桜井のマンションに遊びにいった。
 いや、遊びではない。陽太が作文の宿題をみてもらいたい、というので、現役教師である桜井にみてもらいにきたのだ。おれはあいにく理系頭なので、文才はない。そして、母親である鈴木はライターという文章のプロなんだけれども……

「本職の鈴木さんを差し置いて、おれなんかがみていいの?」

 桜井のもっともな質問に「いいんだよ」と手を振ってみせる。

「先生に、親には当日まで見せちゃダメって言われてるんだってさ」
「あ、そうなんだ」

「二分の一成人式ってやつで冊子にして配るらしい」
「ああ……二分の一成人式か……」

 なぜか桜井は、ふっと遠い目をして……、それからすっと陽太に目を合わせた。

「陽太君。半成人、おめでとう」

 そう言って陽太に笑いかけた桜井の顔は、おれ達に見せる天然桜井からはかけ離れた、『先生』の顔をしていた。


***


 いつもは開けっ放しにしている仕切りをピッタリ閉めきって、リビング続きの洋間にこもってしまった陽太と桜井。
 残されたオレと鈴木と渋谷の3人で、ダイニングテーブルでコーヒーを飲みながら終わるのを待つことにした。

「お前、二分の一成人式って知ってた?」
「知ってる」

 渋谷は軽く肯きながら、鈴木が持ってきたクッキーをボリボリ食べている。

「でも、一般的になったのって最近だよな? 姉貴の娘……今度24歳だったかな……の時は無かった気がする。妹の娘の時はあったんだけど」
「妹の娘っていくつ?」
「高1」
「うわ、現役JK? かわいい?」
「まあ……あ、正月に撮った写真あるけど見るか?」
「見る見る……おおっ」

 渋谷が差し出してきたスマホをみて歓声をあげてしまう。なんだこの文化系メガネ女子!激カワ!
 つーか、写ってる女子みんな、顔面偏差値やたら高いんですけど!! それに……

「なんか渋谷の家、女子率高くね?」
「あ、ホントだね」

 横からのぞきこんでいた鈴木もうんうん肯く。

「お姉さんと妹さんがいて、その子供も娘さんで……」
「あーそうだな。えーと、これが姉貴で、その娘の桜ちゃん。と、その娘の葵ちゃん」
「孫?!うわすげー若いバアちゃんだな」
「まあな……、で、こっちが妹。その娘の西子ちゃん。それから息子の守君」
「………え?」

 息子? 写っている男はどうみてもアラサーってところなんだけど……

 オレと鈴木がキョトンとしていることに気が付いた渋谷が、「ああ」と言葉を継いだ。

「妹の旦那の連れ子」
「あ、そうなんだ……」

 だよな……どう考えても計算が合わない。

「仲良いんだね。いまだに実家にくるってすごくない?」
「ああ、結婚した時はもう中学生だったんだけど、うちの親にもすぐなついてくれて、ちょくちょく遊びにきてたらしくて。おれも大学の途中から全然家帰ってなかったから、親的には嬉しかったみたい」
「へえ………」
「この日も仕事終わりに寄ってくれて、妹たち連れて帰ってくれて……」
「………」

 うわ、これ、いい話聞いた。というか、聞かせた!

 ほら、鈴木、聞いたか? 連れ子再婚でもうまくやってるって!

 って、言いたいところを、ぐっと我慢する。また何か投げられたりしたらたまらない。

 うずうずしながら横目で鈴木を見ていたら、鈴木が大きくため息をついた。

「家族って、色々な形があるよね……」
「………?」

 なんだ? そんな……

「鈴木……?」
「ちょっと休憩~~~」

 突然、仕切りがガラッと開き、桜井が陽太と一緒に部屋から出てきた。

「しばらく文章寝かせる~~」
「ありがとね、桜井君。陽太、どう? 書けた?」
「うん」

 コックリとうなずく陽太。手応えあり、という顔をしている。

「気晴らしに散歩でも行く? と思って」
「おお、いいな」
「ケーキ屋さん行こうよ。ほらあの……」
「ああ、あそこな。あのチーズケーキがおいしいところだろ?」
「そうそう」

 桜井と渋谷が二人で盛り上がって、行き先が決定した。なんでも二人が時々行くおいしいケーキ屋があるらしい。

 来る度に思うけれど、洒落た家の建ち並んだ道に、街路樹やベンチが整備されていて、なんだかおしゃれな街だ。

 雨上がりの匂いの中、5人で歩いていたのだけれども、渋谷と桜井が気を使ってくれたのか、陽太を連れてどんどんどんどん先を歩いてくれて、必然的におれと鈴木が並んであるくことになり……。でも、嬉しいとかテンション上がるとか、そういう気分にはなれなかった。

(さっきのあの顔……)

 その抱えているもの……その一端だけでもオレに支えさせてくれないだろうか。

(あの時と同じだ……)

 高校の後夜祭……一人で涙を流していた鈴木……

「あのさあ」
「え!?」

 ふいに声をかけられ、必要以上にビックリしてしまう。

「な、なんだ!?」
「………………」

 なにそんなビックリしてんの……と小さく言ってから、鈴木が続けた。

「溝部ってなんで結婚してないの?」
「は?」

 それをお前が言うか? という言葉は押しとどめて、適当に言葉を濁そうとしたのだけれども……

「私のせいだって、桜井君が言ってたけどホント?」
「!!」

 ズバリ言われてギョッとする。さくらいー!!

「あの、それは……っ」
「詳しいことは教えてもらえなかったんだけど………どういうこと?」
「……………」

 どういうこともこういうことも………

 先を歩く陽太のはしゃいだ声を聞きながら、しばらく無言で歩いていたのだけれども……

「呪縛だよ。呪縛」

 心を決めて告白する。

「鈴木呪縛」
「呪縛……? なにそれ……」

 当然きょとんとした鈴木に苦笑気味に続ける。

「オレさあ、どんな女の子のことも、どうしても鈴木と比べちゃってさあ……」
「……え」

「別に鈴木の方がいいとか悪いとかじゃなくてさ。単純に、ここが鈴木と違う。ここは同じ。みたいに」
「なに……それ」
「ほんと、なにそれ、だろ?」

 自分で言ってておかしくなる。

「学生の時に付き合ってた彼女にさ、『誰と比べてんの? 最低!』ってグーで殴られて、本格的にそのことに気が付いたんだけど……」
「え………」
「それからは出来る限りそういうことないようにしてきたんだけど……やっぱ分かるもんなのかなあ。なんなのかな。長続きしないんだよ、オレ」
「…………」
「最長で2年。それも最後の方はグダグダだったし」
「…………そんなの」

 鈴木は戸惑ったように首を振った。

「そんな、長続きしないのは私のせいじゃないでしょ……」
「いや、お前のせいだな」
「なんでよっ自分のせいでしょっ」
「いーや、お前のせいだ」
「はあ? バカじゃないの?」
「…………」

 ああ、これだなあ。と思う。これぞ本家本元。打てば響く子はいくらでもいるんだけど、鈴木みたいにオレの心臓のあたりにサクッサクッと響きをくれる子なんて今まで一人もいなかった。

 だから……

「だからお前、責任とってオレと結婚しろ」

 そうすれば全部解決だ。

 そう言ってから、攻撃に備えてぐっと身を構えたのだけれども………

「……鈴木?」

 一向に何もしてくる気配がないので、振り返った。すると……

「…………バカじゃないの?」

 鈴木は、怒るような、泣くような顔をして……笑っていた。




------------------

お読みくださりありがとうございました!
大遅刻、大変失礼いたしました。もう夕方ですらないっ。

続きまして今日のオマケ☆
(実はオマケは先に書き終わっていたのでしたっ)

-------------------


☆今日のオマケ・浩介視点


 今は多くの小学校で『二分の一成人式』というものを行っている。

 数年前、その話をはじめて聞いたときには「今の時代に生まれなくて良かった」とつくづく思った。

 生まれてから10歳までの自分史を作ったり、両親への感謝の手紙を読んだり……想像するだけで、気を失いそうだ……

 10歳の時の自分……
 父に対してはひたすら恐怖心しかなかった。母の束縛から逃れることもできず、毎日毎日母と共に勉強机に向かっていた。学校にも馴染めず、家にも安らげる居場所はなく、唯一、本の世界だけが逃避場所だった。

 今でこそ、慶と、心療内科医の戸田先生のおかげで、両親に会っても平常心でいられるようになったけれど、何かの拍子に恐怖心や拒絶感が復活してしまうことがある。

(………まずいな)

 昼間に『二分の一成人式』の話をしたせいだろうか。子供の頃の記憶に脳が支配されはじめている……。

 おれはおそらく、人よりも記憶力がいい。みんなが漠然としか覚えていない昔のことも、かなり詳細に覚えていることがある。それは、嫌な記憶であるほど鮮明だ。思い出してしまうと、感覚までその頃に戻ってしまう。

(慶…………)

 そんなとき、おれはひたすら、慶のことを思い出す。慶の笑顔、慶の温もり、慶の声。嫌な記憶を全部慶で埋めつくす。慶の指、慶の腰、慶の背中、慶の……


「………どうした?」
「!」

 いつの間にお風呂から出ていた慶が、ベッドに腰掛けたおれをフワリと抱きしめてくれた。

(慶の……匂い)

 きゅうううっと胸が締めつけられる。

「慶………」

 おれの様子がおかしいことに気がついてくれてる……。できれば知られたくないのに、慶は昔から、こういうとき必ず気がついて、黙って抱きしめてくれるのだ。

(10歳のおれは、こんな愛、知らなかった)

 おれの全部を包み込んでくれる深い愛……
 慶の細い腰に手を回し、その胸に頬を押しつける。


 慶のおれに対する愛情の根本は『保護欲』なのだと、戸田先生が言っていた。孤独な深淵にいたおれだからこそ、慶の保護欲をかきたてたのだと。あの子供のころの日々も、慶に愛されるためだったのだと思えば、意味のあるものだと思える。


「慶……おれ、今、すごい幸せ」
「………そうか」

 そのまま気持ちの良い手が頭を撫で続けてくれる。慶の手。温かい、手……。

「慶は、10歳の頃、何になりたかった?」
「んー……なんだろうなあ? 4年だともうミニバスのチーム入ってたから、バスケットボール選手とかかなあ?」
「そっかあ……」

 おれは「弁護士」と書かされただろう。父の跡取りになることが母の願いだったから……。

 どんな親であれ、生んでくれたこと、育ててくれたことには感謝しなくてはならない、とよく聞くけれど、あの頃のおれに言わせれば「生んでくれと頼んだ覚えはない」というやつだった。生きている意味も分からなかった。ただ、親の期待に応えて弁護士になることだけが与えられた義務だった。でも……

(今なら、感謝できる)

 おかげで慶に出会えた。今、愛しいこの人と共に生きている。おれの幸せ。おれのすべて。


「七五三があって、次が10歳の半成人式、で、ハタチの成人式」

 慶が「うーん」と言いながら言葉を継いだ。

「そのあとって、還暦のちゃんちゃんこまで何もないんだよなあ」
「ちゃ……っ」

 ちゃんちゃんこ?!

「今時それ着てちゃんとお祝いする人っているのかなあ?」
「え、うちの親やったぞ? 写真館で写真撮った」
「え?!」

 し、知らない……っ
 素早く計算してみて、それがちょうど、おれが慶を置いて日本を離れていた3年間の間の話だと推察され、複雑な気持ちになってくる。あの3年も、今なら必要なことだったのだ、と思えるけれども、それでもやっぱり離れたくはなかった……

「あ、そっか。お前だけ日本にいなかった時か」
「う……」
「今度実家いったとき写真見せてやるよ。笑えるから」
「うん……」

 慶の言葉に再びギューッとくっつく。

 もう、離れない。絶対に離れない。


「おれたちも還暦の時は写真撮ろう?」
「ちゃんちゃんこは着ねえぞ?」
「さすがにそれはねー……。赤のネクタイとかかな」
「まー着ても赤のセーターくらいだな」
「慶は赤も似合うからいいね」

 ちゅっとキスをして、二人でベッドにもぐりこむ。

「ずっと一緒にいようね?」
 こつんとおでこを合わせると、慶は少し笑った。

「なに当たり前のこと今さら言ってんだ?」
「だって……」

「いいからもう寝るぞ? 明日仕事」
「うん……」

 手を繋いで、最後にもう一度唇をあわせる。

「おやすみ」
「おやすみなさい」

 いつもの夜。昨日も同じだった。明日も同じだろう。

 10歳のおれが想像もしなかった、幸せな夜。このままずっと続く幸せな夜。そして、幸せな朝を迎える。

 

-------------------------------


お読みくださりありがとうございました!
って、暗!! でも、一度書いておきたかった浩介さんの現状話でございました。

慶の両親はわりとノリがいいので、二人でお揃いのちゃんちゃんこ着て写真撮りました。
その写真、撮ったばかりのころはリビングに飾っていましたが、もう10年とか前の写真なので、今はしまってあります。だから、浩介は見たことがない、というわけでした。

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風のゆくえには~現実的な話をします 8 +おまけはBL

2017年04月04日 07時33分58秒 | 風のゆくえには~現実的な話をします

【有希視点】


2017年1月2日


「お礼は陽太と3人で横浜デート!」

と、言う溝部のしつこさに根負けして、「横浜デート」をすることになってしまった。先日、陽太を一泊預かってもらったことに対するお礼だから、断固拒否はできなくて……

 でも、「陽太と3人」はさすがに抵抗があるので、渋谷君と桜井君にもつきあってもらうことにした。陽太を預かってもらった時に渋谷君も溝部の家にいた関係で、陽太は渋谷君にも懐いているのだ。


 それで正月早々、山下公園の氷川丸という大きな船のデッキで行われている「船上餅つき」というイベントにきているのだけれども………

「陽太も餅つき行ってこいよー」

 溝部がウリウリと陽太の背を押している。子供は杵と臼を使った餅つきに参加できるそうなのだ。

「やだよ。恥ずい」
「司会のお姉さん超美人だぞ! オレ、お話ししたい!」
「勝手に行けば」
「子供しか並べないんだからお前一緒に行ってくれよー」
「やだ。絶対やだ」
「なんだよ、ノリ悪いなー」

 陽太と溝部、友達? 兄弟? って感じ……

「整理券番号呼ばれたよ~」

 桜井君に声をかけられ、餅をもらう列に並びにいく。つきたてのお餅で作られた一口サイズのきな粉とアンコのお餅を一つずつもらって、ちょうど空いたテーブルに移動した。

「お母さん、オレ、アンコいらない」
「ん。お母さんのきな粉と交換しよっか」

 陽太はアンコが嫌いだ。一度食べた時に美味しくなかった、という理由でそれ以来口にしていない。好き嫌いなく何でも食べてほしい、という私の願いは、元夫とその母親には理解してもらえなかった。

『嫌いって言ってるんだから無理に食べさせることないだろー?』
『陽ちゃんは食べなくていいわよ。バアバが食べてあげる』

 ママ、怖いね~、とクスクス笑う義母の声が頭の中を渦巻いて吐き気がする……

 結局私は、自分の信念を曲げて、陽太の好き嫌いを容認するようになった。あと食べられないのはトマトとナス。あの家から離れた今も、元夫と元義母の声に従って、食べなさいとは言えずにいる私……

「陽太、アンコ嫌いなのか?」
「………」

 溝部が不思議そうに陽太に聞いている。

「なんで嫌いなんだ?」
「なんでって……前に食べた時おいしくなかったから」

 えー、と言う溝部。

「お前、それ、人生損してるぞ?」
「は? 大袈裟……」
「いやいや、大袈裟じゃないって」

 溝部はいたって真面目に答えている。

「美味しい物食うのって人生の3大快楽の一つだからな」
「は?」
「人の味覚ってどんどん変わってくぞ。前はそうでも、今は美味しいって思える舌になってるかもしれないから、時々挑戦した方が絶対いい」
「なにそれ……」
「いや、マジで。オレ、子供の頃ゴーヤ食べられなかったけど、今すっげー好きだもん」
「あ、それ分かる」

 横で聞いていた渋谷君もウンウン肯いた。

「おれ、アボカド苦手だったけど、今大丈夫」
「おれもー。あ、あと、セロリのおいしさ分かるようになったの大人になってから」
「うんうん。餅もさ、からみってあるじゃん? あれ子供の頃は好きじゃなかった」
「あー、分かる分かる!」

 大人の男三人が盛り上がっている横で……
 
「…………あ」

 思わず、息を飲んでしまった。
 陽太がアンコをお箸で少しすくって、パクッと口にいれたのだ。

(………陽太)

 うそ。食べた。陽太。

「あ、食べた陽太」
「うまいだろ?」
「美味しいでしょ?」

 一斉に視線を向けられた陽太。ちょっと照れたような笑を浮かべて……

「うん。甘くて美味しい」

 素直にコックリと肯いた。そして、首をかしげている。

「なんで今まで食べなかったんだろう?」
「だなー。ま、でも今おいしさ知ったんだからセーフだセーフ」
「セーフ?」
「まだ子供だからいくらでも取り返しがつくってこと!」
「わわわっ」

 くしゃくしゃと溝部に頭を撫でられ、「やめろよー」と笑う陽太。嬉しそう。こんな顔、家では見せてくれない。

 溝部……嫌いなもの食べさせたり、こんな楽しそうな顔させたり……なんなんだ。すごいじゃん……。と、感心したのもつかぬ間、

「な、食べ終わったら、餅つき行こうぜー?」

 早々に食べ終わった溝部がまた陽太を誘っている。

「司会のお姉さんいるうちに早く!」
「…………」

 ったく、せっかくちょっと見直したのに………

「だから嫌だって」
「何でだよーあんな美人なかなかお目にかかれない……って痛!」

 アホなことを言っているアホな男の足を無言で蹴ってやる。と、うぎゃっと溝部が悲鳴をあげた。

「何すんだよっ」
「何するって、子供に変なこと言わないでよっ」
「変なことじゃないぞ。オレは陽太に正しい美意識を身に付けさせたいだけだ」
「は!?」
「ほら見ろ、陽太。ああいうお姉さんが正統派の美人というものだ。近くに見に行こう」
「みーぞーべー!」

 意味が分からない!
 引き続き足を蹴り続け、溝部が「痛いっ痛いっ」と言っていたのだけれども………

「? 陽太?」

 陽太がジッとこちらを見ていることに気がついて足を止めた。

「どうかした?」
「楽しそうだね、お母さん」

 陽太、苦笑い、と言う感じ。

「こないだも、ピーナツの殻投げるの楽しそうだったし」
「それはっ」
「あれは地味に痛かった! ひでーぞ、お前の母ちゃん!」
「あんたがアホなこと言うのが悪いんでしょ」

 溝部の腕をバシッと叩くと、陽太は「ほら、やっぱり楽しそう」と少し笑い、そして……ポツン、と言った。

「お母さん、溝部と結婚すれば良かったのに」

「…………」
「………………え」

 何を………

「そしたら、泣かないですんだのに」
「!」

 陽太の言葉に衝撃を受ける。
 私は陽太の前で泣いたことは一度もない。ないと思ってたのに………いつ見られてたんだ? いつ……

 頭の中がパニックになっている中で、陽太は淡々と続ける。

「お父さんなんかとじゃなくて、溝部と結婚してればさ、そうやっていつも楽しくしてられたのにね」
「……っ」

 そんなこと思ってたなんて……
 でも、考えてみたら、離婚の話を切りだした時、陽太に驚いた様子はなかった。何に対してもわりと冷めている子だから、親の離婚にも興味がないのかと思っていたけれど、そんな私の様子を知っていたからだったのだろうか。

「陽太……」
 もしかして、いつもゲームの画面ばかりみているのは、そんな私を見たくないからなのだろうか……

「あの……」
 何を言えばいいのか分からないまま、何かを言おうとした。のだけれども、

「あー、ダメダメ。そりゃダメだ、お前」
「え」

 溝部が大袈裟にブンブンと手を振ったので言葉を止めた。

 ダメって…………

 キョトンとした陽太と私に溝部は真面目な顔をして言った。

「そんなのダメに決まってんじゃん」
「なにが……」

 言いかけた陽太の頭をコツンと小突く溝部。

「お前の母ちゃんが父ちゃんと結婚してなかったら、お前生まれてないだろ?」

 それは……

「そんなの嫌だよ、オレ」
「…………」

 陽太は目をみはり……「でも」と言いかけた。それに畳みかけるように溝部が言葉を続ける。

「そりゃ色々あっただろうけどさ、お前が生まれたんだから、それだけでオールオッケーだろ」
「でも………」
「細かいことは気にするな。物事、過程も大事だけど、結果がすべてだ。今、ここにお前がいる。今、母ちゃんはオレを蹴り倒すくらい元気。それで問題なし」
「………」

 溝部……
 なにそれ……

 思わず陽太と顔を見合わせて………陽太が照れたように笑ったのて、つられて笑ってしまった。

 溝部……ホント変な奴……

「と、いうことで」
 口調を変え、パンッと手をたたいた溝部。

「餅つき一緒にいってくれよー。オレ、美人のお姉さんと一緒に『よいしょーよいしょー』って言いたい」
「…………。バカじゃねーの」

 陽太は呆れたように言うと、きな粉のお餅の残りをパクッと口の中に放り込んだ。

「しょーがねーから行ってやるよっ」
「おおっやった!」

 嬉々とした溝部。

「法被も着せてもらえるみたいだぞ。写真撮ってやるからなー」
「溝部の目的はお姉さん写すことだろ?」
「ま、それもある。さすがにお姉さんだけはまずいけど、お前と一緒に写す感じならありだよな?」
「聞いてみる?」
「いや、聞いてダメだと困るから、ここはコッソリ……」

 仲の良い友達のように連れだって、陽太と溝部は、餅つき体験の列に並びに行ってしまった。 

 その背中を見送りながら、心の奥の方がつーんとなっていくのが分かる。

 陽太……ごめんね………。


「溝部って、良い奴だよね」

 ふいに桜井君がポツンと言った。

「おれ、高2の時、溝部のあの強引なところに救われたってとこある」
「…………」

 以前、言っていた。桜井君は中学までは不登校児で、高1の時も図書室ばかりにいた、と。でも高2では、文化祭実行委員をしたり、目立っていた印象がある。目立つ渋谷君の相方だったからっていうのもあるけれど………

「まあ……良い奴だよね」

 それは認める。本当に良い奴……。

「絶対、良い父親になると思うんだよね~」
「あー……」

 桜井君の言葉に、ふと、首をかしげる。

「溝部って、なんで今まで結婚してないんだろうね? あいつ昔から結婚願望強かったよね」

 卒アルにもそんなこと書いてあったよね、と言うと、桜井君は「ああ、それはね」と、にこにこと手を合わせた。

「それ、鈴木さんのせいらしいよ」
「え」

 は? 私の、せい?

「なにそれ……」
「浩介」

 聞き返そうとしたのに、渋谷君が「余計なこと言うな」と制してしまった。

「え、これ、言っちゃまずい話なの?」
「他人が言うのはまずいだろ」
「そっか……。じゃ、鈴木さん。聞かなかったことにして?」
「え?!」

 聞かなかったことにって! あいかわらず天然桜井!

「そんな、気になるじゃんっ」
「じゃ、本人に聞けよ」

 男前の渋谷君がアッサリ言って、桜井君を促して行ってしまい……取り残された私、一人頭を悩ませてしまう。

「…………私のせい?」

 高校の時好きだった、ということは聞いている。そしてあろうことか、先日プロポーズまでしてきた。
 でも、私のことがずっと好きだった、というわけではない。学生時代から今までに何人か彼女もいたらしいし、少し前まで8歳年下の女の子にアタックしていたらしいし、元夫同様、女好きなんだと思う。

 なのに、なぜ、私のせい?

「あ」
 すぐそこにいるのに溝部からラインがきた。水色の法被を着てピースサインをした陽太の写真と一緒に。

『次、陽太の番! 早く来い!』

 餅つきの方を見ると、溝部が大きくこちらに手招きをしているのが目に入って……

「…………馬鹿」

 笑ってしまう。何をそんな必死に手を振ってるんだ。

『今、ここにお前がいる。今、母ちゃんはオレを蹴り倒すくらい元気。それで問題なし』

 先ほどの溝部の言葉を思い出す。

「うん。問題なし、だ」
 
 ぐっと拳を握りしめ、陽太と溝部の元に走り出す。色々あったけれど、今、ここに陽太がいる。そして、私は溝部を蹴るくらい元気。それだけで充分だ。




------------------

お読みくださりありがとうございました!
あいかわらず真面目な話でm(_ _)m
毎日スマホでちょこちょこ書き足し書き足し書いていたので、なんかダラダラ間延びしてしまいました(え、いつものことですか?^^;)

続きまして今日のオマケ☆

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☆今日のオマケ・慶視点

 今年の正月は、一日は午後から夜まで浩介の実家で過ごした。
 最近、本格的に浩介とご両親との仲は改善されてきたし、実家にいる間、浩介も楽しそうにしていたので、良い傾向だと思いきや、

「疲れた……しばらく実家はいい……」

 マンションに帰ってきて早々、そういってベタベタくっついてきたところをみると、相当無理をしていたらしい。今年は泊まりに……なんて思っていたけれど、それはまだハードル高いだろうか。日本に帰ってきて2年。同じ轍は踏まない。急がない。少しずつ、少しずつ、一緒に歩み寄っていければいい。


 二日は朝から、溝部と鈴木と鈴木の息子の陽太君と一緒に出掛けた。中華街で肉まんを食べ、山下公園の氷川丸でお餅を食べ、海沿いをずっと歩いてみなとみらいに出て、食事をして遊園地で遊んで買い物をして……まるでデートだった。

「ちょっと、いい感じになってきたよね?」

 その後移動したうちの実家で、浩介が嬉しそうに言った。

「途中からあの二人、横並んで歩くこと増えてたし」
「まあ、そうだな」
「うまくいってくれるといいなあ……」

「何が?」
 コーヒーを置いてくれながら、妹の南が言う。
 今日は、南と南の娘の西子ちゃんも実家にきている。椿姉とその旦那の近藤先生ももうすぐ到着する予定だ。
 
「高校の同級生の溝部と鈴木さん」
「鈴木さんって、女子バレー部の部長だった鈴木さん?」
「知ってるのか?」

 南は同じ高校の一学年下に在籍していた。

「知ってるよー。超カッコよかったもん。うちのクラスの女子でもバレンタイン渡した子いた」
「あ、そうだよね。女子からモテてたよね」
「え、そうなのか?」

 知らなかった、というと、「覚えてないだけでしょ」と浩介に突っ込まれた。否定できない……。正直高校の頃のことなんて、断片的にしか覚えていないのだ。
 うーん……と思い出そうと唸っている横で、

「なーんだ、溝部さん、そうなんだ……。がっかり」
「? 何ががっかり?」

 いきなり南が残念そうに言うので首をかしげる。と、南が肩をすくめて言った。

「いやー、山崎×溝部推しとしては、やっぱりガッカリですよ」
「…………」

 …………。

 なんだそりゃ。

 と、浩介がきょとんと返した。

「え、山崎、もう結婚したよ?」
「え?! マジですか?! そういうことは早く言ってよ、浩介さん!」

 だから、なんの話だ……。ハテナだらけのおれをおいて、2人、普通に話を続けてる。

「なんだよー、一年半くらい前だっけ? 二人のマンションで撮ったっていう写真には、まだまだラブラブで写ってたのにー」
「あー、あの後に色々あってね……」
「まあでも、結婚しても、そこから膨らむ妄想はありますが……」

 …………。

 だからなんの話だ……。

 いや、いい。世の中には知らない方がいい話もある……。

「慶?」
「お兄ちゃん?」

 立ち上がったおれを見上げた二人に手を振って、台所に避難する。

(………まあ、いいか)

 浩介が楽しそうだから、いい。昔から浩介と南はわりと仲が良い。妹が欲しかったという浩介にとって、南は妹みたいなものなのだろう。


「あけましておめでとうございまーす」
 しばらくして、玄関からにぎやかな声が聞こえてきた。椿姉と近藤先生だけかと思いきや、娘の桜ちゃん一家も一緒に来たようだ。

「いらっしゃーい」
 浩介と一緒にみんなを出迎えながら思う。
 今年もまた、こうして笑顔で過ごせればいい。

 

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お読みくださりありがとうございました!
また遅刻っっ。
南ちゃん、腐女子です。山崎×溝部、と高校の時から思っていたらしい。

クリックしてくださった方、読んでくださった方、本当にありがとうございます!
日常に追われて小説から離れそうになるところを、繋ぎ止めていただいています。
ご期待に添うものが出てくるかどうかは甚だ不安なのですが……友達の友達の話、くらいのノリで読んでいただけると幸いです。
よろしければ今後ともよろしくお願いいたします!

毎週火曜日と金曜日の朝7時21分頃に更新する予定です。
次回は4月7日金曜日、どうぞよろしくお願いいたします!

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風のゆくえには~現実的な話をします 7 +おまけはBL

2017年03月31日 07時22分18秒 | 風のゆくえには~現実的な話をします


『後夜祭の炎の前で手を繋いだカップルは幸せになれる』

 そんな学校の七不思議のせいで、後夜祭の前後は学校中でカップルが成立しまくる。

(くそー……)

 高校2年生の後夜祭。
 クラスで一番タイプの吉田が、隣のクラスの男と手を繋いでいるのを見かけてしまい、1人落ち込んでいた。普段仲の良い山崎は、後夜祭には参加せずさっさと帰ってしまっていて、斉藤は当然、夏休み前から付き合っている彼女と一緒で、渋谷と桜井は………

「……あいかわらずだな、あいつら」
 校庭の隅の植木の間に2人で座ってジュースかなにか飲んでいる。せっかくの後夜祭、男2人でいて何が楽しいんだか……

(オレも帰ろ……)
 あーああ、と思いながら、炎と騒めきを背に校庭を出る階段をのぼり、校舎裏の駐輪場に向かおうとしたところだった。

「………あれ?」

 中庭の、校歌が刻まれた石碑の前に、同じクラスの鈴木が一人で座っているのが目に入った。じっと、校庭の炎のほうを見つめている。

(なんだ。あいつも一人か)

 よし。からかってやろう。

 普段から喧嘩ばかりしている鈴木。生意気な女だけれども、1言えば10返ってくる感じが気に入っている。遠慮せずに言いたいこと言い合えていい。鈴木と喧嘩でもしたら、このクサクサした気分も少しはスッキリしそうだ。

「………おーい。そこの寂しい……」

 近づいて、言いかけて………

「!」

 立ち止まった。

「なに……」

 心臓を鷲掴みにされる、というのはこういうことを言うのか、と思う。

「なんだ……?」

 苦しくて、胸のあたりをつかむ。

(鈴木……泣いてる……)

 こぼれ落ちる涙をぬぐいもせず、鈴木はじっと炎を見続けていた。
 鈴木の横顔……。整った顔立ちをしていることは知っていた。でも、そういうことじゃなくて……

(なんて綺麗な……)

 オレはそのまま、時間も忘れて鈴木の横顔を見続けていた。



 それから……
 なるべく、なるべく今まで通りにしよう、と心掛けて、喧嘩をふっかけたりしていたけれど、今までと違う鈴木への特別な思いは、どんどんどんどん膨らむばかりで……

(オレ、鈴木のこと好きなんだ)

 そう自覚するのにたいして時間はかからなかった。自覚したなら、行動のみ。そう思って、クリスマスイブにパーティーを企画した。二つ返事で「行く」と言ってくれたことに、かなり期待していたのに……

「私、大人の男にしか興味ないんだよね~」

 パーティーの最中、鈴木がアッサリと言い放った。グサッと長剣が突き刺さったオレのことなんて気が付くわけもなく、鈴木が言葉を続ける。

「でも、雅ちゃんのことはもう諦めついた」
「雅ちゃんって、山元先生?」

 山崎の問いに、鈴木がコックリと肯く。

「ずーっと狙ってたんだけどね」
「ああ、山元先生、水戸先生と結婚するって噂だよね」
「噂じゃなくて、ホント」

 鈴木が苦笑気味に言う。

「文化祭の時に本人からきいた」
「あ、そうなんだ……」
「…………」

 文化祭の時……
 あの涙は、山元を思っての涙だったのか……。
 山元……誰もが認めるハンサムな顔立ちの爽やかな日本史教師。

「前の恋を忘れるには次の恋、だよね。カッコいい先生赴任してきてくれないかなあ」
「なんで先生限定?」
「あ、別に先生じゃなくてもいいのか。でも自転車通学だから、駅員さんに会うわけでもないしさあ……」

 鈴木は明るく言いつつも、目はまだ寂しそうなままで……

 オレは……オレは何もしてやれない。あの時、泣いていた鈴木を慰めることもできなかったし、今もまだ辛そうな鈴木を救ってやることもできない。鈴木は「大人の男にしか興味がない」のだから。無駄に思いを打ち明けて、せっかくの今の心地よい関係が崩れるのも嫌だし、何より、自分が傷つくことに平気でいられる自信もない。

「よし。じゃー今日は鈴木の失恋を記念して飲みましょう」
「失恋言うなっバカ溝部っ」

 バシッといつものように叩かれ、「いてーな!怪力女っ」といつものように返して、それで……それで。

 オレはずっとずっと、鈴木に呪縛され続ける。


***


「卒アル見せてー」

 鈴木の息子・陽太に頼まれて、久しぶりに高校の卒業アルバムを引っ張りだしてきた。
 あれから何年経つんだ?25年?
 まさか、こうして鈴木の息子を預かる日がくるなんて、あの時は夢にも思わなかったな……

「あ、いた。鈴木」
「わーお母さん、若いーかわいいー」
「でも基本、全然変わってないよな」

 渋谷と陽太が二人で盛り上がっている。
 まさか、後夜祭でも二人きりでジュース飲んでいた渋谷と桜井が同性カップルになって、今も同棲しているなんて、夢にも思わなかった……

 陽太が「あ、そうだ!」と手を打った。

「先生見たい、先生」
「先生?」
「おばあちゃんが言ってたんだけど、お父さん、お母さんの高校の時の先生に似てるんだって」

「…………え?」

 すっと、血の気が引く。

 それは、まさか………

「先生の集合写真のページあったよな。……あ、ここだ」
「えーっと……」

 渋谷が開いたページを、陽太はじっとみつめて……

「あ、この人かも。っていうか、絶対この人」
「あー……」

 陽太の指さしたその先には……

「ああ、懐かしいな。日本史の……なんだっけ?」
「ああ」

 渋谷の言いかけた言葉を受け継ぐ。

「山元、だな」

 山元……だ。

「ああ、そうそう、山元雅ちゃん」
「へー。すごい似てるー」
「…………」

 そうか。そうなのか……

 鈴木……。お前も、あの頃の想いに呪縛されてたんだな……



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お読みくださりありがとうございました!

続きまして今日のオマケ☆

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☆今日のオマケ・慶視点


 卒業アルバムなんて久しぶりに見た。

 おれと浩介は高2の時だけ同じクラスだったので、卒業アルバムは別々のページに載っている。でも、唯一、修学旅行は高2の時だったので、このページにだけ一緒に写った写真がある。

『おれ達にはどんな将来が待ち受けてるんだろうなー?』

 松陰神社で、長谷川委員長が空に傘を突き上げて叫んでいた言葉を思い出す。

 あの時おれは、どんな将来が待ち受けているとしても、おれの隣には浩介がいると信じたい、と思った。祈るように、思った。思いは、叶う。

『慶ー寂しいー』
 浩介からのメールに苦笑してしまう。せっかくの『付き合った記念日』なのに、浩介がインフルエンザになったため、おれは溝部の家に避難しにきているのだ。

『うちに帰ってきてー』
「…………」

 うちに帰る。そう言えることが、何よりも嬉しい。
 うち。おれと浩介の、『うち』。

『わかった。ちょっとだけ帰るから』

 そう書くと、たまらないほどの温かい気持ちに包まれた。


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お読みくださりありがとうございました!
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