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BL小説・風のゆくえには~将来6ー2(浩介視点)

2016年04月16日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 将来


『おれ達にはどんな将来が待ち受けてるんだろうなー?』

 修学旅行中、松陰神社の敷地内で、委員長が空に傘を突き上げ叫んでいた言葉が頭の中で再生される。


 おれの将来は小さい頃から決められていた。父のように弁護士になり、父の事務所を継ぐというものだ。

『与えられた場所で力を発揮するのもいいかな、と思ってな』

 おれと同じように、家業を継ぐことを決められている橘先輩がいっていた。
 与えられた場所で力を発揮する……おれにそれができるのだろうか。

『まあ、それを蹴ってまでやりたいことがなかった、ってことかもしれないけどな』

 それを蹴ってまでやりたいこと……。それはおれにもない。
 でも、だからといって、弁護士である自分の姿は全く想像がつかない。


 第一回進路希望調査書は、法学部で提出した。
 自分で考えることを放棄した、とも言える。
 ただ、今は、何も難しいことは考えず、生まれて初めて得られたこの充実した学生生活を思う存分満喫したいと思ってしまっている。

 初めてできた友達、親友、そして恋人。クラスの仲間たち。部活。委員会。今まで体験したことのない数々のこと。
 小学校、中学校の頃とはまったく別人のおれ。下を向かず前を見て、たくさんの人と話して、笑って。

『おれ達にはどんな将来が待ち受けてるんだろうなー?』

 どんな将来かは分からない。でも、もう、昔のおれには戻らない。うつむかない。おれにはそれができる。

(だって)

 おれには慶がいる。慶がいてくれれば、おれは真っ直ぐ前を向いていられる。



***


 修学旅行から帰ってきてからずっと、慶が今だかつてないほど元気がない。

 妊娠中だったお姉さんが、おれ達が修学旅行に行く前日深夜に出産したそうで、里帰りをしているのだけれども……

「4月22日出産予定だったのに、3月4日に出てきちゃって、その上肺に異常があるとかで、生まれて早々に大きい病院に救急車で運ばれて……って大変だったらしい」

 おれは修学旅行中だったから全然知らなかったんだけどな、と気落ちした様子で慶が言う。

 赤ちゃんは一度は生死の境を彷徨ったものの、無事に回復して、今は新生児集中治療室とかいう特別なところに入院しているそうだ。赤ちゃんの両親しか面会できないので見に行ったことはないのだけれども、お姉さんの話によると、保育器にいれられ、人工呼吸器をつけられ、小さな体のあちらこちらに管をつけられていて、見ていて涙が出てくるほどかわいそうな状態らしい。

 お姉さんは、お腹が少し張っていたのに仕事に出てしまい、途中で倒れてそのまま入院、そしてすぐに出産、となってしまったため、自分のせいで赤ちゃんがこんな目に合っている、と自分を責め続けているらしい。 

「おれ、椿姉に何言ってやればいいのか分かんない……」
「……何も言わなくていいんじゃないかな……」

 うつむいている慶の肩をそっと抱き寄せる。

「ただ、一緒にいてあげるだけで、充分だと思うよ?」
「………うん」

 そういうおれも、かける言葉が見つからず、ただそばにいることしかできない……。


 慶は気を抜くと、お姉さんのことに意識が行ってしまうようだった。あのスポーツ好きの慶が、学年最後のスポーツ大会にもほとんど参加せず、体育委員の仕事だけを黙々とこなしている。精神的ダメージは相当なもののようだ。


「渋谷、具合悪いのか?」
「あ……うん、ちょっとね……」

 同じ体育委員の1組の山口が話しかけてきたので驚いた。
 山口は2年になってすぐの球技大会のあとに、9組の島津を仲間外れにしようとして、慶に注意された。それ以来、おれ達を避けていた節があったので、個人的に話しかけてきたのは初めてのことなのだ。

「そっかあ……やっぱ元気ないもんなあ……」
 山口はうーん、とうなると、

「実は今日で体育委員みんなでやる仕事最後だから、打ち上げやろうと思ってるんだけど」
「あ……そうなんだ」

 球技大会後のことを思い出して、ぞわっとなる。あの時、山口は「島津には内緒で……」とコッソリ言ってきたのだ。
 おれの顔がこわばったことに気がついたのか、山口が苦笑した。

「今回はちゃんと全員誘うから」
「あ………」
「コーコーセーなんだから、ハブにするとかそんなガキっぽいことしねーよ」

 半笑いで言った山口のセリフに笑ってしまう。あの時、慶が言ったのだ。「高校生にもなって誰かハブるなんて」って。

「あれはもう忘れてくれ」
 山口はボソリと言ってから、表情を真面目なものにあらためた。

「桜井、来られるか?」
「うん。おれは大丈夫だけど……」

 慶はどうだろう……

「渋谷にも聞いておいてくれるか? 詳しいこと決まったらまた連絡する」
「分かった。企画ありがとう」

 肯くと、山口はなぜか、ふっと笑った。何?と聞くと、感心したように、

「なんかさー桜井、変わったよなあ」
「え」

 2ヶ月前にも写真部のOBの先輩から同じことを言われた……。

「球技大会の頃は、オドオドして渋谷の後ろにくっついてたのに、今じゃ横並んでる感じ」
「え……」

 横並んでるって……ホントに?
 目を瞠ったおれを見て、山口は「あ」と口を押さえた。

「ごめん。オドオドって言葉悪いな。えーとなんつーのかな、ほら、こういう誘いも渋谷に聞いてから返事するって感じだっただろ? でも今、自分だけで即答したし……」
「あ、うん。オドオドで大丈夫。自分でもそうだったと思う」

 あの頃のおれは、色々なことが怖くて、何もかもに自信がなくて……でも、今は違う。

「お前、あれから何があったんだ?」
「うーん………」

 山口の質問にうなってしまう。
 何がって、とても一言では言いあらわせない………けれども。要約すると。

「渋谷のおかげ、だよ」
「………。なるほど」

 山口は大きくうなずき、「なんか分かる気がする」と言って笑った。

「でしょ?」

 おれもつられて笑ってしまう。
 すべては慶のおかげ。何もかもが慶のおかげ。

 だから今度はおれが支えてあげたいんだ。


 



-------------------------------


お読みくださりありがとうございました!
途中ですが時間なのでここまでで更新します。
あともう一回だけ浩介視点になります。それで浩介視点は最終回のはず。
本当は今回で終わらせたかったんだけど、書き終われませんでした…。
次回もどうぞよろしくお願いいたします!

クリックしてくださった方、本当にありがとうございます!こんな真面目な話なのに、、、すみません。感謝申しげます。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。ご新規の方もどうぞよろしくお願いいたします!

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BL小説・風のゆくえには~将来6ー1(浩介視点)

2016年04月14日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 将来

前回は3月初旬の話でしたが、時を少し遡り……一月中旬からの話になります。


ーーーーー


 写真部の廃部が決定した。

『年明けにOBの先輩方も集めて話し合いをする』

 との橘先輩の言葉通り、三学期がはじまって2週目の土曜日に、現役5人(橘先輩、橘先輩の妹の真理子ちゃん、慶、慶の妹の南ちゃん、おれ)に加え、OB・OGが8人も来てくれて話し合いが行われた。でも、それは話し合い、というより、決定事項の連絡のようだった。橘先輩は冬休みの間に心を決めていたようだ。

 当然OBの方からは反対意見がでた。

「そんなに急いで廃部にしなくても、来年新入部員がたくさん入るかもしれないし」
「渋谷君が部活オリエンテーションで説明すれば、渋谷君目当ての女子が入ってくるよ、絶対」
「確かに!」
「え」

 そりゃそうだけど、そんなの嫌だっ。
 おれや慶が何かを言う前に、橘先輩が淡々と、

「まあ、そうですね。新入部員の件はそれでいいとしても、指導員がいなければただの渋谷を囲う会になってしまいます」
「えー……」
「渋谷も桜井も女子二人も、まだはじめて半年ちょっとで、ようやくカメラの扱いに慣れてきた程度の腕前です。人に教えるような技術は持ち合わせていません」
「…………」

 厳しいけれど事実だ……。

「例えば、先輩方が交代で指導にきてくださるとか、そういうことができれば……」

 橘先輩が先輩方を見渡すと、一斉にみなブンブン首を振った。

「あたし無理っ!もう忘れちゃった!」
「オレ、就職活動はじまるしなあ」
「今のサークルとバイトで手一杯だから……」

 皆さん「無理無理」のオンパレードだ。

「そういう橘はどうなんだよ? 自営業なんだろ? 都合つかないのか?」

 合宿にもきていた橘先輩の一つ上の男の先輩が言い出した。

 おれも、橘先輩は大学進学はせず、実家の印刷会社に就職する、と聞いている。が。

「すみません。夜間の大学に通うので、時間的余裕がありません」
「え」

 夜間の大学? 初耳だ。

 ザワッとした中で、

「じゃあ、もう、廃部決定で」

 あっさりとそう言い切ったのは、OBの五十嵐先輩。

「手かしてやれないのに、口だけだすのは違うだろ」
「それは……っ」
「だいたい、現役が廃部っていってんだから、OBのオレ達があーだこーだ言う話じゃない……と思いませんか?」
「え、ああ……」

 一番年長のOBの先輩が肯くと、五十嵐先輩が苦笑を浮かべて橘先輩の肩をたたいた。

「勝手に廃部にしても良かったのに、こうしてOB集めてお伺いたてるあたり、橘、真面目だな」
「いえ……力及ばず、申し訳ありません……」

 橘先輩が深々と頭を下げる。するとOBの方々が慌てたように、口ぐちに言いはじめた。

「そんな、橘君、いいよー」
「君が悪いわけじゃないんだから」
「もともと人数増やせなかったオレらの責任もあるしっ」
「しょうがないよ、廃部になってもっ」

 一気に形勢逆転で全員が廃部容認派に回った。ひとしきり賛成の意見が出そろったところで、橘先輩はすっと顔をあげると、きっぱりと言いきった。

「では……申し訳ありませんが、写真部は今年度で廃部とさせていただきます」

 それから、ついで、のよう言葉を付け加えた。

「部室に残っているご自分の作品を持って帰っていただいてもいいでしょうか」
「…………」

 視線の先にはダンボールに入ったパネルの数々……

(これが目的だったのか……)

 吹き出しそうになってしまった。話し合いだと集めておいて、結局は部室の物の整理が目的だったようだ。



 なんだかんだとOBの方々は楽し気に荷物の整理をすると、この場にいないメンバーで連絡のつく人の作品まで持って帰ってくれた。

「結局のところ、こうして廃部を急いだのは、妹ちゃんに迷惑かけないためってことでしょ?」
「シスコンも大概にしなよー橘」

 帰り際、女性の先輩方に冷やかされても、「何とでもいってください」と平然と返した橘先輩はカッコよかった。真理子ちゃんもちょっと嬉しそうに小さく笑っていた。

 確かに、遅かれ早かれこの部は人数不足で廃部は免れなかっただろう。その廃部の処理を真理子ちゃんにやらせるのを避けるために、橘先輩は自らが悪役を買って出たということだ。

 そもそも、真理子ちゃんは元々カメラに興味があったわけではなく、お兄さんのいる写真部を潰さないために部員になっただけだし、おれ達も頼まれて入ったものの「センスがない」と橘先輩にバッサリ言われてしまうような腕前だし、南ちゃんは……

「渋谷妹は、目的達成できたからもういいんだろう?」
「はい! バッチリです」

 橘先輩の問いかけに、ニコニコで答えた南ちゃん。目的ってなんだろう……。


「渋谷と桜井は……、まあ、あと3ヶ月で受験生になるしな」
「はい……」

 肯いてから、ふと、思いだした。

「先輩、夜間の大学に行かれるんですか?」
「ああ……まあな」

 橘先輩は軽く肩をすくめた。

「行くつもりなかったんだけど、母方の祖父が気にしてくれてな。学費援助してくれるって言うから、行くことにしたんだよ。これから受験準備しても入れる大学はあるようだし」
「そうですが……」

 そういえば、橘先輩って実力テスト学年首位だったって、田辺先輩が言ってたっけ……。

「将来のために大学出ておけってさ。将来っていっても、親の会社継ぐだけなんだけどな」
「………先輩は」

 ぐっと拳に力が入ってしまう。

「先輩は、親の後を継ぎたくないって思ったことないんですか?」
「あるよ」

 あっさりと、先輩は言った。

「でも、結局、継ぐしかないっていうか……、まあ、与えられた場所で力を発揮するのもいいかな、と思ってな」
「…………」

 与えられた場所で………

「まあ、それを蹴ってまでやりたいことがなかった、ってことかもしれないけどな」
「…………」

 蹴ってまでやりたいこと……

 ぐるぐると頭の中に色々な言葉が回っていく……


「桜井」
「え」

 急にドアの方から声をかけられビックリして振り返ると、もう帰ったと思っていた五十嵐先輩が立っていた。

「先輩?」
 駆け寄ると、はいっと紙を渡された。見ると、駅近くの焼肉店のクーポン券……

「オレのバイト先。今度渋谷と食べに来てくれよ」
「わ、ありがとうございます!」

 高級路線の店なので行ったことがないのだけれど、このクーポン券を使えば高校生の小遣いでも何とかなりそうな感じだ。慶、喜ぶだろうな。そう思ってニヤけると、五十嵐先輩はなぜかうんうん肯き、

「お前……変わったな」
「え」

 聞き返したおれの腕をバシバシ叩いてきた。

「何かちょっと自分に自信がついてきた感じ? いいじゃん」
「え、そんな」

 そうだろうか? そう見えるだろうか?
 
「頑張れ、高校生」
「………はい」

 力強くうなずく。

 写真部の合宿での五十嵐先輩との出来事のおかけで、おれは変わろうと思うことができた。そして『憧れの渋谷』というフィルターを外すことができた。
 写真部に入っていなかったら、おれはまだまだ遠回りをしている最中だったかもしれない……


「なに見とれてんだよっ」
「痛っ」

 五十嵐先輩の後ろ姿を見送っていたら、いきなりゴッと背中に衝撃が走った。

「見とれてなんか……」
「じゃあ見るな」

 振り返ると、ぷうっとふくれている慶の顔があって……

「………慶」

 ああ、この人の好きな人は本当におれなんだな、と感じられて嬉しくなる。それがおれの最大の自信に繋がっているのだと思う。

「何話してたんだよっ」
「………気になる?」
「…………………」

 ムッととがらせた慶の唇………かわいすぎ。キスしたいけど我慢我慢……

「誘われただけだよ」
「はああ!? 何に!」

 怒り出した慶の鼻先に先ほどのクーポン券を突きつける。

「バイト先なんだって。渋谷と食べにきてって言ってたよ」
「焼き肉っ」

 現金に目を輝かせた慶。

「なんだーそうならそうと早く言えよっ。いいとこあるじゃん。五十嵐先輩!」
「慶ってば………」

 変わり身早過ぎる。おかしくて笑ってしまう。


「写真部……楽しかったね」

 感慨深くつぶやくと、慶がニヤリと笑った。

「まだ活動日あるぞ? 残ってるフィルム使いきれって橘先輩が」
「うわっそうなんだ!」

 まだ結構残っていたような……

「橘先輩が卒業するまでに、一枚でもいいから認めてもらえる写真撮りたいなあ」
「お。お前前向きだな。おれはもう諦めた」
「えええっ一緒に頑張ろうよー」

 そう。一緒に。一緒の思い出をたくさん作りたい。


 こうしてそれから1ヶ月半ほど写真部は活動を続け、三月初めの卒業式を区切りとして廃部となった。おれ達が使わせてもらっていたレンタルカメラは、学校保管となるそうだ。今後、カメラに詳しい教員が入ってきたら復活するかもしれない、ということらしい。


「ところで、南ちゃんの目的達成って……」
「決まってるじゃなーい!」

 南ちゃん、目をキラキラさせて言いきった。

「お兄ちゃんと浩介さんくっつけること!そしてそれを観察すること!同じ部活だったからたくさんみられて良かったよ~」
「…………。どうしてそれを橘先輩が知ってる?」
「だって観察仲間だもん」

 ケロリとして言った南ちゃん。

「橘先輩も二人のこと観察して楽しんでたんだよ~」
「………なんだそりゃ」
 慶がボソッとつぶやいた。呆れて言葉も出ないという感じ。と、そこへ。

「あ、ほら、橘先輩来た!」
 昇降口からワラワラと出てくる中に橘先輩の姿があった。胸についている花が卒業生であることを示している。

「ご卒業おめでとうございまーす!」
 みんなで声をそろえて言うと、珍しく先輩が照れたように笑った。清々しい、すべてをやり切った充実感、みたいなものが漂った笑顔。

 来年の今頃、おれもこんな表情ができているだろうか……


 


--------------------------------


お読みくださりありがとうございました!
前回同様、将来のことについて色々思う高校二年生の日常、でございました。
マッタリした話ですみません…。あ、合宿の話は『月光』編になっております。
そういうわけで。次回もどうぞよろしくお願いいたします!

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BL小説・風のゆくえには~将来5-2(慶視点)

2016年04月12日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 将来


 修学旅行二日目はお待ちかねの班行動!
 当然、おれは浩介と同じ班だ。これだけは譲るつもりはなかった。

 班決めは、三学期になってから、男女別で3人組を4組、4人組を2組作り、それから男子班と女子班をくっつける、という方法で行われた。

 普段は、おれ、浩介、溝部、山崎、斉藤の5人で行動することが多いので、どう分かれるか話し合おうとしていたところ、

「桜井と同じ班になりたいから入れてくれ」

と、突然、学級委員長の長谷川が言ってきた。

 浩介と委員長には、読書好きという共通点がある。二人とも、朝練のない日はいつも朝早めに教室に入っているので、そこで時々本の話をしているらしい。

 委員長も普段は5人組でつるんでいる。でも、委員長以外のメンバーは萩焼体験も希望しているそうで……

「桜井は当然、一日フルで萩回りたいだろ?」
「あ……うん。できれば……」
「………あ、そっか」

 そういえば浩介、修学旅行の行き先が萩に決まった時、すごく喜んでたんだよな……。

 一時期、浩介は幕末物にはまっていたことがあって、同じく幕末物好きの委員長とは、その話で盛り上がっているらしく……

「えーオレは萩焼やりたーい」
「オレもー」

 溝部と斉藤がいうと、山崎はおれに「どうする?」って目を向けてきた。と、いうことは、山崎はどっちでもいいってことだよな? だったら遠慮なく!

「おれ、萩焼はパスしたい。造る系苦手だし」

 ………なんてね。本当はやってみたかったけど、浩介と一緒の時間には変えられない!

 山崎はうん、とうなずいてくれ、

「そっか。じゃ、溝部と斉藤とオレ、渋谷と桜井と長谷川、ってことでいいな。そしたらうまくはまる」

 山崎の言葉通り、あとは、6人グループの奴らが2組に分かれ、残りは4人グループ。これでぴったりになった。

 そして部屋割りも、おれ達5人と委員長達5人で一部屋になった。何もかも順調!


 部屋は10人で雑魚寝だったんだけど……

「寝る場所、くじ引きで決めようぜ」

 布団をひき終わった直後の、委員長の鶴の一声でくじ引きで決めることになってしまい……

(端と端ってどういうことだよ………)

 浩介とは一番遠くになってしまった。ガッカリだ……。
 しかも、おれは相当残念だったのに、浩介は平然としていて……。ムカついたから洗面台にいったときに、歯磨き中の浩介の腰のあたりを意味もなくグーで押していたら、

「あーやっぱり寝る場所隣にならなくてよかったー」

 口をすすぎ終わった浩介が、眉を寄せて言ってきた。なんだとーー!

「なんでだよ……って!」

 蹴りをいれようとしたところ、ぐいっと肩を抱かれ、耳元で小さく囁かれた。

「そんなかわいい顔で横に寝られたら、襲いたくなるでしょ。おれ、自制できる自信ないよ」
「………っ」

 襲いたくって………っ
 10日ほど前のことを思い出して、かああっと顔が熱くなってくる。

「ねえ、慶………明日の班行動の間だったら、少しは二人きりになる時間作れるかな……」
「う……ああ、そうだな………」

 耳元で囁かれ続け、くらくらしてきてしまう。見上げると、浩介はおれの大好きな笑顔を浮かべて言った。

「じゃ、明日楽しみにしてるね」
「お、おお」


 ………なんて、甘い約束をかわしたはずなのに………。

 二日目の萩見学。浩介の奴、すっかり吉田松陰先生に夢中だ……。

 あいにくの雨にも関わらず、浩介と委員長だけでなく、女子の鈴木と小松も歴史好きらしくて、一緒になってはしゃいだ声をあげている。

「まあ、いいんだけどな……」

 昨晩の風呂での泣きそうな顔を思い出したら、今のこの楽しそうな浩介の姿は奇跡みたいだ。

(おれはお前のその姿が見られれば十分だ)

 思わず頬をゆるめながら、浩介を眺めていたら、

「渋谷君、楽しそうだね」
「!」

 いつの間に、もう一人の女子、浜野さんが横にいて、スケッチブックに鉛筆を走らせながら言ってきた。傘を差しているのに、スケッチしてる……器用だ。

「渋谷君も幕末物好きなの?」
「いや………」

 特に興味はない。……というか、おれ、何か好きなものってあるのか?

「やっぱ高杉晋作でしょ~」
「かっこいいよね~」

 鈴木たちのはしゃぐ声と、浩介と委員長の落ちついた話し声が雨の中に響いている。
 日本史で覚えた程度の知識しかないおれには、どっちの会話にもついていけない。浜野さんは初めからついていく気はないようで、マイペースにスケッチを続けている。

「ここで高杉も久坂も一緒に学んでたんだと思うと感慨深いよなあ」
「入塾したのって、今のおれたちと同じ歳くらいだよね」
「そうだな。なんかそう考えるとオレ、今のままでいいのかなあって思うよ」
「委員長が?」

 意外だ。迷いなく自分の進むべき道を進んでいるような雰囲気があるのに……

「ねー次行っていいー?」
「ああ、いくいく」

 鈴木と小松が促してきた。委員長と並んでいる浩介が、おれを気にして振り返ってくれたのに軽く手を振り、おれはおれで浜野さんと並んで歩き始める。

「浜野さんは、やっぱり美大志望?」
「ううん。文系私大希望」
「え。なんで」

 美術部の浜野さん。文化祭で展示していたおれモデルの絵は、とても繊細なタッチでパッと人目を引く作品に仕上がっていたのに……
 でも浜野さんは軽く肩をすくめると、

「絵は好きで描いてるだけだから。評価とかされたくない」
「へえ………」

 考えてみたらうちのクラスの芸術選択科目は習字だ。こんなに絵上手なのに美術を選択していないのはそういうことだったのか。

「渋谷君は? 何志望?」
「理系私大。文系科目やりたくないからっていう消去法で」
「学部は?」
「学部……は、まだ……」

 正直、何も思いつかない。

 浩介は父親の弁護士事務所を継ぐために、弁護士を目指すらしい。小さい頃からそう言われてきたので、それ以外考えたことがない、と言っていた。

 うちは自分の将来は自分で決めろと言われている。父は製薬会社、母は薬剤師、姉は看護婦、なので、医療系が身近といえば身近だけれども………

(おれ、何もないんだよなあ……)

 将来云々以前に、やりたいことが何もない。趣味もない。

 浩介や委員長みたいに本が好きなわけでもなく、浜野さんみたいに絵が描けるわけでもなく、鈴木と小松みたいに、維新志士やら新撰組やら戦国武将やらについて語れるわけでもない。

(おれ………何がしたいんだろう)

 中学まではバスケをやっていた。でもそれも姉が喜ぶから続けていただけだ。
 いや、バスケが好きじゃないわけではない。運動は全般的に何でも好きだ。水泳もサッカーも何でも。何でも好きだけど、何も特別じゃない。

(………浩介)

 ふいに思い出す。高校入学後、初めてみた浩介の姿。救いようもないくらい下手くそなくせに、一生懸命シュート練習していた浩介。おれはそれがうらやましかった。

(おれには何もない……)

 せっかくはじめた写真部も、廃部が決定してしまった。まあ……続けていてもハマることはなかっただろうけど………

 結局のところ、おれの高校二年間って何だったんだ? 夢中になれることもなく………

 って。

「…………あ」

 思わずつぶやき立ち止まる。
 今、とんでもないことに気がついてしまった………

「慶?」
「…………」

 立ちすくんでいるおれを心配してか、浩介が引き返してきてくれた。

「大丈夫? ごめんね、先行っちゃって」
「あ………いや」

 気がついたら浜野さんはもう神社の境内に入り、雨にもめげずスケッチをはじめていた。委員長と鈴木と小松は石碑を見ながら何か盛り上がっている。

「慶……やっぱりつまんない?」
「え……、あ、いや」

 心配そうに言ってくれる浩介に思いきり頭を振る。

「楽しいよ」
「でも」
「お前が楽しそうなの見てるのが、すげー楽しい」
「………慶」

 ふにゃっと笑った浩介。その顔もすげー好き。

「お前、楽しいだろ?」
「うん。すごく。小説読んだ時からずっと来てみたかったから」

 ゆっくり歩きながら、浩介が言う。

「でも、慶と一緒にこられたってことが何より嬉しい」
「………うん」

 浩介の声も雨の音も心地良い。

「お前はいいなあ。趣味がいっぱいあって」
「えーいっぱいはないよー」
「あるじゃん。読書とバスケ」
「それを言ったら慶だって……」

 言いかけて、浩介は首をかしげた。

「そういえば、慶って、バスケとか水泳とか色々してるけど、何が一番の趣味なの?」
「…………それなー」

 頬をかく。

「今そのことでとんでもないことに気がつき、愕然としていたところだ」
「何、その文語的表現」

 ぷっと浩介は吹き出した。いいよ。笑ってろ。傘をグルグル回しながら言ってやる。

「おれなーどれも嫌いじゃねえけど、どれも特別好きなわけじゃねえんだよ」
「あ……そうなんだ………」

 雨の音が本音を引き出してくれる。

「中学まではバスケ部だったから、趣味バスケっていっても良かったんだろうけど、もう辞めちゃったしな。だから……」

 立ち止まると、浩介も歩みを止め、こちらを振り返ってくれた。その瞳をまっすぐに見上げる。

「だから、おれが高校生になってから、夢中になってることっていったら………」
「え?」

 キョトンとした顔の浩介の肩のあたりを人指し指でグリグリ押してやる。 

「趣味『浩介』」
「え………」

 そう。趣味『浩介』。そのことに気が付いてしまった。高校生になってから夢中になっていること、一番好きなこと。それは『浩介』以外に思いつけない。

「おれの趣味、お前だなって思って」
「慶……」

 浩介の顔がまた、ふにゃあっと崩れていく。冷たい手がおれの人差し指をぎゅっと掴む。

「それはおれに夢中ってこと?」
「そうそう」

 掴んできた手を握りかえす。雨のおかげか人影も少なく、浩介の黒い大きな傘のおかげで境内にいる班のメンバーからこちらは見えないはず。
 浩介はなぜか泣きそうになって、手に力が入っている。

「それはおれのことが一番好きってこと?」
「………一番じゃねえよ」
「え……」

 聞き返した浩介に、ニッと口の端をあげてみせる。

「『一番』じゃなくて『唯一』だ。他に好きなことなんかない」
「慶………」

 浩介、ふわりとした笑顔になった。
 そして、そっと唇が落ちてくる。雨で冷えて余計に冷たくなった唇。でも合わさると温かい……
 雨の音がおれ達を包み込んでくれるようだ。

「慶、大好き」
「ん」

 コツンとおでこを合わせ笑い合い、再び唇を重ねる……、と。


「桜井、渋谷、どうした?」
「うわっ」
「わわわっ」

 いきなり委員長の声が至近距離から聞こえてきて慌てて飛び離れる。
 み、見られてない? 見られてないよな? 大丈夫だよな?!

「もしかして、桜井がオレとばっかりいるから、喧嘩になってる?」
「いやいやいやいや、そんなことはない」

 いつのまに浩介の真後ろまできていた委員長にブンブン手を振ってこたえる。

「ちょっと趣味の話をしてただけ」
「趣味?」
「うんうん。ま、行こうぜっ」

 3人ならんで神社に向かって歩きだす。

「趣味って……」
「あああっそれより、さっきの委員長のセリフが気になる!」

 委員長の言葉を無理矢理遮って、浩介が言い出した。

「『今のままでいいのかなあって思う』って話」
「ああ……それな……」

 委員長は大きくため息をついた。

「何か何もできてないなあと思ってさ。進むべき道すら決められていない」
「それは……」

 おれも同じだ……

「桜井は法学部希望って言ったな?」
「あーうん。でも、おれの場合は決められちゃってることだから……」
「そうか……」

 委員長は「あーあ」と傘を突き上げ、大きく伸びをすると、

「オレ達、どんな大人になるんだろうなー?」
「……うん」
「オレ達にはどんな将来が待ち受けてるんだろうなー?」
「だな……」

 将来……

 ふっと浩介と目があう。優しく微笑んでくれる浩介……
 どんな将来が待ち受けているとしても、おれの隣にはお前がいると、信じたい……。



 修学旅行3日目は、秋吉台、秋芳洞。クラスで予定通りに回ることができた。


 秋芳洞の中でこっそり一瞬だけ手を繋いだ。

「今度、2人だけで来たいな」
「……おお」

 浩介に耳元で囁かれ、小さく肯く。ああ、幸せ過ぎる。


 帰りの電車の中では、いつもの5人メンバーで馬鹿言って盛り上がったり、同部屋になったおかげで距離の縮まった委員長たちのメンバーも加えてウノをやったり、とにかく楽しくてあっという間に時間が過ぎてしまった。

 最高に楽しい修学旅行だった。



「たっだいまー」
 上機嫌で玄関を開け……驚いた。

「おかえりなさい」
 そこにいたのは、椿姉さん。寂し気な、疲れたような顔をしていて……って!
 すぐに異変に気が付いた。

「椿姉……お腹が……」
「………」

 ポッコリと出ていたはずのお腹の膨らみがなくなっている……。
 椿姉は辛そうにうなずいた。

「うん……生まれちゃったの」
「え……」

 出産予定日は4月の下旬だったはず。今日はまだ3月一週目……

「え、で、赤ちゃんは?」
「入院してる」
「そう……、って、椿姉?!」

 崩れるように座りこみ、泣きはじめた椿姉。
 おれはただただ姉の背中をさすってやることしかできなかった。
 



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お読みくださりありがとうございました!
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BL小説・風のゆくえには~将来5-1(慶視点)

2016年04月10日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 将来


 うちの学校の修学旅行は、2年生の3月と決まっている。
 昨年の2年生も、卒業式の後すぐに修学旅行に行ったので、期間中、学校に1年生だけしかいなくて校内がやけに静かだったのを覚えている。
 今年の修学旅行の行き先は、広島・山口だ。


 親友兼恋人である浩介と2年生で同じクラスになれたことは本当にラッキーだった。
 おかげで修学旅行、クラス行動も、旅館の部屋(10人部屋だけど)も、二日目の班行動の班も、全部全部一緒。二泊三日ずっと一緒にいられる!

 ……と、おれは単純に修学旅行を楽しみにしていたのだけれども……


 一日目は、広島~宮島、厳島神社。
 早朝の新幹線で出発し、その後すべて団体行動だった。

 浩介の様子が微妙に変なことに気がついたのはおれだけだろう。
 妙に浮かれていたかと思うと、急に沈んだり……。気になって声をかけようにも、ずっと誰かしら周りにいる状態なのでなかなかかけられず……

「お前、なんか変だな。大丈夫か?」

 旅館に着いて、一瞬だけできた二人きりの時間に、ようやくこっそり聞くことができた。
 すると浩介は「やっぱり慶にはかなわないなあ……」と弱々しく笑い、

「おれ、修学旅行とか初めてで、なんか緊張しちゃってて……」
「そっか……」

 浩介は中学時代、あまり学校に行けていなかったらしい。その話をしたときの震え方は尋常でなく、詳細は聞いていないけれども、思い出したくない記憶なことは確かだった。

「何かあったらおれを頼れよ?」
「……ん」

 ありがとう、と言いつつも、浩介の心ここにあらず状態は続き、それはどんどんひどくなっていって、風呂の時間が来た時点で、委員長に「顔色悪いぞ?」と指摘されるくらい蒼白になっていた。

「大丈夫か?」
「大丈夫……」

 浩介はそう言いながらも、脱衣場でもモタモタと用意にやたらと時間がかかっている。いつもの浩介らしくない。

(この光景どっかで……って、あ)

 思いだした。写真部の合宿で皆で銭湯に行った時も、浩介は脱衣所でグズグズしていてなかなか入ってこなかった……

 でも、今日の入浴時間は2クラス合同で15分ずつしか取られていないので、これ以上時間をかけてはいられない。担当の見張りの先生に急かされ、みなで風呂場に向かいかけたが、

「桜井、バスタオルはおいてけ。中に持っていっていいのは普通のタオルだけだぞ」
「え」
「あ……」

 いつのまにバスタオルを羽織った状態で行こうとしていた浩介。でも、先生から鋭く注意され、立ち止まった。

「桜井、先行ってるぞー?」
「あ……うん」

 溝部の声に軽く肯き、浩介は脱衣所の自分のかごの前に戻っていく……

(……なんだ?)

 浩介の様子、やっぱりおかしい。なんだ……? なにを考えている……?

 必死に浩介の行動を思い返す。
 バスタオルを羽織っている浩介……怯えるように、何かから逃げるように……

(そういえば……)

 海でも浩介はシャツを羽織っていて、絶対に脱ごうとしなかった。ボタンは全開で前は全部見えていたけれど……

(そう……前は全部みたことあるんだよな。こないだも……って、わああっ)

 10日ほど前のことを思いだして、叫びそうになる。
 あの時、おれの部屋でおれたちは体を重ねようとして失敗して、そのあとお互いの……

(って、思いだすなっおれ!)

 思いだしたら非常にマズイ状態になるので、無理矢理思考を切りかえる。
 合宿の時もなかなか風呂に入ろうとせず、入ったら入ったであっという間に出ていった浩介。そして海ではずっとシャツを羽織っていて……

(何かをみられたくないってことか……?)

 隠しているのは、肩、背中、腰……

(あ!)

 ふいに、思いだした。あれは合宿の、月の下での買い物の時……

『うちの母親ヒステリーだから、おれよく背中バンバン叩かれてて、今でも背中にあざ残ってるんだよ~』

 おどけたように言っていたし、当時、浩介の母親のことをまだ全然知らなかったので、『全然そんな風に見えないな』なんて軽く受け流していたけれども……今なら分かる。

 浩介の母親の、あの悲鳴のような声。夜叉のような激しさ。そして、浩介の幼少期の写真の無表情な顔……


(浩介……っ)
 急いでかごの前で固まっている浩介の横に駆け寄る。

「まだ残ってるやつ、さっさと入れー」

 先生の声にビクッと震えた浩介……。浩介、浩介。大丈夫だから。おれがいるから……

「浩介……」
「……慶」

 うつむいたままの浩介の背中に直接触れると、浩介がゆっくりとこちらを見た。目に涙がたまっている……

「おれ……背中に……」
「大丈夫。おれがこうやっててやるから。な?」
「………でも」

 小さく首を振った浩介に、安心させるようにニッコリとする。

「大丈夫だよ。野郎の裸なんて誰も注目して見やしねえよ。それに風呂の中は薄暗いからよく見えないし」
「慶……」

 浩介は覚悟を決めるようにぎゅっと目をつむり、小さくつぶやくように言った。

「慶は、おれのこの痣みても……おれのこと、嫌いにならない……よね?」
「当たり前だろ」

 抱きしめたい気持ちをなんとか抑えて、バスタオルの下の背中をさすってやる。

「片想い歴一年以上のおれをなめんなって言っただろ? 何があっても、大丈夫だ」
「慶……」

 ゆっくりと浩介の瞳が開かれる。その瞳に安心の色が浮かんでいてホッとする。


「おーい、そこの二人、さっさと入れ。残り10分だぞ」
「はーい。じゃ、行こうぜっ」
「あ……うん」

 先生に急かされたから、とでもいうように、背中を両手でおしてやる。

(浩介……)
 胸が苦しい……。お前の苦痛をおれはきちんと理解して、それで支えてやれているのだろうか……

「慶……ありがとね」
「おお」

 浩介は風呂場に入るとほっとしたように息をついた。風呂場は予想通り薄暗く、湯気で先の方もあまり見えないような状態だったのだ。

(浩介……)

 隣同士のシャワーの場所を確保して、大急ぎで頭を洗いながら、あらためて浩介の背中を盗みみて、ますます苦しくなってくる。

 浩介は、背中の痣を人に見せたくなくて、人前に背中を晒すことを今まで避けてきた。でも……

(でも、そんな痣……)

 浩介の真っ直ぐな背中には……

(そんな痣……、どこにもねえぞ?)

 あえていえば、これ……? と思うような、うっすらとした紫の小さな痣はあるけれど、そんなの、目を凝らしてジッと見ない限り見えない。

(でも……)

 浩介には大きな濃い痣に見えているのだろう……

 おれは、お前の痣を消すことができるかな……。お前の心を守れるかな……。




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お読みくださりありがとうございました!
前回までとはうってかわり、真面目な話^^;
次回は修学旅行二日目です。続きはまた明後日。次回もどうぞよろしくお願いいたします!

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BL小説・風のゆくえには~将来4-3*R18(浩介視点)

2016年04月06日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 将来


 R18です。たぶん(たぶん?)。具体的な性表現があります。苦手な方ご注意ください。

 R18読切『初体験にはまだ早い』と対になっています。

 今回お届けする回は、浩介の内面描写が主なため、話の内容はちょっと飛ばし気味に書かせていただきました。
 『初体験にはまだ早い』を先にお読みいただけると内容は分かりやすくなると思います。……が、読まなくても分かるはず。です。

 すみません。前置き長くなりましたが、前回の続きからはじめます!!

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 そして迎えた運命の日曜日。


 お互い緊張してどうしたらいいのか分からず固まっていたところ、

「とりあえず……服脱ぐか?」 

 慶が現状を打開する提案をしてくれた。そうだ。とにかく行動しなくては……

「……慶」
 服を脱ぎかけた状態で、カーテンを閉めにいってくれた慶を、後ろからぎゅうっと抱きしめる。

「慶……大好き」
「こう……っ」

 慶が振り返ると同時に、唇を重ねる。いつもみたいな軽いキスじゃなくて、深く深く吸い込む。唇を軽く噛むと、びっくりしたように唇が開いた。そこにすかさず舌を差し入れる。

「んんんっ」
 はじめこそ戸惑った慶だけれども、すぐにこたえるように舌を絡めてきた。

(うわ……っ)

 なんだこれ……っ。
 今までの触れるだけのキスは心臓にきゅんきゅんきていた。でも、このキスは………

(ヤバイ……っ)

 下半身に直接くる……っ。
 膨張してパンパンになっているズボンを、慶に下着ごと引き下ろされた。おれも同時に慶の下着とズボンを引き下ろす。すると、

「あ」
「あ」

 顔を見合わせて笑ってしまった。おれはもちろん、慶のものも跳ね上がっている。

「もう、この状態?」
「しょうがねえなあ……」

 笑っている慶の顔から下に視線を移す。

 慶のもの……。
 前に写真部の合宿で一緒に銭湯に行ったときは、おれは背中のアザを見られたくなくて大急ぎで出てしまったので、一瞬視界に入った気はするけれど、記憶に残っていない。その上、こんな風に膨張した状態なんて初めてみるわけで……

(慶はこんなところまで綺麗なんだ……)

 ため息が出そうになる。
 醜い黒がかったおれのものとは違って、赤みを帯びた綺麗な肌色……。そこを守るための茂みも薄く、柔らかそうで……

「って、浩……っ」 
 吸い寄せられるように、慶のものに手を伸ばす。その熱さに感動してしまう。

(慶のもの………)

 優しく掴み、軽く上下させると、慶がぶるっと震え、おれの上腕につかまった。かわいい……

(おれより、太い……な)

 体は火照ったまま、頭では冷静にそんなことを思った。
 おれの方が長さはあるけれど、慶の方が確実に太い。通常の場合と膨張した場合ではまた違うんだろうけど………

「浩介……」
「んっ」

 ふいに、慶の温かい手に包まれ震えてしまう。慶の手………細くて繊細で温かくて……。冷静だったはずの頭に血がのぼって何も考えられなくなる。

「慶……」
「ん……」

 立ったまま、お互いのものを扱き続ける。
 
 ああ……気持ちいい……。毎晩の妄想の中の手よりもずっとずっと温かい慶の手………
 慶がおれの手で気持ちよさそうな息づかいをしてくれることも、舌を絡めるキスも、本で読んだり人から聞いた知識で想像していたよりも、ずっとずっと気持ち良すぎて……

「どう……する? このまま、いくか……?」
「あ……そうか」

 慶の言葉に我に返り、手をとめた。

「あまりにも気持ち良くて忘れてた」
「あーうん。別にこのままでもいいんだけどな」

 うん。南ちゃんから本をもらうまでは、おれもこれだけでいいと思ってた。でも……

 でも。

「でも、おれ、慶と一つになってみたい」
「………」

 目を見開いた慶。その瞳に嫌悪感が浮かんでいないことに安心する。

 慶もしてもいいって思ってくれてるんだよね……?

 瞳をのぞきこむと、慶はすぐにうなずいてくれた。

「じゃあ……するか」
「うん」



 さっそく南ちゃんからもらったジェルを使ってみる。
 慶に言われて、はじめはおれが入れる方をしてみたんだけど……

(………やっぱり)
 案の定、先っぽをほんの少し入れただけでもう、慶がものすごく痛そうな顔をしたので、すぐにやめてしまった。
 ほんの少し入れただけだから、こっちは気持ちいいも悪いも感じる余裕もなかった。それよりも、慶に苦痛を与えてしまったということが少なからずショックで……

「もう一回やれ」

 慶はそう言ってくれたけど、とてもじゃないけどできない。慶がそんな痛い思いをするなら、おれが痛いほうがいい。

「今度は慶がしてみてよ」
 そう言って、慶のものにジェルをぬってあげたんだけど……


「なんか、そういうの……違うんだよなあ」
「え?」

 慶が起き上がり、ふいにちゅっとおれの頬にキスしてくれた。

「慶?」
 ビックリして名前を呼んだのにも構わず、鼻の頭、おでこ、と唇が下りてきて、最後に唇をぺろっと舐められた。

 そして上目遣いで、にっと笑った慶……かわいすぎる!!

「慶」
 おれも笑いながら、同じように頬に鼻におでこにキスをして、最後に唇を重ねてぎゅうっと抱きしめながらベッドに横になる。素肌の触れ合っている部分が温かくて気持ちいい。そのまま慶の白い耳や首筋にキスを続けていると、

「うん……こういうのだよな」

 慶が何かホッとしたように言った。

「なんつーか……想像してた初体験?っていうのか? 痛いとか時間がねえとかそういうんじゃなくて、こんな風に……、あ」

 優しく慶のものを掴むと、慶が気持ち良さそうな声をあげてくれたので嬉しくなってしまう。寝そべったまま、おでこをコツンと合わせる。

「こんな風に?」
「ん」
「……っ」

 慶の手も再びおれのものをいじりはじめてくれる。細い指に先走りの出はじめた穴をグリグリと押され、そのぬるぬるを広げられていく。こんな繊細な動き、自分ではできない。初めての感覚に我慢できず声をあげる。

「慶……」
 その愛しい人を見つめる。こんな綺麗な人がおれなんかのものを……

「慶、大好き」
「ん」
「大好きだよ」
「ん」

 再び唇を合わせる。愛しさが伝わってくる……。
 どうしたら、もっと感じてくれるかな……。いつも自分がして気持ち良い事を慶にしてみると、慶が切なげな声をあげてくれて余計に興奮してくる。でも、お返し、とばかりに、慶の細い指が、先走りの出ている穴を執拗にいじりながら、亀頭のあたりを爪をたてて引っ掻いてくるので、もうたまらない。

(なんだそれっ。そんなことしたことない……っ)

 腰が引けるっ。気持ち良すぎるっ。

「慶……いっちゃいそう……」
 というか、もう本当に限界。

「ん……おれも……」
 慶が言いながら、枕に引いていたタオルケットを取って、ものの下に引いてくれる。

「この上、出し……」
「んん」

 慶の綺麗な唇が再びよせられ、舌がおれの口の中に強引に入ってくる。

(うわ……っ)

 舌を絡めとられ、下半身にさらに血が回る。
 慶の舌がおれの舌に絡まり、慶の手がおれのものを扱きあげ……おれの中が慶でいっぱいになっていく。

(もう……無理っ)

 我慢の限界っ。絶頂の上の上のあたりで、熱いものが吐き出された。

(き……気持ちいい……)

 一瞬我を忘れかけた。けれども、すぐに慶のものを扱くのを再開する。

(本当は一緒にいきたかった……)
 せめてすぐに……と、出来る限りの速さで扱き続けると、慶のものもどんどん膨張率が高まり、

「んんんっ」
 そんなに間をあけず、慶が可愛い声をあげて果ててくれ、ホッとする。

(慶……おれの手でいってくれた……)
 ぐてっと肩に額を押しつけてくれる慶を、ぎゅうっと抱きしめる。

「慶……かわいい」
 素肌同士の触れ合いがとてつもなく気持ちいい……。しばらくギュウギュウしていたら、

「んー……これだよな」
 ふいに慶がいいだした。

「なんつーか……セックスってのはこんな風にふわふわ気持ちいいもんだと思ってたんだよなあ」
「ふわふわ?」
「うん……。まあ、もしかしたら、ちゃんとやったらもっととんでもなく気持ちいいのかもしんねえけど」
「うん……」

 なんとなく分かる……。でも、はじめて同士だからしょうがないんだろうな……。
 再びコツンとおでこを合わせると、

「ちょっと……まだ早いのかもしんねえな、とか思ってな」
「うん………」
「でも、いつかは……」
「うん」

 それがいつになるのかは分からないけれど……

 だから、着替えようとした慶を引きとめ、もう一度抱きしめた。慶の素肌の感触を覚えておきたい。

「浩介?」
 不思議そうにこちらをみた慶に真面目に答える。

「今のうちに堪能させて。覚えておかないと」
「なんで?」
「覚えておいて、今晩からのオカズに」
「……………」

 何言ってんだお前、という顔をした慶。かわいい。

「まあ、でも、ずっとやらないってわけじゃ……」
「でももう受験生になるしね」

 そう。おれ達は受験生になる……

「するのは受験が終わってからだね」
「あー……そうだな」

 自分で言っておきながら凹みそうになってくる。

 受験……受験。失敗はできない……

 深く沈みそうになったけれども、何とか持ち直して、慶のおでこにこつんと合わせる。

「受験終わったら、どこか泊まりで旅行に行こうよ」
「おお、いいな」
「そしたらそこでちゃんと最後までしよ?」

 受験が終わったご褒美だ。そうとう不純だけどそれを目標に頑張れる気がする。

「それまでは健全な交際を」
「健全ってなんだよ?」
「キスまではOK」
「ん」

 触れるだけのキスをする。心臓がキュッとなる。それだけでも充分気持ちいい。

「受験が終わるまでは妄想にとどめておくね」
「妄想って……」
「慶とあんなことやこんなことして……って」
「あんなことやこんなこと?」
「あんなことやこんなこと」

 真面目に言うと、慶があきれたように息をついた。

「お前……実はムッツリだな」
「バレちゃった?」

 笑いながら、再び唇を合わせる。

 いつか、その日がくるまで、ゆっくりゆっくり愛を育てよう。




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お読みくださりありがとうございました!
こうして、この2人、1年間本当にこういう扱き合いっこすらしません。真面目かっ。
続きは明後日の予定ですー。次回もどうぞよろしくお願いいたします!

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