創作小説屋

創作小説置き場。BL・R18あるのでご注意を。

ベベアンの扉(19/22)

2006年11月28日 23時00分39秒 | ベベアンの扉(原稿用紙73枚)
 リンリンンリンリンリン・・・
 突然、軽やかな鈴の音が響き渡った。
「あ、白い女の人が来るよ」
 妹の方が嬉しそうに走り出した。その先に、扉が現れた。ここに来るときに現れた扉より少し小さい扉。
 ゆっくりとその扉が開き、人影が現れた。
 まぶしくて・・・見えない。
「七重ちゃん、ようやくきてくれたのね」
 優しい声。妹が抱き上げられた気配がする。でも白くまぶしくて、姿は見えない。
「あら? 和也君は?」
「和也君は家に帰りました。私と緑澤君も帰ります。あっちに待っている人がいるんです。ね、緑澤君?」
 振り返ったが・・・緑澤君がいない!
「緑澤君!?」
 緑澤君は白い光の方にフラフラと歩いていくところだった。『白い女の人』が迎えいれるように緑澤君に向かって手を伸ばしている気配がする。
「待って! 緑澤君!」
「七重ちゃんもおいでなさい。こちらに来たら楽になれるわよ。もうお父さんとお母さんの顔色を伺って生活することもなくなるのよ。お友達に気を使うこともないわ。お勉強だってしなくてもいい。こちらには気持ちいいことだけしかないのよ」
「・・・何よ、それ」
 ばかばかしい。
「私は親の顔色のために生きてるんじゃないし、友達にはそりゃ気は使うけど、それを上回る楽しい時間をすごせてるし、勉強だって、せっかく大学に合格したんだから、これからたくさんしたいわよ。時間が過ぎれば人は変わっていくのよ。居場所がないってグチグチしていた私はもういないの」
「そう・・・」
 ゾッとするほど声が冷ややかになった。
「じゃあ、あなたは勝手に帰ればいい。でも達之は私がもらうわ。これから達之は私の中で生き続けるの」
「は?」
 私の中で・・・?
「さあ、達之君、いらっしゃい。こちらの扉へ・・・ここに入れば、もう何も考えなくてすむようになるわよ」
 ゆっくりと緑澤君が扉の方へ向かっていく。
 ダメだ! いけない! 
「緑澤君! ダメ!」
 力一杯、緑澤君の腕を掴む。
「・・・山本さん」
 力無く緑澤君が笑う。ダメだ!ダメだ!
「行くよ! 帰るよ!! 走って!!」
 強引に腕を引っ張って、緑澤君を引きずるようにして、走り出した。 
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする