明日は結婚式だというのに、何でこんなことしてるんだろう? 私、あの日から変だ。
自慰による強制的な快楽の頂点に達した後の虚しさに支配されながら、一ケ月前のことを思い出す。ラベンダーの香りの記憶。
あの日、私は公園のベンチで一冊の本を読んでいた。
『産み分けガイド』
姑となる人からもらったのだ。
「XX染色体をもつX精子と卵子が受精すると女の子、YY染色体をもつY精子と卵子が受精すると男の子が生まれる。X精子は酸性に強く、Y精子はアルカリ性に強い」
日常生活では聞かない用語達。眠くなってきたので、飛ばし読みをしながらページをめくっていったのだが、中ほどのページでギョッとして手をとめた。
そこには何のぼやかしもなく、男性と女性が交わっている姿がいくつもはっきりと描かれていたのだ。思わず周りを見渡し、誰もこちらをみていないことを確認してから続きを読んでみる。
「男の子希望の場合は、挿入は深く。屈曲位・後背位がおすすめ」
「女性がオーガズムを感じると膣内がアルカリ性になる。男の子希望の場合は時間をかけた濃厚なSEXをすること」
男の子希望のページには付箋紙が何枚も張られている。
「この本、きっと役に立つと思うわよ」
にっこりと笑った未来の姑。優しくてとても良い人なのだが、ちょっとズレているところがある。そこも彼女の魅力ではあるけれど……天然にもほどがあります。お義母さん。息子さんとこういうSEXをしなさいってことですか……?
本を閉じて頭を抱えていると、
「あの、すみません」
声をかけられた。顔をあげると、二十代前半くらいの背の高い青年が立っていた。色素の薄い髪が揺れている。美しいといってもよいほど整った顔をしていたので、驚いてその顔に見入ってしまった。
「よろしければ、手のモデルをやっていただけませんか? 僕、ネイルサロンを経営していまして……」
誠実そうな青年は言葉を選びながら言ってくれたが、ようは私のまったくケアしていない爪に目をとめたらしい。この爪を美しくして、「使用前→使用後」の写真を撮りたいそうだ。昔から指だけは長くて綺麗と言われていて自信もあったけれど、不器用なのでネイルは上手く塗れず、あきらめていた。
「私でよければ、いいですよ」
綺麗な顔に見とれたまま、二つ返事で引き受けてしまった。青年が嬉しそうににっこりと笑った。
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なんておもむろにはじめてみました。
今日含め12日間連続投稿させていただきます。
原稿用紙50枚程度の小説です。
よろしければお付き合いください。